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資本主義路線はウクライナにとって間違った選択だったと、ウクライナ専門家は語る(抄訳)

『ウクライナ資本主義の破局(The catastrophe of Ukrainian capitalism)』を著したオーストラリアのジャーナリスト、レンフリー・クラーク氏のメール・インタビューの概要。30年に及ぶ西洋によるウクライナ経済の搾取の歴史をざっと振り返ることが出来る。
Taking the Capitalist Road Was the Wrong Choice For Ukraine, Says Ukraine Expert
THE CATASTROPHE OF UKRAINIAN CAPITALISM



訪れなかったウクライナ資本主義の成功

 1992年にドイツ銀行が行った調査は、ソ連解体後の旧ソ連諸国の中で成功の見込みが最も高かったのはウクライナだった。

 ウクライナなソ連で最も工業的に発展した地域のひとつで、冶金、宇宙産業、航空機製造の中心地のひとつであり、豊かな農地を持ち、人々は西洋の基準から見ても十分な教育を受けていた。

 ところが民営化と自由市場によって約束されていた筈の繁栄は訪れず、逆に経済は大きく落ち込み、航空宇宙・自動車製造・造船等の大規模で高度な産業は閉鎖されたいた。

 世界銀行の数字に拠ると、ウクライナの2021年のGDPは1990年の38%にまで減少していた。購買価格平価での一人当たりGDPで計算すると21%になる。世界全体では75%増加しているのとは対照的で、これはパラグアイ、グアテマラ、インドネシアの数値と略同じ。
 
 西洋のアナリストはこの原因としてソ連時代の遺産に着目する傾向が有るが、クラーク氏の意見は異なり、ウクライナの破局の根本原因は資本主義システムそのものだ。もう少し詳しく言えば、先進資本主義世界の「中核」国が、発展途上のシステムの「周辺」国に課す経済的役割と機能が原因だ。



オヒガルヒ犯罪経済の台頭

 ウクライナは1990年代にロシアと同様、少数のオリガルヒが富を寡占する国になったが、その始まりは1988年のペレストロイカ後期。当時民間資本の大規模な蓄積に成功したのは、次の3つの系統だ:

 1)大規模な国営企業の上級管理職(1988年の協同組合法により民間企業が濫立した。国営企業の幹部の多くは実質的な民間資本家でもあった)。

 2)政治家、官僚、裁判官、検察官など、国家の要職に就いている人物(資本蓄積を可能にする為に行政や司法機構が買収された)。

 3)犯罪的裏社会、マフィア(ソ連末期では法の支配は弱体化したが、強硬なビジネスを円滑に遂行する為に暴力団が重宝された。警察が協力することも有った)。

 数年で汚職や犯罪活動は特定の都市や経済部門を中心としたオリガルヒに統合され、1990年代に国営企業が民営化され始めると、彼等はこの資産に手を伸ばして更に富を蓄積させた。
 
 こうした腐敗したビジネス文化の中で金持ちになるには、賄賂を払うかソ連時代の資産を売っ払うかだが、自分の地位が何時脅かされるか判らない状況では、生産的な投資は不合理だった。



ウクライナは「非常に流動的な少数独裁的多元主義」
 
 ウクライナは中央集権的な傾向が強い国で、州知事は選挙ではなくキエフから任命される。だが実質的な権力を持っているのは地元のオリガルヒで、ロシアのプーチンやベラルーシのルカシェンコの様な指導者が現れなかったウクライナでは、彼等の権力拡大は妨げられなかった。

 ウクライナのシステムは、「非常に流動的な少数独裁的多元主義」と表現することが出来る。



西洋の食い物にされたウクライナ

 ソ連時代、ロシアとウクライナは単一の経済圏を形成していた。ウクライナが独立してからもロシアはウクライナの最大の貿易パートナーであり、関税障壁は存在せず、ソ連から継承された技術基準は殆ど同じだった。お互いビジネスのやり方は熟知しているし、交渉は全てロシア語で済んだ。
 
 にも関わらず、「リベラル」な言説は、ロシアとの緊密な経済関係がウクライナの足を引っ張っている、急いで西洋に門戸を開かねばならない、と主張した。ロシア-ウクライナ間通商は、欧州連合との「深く包括的な自由貿易」に取って代わられなければならないと云う訳だ。

 これはイデオロギー的、政治的、軍事的な影響を広範囲に及ぼしたが、2014年までにウクライナ国内の反対派は抑え込まれ、EUとの経済統合協定が調印された。2016年までにはウクライナとロシアの間の貿易は劇的に縮小し、EUとの貿易よりも遙かに小さくなった。

 だが、経済成長の約束は一向に果たされず、クーデター後の経済の落ち込みからは殆ど回復出来ず、EUとの貿易収支は大幅なマイナスの儘だった。

 ウクライナはEUとの「自由貿易」が可能になったにも関わらず、高生産性や高賃金を約束する資本主義システムの「中核」国として欧州資本主義に統合されなかった。

 結局のところ、EUの経済成長は停滞しており、欧州社会は危機に瀕しているのに、EU諸国はわざわざ自分達の競争相手を追加したいなどと望むだろうか?

 その代わりウクライナに割り当てられた役割は、西欧のより進んだ製造業者から輸入し、鉄鋼ビレットや基礎化学品等の比較的ローテクなジェネリック製品をEUに供給することだ。後者は利益が低く汚染度が高い為、西欧の生産者は撤退している。

 ソ連時代、ウクライナは洗練された、時には世界クラスの製造業の中心地だった。だが民営化を巡る乱の中で、投資水準は崩壊し、イノベーションは事実上停止し、製品は先進国市場で競争力を失った。

 リベラルな理論家達が夢想に耽っている間、外国の資本家達は国境を越えて攻め入り、廃墟となった産業企業を買収して改装し、低賃金によって西洋への輸出品を作らせて利益を上げようとしていた。
 
 だがウクライナにはオリガルヒが運営する犯罪化された経済が存在した。外国人投資家達の大多数は、サメと一緒に泳ぐよりも遠ざかることを選択した。

 EUの輸入関税の引き下げはこの状況を改善する筈だったが、現実にはそうなっていない。より高い生産性とより魅力的な品揃えを持つ西洋の製造業者達が、ウクライナ国内市場の大部分を乗っ取り、地元の生産者達を廃業に追い込んだだけだ。

 一例を挙げると自動車産業で、ウクライナは2008年には年間40万台以上の車を生産していたが、それは2014年までの話であって、2016年の時点ではEUから大量の中古車が流れ込むことによって、ウクライナの自動車産業は事実上廃止に追い込まれた。



「支援」の名の下、西洋諸国はウクライナを借金漬けに

 2022/10/24のアンドレア・ピータースの記事に拠れば、ロシア軍の特別軍事作戦以来、ウクライナでは、
 ・貧困が10倍に増加。
 ・失業率が35%に。
 ・給与の50%が削減。
 ・公的債務がGDPの85%に。

 クラーク氏の指摘では、更に
 ・2022年の第4四半期のGDPは前年比で34%減少。
 ・9月の工業生産も同程度に少。
 ・2023年3月時点で、建物やインフラへの直接的な損害の費用は1,350 億ドル。
 ・住宅の7%以上が損傷または破壊された。
 ・畑は地雷原と化しているので、広大な農地が播種されてない。
 ・軍の徴兵により、多数の熟練労働者が職場から奪われた。
 ・少なくとも550万人が国外に脱出したが、その中には他の多くの優秀な人材も含まれていた。
 ・推定690万人が国内避難民と化しており、これは生産にも影響を与えている。

 現在、国内財源はウクライナの予算歳入の1/3しか占めておらず、外国からの融資と助成金が補っている。この援助は年間インフレ率を25%(比較的管理し易いレヴェル)で維持するのには十分だったが、労働者が物価上昇に対して補償されることは滅多に無く、労働者の生活水準は崩壊している。

 多くの場合、西洋の援助は助成金ではなく融資であり、タダでくれてやっている訳ではなく貸し付けているだけ。クラーク氏の計算では、1月のウクライナの対外債務は年間GDPの約95%に達している。平和が戻った時、ウクライナはこれらの借り入れを返済する為に何十年にも亘って外貨を犠牲にしなければならない。


 ウクライナのデニス・シュミハリ首相に拠れば、2023年だけでも、財政赤字を補う為に380億ドル、「迅速な再建プロジェクト」の為に更に170億ドルが必要になる。

 2023年の米軍の軍事費は8,860億ドルだし、西洋には財政的にウクライナを救う余裕は有る。だが西洋は財政援助を小出しにするだけではなく、その多くに返済を要求している。帝国主義陣営に迂闊に近付くとこう云う羽目になると云う教訓だろう。

 

「ウクライナ農業の再封建化」

 ゼレンスキーが2019年に大統領に就任して最初に行ったことのひとつは、人気の無い新自由主義的な土地改革法案を強行することだった。

 2014年までに、ウクライナの農地は略全て民営化されていたが、2021年まで、農地の販売に関してはモラトリアムが生きていた。この措置は官僚機構を信用せず、騙し取られることを恐れていた農村住民達の間では圧倒的に人気が有った。

 土地が小さく資本が不足していた殆どの土地所有者は所有地をリースし、商業農業企業の従業員として働くことを選択した。

 その結果が、「ウクライナ農業の再封建化」だ。資本へのアクセスを持つ起業家(大抵はオリガルヒで、米国やサウジの企業を代表していることも有る)が、膨大な土地の支配権を獲得した、土地の賃料が安く、賃金が最小限だった為、生産性を上げる為の投資をする理由が殆ど無かった。その結果、土壌は肥沃だったも関わらず、生産性は低い儘だった。

 そこに付け込んで来たのがIMF等の国際金融機関だ。彼等は例によって融資の条件として構造調整プログラムを要求して来た。これは当然人気が無かったが、ゼレンスキーが遂に反対を押し切った。2021年半ば以降、ウクライナ市民であれば最大100ヘクタールの農地を購入出来る様になり、2024年1月からは10,000ヘクタールに増加する予定だ。

 この「改革」の真の目的は、農業に対するオリガルヒと国際的なアグリビジネスの支配力を強化することだ。



ウクライナ経済が立ち直るには?

 世銀の報告書に拠れば、 終戦後の再建には少なくとも4,110億ドルの費用が掛かる。

 「戦後」が有り得ると仮定すると、それはどの様に見えるだろうか?

 ウクライナは現在、資本主義発展途上世界の貧しい地域のひとつだが、こうした国々にとって真に長期的に安定した公平な経済の未来は有り得ない。そうした未来が欲しいなら、国際的な略奪システムの外に出なければならない。

 政治経済的な観点から言えば、ウクライナの未来は「西洋との統合」、つまり破壊的な幻想には無い。BRICS、一帯一路構想、上海協力機構等の加盟諸国との関係構築が重要だ。資金調達については、IMFを拒否し、アジア・インフラ投資銀行等の機関に目を向ける必要が有る。

 これらは必要な措置ではあるが、最終的にはより深い変革が必要になる。その為には、ウクライナ経済を支配している犯罪君主オリガルヒ達を追放する必要が有る。

 約30年間西洋が「支援」して来たにも関わらず、ウクライナの自由主義改革派はこの分野では殆ど成果を挙げていない。ウクライナの「中間層」はそうした体制転換を実行する能力が無く、大抵は腐敗した国家システムに組み込まれてしまっている。


 少数独裁権力を終わらせるポテンシャルを秘めた唯一の社会勢力は、組織化されたプロレタリアートだろう。



クラーク氏の個人的回想

 1990年代をロシアで家族を持って暮らした経験を持つクラーク氏は、経済の40%が蒸発していたソ連崩壊後の社会を直接目撃した。

 西洋志向の知識人達が待ち望んでいた資本主義がやって来たが、それは悪夢だった。

 人々の信念や価値観は逆転し、以前は卑しむべきものと見做されていた、喧嘩や憶測等の行動が、今やメディアで称賛される様になった。

 そんな中で道徳を完全に失った者も少なくなかった。あの頃は何でもアリだった。
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川流桃桜

Author:川流桃桜
一介の反帝国主義者。
2022年3月に検閲を受けてTwitterとFBのアカウントを停止された為、それ以降は情報発信の拠点をブログに変更。基本はテーマ毎のオープンスレッド形式。検閲によって検索ではヒットし難くなっているので、気に入った記事や発言が有れば拡散して頂けると助かります。
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