グローバル・サウスの力の増大に対して、日本の態度に変化の兆し(抄訳)
ヴィジャイ・プラシャド氏の記事の抄訳。日本の外交政策を外部の観察者の視点で分析している。日本政府の中には何時までも対米従属の儘ではジリ貧だと認識している人々も居るのだろうが、全体としては多極化へ向かう世界趨勢に於て、今だにグダグダと態度を決めかねている。
Japan signals an attitude shift to the growing power of the Global South
2023/04/11、日本の外務省は外交青書2023を公表した。
外交青書2023(PDF)
Diplomatic Bluebook
この国際情勢に関するガイドブックに林芳正外相が書いた序文は、「世界は今、歴史の転換点にある」と云う文章で始まっている。これはウクライナ戦争に対する日本のアプローチを理解する鍵となる。
ロシア軍が特別軍事作戦を開始した直後、日本政府は「大規模な軍事侵略」を非難し、「厳重且つ協調的な経済・金融制裁」を求めるG7声明に署名した。翌日には日本は対ロシア制裁の開始を発表し、ロシアの銀行3行の資産を凍結し、ロシア軍への輸出に対して制裁を課した。
外交青書2022でもロシア非難が繰り返され、ロシア政府に対し「軍隊を即時撤退させ、国際法を遵守する」よう求めた。ロシアの戦争は「国際秩序の根幹を揺るがす」ものであり、これが世界をこの「転換点」に導いたと新しい青書は主張している。
日本の国益
だが制裁にも関わらず、日本はロシアからエネルギーを輸入し続けている。2022年には、日本の液化天然ガス輸入の9.5%がロシアからだった(2021年の8.8%から増加している)。このエネルギーの殆ど、日本企業と政府が多額の投資を行っているロシアのサハリン島から来ている。2022年7月、林外相はサハリン2からの輸入継続について問われた時、明快に答えた:「サハリン2は、日本の電力とガスの安定供給を含めたエネルギー安全保障にとって重要なプロジェクトです。」それ以降、日本の当局者達は、G7に対する義務や戦争に関する日本自身の声明よりも、日本の国益を強調し続けている。8月には日本政府は民間企業2社、三井物産と三菱商事に対し、ロシアのサハリン2への関与を深めるよう要請した。萩生田光一元経済産業大臣は「企業の利益を守り、液化天然ガスの安定供給を確保する為、官民一体となって対応して行きたい」と述べた。
2022年3月共同通信は、リークしたヴァージョンの2022年外交青書について報じたが、これには、北海道の北の島々に対するロシアの支配を説明するのに「不法占拠」と云う、かなり驚くべき表現が使われていた。日本政府は2003年以降この表現を使っていないが、その主な理由は、サハリン2の開発を巡る協力によって日露間の外交活動が活発化した為だ。最終的にスクープされたこの草案は改変されて最終稿ではこの表現は使われなかったが、その代わり、「日本とロシアの間の最大の懸案は北方領土問題」であり、「まだ解決されていない」と記されている。日本は西洋のロシアに対する敵意を利用して、これらの島々に対する主張を強めることも出来たのだが、そうはせず、日本政府はロシアがウクライナから撤退し、日本の北方の島々に関する「平和条約交渉」に戻ることだけを希望した。
3つのポイント
外交青書2023では、次の3つの点が述べられている。
1)ポスト冷戦時代は終わった。
2)中国は日本の「最大の戦略的課題」である。
3)グローバル・サウス諸国は真剣に受け止められるべきである。
これはロシアへのエネルギー依存とグローバル・サウスが自信を強めていることの間で板挟みになっている日本の混乱を浮き彫りにしている。
2022年の青書は、「国際社会は現在、時代を決定付ける変化を経験している」と述べているが、2023年版では、米国主導の世界秩序、つまり日米両国が「ルールに基付く国際秩序」と呼んているものが崩壊していることから明らかな、「ポスト冷戦時代の終わり」について指摘している。ワシントンの力は低下したが、次に何が起こるかは明らかではない。
アジアでの中国の役割が増大することに対する不安は、長い間釣魚島(中国)/尖閣諸島(日本)について争って来た日本にとっては新しいものではない。だが現在ではこの状況についてよりはっきりした———そして危険な———評価が行われている。青書2023は中国とロシアとの緊密な連携を指摘しているが、その戦略的パートナーシップには焦点を当てていない。寧ろ日本政府は現在、日本の「最大の戦略的課題」と見做している中国に焦点を当てている。但し日本政府はここでも、両国が「共通の問題を議論する為に一連の対話を行って来た」ことを認めてはいる。青書は「建設的で安定した」関係を築く為には「日中両国の努力」が重要であると述べている。
最後に、日本政府は、アフリカ、アジア、ラテンアメリカ諸国が最早西洋諸国の意向に従おうとせず、グローバル・サウスに新たなムードが生じていることを認めている。2023年1月、日本は「グローバル・サウス」をどの様に定義しているのか尋ねられた時の外務省の小野光子報道官の回答は有益だ。「日本政府はグローバル・サウスと云う用語の正確な定義を持っていません。(略)一般に新興国や発展途上国を指すことが多いと理解しています。」 外務省は「グローバル・サウスとの関与を強化」する必要が有ると彼女は指摘した。青書2023では、日本はグローバル・サウス諸国がウクライナに関する西洋の立場に従っていないこと、またそのことでそれらの国々を咎め立てれば、「二重基準」(西洋諸国による戦争は容認出来るのに、他国による戦争は容認出来ないと言うのか?)との非難を受けることを認めている。日本は多国間主義を推進し、「違いを埋める包括的なアプローチ」を構築する、新たな「態度が必要である」と青書は述べている。
2023年3月、日本の岸田文雄首相はウクライナでウォロディミル・ゼレンスキー大統領と会談した。双方は安全保障情報の共有に努めていると述べたが、日本は再びウクライナに武器を送ることを拒否した。岸田がウクライナを去ってから数週間後、日本の篠光子国連次席代表は、「武器や軍事装備品の輸出を規制する協定違反から生じるリスク」と武器貿易条約の重要性について慎重に警告した。日本は依然として自らのジレンマに囚われている。
Japan signals an attitude shift to the growing power of the Global South
2023/04/11、日本の外務省は外交青書2023を公表した。
外交青書2023(PDF)
Diplomatic Bluebook
この国際情勢に関するガイドブックに林芳正外相が書いた序文は、「世界は今、歴史の転換点にある」と云う文章で始まっている。これはウクライナ戦争に対する日本のアプローチを理解する鍵となる。
ロシア軍が特別軍事作戦を開始した直後、日本政府は「大規模な軍事侵略」を非難し、「厳重且つ協調的な経済・金融制裁」を求めるG7声明に署名した。翌日には日本は対ロシア制裁の開始を発表し、ロシアの銀行3行の資産を凍結し、ロシア軍への輸出に対して制裁を課した。
外交青書2022でもロシア非難が繰り返され、ロシア政府に対し「軍隊を即時撤退させ、国際法を遵守する」よう求めた。ロシアの戦争は「国際秩序の根幹を揺るがす」ものであり、これが世界をこの「転換点」に導いたと新しい青書は主張している。
日本の国益
だが制裁にも関わらず、日本はロシアからエネルギーを輸入し続けている。2022年には、日本の液化天然ガス輸入の9.5%がロシアからだった(2021年の8.8%から増加している)。このエネルギーの殆ど、日本企業と政府が多額の投資を行っているロシアのサハリン島から来ている。2022年7月、林外相はサハリン2からの輸入継続について問われた時、明快に答えた:「サハリン2は、日本の電力とガスの安定供給を含めたエネルギー安全保障にとって重要なプロジェクトです。」それ以降、日本の当局者達は、G7に対する義務や戦争に関する日本自身の声明よりも、日本の国益を強調し続けている。8月には日本政府は民間企業2社、三井物産と三菱商事に対し、ロシアのサハリン2への関与を深めるよう要請した。萩生田光一元経済産業大臣は「企業の利益を守り、液化天然ガスの安定供給を確保する為、官民一体となって対応して行きたい」と述べた。
2022年3月共同通信は、リークしたヴァージョンの2022年外交青書について報じたが、これには、北海道の北の島々に対するロシアの支配を説明するのに「不法占拠」と云う、かなり驚くべき表現が使われていた。日本政府は2003年以降この表現を使っていないが、その主な理由は、サハリン2の開発を巡る協力によって日露間の外交活動が活発化した為だ。最終的にスクープされたこの草案は改変されて最終稿ではこの表現は使われなかったが、その代わり、「日本とロシアの間の最大の懸案は北方領土問題」であり、「まだ解決されていない」と記されている。日本は西洋のロシアに対する敵意を利用して、これらの島々に対する主張を強めることも出来たのだが、そうはせず、日本政府はロシアがウクライナから撤退し、日本の北方の島々に関する「平和条約交渉」に戻ることだけを希望した。
3つのポイント
外交青書2023では、次の3つの点が述べられている。
1)ポスト冷戦時代は終わった。
2)中国は日本の「最大の戦略的課題」である。
3)グローバル・サウス諸国は真剣に受け止められるべきである。
これはロシアへのエネルギー依存とグローバル・サウスが自信を強めていることの間で板挟みになっている日本の混乱を浮き彫りにしている。
2022年の青書は、「国際社会は現在、時代を決定付ける変化を経験している」と述べているが、2023年版では、米国主導の世界秩序、つまり日米両国が「ルールに基付く国際秩序」と呼んているものが崩壊していることから明らかな、「ポスト冷戦時代の終わり」について指摘している。ワシントンの力は低下したが、次に何が起こるかは明らかではない。
アジアでの中国の役割が増大することに対する不安は、長い間釣魚島(中国)/尖閣諸島(日本)について争って来た日本にとっては新しいものではない。だが現在ではこの状況についてよりはっきりした———そして危険な———評価が行われている。青書2023は中国とロシアとの緊密な連携を指摘しているが、その戦略的パートナーシップには焦点を当てていない。寧ろ日本政府は現在、日本の「最大の戦略的課題」と見做している中国に焦点を当てている。但し日本政府はここでも、両国が「共通の問題を議論する為に一連の対話を行って来た」ことを認めてはいる。青書は「建設的で安定した」関係を築く為には「日中両国の努力」が重要であると述べている。
最後に、日本政府は、アフリカ、アジア、ラテンアメリカ諸国が最早西洋諸国の意向に従おうとせず、グローバル・サウスに新たなムードが生じていることを認めている。2023年1月、日本は「グローバル・サウス」をどの様に定義しているのか尋ねられた時の外務省の小野光子報道官の回答は有益だ。「日本政府はグローバル・サウスと云う用語の正確な定義を持っていません。(略)一般に新興国や発展途上国を指すことが多いと理解しています。」 外務省は「グローバル・サウスとの関与を強化」する必要が有ると彼女は指摘した。青書2023では、日本はグローバル・サウス諸国がウクライナに関する西洋の立場に従っていないこと、またそのことでそれらの国々を咎め立てれば、「二重基準」(西洋諸国による戦争は容認出来るのに、他国による戦争は容認出来ないと言うのか?)との非難を受けることを認めている。日本は多国間主義を推進し、「違いを埋める包括的なアプローチ」を構築する、新たな「態度が必要である」と青書は述べている。
2023年3月、日本の岸田文雄首相はウクライナでウォロディミル・ゼレンスキー大統領と会談した。双方は安全保障情報の共有に努めていると述べたが、日本は再びウクライナに武器を送ることを拒否した。岸田がウクライナを去ってから数週間後、日本の篠光子国連次席代表は、「武器や軍事装備品の輸出を規制する協定違反から生じるリスク」と武器貿易条約の重要性について慎重に警告した。日本は依然として自らのジレンマに囚われている。
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