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非暴力のヒーローのカッコ良さについて

2020/12/14(月)の呟きより。

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イギリスの少年向けSFTVシリーズ『ドクター・フー』は色々と偽善に満ちてはいるのだが、「暴力で問題を解決することを断固として拒否するヒーロー」と云う設定は実に貴重だと思うし、そこに込められた製作者達の思いは尊ばれるべきだと思う。

CG技術によって映像表現の可能性が広がったお陰も有って、最近では物理的な超能力を振るうことで問題を解決するアメコミヒーロー映画が盛んだ。余りに複雑化し過ぎた社会に倦み疲れた人々は、より解り易くて目に見える強さを求めているのだろう。

原初的な身体感覚に訴える表現はその点で広く万人に浸透し易い。どんな種類の強さかは見れば解るし、いちいち深く考える必要が無い。単純そのもの。単純さはそれ自体で快楽を生む。

日本で言うと特にジャンプ系漫画に昔からこの傾向が顕著だ。漫画やアニメと云った視覚的媒体では、登場人物の葛藤や苦悩や対立を物理的暴力表現と云う形で結実させ易い。心理的な遣り取りも拳の応酬で表現する方が読者/視聴者の情動を喚起し易いし、それ故に強い説得力を持つ。

だが子供の頃の私にとっては、物理的な暴力表現それ自体には大してドラマが無かった(運動が苦手だったことも一因だったかも知れない)。宮崎駿の様にそれが上手い表現者が居ない訳ではなかったのだが、極めて稀。多くの場合、暴力は単なる暴力としか映らなかった。

画面の向こうの派手なガチンコはスペクタクルかも知れないが、基本的にドラマが無い。少女漫画の方がよっぽどドラマ性に富んでいた。

それに私は「ひたすら物理的により強い敵と戦い続けるヒーロー」の「取り敢えず殴って解決」と云うスタンスがとにかく嫌いだった。怪し気なカルトか何かの中毒の様な臭いを感じて厭だったのだ。

一体それ自体に何の意味が有るのか解らない暴力表現のエスカレーションは、この国の偽りの繁栄の腐臭とでも呼ぶべき臭いを放っていた。或る程度までの誇張された暴力表現までは私も楽しめた。だがより刺激的な表現を求める周囲の人々の欲望には際限が無い様に見えた。

度を越したより強度の高い視覚的刺激の追求はイカれているとしか思えなかった(今でもそう思っているが)。物理的暴力表現は何処まで追求してもそれ自体としては暴力をしか表現しない。ドラマが無い。

だから私の関心は自然とそれ以外の表現方法に向かって行った。好意的な言い方をするならば、相性が悪かったのだ。

だからTVと云う視覚表現媒体に於て、「腕っ節が強い奴より、知恵を絞る奴の方がカッコ良いんだぜ」と云うメッセージを子供達に伝えてくれるヒーローには、それだけで拍手を送りたいと思う。

21世紀に入ってリブートされた後の『ドクター・フー』は、大人が観ても結構面白いが、例えば日本の『ウルトラマン』や『仮面ライダー』と云った古いヒーローをリブートしてみたところで、大人の鑑賞に耐え得る作品が作られる可能性は極めて低いだろう。製作者側でその様な作品を作ろうとしないからだ。

日本の子供向け番組製作者達は、基本的に子供の可能性を信じていないと思う。作り手の側の基礎教養の低下と云う問題も有るだろうが、何より先ず「難しいことを言ったって子供達には理解出来ない。もっと解り易く簡単な表現にしよう」と云うスタンスから意図的に知的水準を落としている様に見える。

だから日本で「子供向け」と言ったらイコール子供騙しのことになってしまう。「売り上げ」と云う単純な物差しで測れる商業主義の観点からすれば、レヴェルを落とした方が恐らく目先の売り上げは保証されるし、要らぬ冒険はしたくとも出来ない。

子供達のことを考えるより先に、先ず自分達の生活のことを気にせねばならないのだ。だがそれでは背伸びをしたい子供達の欲求には全く応えられないし、長く子供達の心に残るヒーローは生まれ難い。

そもそも表現者達は子供達に何を伝えたいのか? 売りたいだけか? 仮に売り上げが伸びなかったとしても、歯を食い縛ってでも「子供達にこれだけは伝えなければ」と思うメッセージは持っているのだろうか?

貧すれば鈍す、とはこのことだろうか。その種の冒険をやろうとしない、やりたくても出来ない、病んで衰えて後ろ向きなこの国の表現の現状を、私は残念に思う。
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川流桃桜

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