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北部紛争終結後のエチオピア-エリトリア関係についての率直な観察(抄訳)

アンドリュー・コリブコ氏の分析の抄訳。エチオピア北部紛争が終結して1年、エチオピアとエリトリアとの間には相互不信が戻って来た様に見えるが、この記事ではその理由と実行可能な解決策を分析している。西洋ではメディアでの扱いが小さい所為か、エチオピア北部紛争に対する関心は概して低いが、この紛争は運悪く旱魃の影響と相俟って、1年半で最大50万の死者を出した大惨事だ。
Candid Observations About Ethiopian-Eritrean Ties One Year After The Northern Conflict Ended




 2023/11/03で、エチオピア連邦政府とTPLF(ティグレ人民解放戦線)との間で2年続いた北部紛争が敵対行為停止協定(COHA)によって終結してから丸1年を迎えた。

 COHAに詳しくない人は先へ進む前に以下の2つの分析に目を通しておくことが望ましい。

 Analyzing The Joint Statement From The Government Of Ethiopia & The TPLF
 エチオピア紛争から学ぶべき12の教訓(要点)

 終戦以来、エチオピアとエリトリアの関係は、アビィ・アハメド首相とイサイアス・アフェウェルキ大統領が2018年夏に構想していた軌道に戻るのに苦労している。和解どころか相互不信が戻ってしまった様で、この事態の変化には、次の3つの理由が考えられる。



1)予想外のCOHAを受けて、イサイアスはアビィの評価を改めたのかも知れない。

 イサイアスはアビィが共通の敵であるTPLFと最後まで戦うだろうと考えていたかも知れないが、従って予想外のCOHAを受けて、彼はそれまでアビィについて評価した全てのことについて考え直したのかも知れない。

 若し彼がその合意を、暴力を終わらせ国家再建を開始する為のプラグマティックな取引ではなく、或る種の裏切りであると見做したとしたら、アビィに対する彼の信頼は打ち砕かれたかも知れない。

 その場合、彼はアビィが今後もまた裏切るのではないかと疑い始めたのかも知れない。



2)イサイアスがアビィの意図に不信感を持ち始めたとしたら、エリトリアはティグライから撤退したがらないかも知れない。

 イサイアスがアビィに不信感を抱き始めたとしたら、米国がエリトリア軍が依然としてティグライに残っていると主張したことも説明出来るかも知れない。

 エリトリア軍はエチオピアの承認を得てまだそこに駐留しているのかも知れない。或いは、TPLFのテロの脅威が再び出現するのではないか懸念して撤退したがらないのかも知れない。

 事実確認が出来ていないので、全ては推測に過ぎない。

 この問題に関しては双方とも沈黙しているが、エチオピアから撤退を求められているにも関わらずエリトリア軍がまだ駐留しているのだとしたら、それは相互不信の一因となっているだろう。



3)エチオピアの紅海港計画は、図らずも地域の安全保障のジレンマを悪化させたのかも知れない。

 金融危機を抱えるエチオピアは、紅海に面する隣国(最有力候補はジブチ)に対して港を貸してくれるよう交渉すると予想される。だがこれは、この問題の切り出し方や言い回しによっては、図らずも地域の安全保障上のジレンマを悪化させたのかも知れない。

 沿岸部と内陸部の国々は時々互いを疑いの目で見るものだが、アフリカの角の場合は、明らかな非対称性と歴史的遺産とによってこの問題が悪化する。従ってアビィが無邪気にこの問題を提起したことは、両国の関係に於て増大する相互不信を悪化させたのかも知れない。



以上から得られる観察

 これらの観察は、イサイアスがアビィを再評価したことが相互不信の主な要因であることを示している。

 これはイサイアスが何か下心を持っていると云う意味ではない。彼の愛国心は疑い様が無いし、彼がアビィを再評価したかったら彼にはそうする権利が有る。

 エチオピアとエリトリアの関係に相互不信が戻って来た様に見える3つの理由について、以下に大変率直な観察を指摘しておくが、これはこの状況を改善または管理すべく、その根本原因を理解する為だ。

 1)不信感の発端はアビィがCOHAに尽力したことだが、彼がこの合意を反故にするとは考えられない。

 2)TPLFの脅威の復活に関しては、これは二国間問題なので、そこで実際に起こっていることとその理由を両国が自国民に知らせることによってのみはっきりさせることが出来る。

 3)アビィはエチオピアが平和的手段を通じて紅海の港の獲得を目指していることを再確認した

 この問題については以下の4つの記事で分析してある。

 What’s The Best Way For Ethiopia To Diversify From Its Dependence On The Port Of Djibouti?
 ロシアはジブチ、エチオピア、南スーダンの総合的な地経学的ポテンシャルを解き放つことが出来る(抄訳)
 How Could Russia Mediate A Series Of Deals Between Djibouti, Ethiopia, & South Sudan?
 A Deal With Djibouti Is The Best Of Ethiopia’s Three Diplomatic Options For A Red Sea Port



実行可能な解決策

 この政策に於けるジブチの役割に着目することは、エチオピアとエリトリアの疑惑を軽減するのに役立つかも知れない。

 エチオピアの市民社会、学者、メディア、ビジネス界は、紅海の港と引き換えに外交官がジブチに提示出来る最も互恵的な条件について、国を挙げた議論を始めるかも知れない。

 そうすれば、「エチオピアはエリトリアを侵略して港を獲得しようと狙っているのかも知れない」と云う疑惑を遠ざけることが出来るだろうし、それによって過去1年間の相互不信によって図らずも悪化した安全保障上のジレンマに、責任を持って対処することが出来る様になるだろう。両国の分断を齎す物語が信憑性を失って排除され、そうした話を広める人物達の信用が失墜すれば、それはこの課題を管理すると云う両国共通の大義の助けになるだろう。

 両国の平均的な市民達は、相互不信によって損なわれた現在のエチオピア・エリトリア関係の改善や管理の為に、国家ヴェルの政策に影響を与えることは出来ない。だが世論を通じて緊張を緩和しようとすることは出来る。

 この事態を引き起こした責任者はアビィなのかイサイアスなのか、非難合戦をする代わりに、誰もが端的に現状を認め、責任を持って現状を管理する役割を果たすのが最善だ。陰謀論、侮辱、戦争挑発は、関係改善に向けた指導者達の努力を妨げるだけだ。
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川流桃桜

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