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オルバン首相がウクライナ紛争を「スラブ兄弟戦争」と表現したことは的確だったのか?(抄訳)

アンドリュー・コリブコ氏の分析の抄訳。2023/09/29、ハンガリーのヴィクトル・オルバン首相は、ウクライナ紛争を「スラブの兄弟戦争」と表現したが、これはウクライナ紛争を文明の観点から再解釈する上で有益なインスピレーションを与えてくれるものだ。
Does Orban Have A Point In Describing The Ukrainian Conflict As A “Slavic Fraternal War”?



ウクライナ戦争は「スラブの兄弟戦争」?

 2023/09/29、ハンガリーのヴィクトル・オルバン首相は、ウクライナ紛争を「スラブの兄弟戦争」と表現した。何故その表現を選んだのかについての詳しい説明は無かったが、彼の意図としては、他人が火に油を注ぐ状況を止めさせたかった様だ。

 これはウクライナ紛争に対するハンガリーの姿勢と一致しており、紛争をグローバル化したがっている西洋のNATO同盟の姿勢とは対照的だ。とは言っても、彼の発言には些か議論の余地が有る。

 ロシアから見れば、ウクライナはNATOがロシアに対してハイブリッド戦争を仕掛ける為の代理勢力に過ぎない。紛争を「スラブ兄弟戦争」と呼んでロシアとウクライナが共有する民族的な絆に焦点を当て過ぎると、そもそもこの紛争を誘発し永続化させているのは非スラブのNATOブロックであると云う事実が無視される危険性が有る。そしてまたウクライナがこれまで自力でロシアから自国を守って来たと云う印象が生まれてしまうが、これは事実ではない。ウクライナが生き残って来たのはNATOが支援を続けて来たからに過ぎないからだ。

 またウクライナ人からは、自分達はロシア人とは別の民族だと考えているので、「兄弟」などと云う形容は許し難い、と云う反発が来ることも予想される。彼等の観点からすると、この様な捉え方はウクライナが自国の領土だと主張する土地がロシアに編入され得る(或いは、編入されるべき)可能性を含意しているので、ウクライナの主権国家としての地位を損なう危険が有るのだ。

 またこれは(キエフは認めていないが)両当事者が紛争に対する罪を共有していることを示唆している。

 にも関わらず、ロシアもウクライナも、お互いの主張の一部に対しては暗黙の内に同意している。

 2021/07/21のプーチンの大作「ロシア人とウクライナ人の歴史的統一について」は、ウクライナの明確な民族アイデンティティと主権国家を認めることで締め括られている。

 同様にキエフは、西洋からの援助打ち切りの議論を呼び起こさないように、自分達がこれまで主に自力で生き延びて来たと思われることを望んでいない。



ウクライナ紛争は文明戦争

 さてオルバンの「スラブ兄弟戦争」と云う表現を建設的に批判したところで、そのメリットに注目してみよう。

 先に述べたこととは別に、彼は恐らく、国際関係を巡って台頭しつつある文明パラダイムに関する自身の信念を表明したかったのかも知れない。この学派は、文明が世界秩序の形成に於て国家と同じレヴェルの主体性を持っていると見做すもので、ロシアの最新の外交政策構想(2023/03/31)に部分的に含まれている。

 このパラダイムを念頭に置いてオルバンがウクライナ紛争の「スラブ」と「友愛」の性質に言及したことは、その本質そのものの概念を再構成するものだ。それはロシアから見た「西洋が引き起こした国際安全保障上のジレンマ」でも、ウクライナが主張する「征服の為の帝国戦争」でもなく、西洋文明によって引き起こされ長期化されたものではあるが、スラブ人同士の文明内紛争だと言っているのだ。

 少し詳しく解説すると、ウクライナはロシアから徹底的に距離を置こうとしている為、ウクライナをスラブ文明からの一種の「亡命者」であると捉え直す根拠が有る。ウクライナはその為に西洋と非公式に同盟を結んで、NATOと共謀して隣国ロシアの国家安全保障上のレッドラインをこっそり越えた。

 若しロシアが特別作戦を開始せず、事態の自然な成り行きに任せていたら、ウクライナは必然的に、西洋がロシアのバルカン化を進める為の「スラブのトロイの木馬」となっていただろう。そのシナリオでは、スラブ文明(スラブ人が歴史的に国家形成の最も重要な役割を果たして来たロシアのユーラシア文明)と呼ぶべきものは、西洋文明による多元的な征服の後、時間の経過と共に消滅して行くことだろう。その結果、ユーラシア北部に於て西洋文明は前例の無い拡大を果たし、(以前の)スラブ/ロシアの大地は西洋と中華文明との衝突の舞台となる可能性が有る。

 西洋文明は、ソ連崩壊後にウクライナが主権国家として独立するに際し、過激なナショナリストを育成することを通じて、ロシアを中心とするスラブの敵を分断統治しようとした。これに対しロシアは特別軍事作戦を開始することによって、「トロイの木馬」としてのウクライナを無力化し、そうすることで西洋の帝国戦争を回避しようとした。

 或いはオルバンはそこまで深いことは考えておらず、非スラブの西洋諸国が火を煽るのを思い止まらせようとしただけなのかも知れない。が、そうであってとしても、彼の表現は全てを再解釈する新たな方法に関してインスピレーションを与えるものだ。従って専門家諸氏には、このパラダイムに基付いて状況を再構築し、このパラダイムには他にどの様な含みが有るのかを検討することをお勧めする。
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これはプーシキンの言葉です。

 差別反対と弱者救済を主張し、当時のロシア政府から危険人物扱いされていたのが詩人のプーシキンです。
 彼はアフリカ系ですか貴族の家に生まれました。彼がロシアと他のスラブ国家との紛争を非難し介入しようとするヨーロッパに対して、

「我々スラブ人同士の兄弟げんかに他人が介入するな」と述べた言葉を引用したのです。

 ロシア人なら知らない者がいない国民詩人ですから、この発言はロシア人なら皆、共感したでしょう。
 悪意ある言葉ではなく、ロシアへのエールだと思いますよ。
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川流桃桜

Author:川流桃桜
一介の反帝国主義者。
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