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ミロシェヴィッチの死とNATOの責任(要点)

ユーゴスラヴィア国際戦犯法廷で弁護団の一員として、実際に何が起きたのかをその目で見て経験した国際弁護士クリストファー・ブラック氏の著書より、ミロシェヴィッチの死に関する部分を纏めてみた。因みにミロシェヴィッチの無罪判決は2016年、他の多くの判決に紛れてひっそりと発表されたが、その頃には「共産主義最後の独裁者」であり、ビル・クリントンからは「現代のヒトラー」と呼ばれたこの人物が、冤罪によって汚名を着せられていたと云う真相に関心を向ける者など、殆ど居なかった。




 ユーゴスラヴィアの元大統領スロボダン・ミロシェヴィッチに対するハーグの国際戦犯法廷は、当初は世紀のドラマとして鳴り物入りで連日メディアの一面を飾った。

 だが蓋を開けてみると、起訴は具体的な証拠無しに行われたもので、主張された罪状は混乱しており、精査に耐え得る様な証拠は全く提示されなかった。メディアでの扱いはそれと共に急速に後退して行った。

 法廷は司法のあらゆる基本原則を踏み躙る、NATOの見せ物裁判に過ぎなかったが、それでも失敗は最初から明白だった。NATOにとって何よりも誤算だったのは、ミロシェヴィッチが冤罪に対して怯まず果敢に立ち向かい、正々堂々と自己弁護を行ったことだった。彼の次の様な発言こそが問題の核心だった。

 「これは政治裁判です。ここで問題になっているのは、私が犯罪を犯したかどうかではありません。問題になっているのは、考え得るあらゆる法律家の専門的知識を超えた結果を後に引き起こした特定の意図が、私に帰せられていることです。ここで肝心なのは、旧ユーゴスラヴィアでの出来事に関して、真実が語られなければならないと云うことです。論じられなければならないのはこの点であって、手続き上の問題についてではありません。何故なら私がここに座っているのは、私が特定の犯罪について告発されているからではないからです。私がここに座っているのは、あれやこれやの党派の意図に反する政策を実行したことで告発されているからです。」
 
 彼を有罪にするのは不可能だった。だが一旦始めてしまったからには、続けなければならない。若しミロシェヴィッチを釈放しようものなら、ユーゴに対するNATO軍の攻撃をそれまで正当化して来た巨大な嘘のプロパガンダの枠組みが、根底から崩れ去ってしまう。ユーゴを違法に爆撃した真意について人々が疑問を持ち始めれば、ユーゴの民主主義を破壊し、セルビアを傀儡政権が支配する保護領へと貶めたNATOこそが犯罪者であると云う真実が明るみになってしまう。そうなればNATOの信頼は地に堕ち、ミロシェヴィッチは再び、人々に人気の有るバルカンの政治指導者として返り咲くことになってしまう。それだけは避けねばならなかった。

 法廷は行き詰まりだった。ミロシェヴィッチを釈放したり、戦争についての真実を認めたりせずに裁判を終わらせるには、論理的な打開策はひとつだった。ミロシェヴィッチが監獄の中で死に、全てがウヤムヤになることだ。

 違法に誘拐されて収監されたミロシェヴィッチは、心臓に深刻な疾患を抱えていたが、法廷は保釈を認めなかった。また法廷は彼がロシアで回復に必要な詳しい検査や治療を受けることを許可せず、出廷の前に安静にして休息を取ることも許さなかった。法廷のストレスが彼を死に追い遣ることを、医師達は何度も警告したが、これらの警告は無視された。後にこの件に関してNATO自身が作成した「パーカー報告書」は、NATOを免罪する内容のものだったが、これらの事実関係を認めている。

 Wikileaksが明らかにした文書に拠れば、ミロシェヴィッチが監禁されていた国連の監獄は、彼の健康状態を米国当局に報告し続けていた。

 死の数日前、ミロシェヴィッチはロシア大使館に宛てて、自分は毒を盛られていると思うと云う内容の書簡を送った。だが返事が届く前に、彼は死亡した。2006/03/11、汚名を着せられた儘での無念の死だった。

 パーカー報告書は、彼の死について、幾つか説明されていない疑問が存在していることを認めている。彼の体内からは、リファンピシンとドロペリドールと云うふたつの薬物が発見されたが、これらの薬物がどうやって彼の体内に入ったのか、またそれらが彼の健康状態にどの様な影響を齎したのか、適切な調査は行われなかった。

 また彼の遺体が検査の為に医療施設に送られるまでには長い時間を要したが、これも何故なのか説明がされていない。

 彼の死を巡る状況について、独立した国際的な調査を要求したのはロシアだけだったが、この訴えは黙殺された。出されたのはパーカー報告書だけで、真相は今だ不明。そして誰も責任を問われていない。
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川流桃桜

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