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NATOが提案する「軍事シェンゲン」には、ポーランドに対するドイツのパワープレイが透けて見える(抄訳)

アンドリュー・コリブコ氏の分析の抄訳。2023/11/23に提案された「軍事シェンゲン」は、実際にはドイツがポーランドの防衛分野を含めた主権を侵食する為の作戦だ。トゥスク元首相がポーランド首相に返り咲けば、ポーランドは自発的にドイツの属国に成り果てることだろう。
NATO’s Proposed “Military Schengen” Is A Thinly Disguised German Power Play Over Poland



EUの「軍事シェンゲン」の提案

 2023/11/23、NATO兵站責任者のアレクサンダー・ソルフランク中将は、EU全域での軍事装備の移動を最適化する為の、所謂「軍事シェンゲン」の創設を提案した。NATO圏内に於ける武器の自由な流通を妨げる官僚的・兵站的障害を取り除くことで、予期せぬ紛争に対応する能力を確保するのが目的だそうだ。

 が、この提案の内容だけでなく、そのタイミングも重要だ。

 現在、ウクライナを使ったNATOの対ロシア代理戦争は終息しつつある上に、ウクライナに対してEUが提案した安全保障草案は、相互防衛義務については全く触れていない

 従ってソフルランクの提案は、こうした緊張緩和傾向と矛盾している様に見える。が、よく考えてみると、そこには実際にはポーランドに対するドイツのパワープレイが透けて見える。



覇権を巡るドイツとポーランドの競争

 8月の時点で、EUの非公式の指導者であるドイツはウクライナに軍事的支援を約束することによって、キエフに対する影響力を巡るポーランドとの競争を激化させた。ポーランドは対ロシア代理戦争の過程で、中・東欧(CEE)の指導者になることを望んでいるが、ドイツはその野望の前に立ちはだかったのだ。

 10/15のポーランド総選挙(外相はドイツが介入していると非難した)ではリベラル・グローバリスト派の野党連合が勝利した。この結果、元首相で欧州理事会議長であり、ドイツとは同盟関係に在るドナルド・トゥスク氏が首相に復帰する可能性が高い。

 その場合、トゥスクは自発的に自国をベルリンに従属させるかも知れず、その結果、ポーランドは想定されていた地域の勢力圏をドイツに譲り渡し、無期限で史上最大の属国になることとなる。


 事実上ドイツが支配しているEUとの関係を改善すると云うトゥスクの計画は、保守ナショナリスト達からはその様なものだと見られている。特にEUは条約を変更して権限を強化し、ポーランドの主権を更に侵食しようとしているので尚更だ。

 トゥスクはEU条約の変更に反対だと主張しているが、一部の人達は彼の誠実さを疑っており、単にこの問題を巡って大規模な抗議行動が起こるのを防ぐ為のリップサーヴィスではないかと思っている。

 トゥスクが首相に復帰し、EU条約が変更された場合、ポーランドの主権は防衛分野を含めて更に縮小されることになる。選挙前は、ドイツポーランドはEU最大の軍隊を作り上げようと競い合っていたが、これらが実現すると、ポーランドが先にタオルを投げることになるかも知れない。

 元国防大臣で次の国防大臣候補は10/22に、ポーランドは軍事契約を一切破棄しないと約束しているが、保守ナショナリスト達はこれもまた嘘であるか、或いはベルリンかブリュッセルから強制されて言わされたことなのではないかと疑っている。

 これらの懸念は実際、尤もなものであって、真剣に受け止められるべきだ。



EUに対するドイツの野望

 現在、ドイツの政策立案者達は、EUの覇権国になることが自国の国益に適うと考えている。その為には中東欧諸国を主導すると云うポーランドの野望を無力化しなければならず、従って彼等はトゥスクを支持し、EUを通してポーランドの主権を侵食しようと試みている。

 こうしたコンテクストの中で「軍事シェンゲン」が提案されたのは偶然ではない。これはドイツがポーランドに対して仕掛けている、第2次世界大戦以降前例の無かったパワープレイを促進する為の動きだ。

 若しトゥスクが約束通りEUとの関係を改善し、反対すると云う言質を破ってEU条約の変更を支持した場合、ポーランドには「軍事シェンゲン」が課せられ、「ロシアからEUを守る」と云う口実の下、ドイツ軍が大挙してポーランドに戻って来る可能性が有る。

 これはウクライナに於ける緊張緩和傾向と矛盾するものではない。寧ろそれを補完するものだ。何故なら、それはウクライナにはNATO憲章で定められている相互防衛義務による保証が与えられないことを補うものとして解釈される可能性が有るからだ。

 ウクライナ戦線が凍結した時に(それは最早避けられないが)ロシアに対して罠を仕掛けた場合、キエフはこれを悪用してNATOをロシアとの直接対決に引き摺り込もうとするかも知れない。だからEUは賢明にもそんな罠を仕掛けることはしない。そして同時に、必要に応じて適切に対応出来ることを示して、自国民を安心させることだろう。

 「軍事シェンゲン」は、EUの事実上の盟主であるドイツが迅速にEU最大の軍隊を東部まで派遣出来る様にすると云う目的を果たす為に役立つ。その場合は言うまでもなくポーランドを経由しなければならないだろうが、或いは単に無期限にポーランドに配備されることになるかも知れない。その口実は所謂「ロシアの侵略に対する抑止力」になるだろうが、或いは国境での偽旗作戦への「対応」だと主張されるかも知れない。

 このシナリオが実現した場合、ドイツはポーランドに対して、一発の銃弾も撃つこと無く覇権を回復することになる。ポーランドの保守ナショナリスト達にはこれを阻止する力は無く、これを相殺出来るものが有るとしたら、制御不能な可能性の低い変数だけだろう。そしてドイツは本質的に、米国の「背後からの主導」戦略の一環として、欧州でロシアを「封じ込める」任務を負うことになる。



背景には米国の新冷戦構想

 この様にして欧州大陸での覇権が完全に確かなものとなれば、米国はより自信を持って「アジアへの回帰」を行い、中国封じ込めに集中出来る様になるだろう。

 中米の2大超大国は現在、雪解けの初期段階を迎えている。だが今後もこの傾向が続くとは限らない。従って、雪解けが失敗した場合に中国封じ込めに必要な資源を全て注ぎ込めるよう、米国が欧州でのロシア封じ込め作戦をドイツに任せるのは理に適っている。

 歴史を通じて伝統的にそうであった様に、ポーランドの主権は再び大国のゲームの一環として犠牲にされつつある。但し今回はポーランドが実質的にドイツの属国になったとしても、国境はその儘残るだろうが。

 このシナリオを相殺する可能性の有る、ポーランドには制御出来ない変数は幾つか有るが、実際には可能性は非常に低い。従って、ポーランドが今後無期限にドイツの二番手としてプレーすることになることは、恐らく現時点では既成事実と言えるだろう。
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川流桃桜

Author:川流桃桜
一介の反帝国主義者。
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