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J.P.ホーガンの『断絶への航海』にまんま評価経済社会が現出している件について。

 J.P.ホーガンのまだ読んでいなかった『断絶への航海』を読んだのですが、特に面白かったのが真ん中の第二部。覇権争いばっかりの地球にうんざりした科学者達が、アルファ・ケンタウリへ向けて人類の播種計画を実施、40年後、その新天地で生まれた新人類が全く新しい形態の社会を成立させていたと云う話なのですが、そのユートピア的新世界の描写が実に評価経済的なのです。

 人口は10万人程度とまだ小都市規模なのですが、この社会には貨幣制度が存在しません。誰か何かが欲しくなったら、どんなモノでもサーヴィスでも無料で手に入るのです。何しろ核融合技術なんかをちょちょいと扱える様な超テクノロジーに支えられているので、エネルギーも資源も事実上無制限。土地も有り余っているし、必要なものが有ればそれが在るところへ行って只取って来るだけで良し。だからおカネなんて必要無いのです。

 でもそんなことになったら誰も働かなくなるんじゃないかって? そんな心配は御無用。寧ろ彼等は熱心に働きます。誰もが複数の職業、と云うか技能を持っていて、何か知ら社会に貢献しています。何しろこの社会で貨幣に相当する価値基準は、互いの能力に対する尊敬。何もしないで只与えられるものを享受して食っちゃ寝生活も、やろうと思えば出来ないことは無いのですが、それはその社会では「貧乏」に相当することなのです。「誰も好きこのんで貧乏に成りたがる奴は居ない」と云う訳で、誰もが自らの社会的認知を高める為に、無償で働いているのです。自分の能力を周囲に対して証明してみせることが、彼等の人生に張りを生んでいるのであって、怠惰な人々は「可哀想な人々」なのです。

 富や財の集中は起こり得ません。起こる必然性が無いからです。誰でも無制限に好きなだけ何でも手に入る社会に於て、沢山のモノを持っていることにどれ程価値が有るでしょうか? ゼロです。何かが欲しくなったら、必ず何処かでそれが手に入る。必ず誰かがそれをやってくれる。ならば、わざわざ自分のところに色んなものを集める必要が有るでしょうか?

 同様に、権力の集中も起こり得ません。必要な仕事が有れば、その仕事に見合った能力を持った誰かが出て来て、必要なことをやる、それだけ。指導者も無く、個々人を縛る法律も無く、誰もが自分自身の考えに従って生き、働き、自分の身を守る。非常に理想的なリバタリアンと云うか、アナーキスト的なユートピアなのです。「異常者」も確かに出現したりはしますが、それは極く少数。彼等は幼い頃から優秀なロボット達にしっかり養育されて自分の頭で考えることを徹底して叩き込まれる為、強力な自然淘汰が働いて、社会全体としては些細な異常は脅威には成らないのです。
 
 この本が出たのは、日本では2005年ですが(ハヤカワの新装版で。その前は'84年。御指摘有りましたので訂正します)、原書は1982年。出版当時に読んでいたら「何だこりゃ、随分な夢物語だなぁ」と思っていたかも知れませんが、翻って考えてみてみるに、世界の富は現段階でも結構十分有るんじゃないか?と云う実感が今日では有る様に思えます。皆そんなに無理して働かなくとも、無理してひとつの仕事や権威に一生縛り付けられなくても、結構人は生きて行けるんじゃないのか?と云う実感が、2012年の今では結構身近なものに成っているのではないでしょうか。確かに世界的に見れば、エネルギー問題や資源の問題、環境汚染や戦争、飢餓や貧困等、深刻化する一方の様に見える諸問題も山積みしています。ですが貨幣制度の終焉と云うか、その限界に関しては、結構肌で感じている方も多いのではないでしょうか。

 こんなことを30年も前に予見していただなんて、やっぱりSFは良いなぁと思った次第です。久々にモースの著作でも読み返して、贈与経済について再考してみる気分に成る一冊です。









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『断絶への航海』の翻訳が出たのは1984年です。
べつに予見したわけじゃなくて、当時すでに自明だったと云う事だと思います。
にしても、社会に適合しない奴は誰かに殺害されることを「自然淘汰」と呼びますか。
FYI:
http://io9.com/Reputation-economies/

>1984年
あ〜そうですね、私が読んだのは新装版だったので………。
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川流桃桜

Author:川流桃桜
怪奇幻想サイト『k-m industry 〜黒森牧夫の幻視風景』編集者。

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