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NATO加盟の為のウクライナのMAP要件の撤廃は、見掛け程重要ではない(抄訳)

アンドリュー・コリブコ氏の分析の抄訳。ウクライナがNATOに加盟する可能性は高いのだろうか? 2023年7月時点で西洋の政府高官達の発しているあらゆるシグナルは、そのシナリオを否定している。
Removing Ukraine’s MAP Requirement For Joining NATO Isn’t As Important As It Seems



ウクライナのNATO加盟への予定が早まる?

 2023/07/10、ウクライナのクレバ外相はTwitterでこう呟いた

 「集中的な協議の後、NATO同盟諸国はウクライナ加盟への道からMAP(Membership Action Plan/加盟行動計画)を取り除くことで合意に達しました。 私は、我々のNATOへの道を縮めるこの待望の決定を歓迎します。これはまた、ウクライナを加盟に招待することについてはっきりさせる絶好の機会でもあります。」

 だが、ウクライナはは既にMAP参加国の典型的な軍事的義務を満たしている為、これは見掛け程重要ではない。ウクライナ軍はロシアに対する代理戦争を遂行すべくNATOから訓練・装備を提供されていて、事実上のNATO加盟国となっている。



ワシントンはウクライナをNATOに加盟させる予定は持っていない

 だがバイデンは2023/06/17には「ウクライナのNATO加盟を容易にするつもりはない」と発言している。

 また07/09、欧州に出発する直前には、「戦争の真っ只中の今この瞬間、ウクライナをNATOファミリーに加えるかどうかについてNATO内で満場一致しているとは思いません」とも語っている。

 同日、国家安全保障担当補佐官ジェイク・サリヴァンもまた英国へ向かう途中で、ウクライナは加盟する前に広範な「民主主義、安全保障分野、経済改革」に取り組む必要が有ると語っている。

 つまりキエフのスポンサーであるワシントンの方では、ウクライナを急いでNATOに加盟させようとは思っていないのだ。ウクライナは確かに既に事実上のNATO加盟国ではあるが、他の諸改革を成し遂げないことには、この地位を正式に承認されることは無い。

 と云うことはつまり、クレバ外相の発言は事実の表明ではなく、一般の認識を操作することのみを目的としたものだったと捉えるべきだろう。

 これは前記のサリヴァンの発言からも読み取ることが出来る。彼は米国がウクライナに対して「イスラエル式の安全保障」を構想していると語っている。これは具体的には「様々な形の軍事支援、諜報と情報の共有、サイバー支援、その他の物的支援を提供する」一連の二国間協定を意味しているが、これは明らかにNATO加盟の代わりを果たすものとして検討されている。若し彼がウクライナのNATO加盟を本気で考えていたとしたら、こうした話ではなくNATO憲章第5条について論じていたことだろう。

 また07/07のフォーリン・アフェアーズの記事では、中にはこう考える者も居ると述べられている:「既にキエフに提供されている種類の武器、訓練、外交支援はNATO第5条の義務を満たすのに十分であり、新たに軍事力を約束したり配備したりする必要は無いことを意味している。」



NATO諸国はロシア軍と直接戦いたくない

 多くの人が誤解しているが、NATO憲章第5条は武力行使を義務付けてはおらず、攻撃を受けている者達を支援する為に「加盟国が必要と見做した行動」についてだけ規定しているので、この指摘は正当なものだ。つまりNATOの方ではこれ以上の支援は考えおらず、ロシア軍と直接交戦することも無いと云うことだ。

 米国のソフトパワーの観点からすれば、ウクライナがNATOに加盟し、その結果として米国がウクライナの安全保障に直接関与すると云う誤った期待を国民が抱かない方が都合が良い。これは米国が既存のNATO加盟諸国を守る為に武力行使をしないと言っている訳ではない。加盟諸国が攻撃された場合には西洋の団結を維持する為には武力行使せざるを得ないと考えるだろう。但しウクライナの場合はそれらとは質的に状況が異なっているのだ。

 ウクライナはロシアとの紛争が終わり、全ての国境問題が解決されるまでは、加盟資格を無期限に剝奪されることになるだろう。他の加盟諸国はどれもロシアと直接戦うリスクを冒したくはない。「イスラエル式」の回避策を選択した方が遙かにラクなのだ。

 ポリティコは07/09の記事で、米国が英仏独と協力して、ウクライナへの軍事援助を多国間で管理出来る、所謂「傘」の創設に取り組んでおり、これが今回のNATOサミットの最も重要な成果となる可能性が有ると報じた。本質的にはこれはウクライナ軍に代わってロシア軍と戦うと云うことではなく、既にキエフに提供している支援を正式に承認することを意味するに過ぎない。

 ウクライナ人や平均的な西洋市民の期待が現実離れしてヒートアップすることは避けねばならない。若し期待が裏切られれば、NATOの信用は完全にガタ落ちだし、ロシアとの安全保障上のジレンマも解決せねばならない。若しモスクワの方でNATOがキエフに代わってロシアに対して武力行使をして来ると確信すれば、NATOに対して先制攻撃を行いたいと云う誘惑も高くなるかも知れない。ならばそう思われれないようにあらゆる努力を払わねばならない。ウクライナがNATOに加盟し、米国がウクライナの代わりにロシアを攻撃するかも知れないと示唆することは、ソフトパワーと戦略的観点から見て非常に無責任だ。

 従って若しウクライナのNATO加盟が約束された場合、それはプラグマティックな判断の出来る政策立案者達から、イデオロギーによって動いている主戦論者達が影響力を取り戻したことを意味する。

 これまでに西洋の政府高官達から発せられたあらゆるシグナルは、ウクライナはNATOに加盟しないので、NATO憲章第5条の一般的な解釈に従って、ウクライナを支援する為に武力が行使されることを期待すべきではないことを示している。

 NATO加盟の為のウクライナのMAP要件を取り除くことは、従って象徴的な意味しか持っていない。ウクライナは諸改革を成し遂げない限り加盟は出来ない。その代わりに彼等に提供されるのは「イスラエル式」の「傘」だけだ。
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川流桃桜

Author:川流桃桜
一介の反帝国主義者。
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