米国がスーダンの「ディープステート」戦争の責任をロシアになすりつけようとしている理由を説明しよう(要点)
「スーダンの内戦に於て、ロシアはRSFを支援している」と云う報道を巡る複雑な地政学的状況についてのアンドリュー・コリブコ氏の分析。
Here’s Why The US Is Trying To Pin The Blame For Sudan’s “Deep State” War On Russia
2023/04/21、CNNは「ロシアのワグナーがスーダン軍と戦っている民兵指導者を武装させている証拠が浮上」とする独占記事を発表した。この記事はリビアとシリアの間でロシア軍の輸送活動が増加していることを衛星画像が示していると主張し、これは、リビアのハフタル将軍がワグナーの代理として地対空ミサイル(SAM)を、スーダンの迅速支援部隊(Rapid Support Forces/RSF)の指導者であるモハメド・ハムダン・ダガロ将軍(通称「ハメディ」)に供給しているという噂を裏付けるものだと主張している。
他方、WSJは2023/04/19にで、「スーダン紛争で対立するそれぞれの側を、リビアの民兵とエジプト軍が支援している」と云う独占記事を発表している。
これらの報道は互いに補完し合うものだが、ハメディもワグナーも、この件を否定している。
またスーダンの駐ロシア大使はインタビューで「ロシアは我々にとって友好的な国です。先週の土曜日(04/15)にこれらの出来事が始まって以来、我々はロシア外務省と直接連絡を取り合って来ました」と述べている。スーダン大使は国際的に認められている、スーダン国軍(Sudanese Armed Forces/SAF)のブルハーン最高司令官率いるスーダン政府を代表している為、ワグナーとRPFが繋がっているとする西洋メディアの主張を信じていないと云う公の意思表示を行ったことは重要だ。
だがこの状況がこの儘続くとは限らない。和平交渉が実現しない限り、72時間のイード(犠牲際)停戦の後も戦闘は継続するだろうが、SAFがRSFを打ち負かすことが出来ず、それどころか劣勢に陥った場合、ブルハーンは西洋諸国から直接軍事支援を引き出す為に、この反ロシア・プロパガンダを鸚鵡返しにし始めるかも知れない。
AP通信とポリティコは、匿名の当局者の証言を引用して、米国はスーダンから米国人が避難する可能性に備える為、近くのジブチに追加の軍隊を集めていると報じているので、米軍の介入は有り得ない事態ではない。
また、米国大使館は大使館の装甲車がRSFによって意図的に標的にされて攻撃を受けたと主張しているので、これを口実にペンタゴンがSAFを武装させるか、RSFを攻撃するシナリオも考えられる。
ブルハーンがスーダンとロシアとの海軍基地協定をドブに捨てる覚悟をした上で反ロシアの物語を繰り返した場合、バイデン政権は「クレムリンのクーデターからスーダンの民主主義を守る」と云う根拠に基付いて軍事介入を正当化することが出来る様になる。その場合、この最新の紛争はロシアがRSFを支援して引き起こした、と云うことにされるだろう。
この流れは、ロシアをアフリカの不安定化勢力として描き出す情報戦の一貫として理解する必要が有る。その目的は、ロシアの民主的安全保障の魅力を侵食し、アフリカに対する西洋の影響力の衰退を逆転させることだ。
またこの物語ではエジプト(SAFを支援)とロシア(RSFを支援)は対立していると云うことになる為、両国の関係に深刻な影響を与える可能性が有る。最近も、エジプトがワシントンからの圧力の下でロシアにミサイルを供給する秘密計画を放棄し、代わりにキエフに武器を送ることに同意したと暴露されて、両国の関係は打撃を受けたばかりだ。
またエジプトとロシアは03/20に、ロシアの工業地帯で生産された製品をエジプトで販売する協定に署名したばかりだが、ブルハーンが反ロシア・キャンペーンに加担した場合、彼を支援するエジプトは、ロシア向けの特別ゾーン建設への投資を削減することによってこれに報復する可能性が有る。
更に、RSFの同盟者であるリビアのハフタル将軍を支援しているUAE(アラブ首長国連邦)は、この物語では(前述のエジプトのリークに絡んで)ロシアと密かに同盟を結んでいると云うことにされている為、状況は更にややこしくなる。只でさえUAEは対ロシア制裁に加担していないことで米国から敵視されており、秘密同盟の話は新冷戦に於てUAEが中立を保っていると云う従来の立場にも反している為、この物語は意図的に増幅される可能性が有る。
また、スーダンの隣国である中央アフリカ共和国(CAR)が、ハイブリッド戦争に悩まされつつもまだ国家として存続しているのは、ロシアの軍事支援のお陰だ。ロシアはスーダン経由でCARとそこに駐留する自軍への補給を行っているが、ブルハーンがこのロシアの特権を取り消せば、これは遮断される可能性が有る。
注目すべきもうひとつの戦略的要因は、チャドとロシアの関係だ。米国はロシアがワグナーを通じて反政府武装勢力を武装させ、チャド大統領暗殺を企てていると主張したが、2023/04/07にチャドから追放されたのはロシアではなくドイツの大使だった。
AP通信の報道は、チャドに逃げ込んだSAFの兵士達をチャドが拘束し、SAFがチャドから作戦を行っていると云う印象を与えないようにしたことを伝えているが、同時にまたチャドがSAFを支援する可能性も指摘している。RSFを構成するリゼイガト族はチャド国内にも大勢住んでいるので、隣国スーダンでRSFが勝利する様なことになれば、チャド国内のアラブ人達に、政権を奪う力を与えることになるかも知れない。
フランスの影響力が強いチャドがスーダンの「ディープステート」戦争に巻き込まれれば、反ロシアの時流がチャドの政権転覆の試みを中断させる可能性が高いと西洋から吹き込まれたことを信じて、チャドがCARの反政府勢力を支援することになるかも知れない。ロシアに対して今度はCAR内で新たな陰謀が立ち上げられることになる。
以上の点を纏めると、米国が「ロシアがRSFを支援している」と云う物語を広めている目的は以下の様なものだと考えられる:
1)米軍の支援と引き換えに、これらの主張に信憑性を与えるようブルハーンを説得する。
2)ロシアの海軍基地の権利を撤回し、CARへの上空飛行アクセスを遮断することも要求する。
3)スーダンで米国人の「避難作戦」を開始すると云う口実で、SAFへの直接支援を検討する。
4)ロシアとUAEをアフリカの不安定化勢力として描き出すことで、両国の協力政策の信用を落とす。
5)スーダンの隣国であるチャドとエジプトの、ロシアとの関係を危機に陥れようとする。
6)上記のシナリオを利用して、アフリカでロシアに対抗する為の地域連合を結成する。
7)チャドを唆して、ロシアの同盟国であるCAR内で、フランスが支援する反政府勢力/テロリストによる攻撃を支援するようにさせる。
8)サヘル地域でのロシアの影響力を打ち砕く為に、ロシアの同盟国であるマリで模倣の代理戦争を企てる。
9)アフリカ大陸全体で採用する前に、この新たなハイブリッドの手法を完成させる。
10)最終的にアフリカ大陸全体を、新冷戦に於ける最大の代理戦争の戦場に変える。
Here’s Why The US Is Trying To Pin The Blame For Sudan’s “Deep State” War On Russia
2023/04/21、CNNは「ロシアのワグナーがスーダン軍と戦っている民兵指導者を武装させている証拠が浮上」とする独占記事を発表した。この記事はリビアとシリアの間でロシア軍の輸送活動が増加していることを衛星画像が示していると主張し、これは、リビアのハフタル将軍がワグナーの代理として地対空ミサイル(SAM)を、スーダンの迅速支援部隊(Rapid Support Forces/RSF)の指導者であるモハメド・ハムダン・ダガロ将軍(通称「ハメディ」)に供給しているという噂を裏付けるものだと主張している。
他方、WSJは2023/04/19にで、「スーダン紛争で対立するそれぞれの側を、リビアの民兵とエジプト軍が支援している」と云う独占記事を発表している。
これらの報道は互いに補完し合うものだが、ハメディもワグナーも、この件を否定している。
またスーダンの駐ロシア大使はインタビューで「ロシアは我々にとって友好的な国です。先週の土曜日(04/15)にこれらの出来事が始まって以来、我々はロシア外務省と直接連絡を取り合って来ました」と述べている。スーダン大使は国際的に認められている、スーダン国軍(Sudanese Armed Forces/SAF)のブルハーン最高司令官率いるスーダン政府を代表している為、ワグナーとRPFが繋がっているとする西洋メディアの主張を信じていないと云う公の意思表示を行ったことは重要だ。
だがこの状況がこの儘続くとは限らない。和平交渉が実現しない限り、72時間のイード(犠牲際)停戦の後も戦闘は継続するだろうが、SAFがRSFを打ち負かすことが出来ず、それどころか劣勢に陥った場合、ブルハーンは西洋諸国から直接軍事支援を引き出す為に、この反ロシア・プロパガンダを鸚鵡返しにし始めるかも知れない。
AP通信とポリティコは、匿名の当局者の証言を引用して、米国はスーダンから米国人が避難する可能性に備える為、近くのジブチに追加の軍隊を集めていると報じているので、米軍の介入は有り得ない事態ではない。
また、米国大使館は大使館の装甲車がRSFによって意図的に標的にされて攻撃を受けたと主張しているので、これを口実にペンタゴンがSAFを武装させるか、RSFを攻撃するシナリオも考えられる。
ブルハーンがスーダンとロシアとの海軍基地協定をドブに捨てる覚悟をした上で反ロシアの物語を繰り返した場合、バイデン政権は「クレムリンのクーデターからスーダンの民主主義を守る」と云う根拠に基付いて軍事介入を正当化することが出来る様になる。その場合、この最新の紛争はロシアがRSFを支援して引き起こした、と云うことにされるだろう。
この流れは、ロシアをアフリカの不安定化勢力として描き出す情報戦の一貫として理解する必要が有る。その目的は、ロシアの民主的安全保障の魅力を侵食し、アフリカに対する西洋の影響力の衰退を逆転させることだ。
またこの物語ではエジプト(SAFを支援)とロシア(RSFを支援)は対立していると云うことになる為、両国の関係に深刻な影響を与える可能性が有る。最近も、エジプトがワシントンからの圧力の下でロシアにミサイルを供給する秘密計画を放棄し、代わりにキエフに武器を送ることに同意したと暴露されて、両国の関係は打撃を受けたばかりだ。
またエジプトとロシアは03/20に、ロシアの工業地帯で生産された製品をエジプトで販売する協定に署名したばかりだが、ブルハーンが反ロシア・キャンペーンに加担した場合、彼を支援するエジプトは、ロシア向けの特別ゾーン建設への投資を削減することによってこれに報復する可能性が有る。
更に、RSFの同盟者であるリビアのハフタル将軍を支援しているUAE(アラブ首長国連邦)は、この物語では(前述のエジプトのリークに絡んで)ロシアと密かに同盟を結んでいると云うことにされている為、状況は更にややこしくなる。只でさえUAEは対ロシア制裁に加担していないことで米国から敵視されており、秘密同盟の話は新冷戦に於てUAEが中立を保っていると云う従来の立場にも反している為、この物語は意図的に増幅される可能性が有る。
また、スーダンの隣国である中央アフリカ共和国(CAR)が、ハイブリッド戦争に悩まされつつもまだ国家として存続しているのは、ロシアの軍事支援のお陰だ。ロシアはスーダン経由でCARとそこに駐留する自軍への補給を行っているが、ブルハーンがこのロシアの特権を取り消せば、これは遮断される可能性が有る。
注目すべきもうひとつの戦略的要因は、チャドとロシアの関係だ。米国はロシアがワグナーを通じて反政府武装勢力を武装させ、チャド大統領暗殺を企てていると主張したが、2023/04/07にチャドから追放されたのはロシアではなくドイツの大使だった。
AP通信の報道は、チャドに逃げ込んだSAFの兵士達をチャドが拘束し、SAFがチャドから作戦を行っていると云う印象を与えないようにしたことを伝えているが、同時にまたチャドがSAFを支援する可能性も指摘している。RSFを構成するリゼイガト族はチャド国内にも大勢住んでいるので、隣国スーダンでRSFが勝利する様なことになれば、チャド国内のアラブ人達に、政権を奪う力を与えることになるかも知れない。
フランスの影響力が強いチャドがスーダンの「ディープステート」戦争に巻き込まれれば、反ロシアの時流がチャドの政権転覆の試みを中断させる可能性が高いと西洋から吹き込まれたことを信じて、チャドがCARの反政府勢力を支援することになるかも知れない。ロシアに対して今度はCAR内で新たな陰謀が立ち上げられることになる。
以上の点を纏めると、米国が「ロシアがRSFを支援している」と云う物語を広めている目的は以下の様なものだと考えられる:
1)米軍の支援と引き換えに、これらの主張に信憑性を与えるようブルハーンを説得する。
2)ロシアの海軍基地の権利を撤回し、CARへの上空飛行アクセスを遮断することも要求する。
3)スーダンで米国人の「避難作戦」を開始すると云う口実で、SAFへの直接支援を検討する。
4)ロシアとUAEをアフリカの不安定化勢力として描き出すことで、両国の協力政策の信用を落とす。
5)スーダンの隣国であるチャドとエジプトの、ロシアとの関係を危機に陥れようとする。
6)上記のシナリオを利用して、アフリカでロシアに対抗する為の地域連合を結成する。
7)チャドを唆して、ロシアの同盟国であるCAR内で、フランスが支援する反政府勢力/テロリストによる攻撃を支援するようにさせる。
8)サヘル地域でのロシアの影響力を打ち砕く為に、ロシアの同盟国であるマリで模倣の代理戦争を企てる。
9)アフリカ大陸全体で採用する前に、この新たなハイブリッドの手法を完成させる。
10)最終的にアフリカ大陸全体を、新冷戦に於ける最大の代理戦争の戦場に変える。
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