中央銀行家達による2019年の「レジーム・チェンジ」 と「グレート・リセット」(要点)
ラルーシュ運動のシラー研究所が2021年6月に開催した国際会議「万人の共通善の為に。少数を利するルールに反対!」の第3パネル、「ワイマール・ドイツ1923年再び:ハイパーインフレを終わらせる為にグローバルなグラス・スティーガル法を」で、Executive Intelligence Review の編集委員会メンバーのポール・ギャラガー氏が行なった講演が興味深かったので、要点をメモしてみた。グレート・リセットとは何なのか、少なくともその金融面に於て、何故今なのか、何を目的としているのか、この後何が起こるのかについて色々ヒントを与えてくれると思う。
こちらは書き起こし記事。
The Central Bankers’ ‘Regime Change’ of 2019 and the ‘Great Reset’
動画版はこちら。
Central Bank Regime Change (aka The Great Reset): Then and Now
1922〜23年のワイマール・ドイツの悪名高いハイパーインフレの推移を、ライヒスマルクと米ドルを比較して表にしてみるとこうなる。僅か18ヶ月程度で紙幣は紙クズになり、人々の生活費は吹き飛んだ。ドイツの中央銀行は大量のカネを刷ってハイパーインフレを起こすことによって戦争債務と賠償金の支払いを実質的にチャラにしようとした。ところが1923年末にヒャルマル・シャハトがライヒスバンク総裁に就任すると、彼はモルガン家が組織した大規模な国際融資を利用し、外国からの支払い圧力を取り除いた。そして新しい通貨「レンテンマルク」を導入することによって、インフレを突然終了させた。シャハトと政府は通貨の極端な不足を利用して血も涙も無い経済緊縮を課し、経済に生産的な信用を追加するあらゆる提案を却下した。その結果1929年の世界恐慌以前にはドイツの失業率は12%になっていた。

1920年代の米国とヨーロッパの殆どの国では、第一次世界大戦前の商業銀行に対する規制は撤廃されていた。大手商業銀行は投資銀行を買収して株式投機信託を設立することが許され、銀行持株会社は投資銀行や、所謂「シャドウ・バンク」を所有することが許されていた。1929〜33年の大恐慌の原因となった「ユニバーサル・バンク(商業的な業務と投資的な業務の双方を行う金融機関)」は、FDR政権時に成立したグラス・スティーガル法によって禁止されることになったが、1980年代以降の規制緩和によって復活することになった。今日これを禁止しているのは中国だけ。
2007〜08年の金融危機の原因は、周知の様にウォール街とロンドンのユニバーサル・バンクとそのペットの住宅金融企業によって作られた不動産抵当債務のバブルだったが、この後真の解決策であるグラス・スティーガル法(ユニバーサル・バンク持株会社を解体し、価値の無い証券を帳消しにし、住宅の差し押さえを禁止する)は却下された。それどころか中央銀行はこれら分の悪くなったユニバーサル・バンクの流動性を維持し、次の暴落を乗り切るのに十分な準備金を与える為に、大規模な紙幣印刷の調整を始めた。
その結果、それまでの不動産抵当債務のバブル(下の図の灰色)は、より大きな世界規模の社債バブル(オレンジ)に取って代わられた。企業債務バブルの総額は現在80兆ドルを超えている。米国では12兆ドルで、2010年から2倍に膨れ上がっている。その上、負債証券や数百兆ドルの金利スワップその他のデリバティブが有る。

ウォール街の4つのユニバーサル・バンクの資産を合計すると下図の様になる。2008年にそれらが引き起こした暴落後も緩やかに拡大を続け、FRBによる紙幣発行の量的緩和に支えられて巨大な規模に成長した。その中でも「暴落から生まれた巨人」と呼ばれるブラックロックは脱炭素路線を推し進めて、化石燃料や炭素工業プロセスを再生可能エネルギーで置き換えるよう諸企業に迫った。ブラックロックの運用資産は2008年に1兆ドルだったが、2017年には6兆ドル、現在(2021年)には9兆ドルに近い。

シャハトに話を戻すと、彼は1929年以降数年間の休暇を取って、ドイツとロンドンの銀行家や業界の友人達からヒトラーの資金を調達し、1932年と1933年の選挙でナチスを支援した。そしてスイスのバーゼルに、「中央銀行の中央銀行」と呼ばれる国際決済銀行(BIS)を設立した。1933年にはライヒスバンク総裁に復帰し、翌年には経済大臣になった。軍事費調達に於て重要な役割を果たした「メフォ手形」は彼の発案だった。彼は大手銀行と産業産業のサークルにダミー会社を通じて大量の独自手形を発行させ、それをライヒスバンクが新しい通貨で買い上げると云う形で、ナチス政府から財政権限を奪った。これは中央銀行による「レジーム・チェンジ」と言って良い。
1933〜35年の僅か2年間で、シャハトは武器生産をドイツのGDPの2%から20%にまで拡大させ、その過程で、繊維、衣料品、農具、住宅等(つまり人々の生活向上と実体経済の健全化に役立つ)他の幾つかの産業が抑制された。(不安を掻き立てることに)このプロセスの延長線上で後に強制収容所制度が生まれた。
2019年8月、米ワイオミングのジャクソン・ホールで毎年開催される連邦準備制度理事会の経済シンポジウムに中央銀行家達が集まり、4ヵ国の元中央銀行指導者達(現在は全員がブラックロックの幹部)による提案について話し合った。彼等はそれを「レジーム・シフト」と呼び、中央銀行が政府から購買力を奪う時が来たと気炎を上げた。この会議でイングランド銀行のマーク・カーニー総裁は、中央銀行が米ドルに代わる、彼等自身が管理する総合的世界通貨を作ることを提案した。これらの提案の目的はインフレを引き起こすことであって、彼等が2008年以来やろうとして来たことはこれだ。大量の金を印刷して直接バラ撒くことによって、膨大な量の消費者需要を作り出す必要が有るのだ。
Central bankers rethink everything at Jackson Hole
勿論(経済健全化の為に)本当に必要なのは、政府が資本財、新技術や生産的な雇用に対する需要を創出することだ。だが1971年にブレトン・ウッズ体制が崩壊してからこの路線は中止された。「ニクソン・ショック」によって作られた変動通貨システムは新しいインフラや資本財の需要を後押しするよりも投機と投機への投資を奨励し、大量の貨幣印刷の恩恵は主に富裕な消費者が受け取ることになった(格差はこうして拡大した)。
現在のレジーム・チェンジは、2019年10月に米連邦準備制度理事会が量的緩和を再開したことに始まった。欧州の中央銀行がこれに続いた。2019年9月の米国の銀行間融資危機、所謂「レポ危機」に対応する為と云うのがその口実だった。勿論この時点ではパンデミックのパの字も囁かれていない(イヴェント201が開催されたのもこの後だ)。
下図は世界的な量的緩和の推移(兆ドル単位による累計)。(日本だけいち早く緩和を行なっているが)他の諸国、特に米国では2019年第4四半期から、中央銀行の流動性とユニバーサル・バンクによる準備金の印刷が急増している。

この「レジーム・チェンジ」がユニバーサル・バンクにどう云う影響を与えるかは、下の表を見れば判る。これはウォール街最大のJPモルガン・チェース銀行のデータ。2019年の第4四半期から2020年の第1四半期に掛けて、融資額には変化が無いのに、預金は約2,500億ドル、資産は約4,500億ドルも急増している。資産はその後も1年に約30%のペースで爆発的に増加し続けている。つまり中央銀行は融資はしてくれないが決して破綻はしない巨大な不死身のユニバーサル・バンクを作り上げたと云うことだ。

連邦準備制度自体の資産は下図の様になる。連邦準備制度理事会の資産帳簿は、2021年6月初めの時点で8兆ドルを超えており、つまり2008年の10倍に拡大している。2008年以降も増大は続いていたが、2019年後半に急上昇している。

中央銀行によるこの「レジーム・チェンジ」の目的は、2019年8月以降、特にマーク・カーニーが気候変動対策と金融に関する国連特使に任命されたことからより明確になった。つまり、ゼロ・カーボンか死か。化石燃料への投資は止めてより非効率で不安定な「グリーン・エネルギー」にシフトしなければならず、発展途上諸国は「炭素クレジット」を導入して開発を止めなければならない。
中央銀行家達は貨幣印刷と規制、そして史上最大のユニバーサル・バンクを利用して、彼等自身が債務崩壊危機を乗り切る為に必要な30〜40兆ドルの「グリーン・ファイナンス」バブルを作ろうとしている。これが所謂「グレート・リセット」の正体だ。彼等はワイマールの様なハイパーインフレとデフレ崩壊の為の条件を作り出しているが、この流れは止めなければならない。グラス・スティーガル法的措置によって全世界の中央銀行を解体して国有化し、生産性と生産的な雇用の為の全国的な信用機関を作ることこそがその解決法だ。
こちらは書き起こし記事。
The Central Bankers’ ‘Regime Change’ of 2019 and the ‘Great Reset’
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Central Bank Regime Change (aka The Great Reset): Then and Now
1922〜23年のワイマール・ドイツの悪名高いハイパーインフレの推移を、ライヒスマルクと米ドルを比較して表にしてみるとこうなる。僅か18ヶ月程度で紙幣は紙クズになり、人々の生活費は吹き飛んだ。ドイツの中央銀行は大量のカネを刷ってハイパーインフレを起こすことによって戦争債務と賠償金の支払いを実質的にチャラにしようとした。ところが1923年末にヒャルマル・シャハトがライヒスバンク総裁に就任すると、彼はモルガン家が組織した大規模な国際融資を利用し、外国からの支払い圧力を取り除いた。そして新しい通貨「レンテンマルク」を導入することによって、インフレを突然終了させた。シャハトと政府は通貨の極端な不足を利用して血も涙も無い経済緊縮を課し、経済に生産的な信用を追加するあらゆる提案を却下した。その結果1929年の世界恐慌以前にはドイツの失業率は12%になっていた。

1920年代の米国とヨーロッパの殆どの国では、第一次世界大戦前の商業銀行に対する規制は撤廃されていた。大手商業銀行は投資銀行を買収して株式投機信託を設立することが許され、銀行持株会社は投資銀行や、所謂「シャドウ・バンク」を所有することが許されていた。1929〜33年の大恐慌の原因となった「ユニバーサル・バンク(商業的な業務と投資的な業務の双方を行う金融機関)」は、FDR政権時に成立したグラス・スティーガル法によって禁止されることになったが、1980年代以降の規制緩和によって復活することになった。今日これを禁止しているのは中国だけ。
2007〜08年の金融危機の原因は、周知の様にウォール街とロンドンのユニバーサル・バンクとそのペットの住宅金融企業によって作られた不動産抵当債務のバブルだったが、この後真の解決策であるグラス・スティーガル法(ユニバーサル・バンク持株会社を解体し、価値の無い証券を帳消しにし、住宅の差し押さえを禁止する)は却下された。それどころか中央銀行はこれら分の悪くなったユニバーサル・バンクの流動性を維持し、次の暴落を乗り切るのに十分な準備金を与える為に、大規模な紙幣印刷の調整を始めた。
その結果、それまでの不動産抵当債務のバブル(下の図の灰色)は、より大きな世界規模の社債バブル(オレンジ)に取って代わられた。企業債務バブルの総額は現在80兆ドルを超えている。米国では12兆ドルで、2010年から2倍に膨れ上がっている。その上、負債証券や数百兆ドルの金利スワップその他のデリバティブが有る。

ウォール街の4つのユニバーサル・バンクの資産を合計すると下図の様になる。2008年にそれらが引き起こした暴落後も緩やかに拡大を続け、FRBによる紙幣発行の量的緩和に支えられて巨大な規模に成長した。その中でも「暴落から生まれた巨人」と呼ばれるブラックロックは脱炭素路線を推し進めて、化石燃料や炭素工業プロセスを再生可能エネルギーで置き換えるよう諸企業に迫った。ブラックロックの運用資産は2008年に1兆ドルだったが、2017年には6兆ドル、現在(2021年)には9兆ドルに近い。

シャハトに話を戻すと、彼は1929年以降数年間の休暇を取って、ドイツとロンドンの銀行家や業界の友人達からヒトラーの資金を調達し、1932年と1933年の選挙でナチスを支援した。そしてスイスのバーゼルに、「中央銀行の中央銀行」と呼ばれる国際決済銀行(BIS)を設立した。1933年にはライヒスバンク総裁に復帰し、翌年には経済大臣になった。軍事費調達に於て重要な役割を果たした「メフォ手形」は彼の発案だった。彼は大手銀行と産業産業のサークルにダミー会社を通じて大量の独自手形を発行させ、それをライヒスバンクが新しい通貨で買い上げると云う形で、ナチス政府から財政権限を奪った。これは中央銀行による「レジーム・チェンジ」と言って良い。
1933〜35年の僅か2年間で、シャハトは武器生産をドイツのGDPの2%から20%にまで拡大させ、その過程で、繊維、衣料品、農具、住宅等(つまり人々の生活向上と実体経済の健全化に役立つ)他の幾つかの産業が抑制された。(不安を掻き立てることに)このプロセスの延長線上で後に強制収容所制度が生まれた。
2019年8月、米ワイオミングのジャクソン・ホールで毎年開催される連邦準備制度理事会の経済シンポジウムに中央銀行家達が集まり、4ヵ国の元中央銀行指導者達(現在は全員がブラックロックの幹部)による提案について話し合った。彼等はそれを「レジーム・シフト」と呼び、中央銀行が政府から購買力を奪う時が来たと気炎を上げた。この会議でイングランド銀行のマーク・カーニー総裁は、中央銀行が米ドルに代わる、彼等自身が管理する総合的世界通貨を作ることを提案した。これらの提案の目的はインフレを引き起こすことであって、彼等が2008年以来やろうとして来たことはこれだ。大量の金を印刷して直接バラ撒くことによって、膨大な量の消費者需要を作り出す必要が有るのだ。
Central bankers rethink everything at Jackson Hole
勿論(経済健全化の為に)本当に必要なのは、政府が資本財、新技術や生産的な雇用に対する需要を創出することだ。だが1971年にブレトン・ウッズ体制が崩壊してからこの路線は中止された。「ニクソン・ショック」によって作られた変動通貨システムは新しいインフラや資本財の需要を後押しするよりも投機と投機への投資を奨励し、大量の貨幣印刷の恩恵は主に富裕な消費者が受け取ることになった(格差はこうして拡大した)。
現在のレジーム・チェンジは、2019年10月に米連邦準備制度理事会が量的緩和を再開したことに始まった。欧州の中央銀行がこれに続いた。2019年9月の米国の銀行間融資危機、所謂「レポ危機」に対応する為と云うのがその口実だった。勿論この時点ではパンデミックのパの字も囁かれていない(イヴェント201が開催されたのもこの後だ)。
下図は世界的な量的緩和の推移(兆ドル単位による累計)。(日本だけいち早く緩和を行なっているが)他の諸国、特に米国では2019年第4四半期から、中央銀行の流動性とユニバーサル・バンクによる準備金の印刷が急増している。

この「レジーム・チェンジ」がユニバーサル・バンクにどう云う影響を与えるかは、下の表を見れば判る。これはウォール街最大のJPモルガン・チェース銀行のデータ。2019年の第4四半期から2020年の第1四半期に掛けて、融資額には変化が無いのに、預金は約2,500億ドル、資産は約4,500億ドルも急増している。資産はその後も1年に約30%のペースで爆発的に増加し続けている。つまり中央銀行は融資はしてくれないが決して破綻はしない巨大な不死身のユニバーサル・バンクを作り上げたと云うことだ。

連邦準備制度自体の資産は下図の様になる。連邦準備制度理事会の資産帳簿は、2021年6月初めの時点で8兆ドルを超えており、つまり2008年の10倍に拡大している。2008年以降も増大は続いていたが、2019年後半に急上昇している。

中央銀行によるこの「レジーム・チェンジ」の目的は、2019年8月以降、特にマーク・カーニーが気候変動対策と金融に関する国連特使に任命されたことからより明確になった。つまり、ゼロ・カーボンか死か。化石燃料への投資は止めてより非効率で不安定な「グリーン・エネルギー」にシフトしなければならず、発展途上諸国は「炭素クレジット」を導入して開発を止めなければならない。
中央銀行家達は貨幣印刷と規制、そして史上最大のユニバーサル・バンクを利用して、彼等自身が債務崩壊危機を乗り切る為に必要な30〜40兆ドルの「グリーン・ファイナンス」バブルを作ろうとしている。これが所謂「グレート・リセット」の正体だ。彼等はワイマールの様なハイパーインフレとデフレ崩壊の為の条件を作り出しているが、この流れは止めなければならない。グラス・スティーガル法的措置によって全世界の中央銀行を解体して国有化し、生産性と生産的な雇用の為の全国的な信用機関を作ることこそがその解決法だ。
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