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1954年のロシアからウクライナへのクリミアの移転を無効とする法案が議会に提出される(要点と解説)

TASS通信の記事の要点に解説を加えてみた。
Bill submitted to Russian legislature would void transfer of Crimea to Ukraine in 1954



 2024/03/11、ロシアの国会議員2名が、クリミアをロシアからウクライナに移管すると云う1954年の政府決定の無効化を求める法案を国家院に提出した。

 この政府決定はロシア・ソヴィエト社会主義連邦共和国憲法、ウクライナ・ソヴィエト社会主義共和国憲法、法の支配と国際法の基本原則に違反しており、「ロシア国民の意思を考慮せずにクリミア地域を移譲する決定」は「政治犯罪」だと云うのが彼等の主張だ。

 簡単に歴史のお浚いをしておくと、クリミアはここ2世紀ばかりは(1783年から)ずっとロシアの一部だったので、「クリミアはロシアの一部である」と云うのはロシアのプロパガンダでも何でもなく、単なる歴史的事実だ。クリミアがウクライナに継ぎ接ぎされたのは、当時のソヴィエト元首であるフルシチョフがウクライナ出身だった為、ウクライナがロシアの一部になった(1654年)300周年を記念して、人気取りの為にクリミアをウクライナにプレゼントしたのだ。これはフルシチョフの独断で行われた為、元々法的には問題が有るのではないかと云う批判も為されていた。

 元々ウクライナと云う歴史的実体が存在した訳ではなく、現在の様な形が徐々に作られたのは精々ここ1世紀、特に第2次世界大戦後になってからに過ぎず、民族や文化や言語の面から言えば、ウクライナは持続不可能なレヴェルで多様性を抱えていた。しかもウクライナのアイデンティティー形成を促した西からの外部圧力は、反ロシア感情を醸成してウクライナをロシアから引き離そうとしていた為、ウクライナの特に西部には反ロシア的な感情が強く、東部に多いロシア人(ロシア系ウクライナ人)を差別する風潮が強かった。

 だが当時のウクライナ・ソヴィエト社会主義共和国は少なくともソヴィエト連邦を構成する一員だった為、こうした国内の緊張関係はそこまで表立って騒がれることは無かったものだと思われる。

 だがゴルバチョフ時代にソ連の各国首脳が殆ど自国民を騙す様な形でソ連を解体させた時、クリミアではロシアに帰還したいと望む声が高まった。当時のソ連が連邦制を採っていたことを思い出そう。当時のソ連邦の構成体は「共和国」と日本語では訳されるが、これは日本に置き換えたら都道府県制に近いものではないかと思う。同じく連邦制を採っているアメリカ合衆国は50の"states"から成っているが、日本語ではこれは「州」と訳されるが「国家」と訳すことも出来る様なものだ。従ってソ連が15の個別の「国」に解体されたことは、米国が50の独立国家に分断され、州同士の行き来にパスポートが必要になった様なものだった。クリミアは歴史的にぽっと出のウクライナよりもロシアとの結び付きが深いので、下手をしたら自分達を差別して来るキエフよりもモスクワの方を好むのは自然な流れだったろう。それにクリミアは元々「自治共和国」と云う身分で或る程度自律性を保つ形でウクライナに編入されており、厳密な意味ではウクライナの一部ではないので、ウクライナに止まってやらねばならない義理は無かった。

 キエフはロシアとの関係は持続する、ロシア語に対する差別的な待遇は改善する、等の約束をして、クリミアを含む分離主義勢力を宥めてウクライナの統一を保持したのだが、結局それらの約束は守られることは無く、2004年のオレンジ革命、2014年のマイダン・クーデターを経て、益々差別と弾圧を強めるキエフに愛想を尽かしたクリミアは住民投票でロシアに帰還することを決定した。「ロシアが銃で脅して投票させた」などと云う主張は全くの言い掛かりであって根拠は無いし(国際選挙監視団は違反を報告していない)、ここに述べた様なクリミアの歴史を全く無視した話だ。

 この辺の法的に問題だった部分を改めようとする動きは、無論法的には歓迎すべきなのだろうが、西洋は恐らくこれを「ロシアが歴史を改竄しようとしている!」と非難するだろう。プーチンがタッカー・カールソンに20分以上に亘って歴史のレクチャーをした時にも、西洋のメディアは「プーチンは歴史を武器にしている」とか「全くのナンセンス」とか罵倒するだけで、その発言のニュアンスを理解しようとする努力は皆無だった。何が歴史の「正しい」解釈なのかは、自分達だけにそれを決める権利が有ると云う訳なのだろう。マーヴェル映画的な「正義と悪とのハルマゲドン」みたいな構図を信じている人ならそれでも良いかも知れないが、それは現実の複雑さに耐えることを学んだ大人の態度ではない。
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歴史を武器に出来るのは真実を語る者だけ。

 歴史がプーチン大統領の武器だとすれば、それはプーチン大統領が歴史的事実に基づいて思考し行動しているからです。
 もし、歴史を捏造する、否定する、改竄する人間であれば、歴史的事実を根拠にして自己の正当性を主張する事は出来ないからです。
 
 中国は日本による侵略戦争と虐殺と言う歴史的事実に基づいていますから、歴史を武器に出来ています。
 日本の政府と右翼と国民は、この事実を否定し、歴史を捏造し、改竄していますから、歴史的事実を武器にする事は出来ず、自らの悪事が露呈する事を恐れています。

 同じように、欧米は歴史的事実、ウクライナがナチスに協力して虐殺を実施した事実、ロシア系市民を虐殺した事実を否定し、歴史を捏造しているからこそ、歴史を武器に出来ないどころか、歴史的事実が明るみに出れば自らの悪事が露呈します。
 プーチン大統領が歴史的事実を武器に出来ているのは、彼が歴史的事実を語り、それを根拠に考え行動しているからです。
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川流桃桜

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