安倍晋三暗殺に対するロシアの公式の対応を説明する(要点と解説)
以下は私が信頼している地政学アナリスト、アンドリュー・コリブコ氏の Explaining Russia’s Official Response To Shinzo Abe’s Assassination の要点だが、日本の読者には多少解説が必要であろうと思うので、適宜補足しつつ訳出した。

この記事が想定している読者は非常に少数派だが(だからそれ以外の人はこれ以降の文章を読んでも無駄だ)、それはコリブコ氏が AMC(Alt-Media Community/代替メディア・コミュニティ)と呼んでいるものだ。代替メディアとは私がよく「西側大手メディア」と呼んでいるもの、つまり西側の主流の言説(ナラティヴ)を形作り巨大なプロパガンダ・システムの外部で情報発信を行なっているメディア、例えば Global Research の様な独立した中小のメディア、或いはロシアの RT の様な非西側諸国の国営乃至それに準ずるメディア、或いは西側大手メディア(一般的にはよくMSM/Main Stream Mediaと略記される)からは殆ど駆逐されてしまった個々のジャーナリストやアナリストを指しており、日頃からこうした情報源にアクセスすることで世界観を形成している国際的なコミュニティがAMCと云う訳だ。思想やイデオロギー的には割と雑多で、多くの点で意見や解釈の違いが見られるものの、コリブコ氏としては大雑把に世界の多極化を支持する層を想定している。即ち現在のアメリカ帝国による全世界の単極支配に反し、国際法の遵守、国家主権の尊重、新植民地主義や新自由主義に抗する共存共栄的世界観に対する関心を共有しているのがAMCの特徴だ。
日本では私を含めてこの層は非常に少数派だ。先ず既存の左派やリベラルはMSMの情報に頼り切っているのでごっそり欠落するし、右派もこの点については同じだ。右派の一部は(恐らくイデオロギーではなく自分達の生活感覚から)MSMの嘘に気付いて代替メディアで情報を共有したりもしているが、彼等の言説は米帝のトランプ支持者の言説に似て、自国内でしか通用しない自国中心的な世界観に基付いており、他の国々の置かれている状況には全く関心を持たないので、基本的にAMCには属さない(但し彼等は屢々イデオロギーよりも自分達自身の生活感覚を重視する。自分の生活を第一に考えるのは主権の第一歩だ。この意味で彼等には左派やリベラルよりも所謂グローバリスト勢力の陰謀に気が付く確率が高い)。日本語の代替メディアは非常に貧弱で質も低いものが多い上に、最近ではフェイクニュースがMSM全体に深く浸透してしまっているのに日本人のMSMに対する警戒心は非常に低いので、国際社会(「俺達こそが国際社会だ」と自称する西側自由民主主義ナチ陣営のことではなく、全世界200の国々によって構成される国際社会)に関心を持つ反帝国主義クラスターは、ネットの片隅のブログやSNSで細々と発信を続けているのが現状だ。以下の文章はそうした非常にニッチな需要に応える為のものだと云うことを念頭に置いて頂きたい。
さて安倍晋三だが、彼はAMCにとっては当然悪役だ。第二次世界大戦時の戦争犯罪者達を賛美し、米帝の「中国封じ込め」にも積極的に参加して来た彼は、間違い無く単極的世界秩序の支持者だと言える。だが他方で、ロシアの公式の反応はAMCのそれとは著しく異なっていた。
・ザハロワ報道官:暗殺は「恐ろしい犯罪」であり「テロ行為」であると非難した。
・連邦院外務委員会コンスタンティン・コサチェフ委員長:「安倍晋三は首相として、ロシアと日本の両議会を通じた地域間協力の長期的且つ非常に効果的なプロジェクトを自ら監督した。」
・ペシュコフ報道官:「安倍晋三氏は正に日本の愛国者であって、常に自国の利益を擁護し、外交的解決を追求した。だからこそ彼はプーチン大統領とは非常に良好な関係だった。」
・プーチン大統領:安倍晋三は「長い間日本政府を率い、両国間の良好な関係の発展に向けて多くのことを成し遂げた優れた政治家」だった。「私達は安倍晋三と定期的に連絡を取り合っており、彼の素晴らしい個人的、職業的資質はこれらの機会に完全に証明されました。彼を知っていた全ての人々は、この優れた人物の明るい記憶を常に心に留めることでしょう。」
AMCのメンバーであれば誰でも知っている通り、ロシアは今ウクライナ紛争を通じて、単極世界から多極化世界へ向けた「グローバルなシステムの移行(global systemic transition)」の先頭を走っている。AMCにとって安倍晋三は多極化への障害でしかなかったが、ロシアの見方は違った。コリブコ氏の見立てでは、モスクワは第二次世界大戦を巡る諍いに決着を付けて日本と和解することで、「北東アジアを地理経済的に革命化」しようとしていた。これは無論多極化に向けた動きの一環であって、中国への不釣り合いな依存を先制的に回避する手段として、資源が豊富な極東地域への日本への投資を誘うことを狙っていた。これは両国の共通のパートナーであるインドからの投資を組み合わせる必要が有ったが、中国の影響力に対して、友好的、紳士的、且つ非敵対的な方法で「バランスを」取れるようにする為だ。
この方針はモスクワが米帝との「新しいデタント」を追求し、ミンスク合意を守らせることでウクライナ内戦を外交的に解決しようとしていた時期に採用されていた。これが成功していたらワシントンはインド太平洋地域に於ける「中国封じ込め」に専念し、ロシアと西側との関係は回復し、ロシアば米中の間の最高の均衡力になっていたかも知れないが、実際にはミンスク合意がウクライナ政府によって守られることは一度も無かった。
だが米帝の所謂ディープ・ステート(軍事、諜報、外交官庁のネットワーク)の反ロシア派が、トランプの対ロシア融和路線をロシアゲート事件を捏造して妨害し、日本に対しては北方領土問題を解決「しないよう」強い圧力を掛けた。これは日本人の側から見ればよく解る話だ。安倍はポツダム宣言すら読んだことが無いと公言していたど阿呆なので、無論北方領土問題を解決する外交的力量など最初から無い。寧ろ拗らせて後退させただけだ(この点で安倍と、北方領土問題に関する彼の「高い外交能力」を評価していた日本国内の右派達は、DSにとっては非常に「使い勝手の良いバカ」だった訳だ)。但し実利には敏い人物だったので、経済的協力に向けた努力は行なっていた。ロシア側は北方領土を巡るパフォーマンスは茶番であろうと最初から承知していただろうが、その点は高く評価されたのだろう。安倍がプーチン大統領と25回も会談を行ったことも、モスクワからすればそれ自体で評価の対象だった筈だ。西側の政治指導者はロシアとの関係改善の為に普通そこまでやらない。
安倍が「健康上の理由」で辞任したことで両国間にプラグマティズムがまだ存在していた時代は終わり、彼の後継者達はこれまで以上に米帝の影響下に置かれることになった。プーチン大統領が最近主権の重要性を再確認したことを考えると、モスクワは安倍首相時代には日本には今よりも主権が有ったと評価しているとしてもおかしくない。
これは安倍の軍国主義的な支持していることを意味する訳ではないが(つまるところ大日本帝国はヒトラーのナチスドイツと同盟を組み、中国の次はソ連を侵略しようとしていた国だ)、それがどれ程不愉快であっても、ロシアは相手の伝統と主権に即して背景事情を理解するよう努めていると云うことだ。今や日露関係は「安倍の頃の方がまだよっぽどましだった」とさえ思える程最低に冷え込んでいるが、ロシアは和解に向けた希望がまだ存在していた頃への「郷愁を台無しにする」ことを避ける為に、安倍の悪い面については言及することを避けたのだろう。
現実の国際外交には妥協や譲歩は付き物だ。AMCのメンバーは自分達の思い込みや党派的な発想によって判断することを止め、大国外交の現実を直視すべきだろう。

この記事が想定している読者は非常に少数派だが(だからそれ以外の人はこれ以降の文章を読んでも無駄だ)、それはコリブコ氏が AMC(Alt-Media Community/代替メディア・コミュニティ)と呼んでいるものだ。代替メディアとは私がよく「西側大手メディア」と呼んでいるもの、つまり西側の主流の言説(ナラティヴ)を形作り巨大なプロパガンダ・システムの外部で情報発信を行なっているメディア、例えば Global Research の様な独立した中小のメディア、或いはロシアの RT の様な非西側諸国の国営乃至それに準ずるメディア、或いは西側大手メディア(一般的にはよくMSM/Main Stream Mediaと略記される)からは殆ど駆逐されてしまった個々のジャーナリストやアナリストを指しており、日頃からこうした情報源にアクセスすることで世界観を形成している国際的なコミュニティがAMCと云う訳だ。思想やイデオロギー的には割と雑多で、多くの点で意見や解釈の違いが見られるものの、コリブコ氏としては大雑把に世界の多極化を支持する層を想定している。即ち現在のアメリカ帝国による全世界の単極支配に反し、国際法の遵守、国家主権の尊重、新植民地主義や新自由主義に抗する共存共栄的世界観に対する関心を共有しているのがAMCの特徴だ。
日本では私を含めてこの層は非常に少数派だ。先ず既存の左派やリベラルはMSMの情報に頼り切っているのでごっそり欠落するし、右派もこの点については同じだ。右派の一部は(恐らくイデオロギーではなく自分達の生活感覚から)MSMの嘘に気付いて代替メディアで情報を共有したりもしているが、彼等の言説は米帝のトランプ支持者の言説に似て、自国内でしか通用しない自国中心的な世界観に基付いており、他の国々の置かれている状況には全く関心を持たないので、基本的にAMCには属さない(但し彼等は屢々イデオロギーよりも自分達自身の生活感覚を重視する。自分の生活を第一に考えるのは主権の第一歩だ。この意味で彼等には左派やリベラルよりも所謂グローバリスト勢力の陰謀に気が付く確率が高い)。日本語の代替メディアは非常に貧弱で質も低いものが多い上に、最近ではフェイクニュースがMSM全体に深く浸透してしまっているのに日本人のMSMに対する警戒心は非常に低いので、国際社会(「俺達こそが国際社会だ」と自称する西側自由民主主義ナチ陣営のことではなく、全世界200の国々によって構成される国際社会)に関心を持つ反帝国主義クラスターは、ネットの片隅のブログやSNSで細々と発信を続けているのが現状だ。以下の文章はそうした非常にニッチな需要に応える為のものだと云うことを念頭に置いて頂きたい。
さて安倍晋三だが、彼はAMCにとっては当然悪役だ。第二次世界大戦時の戦争犯罪者達を賛美し、米帝の「中国封じ込め」にも積極的に参加して来た彼は、間違い無く単極的世界秩序の支持者だと言える。だが他方で、ロシアの公式の反応はAMCのそれとは著しく異なっていた。
・ザハロワ報道官:暗殺は「恐ろしい犯罪」であり「テロ行為」であると非難した。
・連邦院外務委員会コンスタンティン・コサチェフ委員長:「安倍晋三は首相として、ロシアと日本の両議会を通じた地域間協力の長期的且つ非常に効果的なプロジェクトを自ら監督した。」
・ペシュコフ報道官:「安倍晋三氏は正に日本の愛国者であって、常に自国の利益を擁護し、外交的解決を追求した。だからこそ彼はプーチン大統領とは非常に良好な関係だった。」
・プーチン大統領:安倍晋三は「長い間日本政府を率い、両国間の良好な関係の発展に向けて多くのことを成し遂げた優れた政治家」だった。「私達は安倍晋三と定期的に連絡を取り合っており、彼の素晴らしい個人的、職業的資質はこれらの機会に完全に証明されました。彼を知っていた全ての人々は、この優れた人物の明るい記憶を常に心に留めることでしょう。」
AMCのメンバーであれば誰でも知っている通り、ロシアは今ウクライナ紛争を通じて、単極世界から多極化世界へ向けた「グローバルなシステムの移行(global systemic transition)」の先頭を走っている。AMCにとって安倍晋三は多極化への障害でしかなかったが、ロシアの見方は違った。コリブコ氏の見立てでは、モスクワは第二次世界大戦を巡る諍いに決着を付けて日本と和解することで、「北東アジアを地理経済的に革命化」しようとしていた。これは無論多極化に向けた動きの一環であって、中国への不釣り合いな依存を先制的に回避する手段として、資源が豊富な極東地域への日本への投資を誘うことを狙っていた。これは両国の共通のパートナーであるインドからの投資を組み合わせる必要が有ったが、中国の影響力に対して、友好的、紳士的、且つ非敵対的な方法で「バランスを」取れるようにする為だ。
この方針はモスクワが米帝との「新しいデタント」を追求し、ミンスク合意を守らせることでウクライナ内戦を外交的に解決しようとしていた時期に採用されていた。これが成功していたらワシントンはインド太平洋地域に於ける「中国封じ込め」に専念し、ロシアと西側との関係は回復し、ロシアば米中の間の最高の均衡力になっていたかも知れないが、実際にはミンスク合意がウクライナ政府によって守られることは一度も無かった。
だが米帝の所謂ディープ・ステート(軍事、諜報、外交官庁のネットワーク)の反ロシア派が、トランプの対ロシア融和路線をロシアゲート事件を捏造して妨害し、日本に対しては北方領土問題を解決「しないよう」強い圧力を掛けた。これは日本人の側から見ればよく解る話だ。安倍はポツダム宣言すら読んだことが無いと公言していたど阿呆なので、無論北方領土問題を解決する外交的力量など最初から無い。寧ろ拗らせて後退させただけだ(この点で安倍と、北方領土問題に関する彼の「高い外交能力」を評価していた日本国内の右派達は、DSにとっては非常に「使い勝手の良いバカ」だった訳だ)。但し実利には敏い人物だったので、経済的協力に向けた努力は行なっていた。ロシア側は北方領土を巡るパフォーマンスは茶番であろうと最初から承知していただろうが、その点は高く評価されたのだろう。安倍がプーチン大統領と25回も会談を行ったことも、モスクワからすればそれ自体で評価の対象だった筈だ。西側の政治指導者はロシアとの関係改善の為に普通そこまでやらない。
安倍が「健康上の理由」で辞任したことで両国間にプラグマティズムがまだ存在していた時代は終わり、彼の後継者達はこれまで以上に米帝の影響下に置かれることになった。プーチン大統領が最近主権の重要性を再確認したことを考えると、モスクワは安倍首相時代には日本には今よりも主権が有ったと評価しているとしてもおかしくない。
これは安倍の軍国主義的な支持していることを意味する訳ではないが(つまるところ大日本帝国はヒトラーのナチスドイツと同盟を組み、中国の次はソ連を侵略しようとしていた国だ)、それがどれ程不愉快であっても、ロシアは相手の伝統と主権に即して背景事情を理解するよう努めていると云うことだ。今や日露関係は「安倍の頃の方がまだよっぽどましだった」とさえ思える程最低に冷え込んでいるが、ロシアは和解に向けた希望がまだ存在していた頃への「郷愁を台無しにする」ことを避ける為に、安倍の悪い面については言及することを避けたのだろう。
現実の国際外交には妥協や譲歩は付き物だ。AMCのメンバーは自分達の思い込みや党派的な発想によって判断することを止め、大国外交の現実を直視すべきだろう。
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