ヴィクトリア・ヌーランドがニジェールでの議論について興味深い詳細を明らかに(抄訳)
アンドリュー・コリブコ氏の分析の抄訳。多少補足した。ヴィクトリア・ヌーランドがクーデター後のニジェールを訪問したことから、米国が地域戦争を望んでいないポーズを取っていること、カラー革命の可能性、妥協しない暫定政府の姿勢、不透明なロシアとワグナーとの関係が読み取れる。
Victoria Nuland Revealed Some Interesting Details About Her Discussions In Niger
2023/08/07、ユーロマイダンでの活躍で悪名高い国務次官ヴィクトリア・ヌーランドは、ニジェールの軍政権と会談したことを明らかにした。これは追放されたニジェールの大統領、モハメド・バズームを再任せよとのECOWASの要求の期限が切れた後のことだ。
NATOが支援するナイジェリア主導のECOWAS軍がニジェールに侵攻したり、ニジェールの元宗主国であるフランスが一方的な介入を行ったりした場合、西アフリカに地域戦争の脅威が浮上することになる。従ったヌーランドが明らかにしたことを分析することが重要だ。
彼女の特別ブリーフィングは、軍事クーデター後のニジェールに於ける「憲法秩序の回復」に関する決まり文句から始まり、それが無ければ米国は法的に援助を打ち切らねばならなくなると脅迫した。
彼女はそれから「ニジェールの市民社会の幅広い層の人々とも会った」ことについて触れ、「彼等は米国の長年の友人/ジャーナリスト/民主活動家/人権活動家です」と述べた。
後にNATOとロシアとの代理戦争に繋がったマイダン・クーデターに於て彼女が果たした役割を考えると、彼女がそれらの市民社会勢力に対して、ニジェール軍政権に対して大規模で暴動的な抗議行動を開始せよとのシグナルを送ったのではないかと疑うのは合理的なことだ。これは前述のECOWAS軍の侵攻を正当化する口実として利用される可能性が有る。「ニジェールの民主主義を守る為に国際社会は介入せねばならない!」と云う訳だ。
だが、只シグナルを送るだけだったら、より便利で安全に遠隔から行う方法も有った筈で、彼女が直接赴く必要は無かった筈だ(その可能性も否定は出来ないが)。彼女の渡航の主な理由は別のところに在ったのだろう。
ヌーランドはまた「この作戦の国防総司令官を自称するバルモウ将軍と、彼を支援する3人の大佐との話し合いは………非常に率直で、時には非常に困難なものでした」と明かしているが、これは「我々が交渉による解決を求めていたから」だと説明している。米国の意図に関してはは2通りの解釈が有り得る。
1)不安定化工作に先立って、軍政権を油断させようとしている。
2)本気で交渉による解決を求めている。
ウクライナの先例を考えると1)の方が尤もらしいが、西アフリカ地域戦争が失敗に終わり、最終的にロシアの影響力が拡大する余地が生まれてしまうのではないかと懸念している可能性を考えると、2)も有りそうではある。
ヌーランドに拠ると、彼女はバズーム氏と電話では話したが面会は許されず、アブドゥラハマネ・ティアニ暫定大統領との面会も許可されなかった。彼女をバズームから遠ざけたのは、ティアニ大統領の正統性を再確認しつつ、不安定化シナリオを阻止する為に、バズームの地位について或る程度の曖昧さを残しておくことを意図していた可能性が有るが、ティアニがヌーランドとの面会を拒否したのは、わざと鼻であしらったのだろう。
ヌーランドは以下の様に続けている。
「彼等が外交への扉を開けた儘にしておいてくれることを願っています。我々はそうした提案を行いましたが、何れ分かります。先程も言いましたが、彼等は今後の展開について独自の考えを持っています。彼等は———彼等の考えは、憲法と合致していません。若し彼等がその様な道を歩むのであれば、我々の関係に関しては難しくなるでしょう。ですが私は彼等に話し合いを続ける為の多くの選択肢を与えました。彼等がその話に乗ってくれることを願っています。」
簡単に言えば、米国との関係が危機に瀕しているにも関わらず、軍主導のニジェール暫定政府は一歩も退いていないとい云うことだ。
この会見中にもうひとつ興味深い点が明らかになった。
「バルモウ将軍(元バルモウ大佐)は、多年に亘って米国特殊部隊と非常に緊密に協力して来た人物です。その為我々は、彼が歴史的に大変気に懸けて来た我々の協力の諸々の側面に対するリスクを、かなり詳細に調べることが出来ました。」
つまり米国の長年の軍事同盟者が、最終的に米国が支援するバズームの打倒に参加して新国防長官になり、その後も米国に対して引き下がらなかったのだ。これは注目に値する。彼と同じ様な立場の軍高官はアフリカ各国に大勢居るが、彼のケースはそれが必ずしも米国の傀儡になることを意味する訳ではないことを示している。彼の先例に倣う高官達が今後も出て来るかも知れない。
従って米国の対外軍事計画が、米国の代理勢力として働いてくれるエリートの育成に成功していることは、最早当たり前のことではないのだ。今回の事例で判る様に、それらは時に裏目に出ることが有る。
会見の終わり近くで、ヌーランドはワグナーとロシアに関する2つの質問に答えた。
「勿論私はワグナーとその脅威を、ワグナーが存在している国々に提起し、ワグナーが入国すれば治安が悪くなり、人権が悪化することを思い出させました。この面での彼等の考えについて、我々が更に多くを学んだとは言えません。」
「ワグナーに関しては、サンクトペテルブルクでプリゴジンが自慢しているのを見たことが有るでしょう。今日の会合で私が感じたのは、ここでこうした行動を取った人々は、ワグナーを招待した場合に自分達の主権がリスクに曝されることになると云うことを、十分承知していると云うことです。」
これらの発言は矛盾している為、彼女は混乱しているか、部分的に嘘を吐いているかだろう。ワグナーに「民主的安全保障」を要求するのではないかと云う憶測に関して、軍主導の暫定政権がヌーランドに送ったシグナルが何だっだにせよ、それは抑止目的であった可能性が高い。
ニジェールがワグナーを招待すると云うシナリオは、西アフリカ地域戦争の勃発を阻止しなければ、米国が更に影響力を失うリスクが有ることを仄めかしている。他方で暫定政権がこのシナリオを軽視するのは、クーデターの結果に過剰反応すべきではないと米国に納得させる狙いが有ってのことかも知れない。
とにかくヌーランドの訪問から得られる主な教訓は次の通りだ:米国は、地域戦争を望んでいないことを世界に示す為に、誠意は疑わしいが公的な努力を行っている。
彼女とニジェール市民社会が会ったことは、カラー革命の可能性が排除出来ないことを示している。
軍主導の二ジェール暫定政府は、新国防長官が米国防総省の長年に亘る緊密なパートナーであるにも関わらず、一歩も退いていない。
そしてクーデター後に想定されるロシアとワグナーとの関係は、依然として不透明だ。
Victoria Nuland Revealed Some Interesting Details About Her Discussions In Niger
2023/08/07、ユーロマイダンでの活躍で悪名高い国務次官ヴィクトリア・ヌーランドは、ニジェールの軍政権と会談したことを明らかにした。これは追放されたニジェールの大統領、モハメド・バズームを再任せよとのECOWASの要求の期限が切れた後のことだ。
NATOが支援するナイジェリア主導のECOWAS軍がニジェールに侵攻したり、ニジェールの元宗主国であるフランスが一方的な介入を行ったりした場合、西アフリカに地域戦争の脅威が浮上することになる。従ったヌーランドが明らかにしたことを分析することが重要だ。
彼女の特別ブリーフィングは、軍事クーデター後のニジェールに於ける「憲法秩序の回復」に関する決まり文句から始まり、それが無ければ米国は法的に援助を打ち切らねばならなくなると脅迫した。
彼女はそれから「ニジェールの市民社会の幅広い層の人々とも会った」ことについて触れ、「彼等は米国の長年の友人/ジャーナリスト/民主活動家/人権活動家です」と述べた。
後にNATOとロシアとの代理戦争に繋がったマイダン・クーデターに於て彼女が果たした役割を考えると、彼女がそれらの市民社会勢力に対して、ニジェール軍政権に対して大規模で暴動的な抗議行動を開始せよとのシグナルを送ったのではないかと疑うのは合理的なことだ。これは前述のECOWAS軍の侵攻を正当化する口実として利用される可能性が有る。「ニジェールの民主主義を守る為に国際社会は介入せねばならない!」と云う訳だ。
だが、只シグナルを送るだけだったら、より便利で安全に遠隔から行う方法も有った筈で、彼女が直接赴く必要は無かった筈だ(その可能性も否定は出来ないが)。彼女の渡航の主な理由は別のところに在ったのだろう。
ヌーランドはまた「この作戦の国防総司令官を自称するバルモウ将軍と、彼を支援する3人の大佐との話し合いは………非常に率直で、時には非常に困難なものでした」と明かしているが、これは「我々が交渉による解決を求めていたから」だと説明している。米国の意図に関してはは2通りの解釈が有り得る。
1)不安定化工作に先立って、軍政権を油断させようとしている。
2)本気で交渉による解決を求めている。
ウクライナの先例を考えると1)の方が尤もらしいが、西アフリカ地域戦争が失敗に終わり、最終的にロシアの影響力が拡大する余地が生まれてしまうのではないかと懸念している可能性を考えると、2)も有りそうではある。
ヌーランドに拠ると、彼女はバズーム氏と電話では話したが面会は許されず、アブドゥラハマネ・ティアニ暫定大統領との面会も許可されなかった。彼女をバズームから遠ざけたのは、ティアニ大統領の正統性を再確認しつつ、不安定化シナリオを阻止する為に、バズームの地位について或る程度の曖昧さを残しておくことを意図していた可能性が有るが、ティアニがヌーランドとの面会を拒否したのは、わざと鼻であしらったのだろう。
ヌーランドは以下の様に続けている。
「彼等が外交への扉を開けた儘にしておいてくれることを願っています。我々はそうした提案を行いましたが、何れ分かります。先程も言いましたが、彼等は今後の展開について独自の考えを持っています。彼等は———彼等の考えは、憲法と合致していません。若し彼等がその様な道を歩むのであれば、我々の関係に関しては難しくなるでしょう。ですが私は彼等に話し合いを続ける為の多くの選択肢を与えました。彼等がその話に乗ってくれることを願っています。」
簡単に言えば、米国との関係が危機に瀕しているにも関わらず、軍主導のニジェール暫定政府は一歩も退いていないとい云うことだ。
この会見中にもうひとつ興味深い点が明らかになった。
「バルモウ将軍(元バルモウ大佐)は、多年に亘って米国特殊部隊と非常に緊密に協力して来た人物です。その為我々は、彼が歴史的に大変気に懸けて来た我々の協力の諸々の側面に対するリスクを、かなり詳細に調べることが出来ました。」
つまり米国の長年の軍事同盟者が、最終的に米国が支援するバズームの打倒に参加して新国防長官になり、その後も米国に対して引き下がらなかったのだ。これは注目に値する。彼と同じ様な立場の軍高官はアフリカ各国に大勢居るが、彼のケースはそれが必ずしも米国の傀儡になることを意味する訳ではないことを示している。彼の先例に倣う高官達が今後も出て来るかも知れない。
従って米国の対外軍事計画が、米国の代理勢力として働いてくれるエリートの育成に成功していることは、最早当たり前のことではないのだ。今回の事例で判る様に、それらは時に裏目に出ることが有る。
会見の終わり近くで、ヌーランドはワグナーとロシアに関する2つの質問に答えた。
「勿論私はワグナーとその脅威を、ワグナーが存在している国々に提起し、ワグナーが入国すれば治安が悪くなり、人権が悪化することを思い出させました。この面での彼等の考えについて、我々が更に多くを学んだとは言えません。」
「ワグナーに関しては、サンクトペテルブルクでプリゴジンが自慢しているのを見たことが有るでしょう。今日の会合で私が感じたのは、ここでこうした行動を取った人々は、ワグナーを招待した場合に自分達の主権がリスクに曝されることになると云うことを、十分承知していると云うことです。」
これらの発言は矛盾している為、彼女は混乱しているか、部分的に嘘を吐いているかだろう。ワグナーに「民主的安全保障」を要求するのではないかと云う憶測に関して、軍主導の暫定政権がヌーランドに送ったシグナルが何だっだにせよ、それは抑止目的であった可能性が高い。
ニジェールがワグナーを招待すると云うシナリオは、西アフリカ地域戦争の勃発を阻止しなければ、米国が更に影響力を失うリスクが有ることを仄めかしている。他方で暫定政権がこのシナリオを軽視するのは、クーデターの結果に過剰反応すべきではないと米国に納得させる狙いが有ってのことかも知れない。
とにかくヌーランドの訪問から得られる主な教訓は次の通りだ:米国は、地域戦争を望んでいないことを世界に示す為に、誠意は疑わしいが公的な努力を行っている。
彼女とニジェール市民社会が会ったことは、カラー革命の可能性が排除出来ないことを示している。
軍主導の二ジェール暫定政府は、新国防長官が米国防総省の長年に亘る緊密なパートナーであるにも関わらず、一歩も退いていない。
そしてクーデター後に想定されるロシアとワグナーとの関係は、依然として不透明だ。
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