ヌーランドのニジェール訪問によって、フランスは米国に背中を刺されたと思っている様だ(抄訳)
アンドリュー・コリブコ氏の分析の抄訳。フランスはヌーランドがニジェールを訪問したことで、米国はニジェール暫定政権を黙認し、フランスを裏切るつもりなのではないかと懸念している。米国にしてみれば、仏軍が追い出された空白をロシア/ワグナーが埋めるのを防ぎ、自国の軍隊は保持し続けられることになるのだから、フランスを犠牲にした方が得だ。
France Reportedly Thinks That The US Backstabbed It During Nuland’s Trip To Niger
米国の裏切りに対するフランスの懸念
2023/08/13、フランスのフィガロ紙はヴィクトリア・ヌーランド国務副長官代理のニジェール訪問中に、米国がフランスの背中を刺したと主張する匿名の外交筋の話を引用した。この記事は有料だが、概要はこちらで読める。
伝えられるところでは、フランスは米国がニジェールに基地を維持し続けることを認める代わりに、クーデターによって権力を掌握した軍主導の暫定政府を黙認するのではないかと懸念している。そうなれば、米国はロシア/ワグナーがチャンスを得る前に、フランスに代わってサヘル地域の安全保障の役割を担うことになるだろう。
この懸念は合理的な計算に基付いている。米国の戦略的観点から見ると、サヘル地域に広がっている反フランス感情は必然的にフランス軍の追放に繋がる。そうなれば安全保障上の空白が生じるかも知れず、その空白はロシア/ワグナーが埋めるかも知れない。
仮にフランスが、直接的に、またはナイジェリア主導のECOWAS軍を通じて間接的に、ニジェールに武力侵攻を試みたとしても、地元住民達のこの旧植民地国に対する憎悪は更に悪化するだけだろう。
ニジェールは公式には1960年にフランスから独立したことになっているが、その後もフランスによる新植民地主義支配を受け続けて来た。フランスがニジェール軍を迅速に打ち破ったとしても、前回は果たせなかった脱植民地化のプロセスを完了させる為に、遅かれ早かれ別の反フランス暴動が起こるだろう。また、より大規模な西アフリカ地域戦争が勃発すれば、フランスがこれまで担って来た安全保障上の役割がロシアに置き代わるプロセスが加速することになる。
これらはどちらの結果も米国の長期的な利益には反するものだが、一部の政策立案者達は目先の利益に魅力を感じるかも知れない。
ヌーランドがニジェールの首都を訪問して「交渉による解決を推し進める」と発言したのはこうしたコンテクストに於てだ。
ワグナーのトップのエフゲニー・プリゴジンはこの展開に反応し、「米国は、ニジェール内で民間会社ワグナーにお目に掛かるのを避けたいが為に、昨日は承認しなかった(ニジェール暫定)政府を承認した」と自慢した。これを単なる煽り文句だと無視する人も居るかも知れないが、実際には彼は厳然たる真実を伝えている。
米国の真意
ヌーランドのニジェール訪問は、恐らくクーデター後のニジェールとロシア/ワグナーとの関係についての米国政府の願望に基付いていた。彼女は会見中にこれについて矛盾した発言を行っているが、重要なのは、恐らくこれが彼女の訪問の本当の理由だったと云うことだ。彼女が、ワグナーと明確な契約の約束はまだ為されていないと判断したのであれば、彼女の言う曖昧な「交渉による解決」を進めることも可能だろう。
フィガロ紙の報道から判断すると、フランスは、ニジェール暫定政府が、ワシントンがECOWAS軍はニジェール侵攻はしないと保証する代わりに、ロシア/ワグナーを寄せ付けず、国内に米国基地を保持することに同意する、と云う協定を模索するつもりではないかと懸念している。 その場合、ニジェール国民の怒りはフランスに向けられることになり、フランスは独力でクーデターを強引に引っ繰り返そうとして失敗するか、戦略的損失を被って撤退するかのどちらかになるだろう。
米国は2021年にも、AUKUS構想を発表することでオーストラリアとの原子力潜水艦契約をフランスから奪い取った前例を作っているので、サヘル地域でもフランスの「勢力圏」を盗むことで「背中から刺す」かも知れない。
今回のケースでは、米国の政策立案者達はニジェールから仏軍が追い出されることは避けられないと踏んで、その空白をロシア/ワグナーが埋めるよりはと、自国の軍隊で置き換えたほうがマシだと判断したのかも知れない。その為には、状況を日和見的に利用してフランスを犠牲にし、暫定政権とプラグマティックな合意を結ぶことは理に適っている。それが成功すると云う保証は無いが、アフリカに於ける米国の新冷戦上の利益の観点からは、戦略的に健全だと言える。
米国は、EUのサヘル勢力圏の戸口にロシアの影響力が拡大するのを防ぎつつ、フランスが望んでいる広範な戦争を回避することで、自分達は平和の調停者であるとアピール出来る様になる。こうすることで、米国はニジェールのクーデターによる戦略的損害を軽減し、恐らく或る程度の利益を得ることが出来るだろう。
France Reportedly Thinks That The US Backstabbed It During Nuland’s Trip To Niger
米国の裏切りに対するフランスの懸念
2023/08/13、フランスのフィガロ紙はヴィクトリア・ヌーランド国務副長官代理のニジェール訪問中に、米国がフランスの背中を刺したと主張する匿名の外交筋の話を引用した。この記事は有料だが、概要はこちらで読める。
伝えられるところでは、フランスは米国がニジェールに基地を維持し続けることを認める代わりに、クーデターによって権力を掌握した軍主導の暫定政府を黙認するのではないかと懸念している。そうなれば、米国はロシア/ワグナーがチャンスを得る前に、フランスに代わってサヘル地域の安全保障の役割を担うことになるだろう。
この懸念は合理的な計算に基付いている。米国の戦略的観点から見ると、サヘル地域に広がっている反フランス感情は必然的にフランス軍の追放に繋がる。そうなれば安全保障上の空白が生じるかも知れず、その空白はロシア/ワグナーが埋めるかも知れない。
仮にフランスが、直接的に、またはナイジェリア主導のECOWAS軍を通じて間接的に、ニジェールに武力侵攻を試みたとしても、地元住民達のこの旧植民地国に対する憎悪は更に悪化するだけだろう。
ニジェールは公式には1960年にフランスから独立したことになっているが、その後もフランスによる新植民地主義支配を受け続けて来た。フランスがニジェール軍を迅速に打ち破ったとしても、前回は果たせなかった脱植民地化のプロセスを完了させる為に、遅かれ早かれ別の反フランス暴動が起こるだろう。また、より大規模な西アフリカ地域戦争が勃発すれば、フランスがこれまで担って来た安全保障上の役割がロシアに置き代わるプロセスが加速することになる。
これらはどちらの結果も米国の長期的な利益には反するものだが、一部の政策立案者達は目先の利益に魅力を感じるかも知れない。
ヌーランドがニジェールの首都を訪問して「交渉による解決を推し進める」と発言したのはこうしたコンテクストに於てだ。
ワグナーのトップのエフゲニー・プリゴジンはこの展開に反応し、「米国は、ニジェール内で民間会社ワグナーにお目に掛かるのを避けたいが為に、昨日は承認しなかった(ニジェール暫定)政府を承認した」と自慢した。これを単なる煽り文句だと無視する人も居るかも知れないが、実際には彼は厳然たる真実を伝えている。
米国の真意
ヌーランドのニジェール訪問は、恐らくクーデター後のニジェールとロシア/ワグナーとの関係についての米国政府の願望に基付いていた。彼女は会見中にこれについて矛盾した発言を行っているが、重要なのは、恐らくこれが彼女の訪問の本当の理由だったと云うことだ。彼女が、ワグナーと明確な契約の約束はまだ為されていないと判断したのであれば、彼女の言う曖昧な「交渉による解決」を進めることも可能だろう。
フィガロ紙の報道から判断すると、フランスは、ニジェール暫定政府が、ワシントンがECOWAS軍はニジェール侵攻はしないと保証する代わりに、ロシア/ワグナーを寄せ付けず、国内に米国基地を保持することに同意する、と云う協定を模索するつもりではないかと懸念している。 その場合、ニジェール国民の怒りはフランスに向けられることになり、フランスは独力でクーデターを強引に引っ繰り返そうとして失敗するか、戦略的損失を被って撤退するかのどちらかになるだろう。
米国は2021年にも、AUKUS構想を発表することでオーストラリアとの原子力潜水艦契約をフランスから奪い取った前例を作っているので、サヘル地域でもフランスの「勢力圏」を盗むことで「背中から刺す」かも知れない。
今回のケースでは、米国の政策立案者達はニジェールから仏軍が追い出されることは避けられないと踏んで、その空白をロシア/ワグナーが埋めるよりはと、自国の軍隊で置き換えたほうがマシだと判断したのかも知れない。その為には、状況を日和見的に利用してフランスを犠牲にし、暫定政権とプラグマティックな合意を結ぶことは理に適っている。それが成功すると云う保証は無いが、アフリカに於ける米国の新冷戦上の利益の観点からは、戦略的に健全だと言える。
米国は、EUのサヘル勢力圏の戸口にロシアの影響力が拡大するのを防ぎつつ、フランスが望んでいる広範な戦争を回避することで、自分達は平和の調停者であるとアピール出来る様になる。こうすることで、米国はニジェールのクーデターによる戦略的損害を軽減し、恐らく或る程度の利益を得ることが出来るだろう。
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