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報道されているロシアと北朝鮮の軍事協定は全て地政学的バランスに関するものだ(抄訳)

アンドリュー・コリブコ氏の分析の抄訳。ロシアとDPRK(北朝鮮)は、グローバルなレヴェル、及び国家レヴェルに於て、中国に対して互いに補完的にバランスを取っている。そして中国は代替グローバル機関の構築に着手する際に西洋との架け橋を全て燃やしてしまうことに消極的だ。これらの事情こそが、ロシアとDPRKの軍事合意の背後に存在する、真の原動力だ。尚「北朝鮮」はこのブログの方針として「DPRK」と訳しておく。
The Reported Russian-North Korean Military Deal Is All About Geostrategic Balancing



ロシアとDPRKの新たな軍事協定の含意
 
 多くの観察者達は、ロシアとDPRKが西洋からの共通の脅威を理由に、軍事関係を強化することを決定したと信じている。2023/09/04の 報道に拠れば、ロシアはソ連時代の弾薬や大砲と引き換えに、極超音速ミサイル、核、衛星、潜水艦の技術をDPRKと共有する取引を模索している。

 ロシアからDPRKへの技術提供は、米韓日の台頭しつつある三角関係のバランスを取るものであり、DPRKからの軍備提供は、ロシアの特別軍事作戦が来年も継続することを見越しての措置だ。

 新冷戦に於て共通の敵に対して両国が互いに助け合うのは合理的だ。従って評価には恐らく多くの真実が含まれているものの、それだけではない。

 先ずこれらの報道からは、ウクライナに於けるNATOとの「兵站競争/消耗戦」に於て、ロシアが常に優位に立っている事実が抜け落ちている。DPRKのソ連時代の物資が無くとも、ロシアは依然としてNATO全体に対して見事に持ち堪えている。

 これはロシアの軍産複合体が現在も今後も、そのニーズを既に満たしていることを証明しているので、そもそも何故ロシアがDPRKとの軍事協定(かなり偏ったものではあるが)に賛同する必要が有るのかと云う疑問が生じることになる。

 説得力の有る説明は、そのシナリオではロシアの軍産複合体が第三者に対する軍事技術的義務を遂行する上で苦労する可能性が有るので、生産施設が高品質の輸出を優先出来るように、低品質の物資を購入しなければならないと云うものだ。

 仮にこの説明が正しかったとしても、では何故ロシアは単純に外貨で支払ったり、中国からそれを入手するのではなく、DPRKとこれらのゲームチェンジャーになり得る軍事技術を共有することに積極的なのか、と云う疑問の答えにはなっていない。

 同様に、何故DPRKは中国からこれらの軍事技術を受け取ることが出来ず、ロシアを相手にしなければならないのかと云う疑問も不明な儘だ。

 これらの疑問に対する答えは、中国は西洋との架け橋を全て燃やしてしまうことには消極的であることと、またロシアとDPRKは、中国に対して不均衡に依存したくないと云う共通の利益を持っていることに関連している。



ロシアとDPRKの真意

 バランス取りの話から始めよう。習主席は恐らく、09/09ににデリーで開催されたG20サミットを欠席したことが強く示唆している様に、中国がこれに代わるグローバル機関の創設を主導することを構想しており、これがスムースなプロセスであることを望んでいる。

 如何なる形であろうと、突然起こる二極化/「デカップリング」は世界経済を不安定にし、従って中国の輸出主導の経済成長を妨害するだろうが、中国がロシアに対して大規模な武器供与を行ったり、ゲームチェンジャーになる軍事技術をDPRKに移転したりすれば、米国はこのシナリオを強行する可能性が有る。

 従って、習主席はそのどちらの協定にも同意しないだろう。ロシアとDPRKが西洋からの敗北を防ぐ為の緊急措置として必要とすれば別だろうが、どちらの国もそうした脅威には直面していない為、中国がわざわざそんな危険を冒してやる必要は無い。

 仮に習主席がロシアとDPRKの軍事的ニーズを満たすと申し出たとしても、両国は恐らく中国ではなく、互いに頼ることを好むだろう。そううすることで、中国に対して不均衡に依存することを避けられるからだ。

 両国とも中国を世界で最も重要な戦略的パートナーのひとつと見做してはいるが、国家安全保障の確保に於て中国が余りにも大きな役割を果たす様な関係になれば、どちらも不快感を覚えることだろう。

 ロシアの観点からすれば、相手に悪意が無かったとしても、その様な不均衡な関係はクレムリンの外交政策の主権を狭める可能性が有る。特定の相手に不均衡に依存しないことは原則の問題なのだ。

 またそうした不均衡な関係を作ってしまえば、一部の政策立案者達は中国とインドの間でバランスを維持することに関心を失うかも知れない。そうなれば無意識の内に中国を贔屓する結果となり、その対抗措置としてインドを米国に近付けてしまうかも知れない。そうなれば、ロシアは中国の超大国化路線を加速させ、インドは米国の衰退する覇権維持を支援し、多極化へ向けたグローバルなシステム移行は、二極化(bipolarity)、或いは二多極化 (bi-multipolarity)へと逆戻りすることになる。その結果、真の主権を享受するのは中米ふたつの超大国だけとなり、他の国々は競争の自然な力学によって大きく制限を受けることになる。ロシアは明らかに、このシナリオを何としても避けたいと考えている。



リバランスの必要性

 ロシアがグローバルな利益を持っているのとは異なり、DPRKの利益は純粋に国家的なものだが、それでもロシアの利益を補完するものではある。

 ソ連が崩壊し旧冷戦が終結して以来、DPRKは中国に不均衡に依存して来たが、後に中国はこの関係を利用して、DPRKに対する安保理制裁を承認することで、西洋との関係を拡大した。当時はロシアも同様の理由で同じことをしたのだが、DPRKはロシアに依存していなかったので、北京の様にはモスクワに対して恨みを抱くことは無かった。

 この中国に対する不信感が高まった結果、金正恩は中国との関係をリバランスする為に、(最終的には失敗に終わったが)トランプの非核化提案を真剣に検討する様になった。

 ミャンマーがオバマ政権の米国との和解に合意したのも同じ動機に基付いていたのだが、これも最終的には失敗に終わった。

 DPRKもミャンマーも、中国に対して不均衡に依存することは自国にとって不利であると感じ、米国との関係をリバランスすることでそれを是正しようとしたのだ。

 米国のバランス調整政策は何の成果も上げず、現在では最早実行不可能である為、各国は現在、中国への不均衡な依存を軽減する上で同じ役割を果たすよう、ロシアに期待している(ロシアとミャンマーとの関係については以前にここで解説した)。

 DPRKの観点からすれば、中国がゲームチェンジャーとなる軍事技術を提供したとしても、何時か中国が米国と合意に達すれば、何時でも打ち切られる可能性が有る。実際、中国はDPRKにそうした技術を提供することを恐らく検討しないだろう。そうすれば、中国が米国との協定を求めて再びDPRKに対する影響力を行使しようとしても困難になるだろうし、その結果、中国自身の外交政策の主権が制限されることになるからだ。

 過去18ヶ月間に展開した全てのことを踏まえると、ロシアが近い内に米国と主要な合意に達する可能性は殆どゼロに近い。それ故DPRKはロシアがより信頼出来る長期的な軍事パートナーになると信じている。

 ロシアとDPRKは、グローバルなレヴェル、及び国家レヴェルに於て、中国に対して互いに補完的にバランスを取っている。そして中国は代替グローバル機関の構築に着手する際に西洋との架け橋を全て燃やしてしまうことに消極的だ。これらの事情こそが、ロシアとDPRKの軍事合意の背後に存在する、真の原動力だ。

 この大戦略的洞察は、これらの国々の関係の真の状態をより深く理解することを可能にし、従って客観的な観察者達が今後両国についてより正確な分析を行うのに役立つ。
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川流桃桜

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