水の安全保障がシリアとトルコの会談の主役に(抄訳と補足)
トルコが川の水を兵器化したことによってシリアとイラクで引き起こされている水危機を巡る2023年4月時点での状況について、クレイドルの記事の抄訳と補足。
Water security takes center stage in Syria-Turkiye talks
2023/04/04、ロシアの仲介により、シリア、トルコ、イラン、ロシアの代表がモスクワで5時間会談した。ここではシリアとトルコとの関係回復に向けた取り組みに於ける未解決の問題が話し合われたが、焦点は以下のものだ。
・シリア北部及び北東部に於けるトルコと米国の軍事占領。
・シリア難民危機。
・シリアの水の安全保障。
どれも緊急な対策を要する問題ばかりだが、シリア当局が最重要視しているのは水の問題だ。シリア当局は、ユーフラテス川上流に位置しているトルコが、川の水量をコントロールし、下流のシリアとイラクに対して水を武器として使用し、これにより何十万人もが水へのアクセスを奪われたと非難した。ユーフラテス川はシリアの水需要の56%を供給している。
トルコ側では通常、下流での水不足は旱魃の所為だと主張するが、シリア側はこれに真っ向から異論を唱え、トルコからの保証を取り付けるよう、ロシアとイランの調停者に要求した。
旱魃が起こっているのは本当で、この旱魃の影響を受けているのは西アジアと北アフリカ、特にシリア、イラク、ヨルダン、レバノンだが、これらの国々の農業大臣達はこの危機に共同で取り組む為、最近ダマスカスで会合し、共同協力プログラムについて話し合った。
ユーフラテス・チグリス川を巡るトルコ、シリア、イラク間の紛争は何十年も前から続いている。トルコはこれらを国境を越えた川として分類することを拒否しているが、これは川の水を共有するに際して国際法は適用されず、当てにならない二国間協定が頼りであることを意味する。
1987年にトルコとシリアとの間で議定書が結ばれたが、トルコ側はこの条件を厳密には順守しなかった。2011年にトルコが対シリア・レジームチェンジ工作に加担して水を兵器化すると、状況は悪化した。
トルコは現在、22のダムと19の発電所の建設を目指すグレート・アナトリア・プロジェクトを進めているが、これは明らかに1987年の議定書に違反する動きだ。

低水位とそれによる断水はシリアとイラクに以下の問題を引き起こしている。
・シリアの農家に深刻な打撃を与え、特にシリア東部で食料安全保障を悪化させている。
・川の水の塩分濃度と汚染のレヴェルをを増大させている。
・多くの都市や村から電力を奪っている。
・イラクの水供給の割合を更に減らし、前例の無い旱魃の危機を齎した。
・断水はまた戦争で荒廃したシリアでコレラが蔓延する一因となっている。
2019年にトルコで2番目に大きいイリス・ダムが稼働して以来、イラクでは旱魃の影響が急速に悪化している。トルコ政府は約束を守るように訴えても耳を貸さず、悲惨な結果を無視している。イラク当局は水量が僅か30%にまで減少した為、次の農業シーズンには大惨事が起こるだろうと警告している。
この動きはここ80年で最悪と言われる旱魃の波の中で起こっている。支援団体は、旱魃前の2020年に比べて、シリア北東部の2022年の農産物生産は80%以上減少したと推定している。
ロシアとイランのの支援によるシリアとトルコの和解交渉は、2023年3月に両外相が会談してから急速に進んだ。2011年にシリアに対するハイブリッド戦争が開始されて以来、両国が公開会談を行うのはこれが初めてだった。
だがトルコ軍によるシリア北部の占領、シリア人とクルド人の難民・避難民危機、トルコが支援するシリア北西部のジハード主義派閥、水の安全保障、その他の経済問題を含む重要な問題について、具体的な突破口は今だ見出せないでいる。
情報筋に拠れば、トルコは経済問題と難民危機を優先し、軍の撤退と水問題は後回しにしている。他方シリアの方では全ての問題について具体的なスケジュールの作成を要求している。但し水の安全保障問題は生活水準に大きな影響を与え、難民の帰還の為のインフラ復旧にも必要な為、この問題が緊急性を帯びていることについては意見の一致が見られたと云う。
ロシアは国連安保理で何度も水問題を取り上げて来ており、トルコ経由で「人道支援物資」(実際には殆ど反政府武装組織の手に渡っている)を届ける議論の際に、シリアの水道と電力網の修復を条件に付けている。
トルコは2023/05/14に大統領選を控えて国内が二分されている為、シリアとトルコの和解交渉は現在小康状態なので、明確な合意が結ばれるのは選挙後まで延期されるかも知れない。
但しクレイドルの情報筋は、今後の交渉によってシリアとイラクの水の分配が増やされるかも知れないと語っている。トルコが今後本気で近隣諸国と共に進みたいと思うなら、水問題の修復は最優先課題だ。
危機はまだ厳然として続いている。だが水問題への関心が地域内で新たに高まり、特にトルコとシリアを襲った大地震の余波によって更に大きな人道的大惨事が引き起こされることが懸念される中、西アジアの関係諸国全員がこの問題を優先している様に見える。これらの交渉の成功は、地域の人々の当面の生活に影響を与えるだけでなく、インフラの復旧と難民の帰還に長期的な影響を与えるだろう。
Water security takes center stage in Syria-Turkiye talks
2023/04/04、ロシアの仲介により、シリア、トルコ、イラン、ロシアの代表がモスクワで5時間会談した。ここではシリアとトルコとの関係回復に向けた取り組みに於ける未解決の問題が話し合われたが、焦点は以下のものだ。
・シリア北部及び北東部に於けるトルコと米国の軍事占領。
・シリア難民危機。
・シリアの水の安全保障。
どれも緊急な対策を要する問題ばかりだが、シリア当局が最重要視しているのは水の問題だ。シリア当局は、ユーフラテス川上流に位置しているトルコが、川の水量をコントロールし、下流のシリアとイラクに対して水を武器として使用し、これにより何十万人もが水へのアクセスを奪われたと非難した。ユーフラテス川はシリアの水需要の56%を供給している。
トルコ側では通常、下流での水不足は旱魃の所為だと主張するが、シリア側はこれに真っ向から異論を唱え、トルコからの保証を取り付けるよう、ロシアとイランの調停者に要求した。
旱魃が起こっているのは本当で、この旱魃の影響を受けているのは西アジアと北アフリカ、特にシリア、イラク、ヨルダン、レバノンだが、これらの国々の農業大臣達はこの危機に共同で取り組む為、最近ダマスカスで会合し、共同協力プログラムについて話し合った。
ユーフラテス・チグリス川を巡るトルコ、シリア、イラク間の紛争は何十年も前から続いている。トルコはこれらを国境を越えた川として分類することを拒否しているが、これは川の水を共有するに際して国際法は適用されず、当てにならない二国間協定が頼りであることを意味する。
1987年にトルコとシリアとの間で議定書が結ばれたが、トルコ側はこの条件を厳密には順守しなかった。2011年にトルコが対シリア・レジームチェンジ工作に加担して水を兵器化すると、状況は悪化した。
トルコは現在、22のダムと19の発電所の建設を目指すグレート・アナトリア・プロジェクトを進めているが、これは明らかに1987年の議定書に違反する動きだ。

低水位とそれによる断水はシリアとイラクに以下の問題を引き起こしている。
・シリアの農家に深刻な打撃を与え、特にシリア東部で食料安全保障を悪化させている。
・川の水の塩分濃度と汚染のレヴェルをを増大させている。
・多くの都市や村から電力を奪っている。
・イラクの水供給の割合を更に減らし、前例の無い旱魃の危機を齎した。
・断水はまた戦争で荒廃したシリアでコレラが蔓延する一因となっている。
2019年にトルコで2番目に大きいイリス・ダムが稼働して以来、イラクでは旱魃の影響が急速に悪化している。トルコ政府は約束を守るように訴えても耳を貸さず、悲惨な結果を無視している。イラク当局は水量が僅か30%にまで減少した為、次の農業シーズンには大惨事が起こるだろうと警告している。
この動きはここ80年で最悪と言われる旱魃の波の中で起こっている。支援団体は、旱魃前の2020年に比べて、シリア北東部の2022年の農産物生産は80%以上減少したと推定している。
ロシアとイランのの支援によるシリアとトルコの和解交渉は、2023年3月に両外相が会談してから急速に進んだ。2011年にシリアに対するハイブリッド戦争が開始されて以来、両国が公開会談を行うのはこれが初めてだった。
だがトルコ軍によるシリア北部の占領、シリア人とクルド人の難民・避難民危機、トルコが支援するシリア北西部のジハード主義派閥、水の安全保障、その他の経済問題を含む重要な問題について、具体的な突破口は今だ見出せないでいる。
情報筋に拠れば、トルコは経済問題と難民危機を優先し、軍の撤退と水問題は後回しにしている。他方シリアの方では全ての問題について具体的なスケジュールの作成を要求している。但し水の安全保障問題は生活水準に大きな影響を与え、難民の帰還の為のインフラ復旧にも必要な為、この問題が緊急性を帯びていることについては意見の一致が見られたと云う。
ロシアは国連安保理で何度も水問題を取り上げて来ており、トルコ経由で「人道支援物資」(実際には殆ど反政府武装組織の手に渡っている)を届ける議論の際に、シリアの水道と電力網の修復を条件に付けている。
トルコは2023/05/14に大統領選を控えて国内が二分されている為、シリアとトルコの和解交渉は現在小康状態なので、明確な合意が結ばれるのは選挙後まで延期されるかも知れない。
但しクレイドルの情報筋は、今後の交渉によってシリアとイラクの水の分配が増やされるかも知れないと語っている。トルコが今後本気で近隣諸国と共に進みたいと思うなら、水問題の修復は最優先課題だ。
危機はまだ厳然として続いている。だが水問題への関心が地域内で新たに高まり、特にトルコとシリアを襲った大地震の余波によって更に大きな人道的大惨事が引き起こされることが懸念される中、西アジアの関係諸国全員がこの問題を優先している様に見える。これらの交渉の成功は、地域の人々の当面の生活に影響を与えるだけでなく、インフラの復旧と難民の帰還に長期的な影響を与えるだろう。
- 関連記事
-
-
ラドスワフ・シコルスキ 2023/05/08
-
米国は南シナ海でのプレゼンスを強化(要点) 2023/05/08
-
水の安全保障がシリアとトルコの会談の主役に(抄訳と補足) 2023/05/07
-
米国は世界の軍事支出の約40%を占めている(ロシアの10倍、中国の3倍) 2023/05/07
-
US-EU-NATOがソマリランド分離主義者と会談(抄訳と補足) 2023/05/06
-
スポンサーサイト