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ダルフール戦争と殺戮(要点と補足)

2003年から続く所謂ダルフール戦争については、その真相について書かれた文献は限られているのだが、エドワード・ハーマン氏の『ジェノサイドの政治学』がこの件の複雑さについて解説しているので、多少補足しつつ要点を纏めてみた。




誤ったジェノサイド報道

 推定30万人が死亡したとされるダルフール紛争は、西洋のメディアでは悪党と犠牲者の物語として、善と悪との二分法に基付く単純な構図で語られるのが常だ。だがこれは複雑な政治状況を道徳劇に単純化してしまっている。

 公式の物語では、悪党は「アラブ人(スーダン政府の主体となっている)」、犠牲者は「アフリカ人」と云うことになっている。「スーダンのアラブの支配者」と「非アラブで黒人のアフリカ・スーダン人」との対立と云う訳だ。

 だが2005年の国連報告書では、「アラブ対アフリカ人」と云う構図は、紛争の結果と原因を取り違えていると結論付けている。

 報告書は殺戮の対象となった様々な部族と殺戮を実行した部族との間に民族的な違いは無く、「彼等は同じ言語(アラビア語)を話し、同じ宗教(イスラム教)を信仰している」と述べている。

 またこの報告書は、重大な人権侵害(村への攻撃、民間人の殺害、強姦、略奪、強制移動)は数多く行われたが、スーダン政府はジェノサイド政策を遂行しようとしていた訳ではないと結論を出している。

 ダルフールが悪役に選ばれたのは、恐らく以下の幾つかの条件を満たしていたからだと思われる。
 ・政府はイスラム教徒のアラブ人が主体となっている(悪役にはうってつけだ)。
 ・スーダンには石油が有るが、政府と強い関係を構築しているのは中国であって、米国や西洋諸国ではない(つまり間接的に中国が情報攻撃の対象となった)。
 ・当時イラクやパレスチナで行われていた残虐行為から国際世論の目を逸らさせる必要が有った。近くのコンゴ民主共和国に於ける西洋諸国の資源収奪についても同じことが言える。



紛争の真因

 2006年の国連報告書に拠ると、地域の緊張の原因は環境の悪化だ。報告書は「気候の不安定性、旱魃、砂漠化、人口増加、食糧不安、希少資源の過剰開発」等の様な様々な要因が紛争の下地を作っており、「ダルフールはその地方の人口を維持出来なくなる程に劣化している」と結論付けている。
 
 民族紛争の根源には環境危機が横たわっており、気候変動の影響も指摘されている。「暴力が勃発したのが旱魃の最中だったことは偶然ではない。」

  2007年の米海軍分析センターの報告書は、「その性質に於て部族や派閥、ナショナリズム間の闘争と見えるものは、往々にして水の供給の減少や農業生産性の低下によって引き起こされる」と指摘した上で、ダルフールの状況も、土地資源問題が根底に在ると述べている。ダルフールは、「気候関連の要因が既存の些細な問題を悪化させて臨界点を突破させる」事例研究を提供するものだそうだ。



「忘れられた」ジェノサイド?

 ダルフール紛争は屢々「見過ごされたジェノサイド」と報じられる。だが実際にはダルフールは2008年末までに5年連続で世界最大の人道支援作戦の恩恵を受けており、80を超える組織と1,500人の支援要員がこれに関与している。「忘れられた」「気付かれない」などと報じられた割に、ダルフールは当時の世界中の危機の中で最も頻繁に宣伝されていた。ダルフール問題を巡って多くのNGO、セレブ、学生達が熱心に関心を寄せ、オンライン活動や感傷的な旅行キャンペーン等も展開された。

 その一方で、本当に殆ど報道されなかった危機も存在する。スーダンの近く、コンゴ民主共和国では、「第二次大戦以降最悪の危機」と呼ばれた戦争が続いていたが、1998〜2007年の時点で540万人(つまりダルフールの約20倍)の死者が出ていたと見積もられている。こちらはその存在自体を知っている人が少なかったが、その理由は恐らくこの戦争の主犯が米英加等の西洋諸国と、その代理勢力(主にルワンダとウガンダ)だった所為だろう。それにコンゴの政府はイスラム教徒ではなかった。

 同時期の別の大量殺戮、2003〜09年のイラク侵略戦争とダルフール紛争のデータを比べてみると、死亡者数はイラクの方が3倍以上だが(制裁による死者数まで含めると6倍になる)、ダルフール報道ではイラクの90倍の頻度で「ジェノサイド」と云う表現が使われていた。自然発生した紛争ではなく悪い奴が事前に計画した組織的な殺戮なら、適切に介入すれば予防することも出来る筈だ、と云う心理的誘導が行われた訳だ(「予防可能」と云う文句がCOVID-19パンデミック詐欺に於てどれだけ重要な役割を果たしたかを思い出そう。人々は複雑で入り組んだ現実を理解するよりも、分かり易く単純でコントロール可能な世界観を嗜好する傾向が有る。英語の論文を読んだり健康や生命活動とは何かについて時間を掛けて学ぶよりも、幼稚園児でも理解出来る「マスクで感染予防」と云う疑似科学の方がずっと簡単で親しみ易い)。



「もっと人道的介入を」?

 この誤ったフレーミングに基付く報道により、「米国や国連は人道的危機を解決する為に人道的介入を積極的に行うべきだ」と世論が誘導された。例えば米国ホロコースト記念博物館が提携するジェノサイド防止タスクフォースの2008年の報告書、「ジェノサイドを防ぐ:米国の政策決定者向けの青写真」を基に、著者のマデレーン・オルブライト等はオバマ政権が「ジェノサイドを防ぐ」と云う名目で諸外国への介入を強化することを求めた。つまり放っておいたらジェサイドなんかをやらかす愚かで道徳的に劣った肌が白くない人々には、世界の保安官たるアメリカ帝国が慈悲深く介入して適切な管理を行い、自由と民主主義と人権を齎してやらなければならないのだ、と云う訳だ。
Darfur Genocide


 著作家のスティーヴン・フェイクとケヴィン・ファンクは、イラクやパレスチナでの殺戮に反対する活動と違ってダルフールに関する活動が活発だった要因として、以下の点を挙げている。
 ・その活動は親エスタブリッシュメント層的な理想(イスラエル国防軍の Purity of arms の様なもの。必要な範囲でのみ武器と武力を行使すると云う、実際には全く守られていない建前)に基盤を置いている。
 ・面倒臭い交渉による解決の見通しに気を遣わなくて良い。
 ・アラブ人でイスラム教徒の悪役から、自称情け深い西洋人が武力を行使して肌の黒い犠牲者達を救ってやると云う物語は気持ちが良い。



 そして「国際世論」の関心がダルフールに集まっている間に、コンゴやイラクやアフガニスタンやパキスタンやパレスチナでの途方も無い殺戮は、全く邪魔されること無く続けられた。



終わらせて貰えない「ジェノサイド」

 2009年、国連とアフリカ連合の合同平和維持軍の司令官マーティン・ルーサー・アグワイは、最早ダルフールで戦争は起こっておらず、人々は水や土地の問題を地域レヴェルで解決しようとしており、残るは治安の問題だけだと宣言した。

 だがこの発言は多くの組織や活動家達によって直ちに却下され、それどころか新たなキャンペーンが展開された。それらは例えば以下のものだ。
 ・Save Darfur Coalition
 ・国際危機グループ
 ・Enough Project
 ・Keep the promise:Sudan Now
 ・Stop Genocide Now
 ・Genocide Intervention Network
 ・Investors Against Genocide

 スーダン研究の第一人者、アレックス・デ・ワールはこれらの「活動家達」を、「起こっていないジェノサイド」に焦点を当て、「既に終わった殺戮を止める」為に米国の介入を求めていると痛罵している。「『ダルフールを救え』は、スーダンや、実際のところダルフールに関するものでは全くない。頭の中で拵えた共感と、アメリカ国内の政治アジェンダを生み出すことに関するものだ。(略)恥を知れ、恥を知れ、恥を知れ。」


 これらの展開にも関わらず、西洋諸国政府、国連、NGO、人権セレブ、それに大手メディアは、今に至るまでダルフールの危機を「ジェノサイド」とフレーミングすることに成功し続けている。ダルフールに向けて動員される感情は、西洋諸国が世界各地で引き起こしている暴力に対するそれらとは実に対照的だ。
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川流桃桜

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