イエメンの三分割は略既成事実だ(要点)
地政学アナリスト、アンドリュー・コリブコ氏の分析。
Yemen’s Trifurcation Is Arguably A Fait Accompli

「世界最悪の人道危機」が続くイエメン共和国は形式的にはサウジの傀儡政府が国連によって承認されているが、事実上は、UAE、イラン、サウジのそれぞれの勢力圏に分割されている。
1)UAEは南部暫定評議会(STC)を通じて南部全体に影響力を行使している。
2)イランはフーシ派を通じて北部に影響力を行使している。
3)サウジはイスラ党(Islah Party)と国家の盾軍(Nation Shield Forces/NSF)を通じて東部に影響力を行使している。
中国の仲介によってイランとサウジは和解しつつあるが、自国の勢力圏を維持する為に他の2つの勢力と争わせているサウジから、南イエメン政府が独立を回復しなければ、新たな戦争に繋がる可能性も有る。
また石油を巡ってサウジとUAEの亀裂が拡大していることが報じられており、サウジがUAEを交渉から閉め出そうとするシナリオも考えられる。
これらの状況から、予想される最も可能性の高いシナリオは以下の3つだ。
1)フーシ派が関与する「全国統一政府」の形成。
2)イエメンは北と南へ分かれるが、後者は連邦国家としてUAEとサウジ、それぞれの同盟に分割される。
3)正式に三分割される。
UAEが支援する南イエメンは独立した統一国家の回復を求めている為、どのシナリオでも抗議が起こるだろう。
フーシ派とSTCの間には余りにも多くの不和が有るので、1)が実現する可能性は低い。但し実現すれば、イランが支援するフーシ派とサウジが支援する国連承認政府が協力し、UAEが支援するSTCの武装解除を行い、その後に南部を共同で占領する可能性が有る。
イランとサウジが秘密会談を行って2)(事実上の3))か3)のシナリオを進めたとしても、サウジとUAEとの間の代理戦争(イスラ党と国家の盾軍vsSTC)に繋がる可能性が有る。2)でSTCが東部をサウジに無血で引き渡したとしても、世俗的な地元の人々は、宗教的に厳格なイスラ党や人気の無いNSFに抵抗する可能性も有る。
独立や連邦化について国民投票によって平和的に問題解決を図る為には、3つの勢力全てが投票の実施に同意しなければならないが、これが実現する可能性は低い。せめて東部と南部の平和的分離を進めようとしても、統制線(Line of Control)を維持する為に国連の平和維持軍を展開させなくてはならないだろうが、NATOvsロシアの代理戦争を巡って安保理が分裂している現状では、イエメンの状況について国連が合意に達することは期待出来ない。その場合サウジとUAEが自力で互いの統制線を維持し、フーシ派の攻撃抑止の為に北部との統制線も維持しなければならないことになるが、難しければ外部(ロシアか中国)の調停を必要とするかも知れない。
サウジは勢力圏を確立したがっているが、それを正当化する為に、1962〜67年にイエメンが正式に三分割されていた頃の歴史を持ち出して来るかも知れない。この時の国境は現在のそれぞれの勢力圏と略同じだ。だが米国に支援されたサウジは勢力圏の拡大を図っている為、新たな火種が生まれる可能性は否定出来ない。
1)〜3)のどのシナリオでも、当分は暴力的な市民蜂起が続くであろうことは避けられない。但しUAEがましな方を選択してサウジに対して譲歩し、STCに対して連邦化協議に参加するよう働き掛ける可能性も考えられるが、この場合はサウジとUAEが共同でフーシ派に対抗することになり(UAEはサウジの「ジュニア・パートナー」になる)、代理戦争は少なくとも先延ばしにされる。フーシ派もまた分裂には反対するだろうが、これを阻止するだけの力は無い。
何れにせよ最も流血の少ない方法で紛争を終わらせるには、3つの各勢力が互いに譲歩することがベストだ。
1)STCはイエメン再統一を諦める。
2)フーシ派は南部の征服を諦める。
3)国連承認政府は北部の支配を諦める。
サウジもUAEも、多極化へ向かうデリケートな趨勢の中で代理戦争を望んではいないので、互いに妥協する可能性は有る。
Yemen’s Trifurcation Is Arguably A Fait Accompli

「世界最悪の人道危機」が続くイエメン共和国は形式的にはサウジの傀儡政府が国連によって承認されているが、事実上は、UAE、イラン、サウジのそれぞれの勢力圏に分割されている。
1)UAEは南部暫定評議会(STC)を通じて南部全体に影響力を行使している。
2)イランはフーシ派を通じて北部に影響力を行使している。
3)サウジはイスラ党(Islah Party)と国家の盾軍(Nation Shield Forces/NSF)を通じて東部に影響力を行使している。
中国の仲介によってイランとサウジは和解しつつあるが、自国の勢力圏を維持する為に他の2つの勢力と争わせているサウジから、南イエメン政府が独立を回復しなければ、新たな戦争に繋がる可能性も有る。
また石油を巡ってサウジとUAEの亀裂が拡大していることが報じられており、サウジがUAEを交渉から閉め出そうとするシナリオも考えられる。
これらの状況から、予想される最も可能性の高いシナリオは以下の3つだ。
1)フーシ派が関与する「全国統一政府」の形成。
2)イエメンは北と南へ分かれるが、後者は連邦国家としてUAEとサウジ、それぞれの同盟に分割される。
3)正式に三分割される。
UAEが支援する南イエメンは独立した統一国家の回復を求めている為、どのシナリオでも抗議が起こるだろう。
フーシ派とSTCの間には余りにも多くの不和が有るので、1)が実現する可能性は低い。但し実現すれば、イランが支援するフーシ派とサウジが支援する国連承認政府が協力し、UAEが支援するSTCの武装解除を行い、その後に南部を共同で占領する可能性が有る。
イランとサウジが秘密会談を行って2)(事実上の3))か3)のシナリオを進めたとしても、サウジとUAEとの間の代理戦争(イスラ党と国家の盾軍vsSTC)に繋がる可能性が有る。2)でSTCが東部をサウジに無血で引き渡したとしても、世俗的な地元の人々は、宗教的に厳格なイスラ党や人気の無いNSFに抵抗する可能性も有る。
独立や連邦化について国民投票によって平和的に問題解決を図る為には、3つの勢力全てが投票の実施に同意しなければならないが、これが実現する可能性は低い。せめて東部と南部の平和的分離を進めようとしても、統制線(Line of Control)を維持する為に国連の平和維持軍を展開させなくてはならないだろうが、NATOvsロシアの代理戦争を巡って安保理が分裂している現状では、イエメンの状況について国連が合意に達することは期待出来ない。その場合サウジとUAEが自力で互いの統制線を維持し、フーシ派の攻撃抑止の為に北部との統制線も維持しなければならないことになるが、難しければ外部(ロシアか中国)の調停を必要とするかも知れない。
サウジは勢力圏を確立したがっているが、それを正当化する為に、1962〜67年にイエメンが正式に三分割されていた頃の歴史を持ち出して来るかも知れない。この時の国境は現在のそれぞれの勢力圏と略同じだ。だが米国に支援されたサウジは勢力圏の拡大を図っている為、新たな火種が生まれる可能性は否定出来ない。
1)〜3)のどのシナリオでも、当分は暴力的な市民蜂起が続くであろうことは避けられない。但しUAEがましな方を選択してサウジに対して譲歩し、STCに対して連邦化協議に参加するよう働き掛ける可能性も考えられるが、この場合はサウジとUAEが共同でフーシ派に対抗することになり(UAEはサウジの「ジュニア・パートナー」になる)、代理戦争は少なくとも先延ばしにされる。フーシ派もまた分裂には反対するだろうが、これを阻止するだけの力は無い。
何れにせよ最も流血の少ない方法で紛争を終わらせるには、3つの各勢力が互いに譲歩することがベストだ。
1)STCはイエメン再統一を諦める。
2)フーシ派は南部の征服を諦める。
3)国連承認政府は北部の支配を諦める。
サウジもUAEも、多極化へ向かうデリケートな趨勢の中で代理戦争を望んではいないので、互いに妥協する可能性は有る。
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