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何故リトアニアはベラルーシにワグナーが居ることについて恐怖を煽るのを突然止めたのか?(抄訳)

アンドリュー・コリブコ氏の分析の抄訳。リトアニアはこれまでポーランドと歩調を合わせて、ベラルーシに於けるワグナーの脅威を煽って来たのだが、2023/09/05の報道でナウセダ大統領は突然手の平を返した。この理由は幾つか考えられるが、ポーランド与党がこれに不満を持つであろうことは確実だ。
Why’d Lithuania Abruptly Stop Fearmongering About Wagner’s Presence In Belarus?



リトアニア大統領の手の平返し

 リトアニアはポーランドや他のバルト三国と共に、クーデター失敗後にベラルーシでのプレゼンスを強めているワグナーの戦闘員達を追放するよう要求し、2023/08/23にワグナーのトップ、エフゲニー・プリゴジンの死亡が報じられた翌日の08/24には、ギタナス・ナウセダ大統領は、彼が死んでもワグナーの脅威は軽減されないと主張したばかりだった。

 だが09/05のブルームバーグの報道では、彼は以前の発言をいきなり撤回している。

 「状況は悪化していません。プリゴジンの死後、ワグナー内部に或る種の混乱が見られます。状況が更に複雑になったら、我々は行動しなければなりません。状況が変わらないか、または安定する場合は、別の行動を取らなければなりません。単なる愉しみの為だけに国境を閉鎖したい人は居ないでしょう。」

 彼の発言は以前の立場と完全に逆転しているし、ポーランド与党が煽っている恐怖キャンペーンとも矛盾していると云う点で注目に値する。



ポーランド与党の思惑

 10/15に選挙を控えて人気が低迷しているポーランド与党「法と正義」(PiS)党は、最近人気が高まっている連合党との連立体制を検討する必要が無い程優位性を獲得する為に、全てを国家安全保障問題に賭けている。

 その為に彼等はベラルーシに居るワグナーがスヴァウキ回廊(リトアニア=ポーランド国境)に齎している脅威を誇大宣伝した訳だが、この主張が誤りであることは、以前NYタイムズの報道によって、また今回は他ならぬNATO加盟国であるリトアニアの指導者によって明らかにされた。

 しかも08/11にベラルーシのルカシェンコ大統領は驚くべきことに、ポーランドとの和解を提案し、更に09/01のポーランド軍による偶発的な偶発的な国境侵犯に対しては、過剰反応することを拒否した。ベラルーシ側からこの様にオリーブの枝を差し出されては、PiSがワグナーの脅威を売り歩くのは非常に困難になるだろう。

 これら全ての展開は、PiSがこの口実を利用してリトアニアに圧力を掛け、昨年夏の様にロシアの飛び領地であるカリーニングラードを再び封鎖させると云う陰謀を妨げている。



リトアニアの思惑

 リトアニアは、ウクライナに於けるNATOとロシアの代理戦争を終わらせる為の協議が再開されれば、自分達は米国から「売り払われる」ことになるのではないかと云うポーランドの懸念を共有してはいるが、新たな封鎖によってそのシナリオを相殺しようとすることには関心を失っている様だ。

 これには3つの理由が考えられる。

 1)最近の一連の挑発によっては、代理戦争をエスカレートさせることは出来なかった。08/29〜09/01のプスコフでの挑発にも、09/04に報じられたルーマニアでの挑発にも、ロシアもNATOも食い付かず、両者を直接対決させることは出来なかった。

 2)キエフは明らかに紛争を来年まで長引かせることを計画しており、それに応じて国内外からより多くの国民を徴兵する準備をしている。

 3)リトアニアはポーランドを心から信頼している訳ではないかも知れない。これは憶測でしかないが、ベラルーシの軍高官がこれを裏付ける発言を行っている。09/04のTASS通信の記事は、ベラルーシ陸軍士官学校軍参謀部副部長アンドレイ・ボゴデルの以下の様な発言を報じている。
 
 「全ての軍人は、スヴァウキ峡谷がポーランドの領土だけを通過している訳ではいし、そこには実際には主要な交通動脈は存在せず、沼地が広がっているだけであることを完全に理解しています。(スヴァウキ渓谷は)更に北西に在り、リトアニアの領土を通っています。これはポーランドが表向きはこの土地を防衛する目的で、実際にはリトアニア領土に侵入し、ビリニュス地方を占領する為に、常に緊張を煽っている理由を説明しています。」
 
 つまりポーランドがベラルーシに於けるワグナーのプレゼンスについて恐怖を煽っているのは、自国の「勢力圏」を、旧ポーランド・リトアニア共和国連邦全域に非公式に拡大する為の策略である可能性が有るのだ。

 リトアニアは恐らく、自国の領土から対ロシア挑発を行った場合は裏目に出てしまう可能性が有り、キエフが代理戦争を長引かせようとしている現状では蛇足になってしまうことを認識していたのだろう。

 だがポーランドはそれを口実として自軍を駐留させろと圧力を掛けて来るかも知れず、リトアニアはそれに不快感を覚えるかも知れない。

 実の所リトアニアは既に米軍を含むNATOの多国籍戦闘集団を受け入れている。 06/26にはドイツが、4,000人もの兵士達をリトアニアに常駐派遣させることに関心を表明した。

 これら全ての要因は、ロシアが自国を攻撃しないことをリトアニア政府が国民に納得させるのには十分過ぎる程だ。この状況でリトアニアを攻撃することは、第三次世界大戦へ通じる道を開くことに等しい。

 従ってリトアニアにはポーランド軍の大規模常駐を受け入れる必要は無い訳だが、強行すれば連邦時代や戦間期の、両国間の不快な歴史的記憶が甦る危険性が有る。リトアニア大公国は何世紀に亘ってポーランドの「ジュニア・パートナー」だった訳だが、これに対してはリトアニアのエリート層や、そして最終的には大衆もまた、不快感を募らせて来た。またリトアニアの歴史的な首都であるヴィリニュスは、第一次世界大戦によって双方が国家としての地位を回復させるや否や、ポーランド軍によって占領されている。

 ポーランド軍が事実上恒久的に駐留する可能性が有ることは、当然のことながら地元住民達を激怒させるだろうし、NATO内にまた亀裂を招く可能性が有る。

 何れににせよ、リトアニアがベラルーシに於けるワーグナーのプレゼンスについて恐怖を煽るのを突然止めたことは否定出来ない事実であり、多くの人がこれに説明を求めて争っている。

 これは恐らくキエフが代理戦争を長引かせる為に行っている努力に関係している可能性が高いが、リトアニアが最早ポーランドを信頼していない可能性も有る。選挙を控えたPiSがこれに不満を抱くのは確実だろう。
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川流桃桜

Author:川流桃桜
一介の反帝国主義者。
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