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ベラルーシとポーランドの和解に関するルカシェンコ大統領の驚くべき提案の裏には何が?(抄訳)

アンドリュー・コリブコ氏の分析の抄訳。ポーランドはベラルーシともウクライナとも急速に関係が悪化しているが、そんな中、2023/08/11、ベラルーシのルカシェンコ大統領は和解の提案を申し出た。これは恐らく前月のプーチンとの会談の成果だが、最善のシナリオ予測が実現すれば、ベラルーシに対するポーランド人の認識が変わり、和解に向けた進展が見られるかも知れない。
What’s Behind Lukashenko’s Surprise Proposal For A Belarusian-Polish Rapprochement?



問題の背景

 ポーランドは過去1ヵ月で、ベラルーシウクライナとの関係をそれぞれ悪化させて来た。ベラルーシに関しては、ベラルーシに居るワグナーの脅威に対応すると云う口実で、国境沿いに前例の無い軍備増強を行った。ウクライナに関しては、両国は現在経済的・政治的紛争の悪循環に陥っている。

 ポーランドとウクライナの問題は、ロシアを「封じ込める」と云う共通の戦略目標が有るのだから解決は簡単だと思うかも知れないが、蓋を開けてみれば、ルカシェンコがポーランドの和解を提案して主導権を握った。彼は以前、NATOのベラルーシ侵攻や、西ウクライナでのポーランドの軍事作戦ベラルーシに及ぼす脅威について警告していた為、これには誰もが不意を突かれた。



全く予期せぬ提案

 2023/08/11の「ルカシェンコ、EUとの関係断絶に反対」と云う記事で、ルカシェンコはこう述べた。

 「現在我々は主に東洋で、ロシアと中国でお金を稼いでいます。ですがハイテク西洋との接触を捨て去るべきではありません。彼等は近くに居て、EUは我々の隣人です。そして我々は彼等との接触を維持するべきです。我々にはその用意が有りますが、我々の利益を十分に考慮する必要が有ります。言わせて頂ければ、その時は必ず来ます(専門用語を使えば、我々は今、激動の時代を経験していると言えます)。2024年から2025年には世界に深刻な変化が起こります。

 我々はポーランド人と話す必要が有ります。私は首相に、彼等に連絡するように言いました。 彼等が望めば、我々は話し合って、関係を修復することが出来ます。我々は隣人同士です。これは選べません。隣人は神によって与えられるものです。彼等は10/15に議会選挙を控えている為、国を武装させ、再武装させることが正しいことであることを証明しようと、緊張を高めようとしています。

 従って10/15になるまでは、彼等が、彼等にも我々にも利益を齎す重要な措置を講じる可能性は低いです。彼等は我々に多くのことを要求し頼みますが、これに同意することは出来ません。それは我々の利益に反しているからです。アメリカ人はポーランドに賭けています。ですがポーランド人は愚かな人々ではありません。我々はスラブの親戚同士です。彼等は全てを完璧に理解しています。待ってみましょう。我々は協力を歓迎します。」


 以下、この発言を地政戦略的コンテクストに於て分析してみる。



平和(或いは少なくとも停戦)への道

 ルカシェンコはこの発言で、自国に対して謂れの無い敵意を向けられているにも関わらず、自国は「ハイテク西洋」に対して敵意は持っていないことを示している。理想的な世界では、ベラルーシはウクライナと同様、西と東の架け橋として機能するだろうが、それは欧州に於ける米国の覇権的利益に反するので、それが実現する可能性は低い。

 だが、NATO-ロシア間の緊張、そして(ベラルーシとロシアの連合国関係によって)NATO-ベラルーシ間、ポーランド-ベラルーシ間の緊張の緩和は、時間が経てば避けられなくなる。ルカシェンコはそれに先立って、プラグマティックなメッセージを送った訳だが、但し関係改善は自国の利益を犠牲にするものではないと釘を刺してもいる。

 2024-25年の「世界の深刻な変化」についての彼の予測は、恐らくロシアと米国での選挙のことを言っているのだろう。後者がどう転ぶかはまだ判らないが、プーチン大統領の人気を考えれば、前者の結果は目に見えている。「兵站競争/消耗戦」ではロシアがリードしているので、バイデン政権は政権を維持するのであれば、遅くとも選挙前か選挙後にロシアと交渉せざるを得なくなる。他方、共和党最有力候補のトランプは「紛争を一日で終わらせる」と豪語している。



ルカシェンコは恐らくプーチンの承認を得て行動している

 ポーランド側にコンタクトを提案した部分は、略確実にロシアの承認を経たものだろう。恐らくは7月末の会談の際にプーチンが提案したのではないかと思われる。ロシア人に対するジェノサイドを実行しているウクライナに次いで、ポーランドは世界で最もロシアを毛嫌いしている国のひとつだ。そうした国に対してベラルーシが一方的に接近することは、ベラルーシとは国益を共有していると信じていたロシアからすれば裏切りと解釈されるかも知れない。従って、少なくとも事前にロシアに通知すること無く、ルカシェンコがそうしたことを試みる可能性は非常に低い。

 ポーランドが軍事挑発を増大させているのは、10月中旬に国政選挙を控えているからだ、とするルカシェンコの推測は恐らく的を射ている。ポーランドの与党が投票前に法外な軍事支出を正当化し、反ロシアを根拠にナショナリスト層を集結させたいと考えているのは事実だからだ。

 但し、反乱失敗後にワグナーがベラルーシに配備されると云う予想外の展開が、図らずもポーランドの軍備増強を正当化する尤もらしい口実を提供したことは否定出来ない。

 その点はともかく、ルカシェンコが、ポーランドや他の西側諸国と偏った関係を結ぶ為に自国の客観的利益を犠牲にするつもりはないと再確認したのは前向きな兆候だった。先制して釘を刺すことで、彼は自分が何か邪悪な動機を持っているのではないかと云う憶測を否定した訳だ。彼はまたベラルーシに対するポーランドの要求が非現実的であることも認めている。



ポーランドの大戦略の元々のルーツ

 しかしながら、米国がポーランドを操っている、と云う最後の部分には議論の余地が有る。何故なら、ポーランドは確かに欧州地域に於ける覇権を追求しており、その利益は米国の路線と一致し、米国から支持を受けてはいるが、米国から命令されてやっていることではないからだ。米国が関与する国での不都合な展開を、全て米国の干渉の所為にするのは、米国がよく「ロシアの干渉」について騒ぎ立てるのと同じ位、出来事の背後の説明としては単純過ぎるし不正確だ。

 ポーランドは曾ての大国としての地位を取り戻す構想を持っている。それはポーランド、リトアニア、ウクライナの「ルブリン・トライアングル」を軍事的中核とし、ポーランドとクロアチアの「三海構想」(バルト海・アドリア海・黒海)をより広範な地域経済形態として持つ、連邦制度だ。

 この秋の選挙でドイツ支援する野党が与党を追放すれば、この壮大な戦略目標は相殺されるか、ドイツの管理下に置かれる可能性が有る。だが観察者にとって重要なのは、それが米国の戦略ではなく、ポーランド土着の戦略であると云う事実を見失わないことだ。

 大ポーランド構想のルーツは、戦間期のピルスツキ元帥の「インテルマリウム」「プロメテイズム」政策に遡る。これは旧ソ連を「バルカン化」すると同時に、ポーランドの覇権の下でこの地域を結び付けることを目的とするものだった。

 第二次世界大戦後、ポーランドはリトアニアやソ連と係争中の「クレシ」(「国境地帯」)と呼ばれる東部地域を失ったが、旧冷戦が終わると、ポーランドの指導者達は、失った影響力を取り戻す方法を計画し始めた(非公式且つ非政治的な方法でではあったかも知れないが)。



知覚管理

 ルカシェンコとプーチンがこの現実を認識しているかどうかは不明だが、ポーランドの軍事挑発が米国の所為だと主張すれば、彼等はポーランドと交渉するに際して、国内的に尤もらしい説明を与えることが出来る。仮にこの方面で進展が見られれば、ポーランドは近視眼的なロシア嫌いの所為で主権の一部を米国に売り渡してしまったが、今それを回復しようとしているのだ、と云う風に描写される可能性が有る。

 ポーランドと米国の軍事戦略的関係の天文学的な増大は、米国のリベラル・グローバリスト勢力がイデオロギー的な理由からポーランドの似非保守派の支配層を憎んだ為に生じた政治的緊張を背景にして起こったことなので、こうした描写には多くの真実が含まれているかも知れない。

 与党エセ保守派が再選を果たした場合、特に台頭する反体制派の連合党と連立政権を組まなければならなくなった場合、彼等は報復措置に踏み切るかも知れない。



シナリオ予測

 最悪のシナリオでは、ポーランドはベラルーシに配備されたワグナーの脅威とされるものから自国を守ると云う名目で、リトアニアと共にカリーニングラードの事実上封鎖に踏み切るかも知れない。時期的にはこれは選挙の前後に起こるかも知れないが、ロシアとの和平交渉を妨害するのが目的だ。

 最善のシナリオでは、ポーランドはベラルーシに対する無茶な要求を撤回し、米国の利益とは無関係に、ベラルーシとの一種の和解を真剣に模索するかも知れない。

 混乱を避ける為に念を押しておくが、これは単なる予測シナリオであって、それ以上のものではない。

 最善のシナリオは、はっきり言って実現する可能性は低い(除外は出来ないが)。にも関わらずここで触れるのは、ルカシェンコがプーチンの承認を得て何を達成したいと考えているかを説明したいからだ。この方向へ向けた動きが見られるとしたら、それはルカシェンコが言う様なスラブの団結のお陰ではなく、ポーランドの指導者達が自国の国益について考え直したからだ。ルカシェンコの発言のこの部分は、恐らく国内の聴衆向けのものだった。殆どのポーランド人は、政治的立場に関係無く、自分達とその文化は東スラブに或る程度似てはいるものの、非常に異質なものだと考えているからだ。



まとめ

 この分析で明らかにされた内容を振り返ろう。ベラルーシとポーランドの和解に関するルカシェンコの驚くべき提案は、7月の会談でプーチンと話し合った結果だったと思わざるを得ない。 当時の彼等の発言は、国境沿いでのポーランドの前例の無い軍備増強についての警告だったが、だからこそ彼等は、平和的解決を模索したことだろう。

 この意図はプラグマティックなものだったが、これはポーランドとウクライナの経済的・政治的関係が急速に悪化している機会を狙って公表された。多くのポーランド人の目にはゼレンスキーはポーランドの同盟者、ルカシェンコは敵である筈だが、後者がオリーブの枝を差し出したお陰で、その立場は今や逆転しつつある。

 最善のシナリオでは、これによりポーランド人の認識が変わり、秋の選挙後にポーランドが前向きに反応し易くなるかも知れない。
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川流桃桜

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一介の反帝国主義者。
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