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BRICS加盟に向けたインドネシアの様子見姿勢は興味深い(抄訳)

アンドリュー・コリブコ氏の記事の抄訳。インドネシアは米中間で何とかバランスを取ろうとしているが、中米どちらも問題を引き起こしている為、それは極めて難しい。インドネシアがBRICSの歴史的拡大に際して加盟せず様子見としたのは、既にややこしい問題を更に複雑にしたくなかったからだ。
Indonesia’s Wait-And-See Approach Towards Joining BRICS Is Interesting



BRICS加盟を躊躇うインドネシア

 2023/08/24、南アフリカで行われたサミットでBRICSは6つもの新規加盟国を迎え、一気に倍以上になった。BRICSのこの歴史的な拡大からは、はっきりとインドネシアが省略されていた。

 2023/08/07、南アのナレディ・パンドール国際関係協力大臣は、インドネシアが正式にBRICS加盟に関心を示したと発言し、これによりASEAN最大の経済大国が参加するのではないかとの期待が観測筋の間で高まっていたのだが、この発言は事実ではなかった。

 インドネシアのジョコ・ウィドド(通称「ジョコウィ」)大統領は08/24のサミットでの声明で次の様に発言した。

 「我々は徹底的な調査と計算を行うつもりです。決断を急ぎたくはないのです。我々とBRICSメンバー5ヵ国との関係はまた、特に経済協力に於ては素晴らしいものです。BRICSグループの新たなメンバーになるには、国は表明書を提出しなければなりません。今まで、我々はそれを提出していません。」

 08/31、ルトノ・マルスディ外相はこう認めた

 「当初から、BRICISには加盟国を拡大すると云う考えが有りました。全てのBRICS外相は、インドネシアをBRICSに加盟させるべく、インドネシアにアプローチを行いました。政治的側面と経済的側面からのメリットを比較検討する為の内部調査が現在も行われています。BRICSに加盟するには、国は『関心表明』書簡が伝えた内容を提出しなければなりません………そして今まで我々インドネシアは、それを伝えていません。」

 これについて非常に興味深いのは、インドネシアには参加した6ヵ国と同じ位「政治的・経済的側面からのメリットを比較検討する」為の「徹底的な調査と計算を行う」時間が有ったにも関わらず、サミット前までに「関心表明」を提出することすら出来ていないと云うことだ。

 これは、少なくとも現時点では、インドネシアの意思決定者達が加盟が齎すかも知れない不利益について、深刻な懸念を抱いていることを強く示唆している。



何故インドネシア加盟が重要なのか

 世界銀行に拠ると、インドネシアは2022年のGDPが1兆3,200億ドルとなる主要経済国だ。この数字は、BRICSの新規加盟国であるエチオピア、イラン、エジプトを合わせた額よりも多く、UAEの分を加えても、辛うじて上回る程度だ。インドネシアのGDPは、昨年のサウジアラビアの1.1兆ドルよりも大きい。


つまりインドネシアは、BRICSに加盟すれば新規加盟諸国の中で最大の経済国になる筈だったのだ。

 従って、何故正式に関心表明が伝えられなかったのかを解明することが重要だ。



インドネシアが加盟しなかった理由1.

 確かなことは分からないが、指導部が消極的になったのには地政学的な圧力が大きな役割を果たした、と云う可能性は説得力が有るだろう。

 中国はインドネシアの最大の貿易相手国だが、インドネシア政府は重要問題で中国側の味方をしているとは思われたくないと思っている。

 はっきりさせておくと、中国はBRICSグループ最大の経済を誇ってはいりが、BRICSを支配している訳ではない。だが西洋では、BRICSは中国がグローバルな影響力拡大を加速する為の手段であると広く認識されている。

 現在、グローバルなシステム移行の方向性を巡って(多極化へ向かうか一極覇権を維持するか)、中露協商と米国主導の西洋ゴールデン・ビリオンとの間で新冷戦が繰り広げられている。だが米国よりも中国に傾いている様に見えることは、インドネシアを望ましくない立場に置く可能性が有る。何しろインドネシアは地理的に、オーストラリア(AUKUS加盟国)と、フィリピン(米国が新たに軍事プレゼンスを拡大した)との間に挟まれているのだ。不用意に彼等を挑発しないよう、注意する必要が有る。

 若しBRICSへの加盟に合意していたとしたら、それら2国、或いはそれらが指揮する何等かの「影響力のエージェント(Agent of influence)」が過剰反応して、インドネシアを不安定化させようとする可能性は排除出来なかった(それが仮に5.31%もの高さの年間成長率をスローダウンさせようとするだけのことであっても)。最悪の場合はインドネシア内部の断層に付け込んで、ハイブリッド戦争(反乱/蜂起/分離主義/テロ)が仕掛けられていたかも知れない。



インドネシアが加盟しなかった理由2.

 考慮すべきもうひとつの地政学的要因は、中国はASEAN諸国とは互いに最大の貿易相手国であるにも関わらず、ASEAN内で二極化しつつあると云うことだ。

 08/28、中国は議論の多い九段線を再確認する新しい地図を発表し、インドネシアの近隣諸国であるマレーシアやフィリピンからの厳しい非難を巻き起こした。だがそれ以前からインドネシアは、BRICSに正式に加盟すれば、インドネシアは中国に傾いているのではないかと云う世論を引き起こし、それがASEANの結束に問題を齎す可能性を予見していただろう。だからこそインドネシアはBRICSの歴史的拡大に際して、様子見の姿勢を取ると云う賢明な決断をしたのだ。

 08/31、マルスディ外相は、全ての領土権の主張は国連海洋法条約(UNCLOS)に従わなければならないと念を押した。

 これはインドネシア国防相が08/24にオースティン米国防長官と共同記者会見を行った際、中国が国際法違反を犯していると云うオースティンの主張に同意したことを仄めかしていたが、但し彼はインドネシアは中立を貫き、米国との共同声明は出さないと明言した。



まとめ

 何れにせよ重要なのは、インドネシアは貿易上の最大のパートナーである中国と、安全保障上その重要性を増しつつある米国との間で、関係性のバランスを取ろうとしていることだ。だがそれは極めて難しい。中国は海洋権益の主張を巡って他のASEAN諸国と問題を引き起こしているし、米国は米国で、インドネシアは中国封じ込めを支持しているのだと云う世論をせっせと作り上げようとしている。

 こうしたプレッシャーの中では、BRICSへの加盟は、既にややこしいインドネシア政府のバランス調整を更に複雑にする可能性が有る。

 この洞察は、BRICSの歴史的拡大に参加する機会を放棄すると云うインドネシアの決定が、経済金融的要因ではなく、地政学的要因によって齎されたことを明らかにしている。様子見のアプローチを取ることで、インドネシアはASEANの結束を維持しながら、新冷戦の主役である中米間でバランスの取れた関係を維持したいと考えている。

 これらの計算は、次回のBRICSサミットまでに変更されるかも知れない。それまでに多くのことが起こる可能性が有るが、何か重大なことが起こらない限りはこの儘だろうと予想される。
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川流桃桜

Author:川流桃桜
一介の反帝国主義者。
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