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何故ウォール・ストリート・ジャーナルは突然2022年春の平和条約草案の条件を公表したのか?(抄訳)

アンドリュー・コリブコ氏の分析の抄訳。2024/03/01、ウォール・ストリート・ジャーナルは、2022年春にロシアとウクライナの間で交わされた和平条約草案の詳細を報じた。この報道は紛争凍結を望む者望まぬ者、双方にとって諸刃の剣となる。
Why’d The Wall Street Journal Suddenly Share The Terms Of Spring 2022’s Draft Peace Treaty?



 2024/03/01、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は、2022年春のロシアとウクライナの間で交わされた17ページの平和条約草案の中身を報じた。これは2023/06/17にプーチン大統領自身がアフリカの和平使節団に対して公表したものなので、これ自体は目新しいニュースではないのだが、西洋主流メディアがこの件を取り上げたところにポイントが有る。

 当時のロシア政府が多くの妥協に喜んで応じたことを考えると、これの時の条件は寛大過ぎると言っても良いものだったのだが、WSJは寧ろ「懲罰的」だと表現した。

 この時の条件は以下の通りだ。

 ・ウクライナは憲法上の中立を回復する。
 ・ロシア語に対する差別的措置を撤廃する。
 ・軍隊に制限を設ける。
 ・外国の兵器を使用しない。
 ・クリミアに対するロシアの影響力を認める。
 ・引き換えに安保理がウクライナの安全を保証する。
 ・ドンバスの地位は指導者間の協議を通じて解決されることになるが、ミンスク合意に従ってウクライナに再編入される可能性が有る(希望する住民はロシアの市民権を獲得して移住も出来る)。
 ・ロシアは2022年以前のウクライナの残りの国境から撤退する。

 若しこれらの条件が受け入れられていれば、ウクライナはそれ以降の破壊とそれに伴う人口減少を回避出来ただけではなく、ロシアが構想していた様に、中国とEUを繋ぐ架け橋として機能していたかも知れない。

 そしてその後ロシアとNATOとの交渉が再開されなかったとしても、NATOの野放図な東方拡大によって悪化していた両者の安全保障上のジレンマは、全関係者に利益に適うよう、遙かに上手く管理されていたかも知れない。だがボリス・ジョンソン英首相がキエフを訪れて交渉を妨害した為に戦闘が継続されることになった。 

 西洋がこの和平交渉を妨害した理由は、西洋が、経済制裁と代理戦争を通じてロシアに戦略的敗北を与えることが出来ると云う自分達のプロパガンダを信じていたからだ。だがNYタイムズは2023年1月に制裁が失敗したことを、9月には代理戦争が失敗したことを認めている。

 2023年夏の反攻が失敗したにも関わらず、紛争が今だに長引いているのは、西洋が、戦略的に相手を打ち負かしたのがロシアの方であると云う事実を認めることが出来ないからだ。

 この代理戦争を全く不必要に長引かせたことによって、西洋は全ての備蓄を使い果たし、軍産複合体の弱さを露呈させ、アジア太平洋での重大な事態に対して以前程柔軟に適応することが出来なくなった。

 NATOがウクライナに直接軍事介入した場合、計算違いから第3次世界大戦に発展する可能性が有る為、何が何でもロシアに勝利すると云う虚しい希望にしがみつくことは益々危険になっている。

 こうした認識が広まる中で、WSJは和平草案について報道し、これを「懲罰的」だと評した。この見方は紛争の凍結を促すものではないが、実際は全く異なる。報じられた和平草案の詳細は、プーチンが、ウクライナの中立化、非ナチ化、非軍事化と云う戦略目標を達成する為に、かなりの妥協を受け入れる用意が有ることを証明している。

 だが2022年9月にドネツク、ルガンスクのみならずヘルソンとザポリージャまで住民投票によってロシアへの編入を決定した為、領土に関するこうした妥協は最早不可能になった。クレムリンのペシュコフ報道官が03/01に、曾ての和平草草案の詳細を最早時代遅れだと切って捨てたのはそれが理由だ。

 但し理論的にはロシアが妥協する余地はまだ残っている。ロシアは2020年の憲法改正によって領土の割譲を禁止しているが、憲法裁判所がこれに違反しないと判断した場合には、現在の接触線が事実上の国境となる可能性が有る。

 プーチンは、最近ではタッカー・カールソンとのインタビューで、ロシアの安全保障上の利益が満たされるのであれば、政治的解決に向けて妥協する用意が有ると何度も示唆しているので、このシナリオは可能だ。

 問題は、ウクライナがロシアとの和平交渉再開を法的に禁止していることだ。従って交渉を再開するには先ず西洋がキエフに圧力を掛けて、この法を撤回させなければならない。05/20にゼレンスキーの任期が切れた後で彼に対する国内の圧力が高まれば、その可能性も有る(ポリティコが提案した様な「国民を団結させる政府」を樹立させれば、各方面の面子を保った儘これを実現することも可能だろう)。

 今年中にロシアが接触線を突破した場合、その猛進を止める唯一の手段は、NATO軍が直接介入して、第3次世界大戦のリスクを冒すことしか無い。西洋側はこのことを承知している。だが紛争を接触線に沿って凍結し、そこを事実上の国境に変えることに成功すれば、こうしたシナリオは回避することが可能だ。

 但しロシアのラヴロフ外相は03/02の時点で、ロシアはキエフとの協議に関する如何なる真剣な提案も受け取っていないと発表しているので、西洋を支配するリベラル・グローバリスト達はまだこの大詰めを迎える覚悟は出来ていない様だ。

 またWSJが和平草案のかなり寛大な条件を「懲罰的」と評したことで、一部の政策立案者達の抵抗が強まる可能性も有る。

 だがそれでも公表された草案の詳細は一部の政策立案者達に、プーチンの側ではかなり妥協する用意が有ると信じさせるかも知れない。その場合、紛争凍結シナリオを支持する者は増えるかも知れない。

 従ってWSJの報道は、紛争凍結を望む者望まぬ者、双方にとって諸刃の剣だ。報道内容はどちらの側にとっても有利にもなるし不利にもなる。だがこの報道の目的がそれらのバランスを揺るがすことだとしたら、この報道が為されたタイミングは偶然ではない。

 この報道が実際にはどちらの側を支持しているのかには議論の余地が有るが、その影響がどちらに転ぶかを判断するには暫く時間が掛かるだろう。重要なのは、それが代理戦争のこの極めて重要な瞬間に変化を齎す可能性が有ると云うことだ。
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川流桃桜

Author:川流桃桜
一介の反帝国主義者。
2022年3月に検閲を受けてTwitterとFBのアカウントを停止された為、それ以降は情報発信の拠点をブログに変更。基本はテーマ毎のオープンスレッド形式。検閲によって検索ではヒットし難くなっているので、気に入った記事や発言が有れば拡散して頂けると助かります。
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