fc2ブログ

米軍より全人員へ告ぐ:我々は核戦争を戦って勝つことが出来る(要点と補足)

米軍が全人類を滅ぼしかねない極めて危険でイカれた連中の集まりであることをこの上無く雄弁に物語っている米軍向けのガイドについて、多少補足しつつ要点を纏めてみた。
US defense to its workforce: Nuclear war can be won
 元の文書はこちら。
Guide to Nuclear Deterrence in the Age of Great-Power Competition
Guide to Nuclear Deterrence in the Age of Great-Power Competition



 2020年10月、ルイジアナ工科大学研究所が米空軍向けに報告書『大国間競争の時代に於ける核抑止ガイド』を発表した。著者達は全員、核兵器複合体や関連するシンクタンクと直接的・間接的な繋がりを持っている人物達であり、何人かは軍関係や安全保障機関の要職を歴任している。

 このガイドは新冷戦を激化させているロシア中国による核開発に焦点を当てているが、その内容は危険なまでに偏っている。

 弾道弾迎撃ミサイル条約、中距離核戦力条約、イラン核合意等、重要な核抑止の為の取り決めから一方的に撤退してそれらを無力化して来たのは米国であるにも関わらず、ロシアは不正を働く中国は交渉のテーブルに着かないと云う理由から、核軍縮条約は実質的に無意味であると一蹴している。

 他方、ロシアと中国が米国を超えてその軍事能力を向上させている方法を詳細に分析し、それらを理由に、非常に費用の掛かる米国の「核の近代化」プログラムを正当化している。

 米軍は核抑止が失敗するシナリオを検討している。だが「限定的な核戦争」が発生した場合、米国は敵を「打ち負かす」計画を立てている。米国の戦略的核戦力は、「あらゆる潜在的な敵に対するエスカレーション支配と核戦略的優位性を確立する」ことを目指すものだと述べているのだ。

 このガイドは400ページを超える大部のものだが、この中で核兵器による壊滅的な被害について解説しているのは僅か3ページ。ヒロシマやナガサキについては一言も言及しておらず、核の応酬の「翌日」に何が起こるかについても詳しく触れていない。大規模火災の結果として生じる気候に対する悪影響や核の冬は人類文明を終焉させる可能性が有るのだが、このガイドを読んだだけでは、米軍人達は自分達が使用することになる兵器が齎す影響について、殆ど理解しない儘だろう。

 このガイドは、1945年以来の「長期平和」(大国間同士で大規模戦争が起こらなかったこと)は、核兵器と米国の核優位性のお陰であると説明している。民主主義の台頭、グローバルな通商、国際機関、国際法、国境の強化等の他の要因は付随的な意味しか持っていないと言いたいらしい。そして核軍縮は「近い将来までには不可能とは言わないまでも、有りそうにない」ことであり、国家間の紛争を減少させる為に核による人類絶滅のリスクを負うことは「価値の有る取引」であると断言している。

 1962年のキューバ危機は、人類が最も核戦争の瀬戸際に近付いた事件であり、「核抑止」の失敗を示す最大の事例だが、信じられないことにこのガイドは、これこそが核抑止が成功した事例だと主張している。ソ連がキューバからミサイルを撤退させた事実には触れているが、ケネディとフルシチョフが秘密協定を結んで、その見返りに米国がトルコからミサイルを撤退させた経緯については完全に省略しているのだ。核の衝突を回避したのは戦略的核戦力による恫喝ではなく辛抱強い外交交渉であったと云う教訓が、全く学ばれていないのだ。

 人類が今までどれだけ核戦争の瀬戸際に近付いたのか、戦術したキューバ危機を含めて、その実態は一般には殆ど知られていないが、冷戦時には日常茶飯事だった。このガイドは大惨事に繋がる可能性の有る技術的・人的エラーによる多くの誤警報間一髪の事態について、驚くべきことに何ひとつ言及していない。

 大陸間弾道ミサイル(ICBM)の将校達が習熟度試験でカンニングを行なった事件や、キューバ危機の際に統合参謀本部が満場一致でキューバ侵攻を推奨した件、核実験が多くのコミュニティに齎した被害等について、このガイドは全く触れていない。このガイドは、米国が核兵器を完全に管理出来ているかの様に描いているが、実態は大違いだ。

 またこのガイドは、核弾頭を装備した潜水艦、航空機、地上配備ミサイルの三本柱の「核トライアド」が無ければ、敵国は通常兵器か小規模の核兵器による限定的な攻撃でも米国を打ち負かすことが出来ると熱心に主張している。が、100個の核弾頭を積んだ潜水艦1隻だけでも、国ひとつ丸ごと滅ぼす力を持っているのだから、このシナリオは非現実的だ。敵国がこの「小規模な通常攻撃」とやらによって米国を打ち負かすには、米国の核武装潜水艦を全て追跡して排除し、同時にまた決定的に重要な核指揮統制機構(潜水艦基地と空軍基地の双方を、しかも海外のものまで含む)も全て破壊しなければならない。またこのガイドで描かれているシナリオでは、敵国が米国本土の大部分を破壊しても、何故かNATOの同盟諸国は保有している数百発の核弾頭をわざわざ使用することは無いと仮定している。

 このガイドは偶発的に核戦争が起こるリスクを高めると云うICBMに対する批判を却下し、現代の早期警戒システムは冷戦時代よりも数が多く、より高度で、信頼性が高いと主張している。だがこのガイドは、通常攻撃または核攻撃が開始される前に、早期警戒システムと衛星が標的にされる可能性が高いとも指摘している。またこれらのシステムは古く、サイバー・対衛星攻撃に対して脆弱であり、極超音速滑空機等のより高度な搬送ステムは追跡出来ないことも認めている。そして早期警戒システムへの攻撃は、それ自体が核攻撃の証拠として米国の軍人によって解釈される可能性が有る。にも関わらず、このガイドの著者達は、早期警戒システムには十分な実績が有るのだから、偶発的な核戦争のリスクは最小限だと主張している。米国が今まで核戦争を経験していないのだからリスクは無いと云う議論は誤りだ。今まで冷戦が熱い戦争に発展しなかったのは、奇跡の様なものなのだ。

 ガイドは、永続的な米国の核優位性を要求している。核抑止論に基付くなら、最小限の核抑止力、つまり自国が核攻撃を受けた場合の二次攻撃能力にのみ使用する核兵器が必要になる訳だが、ガイドは、米国は二次攻撃能力だけでなく、あらゆる敵に対して限定的な核戦争を戦って勝利する可能性を持たなければならないと主張している。米国は、「有利な条件で戦争を終結させる為の適応能力」を必要としているそうだが、最小限の抑止力では、「攻撃後の交渉の立場」を維持出来なくなるそうだ。ここで想定されているシナリオは、米国と敵国の双方に対して少なくとも数百発の核兵器が使用されたと云うものだが、その場合、恐らく数億人が死亡し、現代文明が崩壊し、核の冬で更に数十億人が飢えるだろう。教えて欲しいのだが、そうした状況下で一体全体何を「交渉」しなければならないと云うのだろう?

 このガイドは、「米国は単なる二次攻撃能力に満足したことは一度も無い」と述べている。この場合の「米国」とは、主に米軍と政府機関のことを指している様だ。最近の世論調査では、米国民の大多数は最小限の核保持による抑止政策を支持しており、圧倒的多数がICBMの段階的廃止を支持している。米国が民主主義国であれば、国民の意思に沿った政策を実施する筈だが、現実は明らかにそうなってはいない。

 ガイドの冒頭部分は、「抑止と保証に関する空軍の批判的思考を開発し育成する」ことを謳っているが、実際には核兵器を扱う軍人達に、かなり偏った一方的な視点を提供している。国民の信頼を得たいのであれば、冷戦の過ちについて批判的に考え、核抑止力と軍備管理の機微を理解する必要が有るが、このガイドは、拡大する核軍備を無批判に正当化し、米国を国際法の上位に位置する例外的存在と見做し、不都合な点はロシアや中国の所為にしている。

 ロナルド・レーガンとミハイル・ゴルバチョフ冷戦末期に「核戦争には勝てないし、決して戦ってはならない」と発言し、米国を含む5つの核保有国は2022年初頭にこの声明を再確認した。だが米国の軍産複合体は、「核戦争は起こり得るし、我々はそれに勝てる」と云うメッセージを発している。
関連記事
スポンサーサイト



コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

川流桃桜

Author:川流桃桜
一介の反帝国主義者。
2022年3月に検閲を受けてTwitterとFBのアカウントを停止された為、それ以降は情報発信の拠点をブログに変更。基本はテーマ毎のオープンスレッド形式。検閲によって検索ではヒットし難くなっているので、気に入った記事や発言が有れば拡散して頂けると助かります。
全体像が知りたい場合は「カテゴリ」の「テーマ別スレッド一覧」を参照。

最新記事
カテゴリ
最新コメント
月別アーカイブ
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR