共存共栄の多極化世界へ向けた心構えの指南署
Matthew Ehret、Cynthia Chung著、Clash of the Two Americas Volume 2: Open vs Closed Systems Collide
著者のマシュー・エレット氏はカナダのジャーナリストで、”The Canadian Patriot”や”Rising Tide Foundation”等をメインに、カナダの知られざる歴史なんかをよく書いている方。私は彼が中国の一帯一路構想を熱烈に支持しているのが面白くてフォローしていたのだけれども、最近ではフュルミヒ弁護士等によるCOVID-19パンデミック詐欺に関する世界人民法廷で証言を行うなど、所謂グローバリスト勢の陰謀についても数々の興味深い情報を次々発信している。その彼が仲々気宇壮大な新著を出したと云うので早速読んでみた。
本書は国際関係をゼロサム志向とWIn-WIn志向の二つの潮流に分けて、19世紀末からのアメリカを中心とした世界の動きをざっくり再編する試み。
前者は即ち英米の帝国主義。全世界を勝者と敗者とに分断し、進歩と平等を憎み、少数のエリート達に奉仕する閉じたシステムで、ここ半世紀ばかりは新マルサス主義と云う反人類主義を土台に、SGDsと云う形で全世界を再編しようとしている(COVID-19はその為の詐欺だ)。ピケティの図式で言うと「r>g」を支持する側で、停滞した封建制度や植民地主義、金融資本主義を好む。代表的なアクターは帝国主義的戦略理論家マハン、無数のローズ奨学生(セシル・ローズの遺言によって作られた一種の秘密結社のメンバー)、ウィルソンやテディ・ルーズヴェルトやチャーチル等の帝国主義的政治指導者達、アダム・スミスやケインズ、マルサスやマルサス主義者達、ウォール街やチャタム・ハウスやCIAやNATOやフェビアン協会やローマ・クラブ界隈等々。
後者は互いの違いと多様性を尊重した上で、適度な保護政策と自由貿易と技術的進歩によって平和的な共存共栄を目指す開いたシステムで、根本的に物理的困難を乗り越える人間の創造的理性の働きに信を置いているいる。19世紀に於ては「アメリカン・システム」がこの理想を体現していたが、21世紀に於ては中国の一帯一路構想やロシアの大ユーラシア構想がこれに当たる。ピケティの図式でいうと「g>r」を支持する側で、平等主義や反植民地主義、国際協力や実体経済成長を好む。代表的なアクターは大陸間鉄道構想を提唱したウィリアム・ギルピン、リンカーン、FDR、スターリン、ヘンリー・ウォレス、、大恐慌に対するウォール街の責任追求を行なった弁護士のフェルディナンド・ペコラ、国際協調を訴えた歌手にして活動家のポール・ロブスン、JFKとRFK、キング牧師等々。有名人も多数登場するが、殆ど無名の人物も色々出て来て、知られざる歴史の襞に分け入る様な描写はそれ自体としても興味深い。
この二分法は本当にざっくりしていて、世界史を悪漢とヒーローの極端な善悪二元論で分ける訳だから、論展開がかなり乱暴な部分が多い。カヴァーしている範囲が非常に大きく、細部を取り上げればキリが無いので細かい話は省略するが、自分の主張に都合の良い箇所だけを摘み食いして強引に輪郭を整えたと云う印象を受けることが屡々。一般的には所謂陰謀史観に分類される様な話題も幾つも扱っているので、予備知識が無く従って自分で行間を埋められない読者にとってはハードルが高い。過去を正確に理解する為の試みとして本書を評価するならば、現実の複雑なニュアンスをごっそり削り取ったその大雑把過ぎる姿勢には低い点を付けざるを得ない。
だが著者が冒頭で述べている通り、この歴史再編の試みは過去を理解する為ではなく寧ろ未来を構築する為のものだ。具体的には中露を中心として着実にアメリカ(或いは米=英)帝国が支配する一極世界から多極化世界へと向かいつつある現代の潮流に対して心構えをする為の、或る種の指南署だ。過去の先人達がこの方面に関してどの様な考えを抱き、具体的にどう取り組んだかを学ぶことで、今後国際社会が進むべき道を再考するヒントを得る為のものだ。その観点からすれば本書は十分興味深い。こうしたシンプルな切り口から国際関係を論じた言説はこれまで殆ど類例が無いので、大まかな見取り図を作るだけでも十分な功績だ。過去のどんな流れから学び、どんな流れを拒絶すべきなのか、色々な考察の材料がふんだんに鏤められている。
世界は既に多極化へ向けて舵を切っている。世界史の流れは今大きな転換点を迎えている。このレビューを書いている現在(2022年4月)も、ロシアのウクライナに対する特殊軍事作戦が行われている。地政学ブログの「Deeply Japan」さんが「NATOの東方拡大とはスローモーションのバルバロッサ作戦である」と云う実に納得の行く喩えをしていたのだが、それに従えばナチ=西側自由主義陣営は現在二度目の歴史的な敗北を迎えていることになる。ロシアに対する制裁はロシアよりも寧ろドイツを主とするEU各国を痛め付け、ロシアは寧ろドル建て支配から脱却し、目の上のタンコブだったオリガルヒもこの機に一掃し、自国の経済的主権の再確立を強化している様に見える。地政学アナリストのペペ・エスコバル氏はこれを「プーチンの政治的柔術」と評していたが、これを契機として国際社会の重心は無法を働いてばかりの西側帝国主義諸国から中露を中心とするユーラシア圏(即ちマッキンダーやブレジンスキーが執着していた世界の中心)へと移行して行くことだろう。今更この動きが一寸やそっとのハイブリッド戦争で引っ繰り返せるとは思わない。ドルの覇権のカラクリを解き明かした主著”Superimperialism”の新版を最近出したばかりの異端の経済学者マイケル・ハドソン氏が最近「アメリカ帝国は自壊する。だがまさかこんなに早く起こるとは誰が予想したろうか」と云う記事を書いていたのだが、その通り、潮目は既に完全に変わっている。西側のプロパガンダに洗脳され切った無知で傲慢な西側市民の殆どはこの現実に気付いていないが、遅かれ早かれ否応無くこの変化が齎す現実に直面させられることだろう。本書の様な世界史の読み換えの試みによって頭を柔軟に保っておけば、来るべき時代に於て混乱や誤解や偏見を最小限に抑えた上で、建設的な思考が出来る様になるかも知れない。
著者が未来の指針として支持している主張は別に過激なものではない、寧ろ極く当たり前の、一般人の常識的見解であるべきものだ。だがこの世界がどれだけ狂った嘘に支配されているかに気付いている者であれば、その当たり前のことを貫くことがどれだけ難しいかも理解出来ていることだう。自分自身の正気を保つだけでも相応の努力を要する。その為には目の前の現実の嘘を見抜くと共に、過去の嘘も整理しておく必要が有る。両者は不可分なものだからだ。この種の試みは今後もっと大々的に為されるべきだろう。
著者のマシュー・エレット氏はカナダのジャーナリストで、”The Canadian Patriot”や”Rising Tide Foundation”等をメインに、カナダの知られざる歴史なんかをよく書いている方。私は彼が中国の一帯一路構想を熱烈に支持しているのが面白くてフォローしていたのだけれども、最近ではフュルミヒ弁護士等によるCOVID-19パンデミック詐欺に関する世界人民法廷で証言を行うなど、所謂グローバリスト勢の陰謀についても数々の興味深い情報を次々発信している。その彼が仲々気宇壮大な新著を出したと云うので早速読んでみた。
本書は国際関係をゼロサム志向とWIn-WIn志向の二つの潮流に分けて、19世紀末からのアメリカを中心とした世界の動きをざっくり再編する試み。
前者は即ち英米の帝国主義。全世界を勝者と敗者とに分断し、進歩と平等を憎み、少数のエリート達に奉仕する閉じたシステムで、ここ半世紀ばかりは新マルサス主義と云う反人類主義を土台に、SGDsと云う形で全世界を再編しようとしている(COVID-19はその為の詐欺だ)。ピケティの図式で言うと「r>g」を支持する側で、停滞した封建制度や植民地主義、金融資本主義を好む。代表的なアクターは帝国主義的戦略理論家マハン、無数のローズ奨学生(セシル・ローズの遺言によって作られた一種の秘密結社のメンバー)、ウィルソンやテディ・ルーズヴェルトやチャーチル等の帝国主義的政治指導者達、アダム・スミスやケインズ、マルサスやマルサス主義者達、ウォール街やチャタム・ハウスやCIAやNATOやフェビアン協会やローマ・クラブ界隈等々。
後者は互いの違いと多様性を尊重した上で、適度な保護政策と自由貿易と技術的進歩によって平和的な共存共栄を目指す開いたシステムで、根本的に物理的困難を乗り越える人間の創造的理性の働きに信を置いているいる。19世紀に於ては「アメリカン・システム」がこの理想を体現していたが、21世紀に於ては中国の一帯一路構想やロシアの大ユーラシア構想がこれに当たる。ピケティの図式でいうと「g>r」を支持する側で、平等主義や反植民地主義、国際協力や実体経済成長を好む。代表的なアクターは大陸間鉄道構想を提唱したウィリアム・ギルピン、リンカーン、FDR、スターリン、ヘンリー・ウォレス、、大恐慌に対するウォール街の責任追求を行なった弁護士のフェルディナンド・ペコラ、国際協調を訴えた歌手にして活動家のポール・ロブスン、JFKとRFK、キング牧師等々。有名人も多数登場するが、殆ど無名の人物も色々出て来て、知られざる歴史の襞に分け入る様な描写はそれ自体としても興味深い。
この二分法は本当にざっくりしていて、世界史を悪漢とヒーローの極端な善悪二元論で分ける訳だから、論展開がかなり乱暴な部分が多い。カヴァーしている範囲が非常に大きく、細部を取り上げればキリが無いので細かい話は省略するが、自分の主張に都合の良い箇所だけを摘み食いして強引に輪郭を整えたと云う印象を受けることが屡々。一般的には所謂陰謀史観に分類される様な話題も幾つも扱っているので、予備知識が無く従って自分で行間を埋められない読者にとってはハードルが高い。過去を正確に理解する為の試みとして本書を評価するならば、現実の複雑なニュアンスをごっそり削り取ったその大雑把過ぎる姿勢には低い点を付けざるを得ない。
だが著者が冒頭で述べている通り、この歴史再編の試みは過去を理解する為ではなく寧ろ未来を構築する為のものだ。具体的には中露を中心として着実にアメリカ(或いは米=英)帝国が支配する一極世界から多極化世界へと向かいつつある現代の潮流に対して心構えをする為の、或る種の指南署だ。過去の先人達がこの方面に関してどの様な考えを抱き、具体的にどう取り組んだかを学ぶことで、今後国際社会が進むべき道を再考するヒントを得る為のものだ。その観点からすれば本書は十分興味深い。こうしたシンプルな切り口から国際関係を論じた言説はこれまで殆ど類例が無いので、大まかな見取り図を作るだけでも十分な功績だ。過去のどんな流れから学び、どんな流れを拒絶すべきなのか、色々な考察の材料がふんだんに鏤められている。
世界は既に多極化へ向けて舵を切っている。世界史の流れは今大きな転換点を迎えている。このレビューを書いている現在(2022年4月)も、ロシアのウクライナに対する特殊軍事作戦が行われている。地政学ブログの「Deeply Japan」さんが「NATOの東方拡大とはスローモーションのバルバロッサ作戦である」と云う実に納得の行く喩えをしていたのだが、それに従えばナチ=西側自由主義陣営は現在二度目の歴史的な敗北を迎えていることになる。ロシアに対する制裁はロシアよりも寧ろドイツを主とするEU各国を痛め付け、ロシアは寧ろドル建て支配から脱却し、目の上のタンコブだったオリガルヒもこの機に一掃し、自国の経済的主権の再確立を強化している様に見える。地政学アナリストのペペ・エスコバル氏はこれを「プーチンの政治的柔術」と評していたが、これを契機として国際社会の重心は無法を働いてばかりの西側帝国主義諸国から中露を中心とするユーラシア圏(即ちマッキンダーやブレジンスキーが執着していた世界の中心)へと移行して行くことだろう。今更この動きが一寸やそっとのハイブリッド戦争で引っ繰り返せるとは思わない。ドルの覇権のカラクリを解き明かした主著”Superimperialism”の新版を最近出したばかりの異端の経済学者マイケル・ハドソン氏が最近「アメリカ帝国は自壊する。だがまさかこんなに早く起こるとは誰が予想したろうか」と云う記事を書いていたのだが、その通り、潮目は既に完全に変わっている。西側のプロパガンダに洗脳され切った無知で傲慢な西側市民の殆どはこの現実に気付いていないが、遅かれ早かれ否応無くこの変化が齎す現実に直面させられることだろう。本書の様な世界史の読み換えの試みによって頭を柔軟に保っておけば、来るべき時代に於て混乱や誤解や偏見を最小限に抑えた上で、建設的な思考が出来る様になるかも知れない。
著者が未来の指針として支持している主張は別に過激なものではない、寧ろ極く当たり前の、一般人の常識的見解であるべきものだ。だがこの世界がどれだけ狂った嘘に支配されているかに気付いている者であれば、その当たり前のことを貫くことがどれだけ難しいかも理解出来ていることだう。自分自身の正気を保つだけでも相応の努力を要する。その為には目の前の現実の嘘を見抜くと共に、過去の嘘も整理しておく必要が有る。両者は不可分なものだからだ。この種の試みは今後もっと大々的に為されるべきだろう。
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