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西アフリカ地域戦争一歩手前(抄訳)

アンドリュー・コリブコ氏の分析の抄訳。ニジェールのクーデターを巡る最近の展開は、より広範な戦争を予感させる。その場合、NATOが支援し、ナイジェリアが主導するECOWASと、新たに結成されたブルキナファソ、マリ、ニジェールのサヘル連合(ギニアも加わる可能性が有る)が対立するだろうが、後者が早期に敗北させられなければ、ロシアは恐らく後者を支援する。そうなれば地域紛争は新冷戦の代理紛争に変わり、その場合チャドがキングメーカーになるかも知れない。
West Africa Is Gearing Up For A Regional War




 2023/07/26にニジェールで起きた愛国的な軍事クーデターは、増大するテロの脅威に直面してバズーム政権が国民の安全を確保出来なかったことに抗議して行われたものだが、これは西アフリカ地域でより広範な戦争に発展する可能性が有る。西アフリカ経済共同体(ECOWAS)の最後通牒に先立ち、関係各国はモハメド・バズーム大統領を再任するか、フランスの支援を受けたナイジェリア主導のニジェール侵攻に直面するか、どちらかの立場を選ばなければならない。

 幾つかの要因から、新たな戦争のシナリオは非常に現実的なものとなっている。



外交が失敗し、戦争の脅威と緊急避難に繋がった

 愛国的な軍事クーデターによって暫定大統領が誕生したブルキナファソとマリは、サンクトペテルブルクで開催された第2回ロシア・アフリカ首脳会議の席上で共同声明を発し、ニジェールへの軍事介入は両国への宣戦布告と見做されると警告し、またそうなった場合には両国はECOWASから撤退するとも警告した。

 その数時間後、フランスはニジェールからのEU国民の緊急避難を発表し、戦争が予想されることを示唆した。

 同じく愛国的クーデターによって権力を掌握したチャド暫定大統領のマハマト・イドリス・デビー・イトノはナイジェリアの首都ニアメを訪問したが、妥協を仲介することは出来なかった様だ。チャドはECOWASには加盟していないが、ボコ・ハラムの共通のテロの脅威に対してニジェール・ナイジェリアと緊密に協力している。チャドは地域の軍事大国でもあり、後で説明する様に、予想されるこの紛争で中心的な役割を果たす可能性が有る。



ニジェールの外国軍

 予備知識として、西アフリカには外国軍が駐留していることを押さえておく必要が有る。ニジェールには現在、仏米独伊の軍隊が駐留している。

 ニジェール軍事政権はパリが前政権支持者達と共謀し、大統領官邸に拘束されているバズーム前大統領の解放を目的として、空爆を調整していると主張した。



事実上のブルキナファソ-マリ連邦

 ブルキナファソとマリは連邦への合併を真剣に検討している。ブルキナファソのイブラヒム・トラオレ暫定大統領は07/31のインタビューでこの構想について語っているが、最初にこの話が出たのは02/25〜26のことだ。

 ニジェールに対する侵攻は自国に対する宣戦布告と見做すと云うブルキナファソとマリの共同声明は、この文脈で理解する必要が有る。



地域のゲームに於けるギニアの賭け金

 連邦構想発表の数週間後、ブルキナファソとマリは、近隣のギニアとの三国間協力の可能性を模索し始めた。

 ギニアは2021年末から軍事政権下に置かれており、ブルキナファソとマリと同じ理由でECOWASから追放された。これら3ヵ国は何れもロシアと近い関係に在り、ECOWASや西洋が封鎖しない限り、大西洋に接するギニアは、ロシアがアフリカ内陸部に供給する為のパイプとして機能する可能性が有る。



リビアの要因

 ニジェールの隣国リビアは、新たに結成されたサヘル連合への補給に於て補完的な役割を果たす可能性が有る。

 大統領評議会のモハメド・ユヌス・アルメンフィ指導者は第2回ロシア・アフリカ首脳会議に出席したが、その際プーチン大統領は「リビア国家の統一、主権、領土保全を確保する取り組みに基付き、解決策に向けて鍵となる流れに於ける進展を更に促進する」と約束した

 この約束は、ニジェールへの侵攻は「サヘル地域と西アフリカでのテロ拡大に繋がった、NTAOのリビアへの一方的な介入と同様に、地域全体を不安定化させる可能性が有る」と云うブルキナファソとマリの共同声明の警告と関係付けて考えるべきだ。

 これらの評価は正確で、ロシアがリビア経由で両国とニジェールへの軍事援助を拡大する口実ともなり得るが、リビアは依然として極めて脆弱なので、来るべき戦争に於ても不安定化するかも知れない。



ロシアの空の橋の可能性

 現時点ではロシアとリビアの間に便利な空の橋は無いが、カスピ海、イラン、イラクを経由してロシア-シリア間を迂回する空路は、東地中海を越えて拡大される可能性が有る。

 サウジとチャドがロシアに領空通過を許可すれば、イラン、サウジ、スーダン、チャドを経由する別の回廊が作られ、NATOの干渉を回避出来るかも知れない。但しスーダンが領空閉鎖を8月中旬以降まで延長した場合はこのシナリオは実現不能になる。ロシアに代表を送ったスーダン暫定主権評議会は今だにワグナーと繋がるRSFと紛争を続けており、信頼関係は以前程強固ではない。



チャドの軍事戦略的計算

 チャドは最近多極化への傾向を強めているが、国内外に複雑な問題を抱えているので、過度の拡大路線は避けねばならない。チャドは国内には反政府勢力とカラー革命の脅威、国外には外国を拠点とする反乱軍やテロ組織、そして地域紛争が波及して来るリスクを抱えている。



10大変数
 
 西アフリカに展開する軍事戦略状況をここまで説明した上で、今後のシナリオを予測してみよう。どの様な紛争に於ても混沌とした力学は正確な予測を困難にする。だがこの種の思考演習は状況のより良い理解に役立つ。

 どのシナリオも変数次第だが、このコンテクストで最も適切な変数は以下の通りだ。

 1)ナイジェリアは、ECOWASのニジェール侵攻を主導することで、西洋の命令に従うことに同意するだろうか?

 2)チャドはナイジェリアに加わるのか、ニジェールを守ることを誓うのか、後でキングメーカーとしてプレイするのか、それとも紛争には全く関与しないのか?

 3)ナイジェリアがニジェールに侵攻した場合、ニジェールに駐在する西洋軍はどの様な役割を果たすのか?

 4)西洋軍は介入しているブルキナファソ-マリ軍を攻撃するだろうか、それともこの二国が先に攻撃するだろうか?

 5)他のECOWAS諸国がブルキナファソ及び/またはマリを攻撃及び/または侵略する可能性はどの程度だろうか?

 6)地域の全ての関係者達は、紛争の長期化に対して軍事的、経済的、政治的にどの様な備を整えているのか?

 7)外国の同盟諸国はどの様な兵站回廊を当てにしているのだろうか。またそれらを妨げる障害とは?

 8)より広範な西アフリカ戦争は、新たな新冷戦の代理紛争に変貌するだろうか?

 9)西アフリカでのNATOとロシアの緊張関係は、ウクライナでの双方の代理戦争にどの様な影響を与える可能性が有るのか?

 10)アフリカの他の国々も、これによって自国の地域問題を軍事的に解決する勇気を持つだろうか?



今後のシナリオ予測

 これらを踏まえた上で、以下の予測シナリオが成り立つ。無論、どれも確かなことは断言出来ない。

 1)限定的紛争(短期シナリオ):

 ナイジェリアは、仏米(空軍及び/または特殊部隊)及び/またはチャド(空軍及び/または地上)の支援を得て/支援無しに、ニジェール軍事政権とブルキナファソ-マリ連合軍を速やかに打ち破る。但しブルキナファソとマリ本国は被害を受けず、それぞれ軍主導の暫定政府が存続する。

 2)紛争拡大(短期シナリオ):

 フランス及び/または米国の直接支援を受け、恐らくは或る程度のチャドの支援を受けて、ナイジェリアはECOWAS侵攻軍を率いて、ブルキナファソ、マリ、ナイジェリアの軍主導暫定政府を速やかに打倒する。こうしてパリの新たに失われた「西アフリカに於ける勢力圏」が回復される。

 3)限定的紛争(長期シナリオ):

 NATOの支援を受けたナイジェリア主導のECOWAS侵攻は、ロシアが支援するブルキナファソ-マリ軍の激しい抵抗に遭ってニジェール軍政権を追放出来ず、ニジェールは新冷戦の代理紛争の舞台となる。その結果、各ブロックはキングメーカとしてそれぞれチャドに介入を求めることになる。

 4)紛争拡大(長期シナリオ):

 上述の各ブロックは膠着状態に陥り、チャドは中立に留まる。しかし紛争は事実上のブルキナファソ-マリ連邦を含むまで拡大する。これにより大胆になったエジプトはスーダンに、ルワンダはコンゴに介入し、斯くしてアフリカ全体に危機が引き起こされる。



 ウクライナに於けるNATOとロシアの代理戦争は、2つの長期シナリオで、それぞれの同盟相手に対する支援に関して影響を与える可能性が有るし、また双方の新冷戦の戦場で膠着状態に持ち込むかどうかの決断にも影響を与えるだろう。

 中国、インド、トルコの様な主要中立諸国も長期シナリオでは外交的介入を行うと予想されるが、現時点ではそれらがどの程度成功するかを予測することは不可能だ。

 ふたつの長期シナリオは、ナイジェリアの安定にとっても大きなリスクを伴う。労働者達のストライキが国を麻痺させ、軍がニジェールに集中している状況に反乱軍テロ組織が付け込んだ場合、経済危機と安全保障危機が連鎖反応を起こして非常に深刻な政治危機を齎す可能性が有るからだ。

 この予測が確実だと云う訳ではないが、ナイジェリアの脆弱性を考慮すると、そうした可能性は排除出来ない。ナイジェリアの状況が泥沼化すれば、予測不可能で広範囲に及ぶ可能性の有る影響が齎される可能性が有る。



結論

 ニジェールのクーデターを巡る最近の展開は、より広範な戦争を予感させる。その場合、NATOが支援し、ナイジェリアが主導するECOWASと、新たに結成されたブルキナファソ、マリ、ニジェールのサヘル連合(ギニアも加わる可能性が有る)が対立するだろうが、後者が早期に敗北させられなければ、ロシアは恐らく後者を支援する。そうなれば地域紛争は新冷戦の代理紛争に変わり、その場合チャドがキングメーカーになるかも知れない。
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川流桃桜

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