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インドと西洋の蜜月関係が遂に破局?(抄訳)

アンドリュー・コリブコ氏の分析の抄訳。2023/11/22、フィナンシャル・タイムズの報道は、インドと西洋の蜜月関係が遂に終焉を迎える可能性を示唆しているが、それが世界の多極化プロセスに於て果たす役割は極めて重要なものとなる。インドとロシアの戦略的パートナーシップは、米国のリベラル・グローバリスト派閥が望む米中二極化の未来に対抗する上で不可欠の役割を果たす。
India’s Honeymoon With The West Might Finally Be Over



インド非難に英語圏全体が参加

 2023/11/22、フィナンシャル・タイムズ(FT)は米国情報筋の話として、FBIが過去の或る時点で、米国本土でテロリストに指定されたシーク教徒分離主義者を暗殺するインドの計画を阻止した疑いが有るあると報じた。


 バイデンはG20サミットでのモディ首相との会談中にこの件を持ち出した。

 だが、06/18に同様のテロ容疑者であるハーディープ・シン・ニジャールがカナダ国内で殺害された後で、既に当局者達はインド当局とその詳細を共有していた。当時も彼等はインドに苦情を申し立てた。

 その後カナダのトルドー首相は09/18に同じくG20サミットの後、インドがその事件に関与したと公に非難した。
 
 これに対してインドの当局者達が猛烈に反発し、その結果、カナダが「人権」を口実に何年に亘ってテロ容疑者を匿って来た事実に改めて注目が集まり、一見清らかに見えるカナダの評判に傷が付いた。

 墓穴を掘って恥を掻いたトルドーは暫く孤立していたのだが、その後英米枢軸(Anglo-American Axis/AAA)が支持に回った。その直後、今度は英語圏全体(「ファイブ・アイズ」)が団結してインドに対抗し始めた。

 06/22のインドのモディ首相のワシントン訪問は成功裡に終わったが、それ以来、米国の政策立案者達の内の比較的プラグマティックな派閥に対して、それと対立するリベラル・グローバリスト派閥はパワープレイを激化させる様になった。今回のインド非難はそうした背景の中で起こったことだ。

 リベラル・グローバリスト派閥は、インドに強制して地政学上の譲歩を引き出し、その文明国家社会を自分達好みに変えたいと思っており、その為には「人権」を口実にインドに圧力を掛けるべきだと思っている。
 
 他方、プラグマティックな派閥は、中国を封じ込める為の米印の戦略的パートナーシップが弱体化することを恐れて、内政問題に干渉することには反対している。

 激化する両派閥の対立は、一時的にはプラグマティスト派閥が勝利したが、リベラル・グローバリスト派閥は諦めなかった。



対中国政策を巡る対立

 両派閥の対インド政策は、それぞれの対中国政策にも影響を与えることになる。

 最も攻撃的なリベラル・グローバリストは、インドだけではなく中国の文明国家社会をも変えたいと考えているが、穏健派は、米中二極化(一部の人々は「G2」や「チャイメリカ(Chimerica)」と呼んでいる)への「収束」の可能性を排除していない。

 プラグマティストは中国社会を変えることにはそれ程関心は無く、2大国間の競争を継続することを望んでいる。最も攻撃的な派閥は、それが非現実的なシナリオであっても、レジーム・チェンジに関心を持っており、対立を緩和することを望んでいないが、穏健派はレジーム・チェンジは戦術的な可能性として容認しているだけだ。どちらも米中二極化への「収束」は望んでいない。

 以上の洞察は、11/15にサンフランシスコで開催されたAPEC首脳会議に合わせて行われた最新の習・バイデン首脳会談がにより中米の雪解けが進展したことと合わせれば、より重要な意味を帯びて来る。これは穏健なリベラル・グローバリストの勝利だったのか、それとも穏健なプラグマティストの勝利だったのかは不明だったのだが、FTの報道によって、前者が勝利したことに疑いの余地は無くなった。

 この問題に関するこれまでの分析も紹介しておくので、興味の有る読者はより掘り下げることも出来る(*訳注:リンクはこのブログで紹介したものに絞った)。

 インドとカナダの論争には暗殺疑惑以上のものが色々絡んでいる(抄訳)
 インド・カナダ論争に於ける米国の二重取引は、デリーとの関係を台無しにする危険性が有る(抄訳)
 インド・カナダ論争についてニュージーランドが不誠実な構図を当て嵌めてデリーを非難(抄訳)
 習-バイデン首脳会談は、中米対立をより良く管理する助けとなるだろう(抄訳)


 
​報道は情報作戦か?

 以上のことを踏まえると、FT報道のタイミングは疑わしい。扱われている事件の日付は特定されていないが、これがニジャール暗殺を指すのだとすれば、米国がその情報をインドと共有してから既に5ヵ月も経っている。そしてこの記事が掲載されたのは習-バイデン首脳会談の1週間後だ。

 従ってこの展開は、米国はこの陰謀疑惑に関する情報を隠蔽して来のだが、首脳会談で雪解けが進んだ後警戒心が薄れ、漏洩を許してメディアに大々的に暴露させたことを示唆している。

 その目的は、米国が最早インドを支持しないと云う善意のジェスチャーを中国に示すことであっただろう。彼等はこれによ大戦略目標である「収束」シナリオを前進させることを狙っている。

 但し、米国がこの件についてパキスタンに密告したと言う可能性も有る。

 11/21にインターセプトはパキスタン諜報部の秘密情報を基に、インド政府がテロリストに指定した者を殺害する「インドの暗殺部隊」についての報道を行ったが、同紙は09/17にはパキスタンの事実上の軍指導部を非難する様な記事も出しているので、その舞台裏を疑ってみるべきだろう。考えられるシナリオとしては、

 1)パキスタン諜報部内部の米国の同盟者がパートナーとの連帯を重視して、インターセプトにこれらに詳細をリークした。

 2)誰かがパキスタンの国益よりも、インドに対して国際的な圧力を掛けることを優先してリークした。

 動機はともかく、インターセプトの報道はFTの報道の丁度前日だったので、このタイミングは疑わしい。これはこれらの報道がより大規模で組織的な情報作戦の一部であったことを示唆している。



西洋は最早インドのパートナーではない?

 真相がどうあれ、米国のプラグマティスト派閥が中国に対してインドを支持する理由として挙げて来た「インドは民主主義国家だから」と云う口実が、今や疑わしいものとされていることは否定出来ない。今やインドは「ならず者の民主主義」の国になった(あからさまに「ならず者国家」に指定された訳ではないが)。これにより、プラグマティスと派閥が想定していた、アジアに於ける対中国競争を正当化する感情的な口実が無くなってしまった訳だ。
 
 この所為でインドは中国との間に抱えている幾つもの国境紛争に於て、戦略的に遙かに脆弱な立場に立つことになった。係争地域の何れかで中国と深刻な紛争が起こった場合、西洋がインド支持で団結する可能性がぐんと低くなってしまったからだ。

 中国側はこうした力関係の変化を明確に察知している。

 この結果、米国のプラグマティスト派閥が過去30年を費やして構築して来たインドと米国の戦略的パートナーシップは、その土台から疑問視されることになってしまった。これはそのライヴァルである穏健なリベラル・グローバリスト派閥にとっては比類の無い勝利を意味する。

 米国は南シナ海での領土紛争から中国の注意を逸らす為に、インドとの係争地域での中国の動きに対して目を瞑る様になるかも知れない。プラグマティストであれば、仮令最穏健派であっても、これを支持する人は居ないだろう。こうした新たな力関係は、二極化への「収束」を目指す穏健派リベラル・グローバリストのヴィジョンに典型的なものだ。

 この場合、中国社会を変えることを熱望する攻撃的リベラル・グローバリスト派閥は、妥協してその代わりにインド社会を変えることで満足しなければならないだろう。穏健派リベラル・グローバリストは中国との新たなデタントを望んでいるからだ。

 リベラル・グローバリストは介入の準備で忙しくなるだろうし(狙われ易いのは暴動が起こったマニプール州)、インドの隣国バングラデシュは1月に選挙を控えており、インドも春に選挙を控えている。中国は北辺縁辺に沿って軍事的圧力を強めている可能性が有るが、西洋は見て見ぬフリをするかも知れない。従ってインドは間もなく戦略的防衛に転じるかも知れない。

 この最悪のシナリオが仮に実現しなかったとしても、プラグマティスト派閥がリベラル・グローバリスト派閥から直ぐに対インド政策の主導権を取り戻さなければ、インドと西洋の蜜月関係は遂に終焉を迎えるかも知れない。

 希望の光が有るとするなら、ロシアとインドの戦略的パートナーシップが、二極化プロセスに対抗(三極化)する上で極めて重要となると云うことだ。米国のリベラル・グローバリストが望む二極化の未来を相殺する上で、この2大国程、大戦略レヴェルで数十年に及ぶ信頼の置ける重厚な調整を行っている国は何処にも無いが、その詳細はここでの分析の範囲を超えている。
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川流桃桜

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一介の反帝国主義者。
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