イランが新たなカラバフ紛争に巻き込まれたら、米国は大喜びするだろう(抄訳)
アンドリュー・コリブコ氏の記事の抄訳。イランをトルコを相手に1980年代のイラン・イラク戦争の様に長期戦争に引き摺り込み、地域を分断しつつ双方に血を流させることは、米国の利益に適っている。イランがアルメニアを軍事支援すべき理由として挙げられているものがどちらも誤っていることと、そこから起こり得る悲惨な結末を考慮すると、イランは新たなカラバフ紛争に巻き込まれることが賢明なことかどうか、よく考えるべきだろう。
The US Would Be Delighted If Iran Was Dragged Into Any New Conflict Over Karabakh
南コーサカスで高まる緊張
アルメニアとアゼルバイジャンはナゴルノ・カラバフの領土権を巡って新たな紛争に備えていると互いを非難しており、南コーカサスでは緊張が高まっている。
こうした危険な力関係の中で、ロシアとアルメニアの関係は悪化しており、アルメニアはロシアを騙して対アゼルバイジャン戦争を起こさせることは決して出来ないと悟って、西洋に軸足を移している。
ロシア外務省はこれに反応してアルメニア大使を呼び出し、アルメニアが過去1週間に亘って行った非友好的な措置について苦情を申し立てた。
西洋はロシア南部周辺地域で大規模な紛争を起こす為にアルメニアに於ける超ナショナリスト感情を利用して安全保障上のジレンマを作り出しており、CSTO(集団安全保障条約)の相互防衛義務に基付いてロシアがアルメニアを助ける為に紛争に巻き込まれるか、或いは中立を保つことで信用を落とすかのどちらかになることを期待している。
ロシアは自国の戦力をウクライナでの特別軍事作戦から分散させることを望んでおらず、アゼルバイジャンの同盟国であるトルコと交戦する危険も冒したくない為、いざ紛争が起これば、CSTOでの信用失墜の方を「より小さな悪」として選択し、中立を保つシナリオの方が有りそうに思われる。
イランが介入する可能性は?
イランはロシアの例に倣ってカラバフを巡る新たな紛争に巻き込まれることを避けるべきだが、新たな戦争が勃発した場合にイランがどの様に反応するかは依然として不明だ。
2023/09/09、イランはアゼルバイジャンに、アルメニアを攻撃しないよう重大な警告を送ったとの報道が流れた。
それにまた同日、イラン・イスラム革命防衛隊がアゼルバイジャンに対し警告を発し、係争中のナゴルノ・カラバフ地域で分離主義政権が選挙を実施する中、国境に軍隊を配置し、アルメニアを支援する用意が有ると脅迫した。革命防衛隊が公開した動画は、イラン軍がアゼルバイジャンとアルメニアとの国境に集中していることを示している。
介入の支持者達は介入の理由として以下の点を挙げている。
1)アゼルバイジャンはイスラエルの傀儡であり、教訓を得る必要が有る。
2)アルメニア南部シュニク州を横断することになるアゼルが計画しているザンゲズル回廊は、南コーカサスと中央アジアのイラン北辺に沿ってトルコの影響力を増大させることになる。

だがこれらの主張は両方とも誤りだ。
1)「アゼルバイジャン-イスラエルのイランに対する『統一戦線』は幾つかの深刻な疑問を提起している」が、アゼルはイスラエルの傀儡ではない。それは反シオニストのデマだ。アゼルはどんな相手とも好きな関係を築く主権的権利を持っており、西洋からの圧力にも関わらず対ロシア制裁に加わらないことで、その独立性を証明して来た。
2)南コーカサスと中央アジアを貫くトルコの「中間回廊(Middle Corridor)」は、ジョージアから受け取った物流通過権により既に発効しており、従ってアゼルのザンゲズル回廊を阻止する為にイランがアルメニアを支援せねばならない、と云う主張には根拠が無い。ザンゲズル回廊が実現すればトルコの地域的影響力が増大するのは確実だが、イランにはこの傾向全体を止めることは出来ないし、遅らせることは出来るかも知れないが、自国にも多大なコストを強いることになる。

イランが介入してアルメニアを軍事支援する可能性を更に検討すると、それは明らかに、イランがアゼルと、その同盟国であるトルコを相手に、二正面戦争のリスクを冒すことを意味する。しかもトルコはNATO加盟国であり、NATOで2番目に大きい軍隊を有している為、イランは1980年代にイラクと戦った様に、激しく長期化する可能性の有る紛争に備えなければならないだろう。その人道的、経済的影響が壊滅的であろうことは言うまでも無い。
更に、アルメニアはCSTO(集団安全保障条約)から事実上撤退したばかりであり、ロシアから西洋陣営へ寝返った。これを支援するとなると、イランは1979年以来築き上げて来た反帝国主義の評判を傷付けることになるかも知れない。
イランはアルメニア国境を守らなければならないと主張する介入支持者達の用いている法的口実は、米国が吐き出す「ルールに基付く秩序」のレトリックと同類だ。
1986年にイランがイラクのアル=ファオ半島を占領したことを思い出すなら、それは偽善的でもある。当時、イランは国家安全保障上の利益を確保する為にイラクの侵略者を撃退した後も攻撃を続けた。敵対関係が再燃すれば、アゼルはアルメニアのシュニク県でも、同じ様なことをする誘惑に駆られるかも知れない。イラクがイスラム革命に伴う混乱に乗じて、民族的動機に基付く領土回復主義によってイランを侵略したのと同じ様に、アルメニアもまたソ連の崩壊に乗じて、全く同じ理由でアゼルバイジャンに侵攻した。
イランがアルメニアを軍事支援すべき理由として挙げられているものがどちらも誤っていることと、そこから起こり得る悲惨な結末を考慮すると、イランは新たなカラバフ紛争に巻き込まれることが賢明なことかどうか、よく考えるべきだろう。
イランをトルコを相手に1980年代のイラン・イラク戦争の様に長期戦争に引き摺り込み、地域を分断しつつ双方に血を流させることは、米国の利益に適っている。イラン・イスラム共和国は、前例の無い危険な地政学的戦略の罠に掛かってはならない。
The US Would Be Delighted If Iran Was Dragged Into Any New Conflict Over Karabakh
南コーサカスで高まる緊張
アルメニアとアゼルバイジャンはナゴルノ・カラバフの領土権を巡って新たな紛争に備えていると互いを非難しており、南コーカサスでは緊張が高まっている。
こうした危険な力関係の中で、ロシアとアルメニアの関係は悪化しており、アルメニアはロシアを騙して対アゼルバイジャン戦争を起こさせることは決して出来ないと悟って、西洋に軸足を移している。
ロシア外務省はこれに反応してアルメニア大使を呼び出し、アルメニアが過去1週間に亘って行った非友好的な措置について苦情を申し立てた。
西洋はロシア南部周辺地域で大規模な紛争を起こす為にアルメニアに於ける超ナショナリスト感情を利用して安全保障上のジレンマを作り出しており、CSTO(集団安全保障条約)の相互防衛義務に基付いてロシアがアルメニアを助ける為に紛争に巻き込まれるか、或いは中立を保つことで信用を落とすかのどちらかになることを期待している。
ロシアは自国の戦力をウクライナでの特別軍事作戦から分散させることを望んでおらず、アゼルバイジャンの同盟国であるトルコと交戦する危険も冒したくない為、いざ紛争が起これば、CSTOでの信用失墜の方を「より小さな悪」として選択し、中立を保つシナリオの方が有りそうに思われる。
イランが介入する可能性は?
イランはロシアの例に倣ってカラバフを巡る新たな紛争に巻き込まれることを避けるべきだが、新たな戦争が勃発した場合にイランがどの様に反応するかは依然として不明だ。
2023/09/09、イランはアゼルバイジャンに、アルメニアを攻撃しないよう重大な警告を送ったとの報道が流れた。
それにまた同日、イラン・イスラム革命防衛隊がアゼルバイジャンに対し警告を発し、係争中のナゴルノ・カラバフ地域で分離主義政権が選挙を実施する中、国境に軍隊を配置し、アルメニアを支援する用意が有ると脅迫した。革命防衛隊が公開した動画は、イラン軍がアゼルバイジャンとアルメニアとの国境に集中していることを示している。
#Iranian IRGC has released a video threatening #Azerbaijan that if it does any aggression against Armenian then Iran wil respond with a massive surge of Ballistic Missiles. pic.twitter.com/kkU94RMMri
— Conflict Watch PSF (@AmRaadPSF) September 9, 2023
介入の支持者達は介入の理由として以下の点を挙げている。
1)アゼルバイジャンはイスラエルの傀儡であり、教訓を得る必要が有る。
2)アルメニア南部シュニク州を横断することになるアゼルが計画しているザンゲズル回廊は、南コーカサスと中央アジアのイラン北辺に沿ってトルコの影響力を増大させることになる。

だがこれらの主張は両方とも誤りだ。
1)「アゼルバイジャン-イスラエルのイランに対する『統一戦線』は幾つかの深刻な疑問を提起している」が、アゼルはイスラエルの傀儡ではない。それは反シオニストのデマだ。アゼルはどんな相手とも好きな関係を築く主権的権利を持っており、西洋からの圧力にも関わらず対ロシア制裁に加わらないことで、その独立性を証明して来た。
2)南コーカサスと中央アジアを貫くトルコの「中間回廊(Middle Corridor)」は、ジョージアから受け取った物流通過権により既に発効しており、従ってアゼルのザンゲズル回廊を阻止する為にイランがアルメニアを支援せねばならない、と云う主張には根拠が無い。ザンゲズル回廊が実現すればトルコの地域的影響力が増大するのは確実だが、イランにはこの傾向全体を止めることは出来ないし、遅らせることは出来るかも知れないが、自国にも多大なコストを強いることになる。

イランが介入してアルメニアを軍事支援する可能性を更に検討すると、それは明らかに、イランがアゼルと、その同盟国であるトルコを相手に、二正面戦争のリスクを冒すことを意味する。しかもトルコはNATO加盟国であり、NATOで2番目に大きい軍隊を有している為、イランは1980年代にイラクと戦った様に、激しく長期化する可能性の有る紛争に備えなければならないだろう。その人道的、経済的影響が壊滅的であろうことは言うまでも無い。
更に、アルメニアはCSTO(集団安全保障条約)から事実上撤退したばかりであり、ロシアから西洋陣営へ寝返った。これを支援するとなると、イランは1979年以来築き上げて来た反帝国主義の評判を傷付けることになるかも知れない。
イランはアルメニア国境を守らなければならないと主張する介入支持者達の用いている法的口実は、米国が吐き出す「ルールに基付く秩序」のレトリックと同類だ。
1986年にイランがイラクのアル=ファオ半島を占領したことを思い出すなら、それは偽善的でもある。当時、イランは国家安全保障上の利益を確保する為にイラクの侵略者を撃退した後も攻撃を続けた。敵対関係が再燃すれば、アゼルはアルメニアのシュニク県でも、同じ様なことをする誘惑に駆られるかも知れない。イラクがイスラム革命に伴う混乱に乗じて、民族的動機に基付く領土回復主義によってイランを侵略したのと同じ様に、アルメニアもまたソ連の崩壊に乗じて、全く同じ理由でアゼルバイジャンに侵攻した。
イランがアルメニアを軍事支援すべき理由として挙げられているものがどちらも誤っていることと、そこから起こり得る悲惨な結末を考慮すると、イランは新たなカラバフ紛争に巻き込まれることが賢明なことかどうか、よく考えるべきだろう。
イランをトルコを相手に1980年代のイラン・イラク戦争の様に長期戦争に引き摺り込み、地域を分断しつつ双方に血を流させることは、米国の利益に適っている。イラン・イスラム共和国は、前例の無い危険な地政学的戦略の罠に掛かってはならない。
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