ポーランドがずる賢く西ウクライナを制圧した方法(抄訳)
アンドリュー・コリブコ氏の分析の抄訳。多少補足した。ポーランドはポーランド-西ウクライナ連邦計画を着々と進めている。ポーランドのウクライナに対する軍事介入の可能性は低いが否定出来ない。因みに、元々ウクライナの国境は曖昧模糊としているが、オーストリア=ハンガリー帝国の分断統治時代以来ははっきりと分断が齎され、西部と東部とでは全く別の国と言っても良い。
Here’s How Poland Is Slyly Taking Control Of Western Ukraine

ポーランドとウクライナ以外では殆ど注目を集めなかったが、2023/07/17、ポーランドのポーランド・ウクライナ開発協力全権大使ヤドヴィガ・エミレヴィチは、ワルシャワ初の「ウクライナ復興サーヴィス(URS)」事務所をウクライナのリヴィウに開設したと発表した。
彼女は同日ワルシャワ・エンタープライズ研究所が後援するセミナーと、翌日、隣接するヴォリン州の首都ルツクで開催されたセミナーで講演した。彼女はそこで、ウクライナの他の場所に間も無く更に多くの事務所を開設する予定であり、ポーランド企業向けに保険と信用機関を準備していると発表し、「ポーランドの起業家達が人脈を確立するのを支援」し、「ポーランドとウクライナの企業間の対話プラットフォームを構築し、開発機関や国家及び地方自治体を巻き込んでいます」と述べた。
リヴィウでのイヴェントには、地元の影響力の有る人物達が何人も出席したが、リヴィウ、ヴォリン、リヴネは全て、戦間期はポーランドの一部であったことに注意しておく必要が有る。
相互に関連したふたつの展開
殆どのポーランド人は、西ウクライナはポーランド文明千年の歴史の不可欠の部分であると考えているが、これらの地域でのURSの活動は、2022年5月からのふたつの相互に関連した展開から自然に導き出されたものだ。
2022/05/22、ポーランドのアンジェイ・ドゥダ大統領はキエフを訪問して国会で演説し、彼とウクライナのウラジミール・ゼレンスキー大統領は、両国の包括的統合を加速すると約束した。ドゥダは道路、鉄道、その他のインフラ接続をより合理化する計画を発表し、ゼレンスキー氏は共同の国境管理と税関管理を創設すると発表した。ゼレンスキーはまたキエフはポーランド人に、ウクライナに於てウクライナ人と実質的に同じ権利を与えると宣言した。
更に、「ポーランドとウクライナの国境は分断するのではなく団結すべきである」と云うドゥダの発言や、「我々の間に国境や障壁が有ってはならない」と云うゼレンスキーの発言は、ポーランドとウクライナが事実上の連邦に合併する構想を強く示唆していた。
そして翌2022/05/23、ゼレンスキーはダボスで開催された世界経済フォーラムに出席して演説し、こう述べた。
「我々は特別な歴史的に重要な再建モデルを提供します。 それぞれのパートナー国、パートナー都市、パートナー企業は、ウクライナの特定の地域、都市、コミュニティ、産業を後援する歴史的な機会を手にすることになるでしょう。」
つまりゼレンスキーは西洋のパトロン達にウクライナ経済を分捕る特権を与えると宣言した訳だが、ポーランドの場合は、曾て支配していた西ウクライナが該当することになる。
事実上の連邦の経済計画を完成させる
これらふたつの相互の関連する展開は14ヵ月後のURS事務所開設に直接繋がっている。つまり「特別な歴史的に重要な再建モデル」を通じてポーランドと西ウクライナを事実上の連邦に統合すると云う隠された計画に、具体的な進展が見られた訳だ。
元々キエフは西ウクライナに対するポーランドの「後援」を承諾していたのだが、関連する経済メカニズムを立ち上げるまでにここまで時間が掛かったのは、最初の事務所解説後に全てが加速したペースで進められるよう、必要な調査を実施し、全関係者を纏める必要が有ったと云うことで説明出来る。
先述したリヴィウのセミナーに出席したマキシム・コジツキー知事は、ポーランドとウクライナの接続を合理化すると云うドゥダ大統領のヴィジョンを推進する、3つの特定のインフラ計画について触れている。これは共通の税関スペースを創設する計画と組み合わせると、事実上の連邦の経済的側面に相当する。
ポーランドの軍事援助と安全保障要求
ポーランド-西ウクライナ連邦計画は安全保障面でも進展している。
2023/03/23、ポーランド財務大臣はワルシャワが2022年に約62億ユーロ相当の軍事援助をウクライナに提供したと発表した。これによりポーランドはNATOとロシアの代理戦争に於て、3番目に大きな国家レヴェルの資金提供国となったことになる(1位と2位は米英)。
ロシアの特別作戦開始以来、キエフの為に戦っているポーランド人傭兵に関する報告も広まっており、5月には「ポーランド義勇軍」がロシアのベルゴロド州を襲撃したことが称賛されたりもした。

ポーランドが繰り返しウクライナに対して「安全の保証」を求めていることは、ポーランド軍の通常戦力が正式に(秘密裏にかも知れないが)ウクライナに展開した時に備えての導線として機能する可能性が有る。
2022/11/21にポリティコは、ポーランドが前例の無い軍備増強を行っていることを報じているが、これはポーランドが将来の大規模な国外軍事展開に必要な余剰能力を準備していることを示唆している。
ポーランドのウクライナへの通常型介入に向けて
ポーランドは国防支出をGDPの5%にまで引き上げ、2035年までには30万人の現役兵力を擁する予定で、米国とROK(韓国)から数十億ドルの最新装備を購入している。
しかしポーランドはNATO加盟国であり、核超大国アメリカからNATO憲章第5条によって相互防衛保障を与えられているので、ワルシャワがロシアの投機的な攻撃から自国を守りたいだけであれば、これら全ての措置はやり過ぎだ。
だとするとこの展開は、ポーランドが実際にウクライナに対して通常型の軍事介入の準備をしていることを示唆している。野心的な軍事計画を完成させるには更に数年掛かるとしても、NATO加盟によって米国の核の傘に置かれているポーランドはロシアの攻撃を恐れること無く、国内で現在利用可能なものは全て国外に配備することが出来る。
ロシアとベラルーシはポーランドのウクライナ向けの計画について警告
ロシア対外情報局長官セルゲイ・ナルイシュキンは、URSが発表された4日後の07/21の安全保障理事会会議中に、ウクライナ国境付近でのポーランドの軍備増強について警告した。
同じ席上で「プーチン大統領はポーランドの地域計画を阻止する為にそれを暴露した」が、彼はまたこうも言っている:「若し(キエフが)ボスへの払いを済ませる為に(ポーランドに対して)何かを手放したり、売り払いたいのであれば(裏切り者がよくやる様に)、 それは彼等の仕事です。我々は干渉しません。」
この更に2日後の07/23にはベラルーシのルカシェンコ大統領はサンクトペテルブルクを訪問したが、この時彼もまたポーランドの計画について警鐘を鳴らした。但し彼はそれが自国の南部国境に引き起こすかも知れない安全上の脅威を理由に「受け入れられない」と述べた。
これらの発言は、ロシアもベラルーシも、ポーランドが西ウクライナに対する経済支配を補完する為に、通常型の軍事介入を行う可能性が有ると信じていることを示している。
ポーランドがその覇権計画を実行する為に持ち出す口実としては、ロシアによる接触線突破や、ベラルーシに本拠を置くワグナーによる偽旗攻撃等が考えられるが、他の「トリガー・イヴェント(引き金となる出来事)」も考えられる。
二国間または多国間の「安全保障」の一環として、ロシアとの停戦及び/または和平交渉の最中/または後に、キエフが公然とこの介入を招き寄せる可能性さえ有る。
まとめ
現時点でポーランドは既に、一発の銃弾も発射すること無く、ずる賢く西ウクライナを制圧している。
キエフ議会がポーランド人に実質的にウクライナ人と同じ権利を与えたことでその政治的権力は強固となり、URS事務所が開設されることで経済的側面も前進した。
この状況下では、ポーランドはわざわざウクライナに正式に軍隊を派遣する必要すら無い(威信を誇示したいなら別だが)。
にも関わらず、この秋に選挙を控えた世論調査でポーランド与党の見通しを高める可能性が有ることと、ポーランドが大国として失地回復に成功していることを広く世界に知らしめると云うふたつの理由により、西ウクライナへの軍事介入の可能性は依然として残っている。
但し、いざ西ウクライナをポーランドへ正式に統合するとなると、国境の両側でナショナリスト勢力の激しい怒りを引き起こす危険が有る。
非常に深刻な政治的、更には潜在的に安全保障上の影響を伴うこれらの懸念を念頭に置くと、現在の事実上のポーランド・ウクライナ連邦をその内に正式に形にすると云うシナリオは、ポーランドが西ウクライナを噛み千切ると云うシナリオよりは遙かに現実的だ。
そうすれば、大きなブローバックを招くリスクを回避しつつ、ポーランドの「勢力圏」を拡大すると云う戦略目標を達成することが出来る。
実のところ、このシナリオは避けられないかも知れない。
Here’s How Poland Is Slyly Taking Control Of Western Ukraine

ポーランドとウクライナ以外では殆ど注目を集めなかったが、2023/07/17、ポーランドのポーランド・ウクライナ開発協力全権大使ヤドヴィガ・エミレヴィチは、ワルシャワ初の「ウクライナ復興サーヴィス(URS)」事務所をウクライナのリヴィウに開設したと発表した。
彼女は同日ワルシャワ・エンタープライズ研究所が後援するセミナーと、翌日、隣接するヴォリン州の首都ルツクで開催されたセミナーで講演した。彼女はそこで、ウクライナの他の場所に間も無く更に多くの事務所を開設する予定であり、ポーランド企業向けに保険と信用機関を準備していると発表し、「ポーランドの起業家達が人脈を確立するのを支援」し、「ポーランドとウクライナの企業間の対話プラットフォームを構築し、開発機関や国家及び地方自治体を巻き込んでいます」と述べた。
リヴィウでのイヴェントには、地元の影響力の有る人物達が何人も出席したが、リヴィウ、ヴォリン、リヴネは全て、戦間期はポーランドの一部であったことに注意しておく必要が有る。
相互に関連したふたつの展開
殆どのポーランド人は、西ウクライナはポーランド文明千年の歴史の不可欠の部分であると考えているが、これらの地域でのURSの活動は、2022年5月からのふたつの相互に関連した展開から自然に導き出されたものだ。
2022/05/22、ポーランドのアンジェイ・ドゥダ大統領はキエフを訪問して国会で演説し、彼とウクライナのウラジミール・ゼレンスキー大統領は、両国の包括的統合を加速すると約束した。ドゥダは道路、鉄道、その他のインフラ接続をより合理化する計画を発表し、ゼレンスキー氏は共同の国境管理と税関管理を創設すると発表した。ゼレンスキーはまたキエフはポーランド人に、ウクライナに於てウクライナ人と実質的に同じ権利を与えると宣言した。
更に、「ポーランドとウクライナの国境は分断するのではなく団結すべきである」と云うドゥダの発言や、「我々の間に国境や障壁が有ってはならない」と云うゼレンスキーの発言は、ポーランドとウクライナが事実上の連邦に合併する構想を強く示唆していた。
そして翌2022/05/23、ゼレンスキーはダボスで開催された世界経済フォーラムに出席して演説し、こう述べた。
「我々は特別な歴史的に重要な再建モデルを提供します。 それぞれのパートナー国、パートナー都市、パートナー企業は、ウクライナの特定の地域、都市、コミュニティ、産業を後援する歴史的な機会を手にすることになるでしょう。」
つまりゼレンスキーは西洋のパトロン達にウクライナ経済を分捕る特権を与えると宣言した訳だが、ポーランドの場合は、曾て支配していた西ウクライナが該当することになる。
事実上の連邦の経済計画を完成させる
これらふたつの相互の関連する展開は14ヵ月後のURS事務所開設に直接繋がっている。つまり「特別な歴史的に重要な再建モデル」を通じてポーランドと西ウクライナを事実上の連邦に統合すると云う隠された計画に、具体的な進展が見られた訳だ。
元々キエフは西ウクライナに対するポーランドの「後援」を承諾していたのだが、関連する経済メカニズムを立ち上げるまでにここまで時間が掛かったのは、最初の事務所解説後に全てが加速したペースで進められるよう、必要な調査を実施し、全関係者を纏める必要が有ったと云うことで説明出来る。
先述したリヴィウのセミナーに出席したマキシム・コジツキー知事は、ポーランドとウクライナの接続を合理化すると云うドゥダ大統領のヴィジョンを推進する、3つの特定のインフラ計画について触れている。これは共通の税関スペースを創設する計画と組み合わせると、事実上の連邦の経済的側面に相当する。
ポーランドの軍事援助と安全保障要求
ポーランド-西ウクライナ連邦計画は安全保障面でも進展している。
2023/03/23、ポーランド財務大臣はワルシャワが2022年に約62億ユーロ相当の軍事援助をウクライナに提供したと発表した。これによりポーランドはNATOとロシアの代理戦争に於て、3番目に大きな国家レヴェルの資金提供国となったことになる(1位と2位は米英)。
ロシアの特別作戦開始以来、キエフの為に戦っているポーランド人傭兵に関する報告も広まっており、5月には「ポーランド義勇軍」がロシアのベルゴロド州を襲撃したことが称賛されたりもした。

ポーランドが繰り返しウクライナに対して「安全の保証」を求めていることは、ポーランド軍の通常戦力が正式に(秘密裏にかも知れないが)ウクライナに展開した時に備えての導線として機能する可能性が有る。
2022/11/21にポリティコは、ポーランドが前例の無い軍備増強を行っていることを報じているが、これはポーランドが将来の大規模な国外軍事展開に必要な余剰能力を準備していることを示唆している。
ポーランドのウクライナへの通常型介入に向けて
ポーランドは国防支出をGDPの5%にまで引き上げ、2035年までには30万人の現役兵力を擁する予定で、米国とROK(韓国)から数十億ドルの最新装備を購入している。
しかしポーランドはNATO加盟国であり、核超大国アメリカからNATO憲章第5条によって相互防衛保障を与えられているので、ワルシャワがロシアの投機的な攻撃から自国を守りたいだけであれば、これら全ての措置はやり過ぎだ。
だとするとこの展開は、ポーランドが実際にウクライナに対して通常型の軍事介入の準備をしていることを示唆している。野心的な軍事計画を完成させるには更に数年掛かるとしても、NATO加盟によって米国の核の傘に置かれているポーランドはロシアの攻撃を恐れること無く、国内で現在利用可能なものは全て国外に配備することが出来る。
ロシアとベラルーシはポーランドのウクライナ向けの計画について警告
ロシア対外情報局長官セルゲイ・ナルイシュキンは、URSが発表された4日後の07/21の安全保障理事会会議中に、ウクライナ国境付近でのポーランドの軍備増強について警告した。
同じ席上で「プーチン大統領はポーランドの地域計画を阻止する為にそれを暴露した」が、彼はまたこうも言っている:「若し(キエフが)ボスへの払いを済ませる為に(ポーランドに対して)何かを手放したり、売り払いたいのであれば(裏切り者がよくやる様に)、 それは彼等の仕事です。我々は干渉しません。」
この更に2日後の07/23にはベラルーシのルカシェンコ大統領はサンクトペテルブルクを訪問したが、この時彼もまたポーランドの計画について警鐘を鳴らした。但し彼はそれが自国の南部国境に引き起こすかも知れない安全上の脅威を理由に「受け入れられない」と述べた。
これらの発言は、ロシアもベラルーシも、ポーランドが西ウクライナに対する経済支配を補完する為に、通常型の軍事介入を行う可能性が有ると信じていることを示している。
ポーランドがその覇権計画を実行する為に持ち出す口実としては、ロシアによる接触線突破や、ベラルーシに本拠を置くワグナーによる偽旗攻撃等が考えられるが、他の「トリガー・イヴェント(引き金となる出来事)」も考えられる。
二国間または多国間の「安全保障」の一環として、ロシアとの停戦及び/または和平交渉の最中/または後に、キエフが公然とこの介入を招き寄せる可能性さえ有る。
まとめ
現時点でポーランドは既に、一発の銃弾も発射すること無く、ずる賢く西ウクライナを制圧している。
キエフ議会がポーランド人に実質的にウクライナ人と同じ権利を与えたことでその政治的権力は強固となり、URS事務所が開設されることで経済的側面も前進した。
この状況下では、ポーランドはわざわざウクライナに正式に軍隊を派遣する必要すら無い(威信を誇示したいなら別だが)。
にも関わらず、この秋に選挙を控えた世論調査でポーランド与党の見通しを高める可能性が有ることと、ポーランドが大国として失地回復に成功していることを広く世界に知らしめると云うふたつの理由により、西ウクライナへの軍事介入の可能性は依然として残っている。
但し、いざ西ウクライナをポーランドへ正式に統合するとなると、国境の両側でナショナリスト勢力の激しい怒りを引き起こす危険が有る。
非常に深刻な政治的、更には潜在的に安全保障上の影響を伴うこれらの懸念を念頭に置くと、現在の事実上のポーランド・ウクライナ連邦をその内に正式に形にすると云うシナリオは、ポーランドが西ウクライナを噛み千切ると云うシナリオよりは遙かに現実的だ。
そうすれば、大きなブローバックを招くリスクを回避しつつ、ポーランドの「勢力圏」を拡大すると云う戦略目標を達成することが出来る。
実のところ、このシナリオは避けられないかも知れない。
- 関連記事
-
-
子供の人身売買:ウクライナは金儲けの為の邪悪な方法を見付けた(抄訳と補足) 2023/08/15
-
賠償司法に向けたCARICOMの10項目計画は、実際かなり合理的だ(抄訳) 2023/08/15
-
ポーランドがずる賢く西ウクライナを制圧した方法(抄訳) 2023/08/14
-
世論調査:殆どの米国人はウクライナ戦争への追加支出に反対(要点) 2023/08/14
-
ヒロシマは「軍事基地」である、とハリー・トルーマン大統領は語る(抜粋) 2023/08/13
-
スポンサーサイト