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カホフカ・ダムの決壊は完全犯罪だ(抄訳と補足)

M.K.バドラクマール氏の分析の抄訳。カホフカ・ダムの破壊の犯人が誰なのかを、動機の点から出来るだけ公平に考察している。ダムが決壊して得をするのはどちらなのか?

 但し私としてはこれまでも述べて来た様に、結論は最初から見えている。自然崩壊と云う可能性も捨て切れないが、偶然にしてはタイミングが出来過ぎている。それにキエフ軍は民間人を巻き込む戦争犯罪やテロ行為を今まで散々繰り返して来ているし、その過程で自軍に被害が出ることも全く厭わない。他方、ロシア軍は民間の人やインフラに被害が極力及ばないよう、最大限の努力を払って来ているし、昨年末のヘルソン攻防戦では、恐らくダムが破壊されるのを防ぐ為にわざわざ自分達から撤退している。キエフは自滅しているじゃないか、これはロシア側にとって好都合でだ、と解釈出来る部分も有るには有るが、それもキエフ軍の無能さによって説明が可能だ。
Kakhovka Dam Breach is a Perfect Crime
Kakhovka hydro-electric dam



 2023/06/06、戦争で荒廃したウクライナのヘルソンを流れるドニエプル川のノヴァ・カホフカ・ダムの決壊は、間違いなく巨大な規模の大惨事であり、正に環境と人間に対する災害であって、その影響は戦争の後にも尾を引く可能性が有る。

 ウクライナ大統領ウラジーミル・ゼレンスキーはこの件でロシアを非難した。だが驚くべきことに、何時もならキエフの主張を無条件で支持する米国家安全保障会議のジョン・カービー報道官は、この主張を支持することを巧妙に回避した。

 「現時点で何が起こったのか、確かなことを言うことは出来ません………。」

 興味深いことに、英国のリシ・スナク首相もまた同様に、犯人を名指しすることを避けている。

 「断定するには時期尚早です。」

 スナク氏は英国諜報機関がこの件を「徹底的に調査」すると約束している。後になって英国が何等かの形でロシアに責任を負わせる方法を見付けることは十分に考えられる。だが、現時点でモスクワを非難すべき具体的な証拠は無い。

 状況は少し複雑だ。犯罪容疑者の特定に関する古典的なラテン語の規範「cui bono(誰が得をするのか?)」に拠れば、ウクライナとロシアは共に「勝者」とも「敗者」とも解釈することが可能だからだ。

 これについては説明が必要だろう。



ウクライナにとってのメリットは?

 1)この場所の地形は、ロシア人が占領していたドニエプル川下流東側の方が洪水によってより大きな影響を受ける。従ってロシアがダムを破壊したのだとしたら、自分の足を撃ったも同然だ。

 2)洪水により、ウクライナの大規模反攻に備えてロシア人が苦労して準備した地雷と要塞の多くが流された。恐らく洪水が収まれば、ウクライナ軍には道が開けるだろう。

 3)これはキエフが西洋メディアの協力を得て、ロシア人が戦争犯罪を犯したと大々的に宣伝するチャンスだ。実際エレンスキーは「ロシアのテロリスト」についてがなり立てている。

 4)この大きな心理的勝利は、キエフの「春の攻勢」と同時期に起きた。

 5)カホフカ・ダムが破壊されれば、ザポリージャ原子力発電所の原子炉の冷却システムが影響を受けることになる(これは欧州初の危機となる)(訳者補足:ザポリージャ原発を攻撃して来たのはロシア軍ではなくキエフ軍だ)。

 6)クリミア半島の水供給が危うくなる(訳者補足:クリミアは2022年まで、キエフ政府から運河の水供給を止められていた)。
 
 7)水力発電所が機能しなくなれば、ロシア支配地域では電力不足が生じる可能性が有る。

 8)一旦水位が下がってしまえば、ロシア軍は、ドニエプル川東岸に位置するウクライナ上陸軍を洗い流す為にダムからの洪水を仕掛けると云う手が使えなくなる。従って戦略上の要衝ヘルソン地域で今後ウクライナ軍が水陸両用攻撃を行う際、障害となるものが何も無くなったことになる。



ロシアにとってのメリットは?

 先にそもそもの話をしておくと、ロシアが洪水を起こしてウクライナ軍を沈めたいと思ったのであれば、単に水門を開放するだけで済んだ筈だ。なのに何故わざわざダムを破壊しようと思うのか?(訳者補足:これはザポリージャ原発からの電力供給をロシア軍が止めたいと思ったのであれば、自軍の管轄地にミサイルを撃ち込むよりも単にスイッチを切れば良い、と云う話に似ている。だがカホフカ・ダムはキエフ軍の砲撃を受け続けてメンテナンス要員が近付けない状況が続いていたので、通常の手段によっては水門を解放出来なかった、と云う解釈も成り立つ)。

 1)ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相は、キエフ軍はドネツク方面での攻勢の最初の数日で非常に大きな損失を被った為、「部隊を再配置する緊急の必要性」に駆られて「ロシアの攻撃行動を阻止する為に」、洪水を起こすと云うテロ行為に訴えたと主張している。

 これは論理的な説明だが矛盾も有る。洪水によってヘルソン地域の、特に湿地帯の島々に陣地を敷いていたウクライナ軍も損害を被っている。そしてロシアの西進を妨げる為に洪水を引き起こすと云う手は、ウクライナ軍はもう使えなくなってしまった。この場合、得をするのはロシアだ。

 2)ウクライナ軍が南部地域での攻撃の為にヘルソンに建設していた弾薬庫が、洪水によって全て水没してしまった。

 3)洪水によってウクライナ軍による水陸両用攻撃は阻止された。その結果ロシア軍はヘルソン戦線から北部戦線(ウクライナ軍の主力が展開されていると思われる)に注意を振り向けることが可能になった。



ロシア側の被害は限定的

 一方、ロシアのメディアはこう報じている:

 ・人口の大部分は秋の軍再編成中に都市部を離れていた為、大量避難は必要無い。

 ・水位は72時間以内に正常域まで低下すると予想される。

 ・北クリミア運河の水位は、キエフがクリミアに「水封鎖」を課した2014年から2022年の期間中に建設された追加の貯水池のお陰で、如何なる影響も受けていない。

 ・ロシア軍は今回の事態を予期して多層防御陣を準備しており、部隊は現在その背後に配置されている。



自然崩壊説
 
 今回の決壊は攻撃の結果ではなく、「ダムは自然に崩壊した」と云う説を唱えている人も居る。

 カホフカ・ダムは既に2022年中、ウクライナとロシアの軍の多大な攻撃によって深刻な破損を受けており、決壊に至るまでの数日間の衛星写真では、ダムの中心部で大規模な漏水が起きていることが示されている。恐らく、ソ連解体以降は十分に整備されていなかったダムは、もう耐えられなかったのだろう。

 そしてドニエプル川上流の幾つかのダムを管理しているキエフは水位を操作して、築67年のカホフカ貯水池に過大な圧力を掛けていた。つまり、「ダムは直接攻撃や爆発物によるサボタージュではなく、自然に崩壊した。但し崩壊に追い込まれたのはキエフ政権の直接行動が原因だ。」
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川流桃桜

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