肌の黒いユダヤ人の抹消（要点）

ユダヤ人と人種差別の複雑な関係を扱った記事の要点を簡単に紹介してみる。
The erasure of black Jews



　ユダヤ人が白人社会から「白人」集団と見做される様になったのは第二次世界大戦後に過ぎない。

　米国の場合、元々ユダヤ人の出身地の多くは南欧か北アフリカであり、ドイツと中央出身の肌の色の薄いアシュケナージは少数派に過ぎなかったが、ロシア帝国の迫害から逃れたユダヤ人が大量に移住することで状況が変わった。

　 第一次世界大戦後、ポップ・カルチャーでのユダヤ人のイメージは、暴力団やボルシェビキの体制転覆者だった（この点はナチのユダヤ人迫害が、既存の価値観を破壊する共産主義や進歩主義に対する反動と云う側面を持っていたことを示唆している。当時のユダヤ人の科学者や芸術家がどれだけ数多くの価値転覆的な業績を残したかを考えてみれば良い）が、ディアスポラの哲学は同化主義的であり、驚くべき成功を収めた。

　アシュケナージは白人社会に同化することで安定性、物質的な快適さ、上向きの社会的流動性、安全を手に入れたが、GI法案に見られる様に、それは必然的に黒人を除外する秩序に参加することを意味していた。

　米国のユダヤ人は、ユダヤ文化を自由に維持しながら、「アメリカ人」としての国民的アイデンティティーを獲得することに成功した。但しこれは反ユダヤ主義が存在しないことを意味する訳ではない。

　米国のユダヤ人の圧倒的多数は肌の白いアシュケナージだ。そしてアメリカ文化が世界を支配しているので、アシュケナージこそが世界中で「本物の」ユダヤ人であるかの様なイメージが広まった。肌の黒いユダヤ人は周辺化された訳だが、この点はユダヤに関する議論の多くから抜け落ちている。

　それでもユダヤ人は完全には白人ではなく、ユダヤ人コミュニティに於けるアイデンティティも同一ではなかった。

　社会階層の下に位置するグループは、更に下の階層に居るグループを軽視することで差異化を図ることがよく有る。ユダヤ人もまた最下位の黒人を差別することが有り、公民権活動はユダヤ人社会に対する脅威であると見做すユダヤ人も居たが、平等の権利を熱心に支持するユダヤ人も居た。

　ポール・ロブスン、バイヤード・ラスティン、W・E・B・デュボイスと云った黒人活動家達は、欧州でのユダヤ人の苦境との深い親近感と連帯から、シオニズムへの同情を声高に表明した。

　ユダヤ人の活動家達と黒人の活動家達は相互に刺激を得ており、ブラック・パワーが頂点を迎えていたのは、1967年の六日間戦争でイスラエルが勝利していた頃だ。

　黒人とユダヤ人は相互に排他的なグループではないが、エチオピア出身のユダヤ人がイスラエルで人種差別に直面している様に、ユダヤ人内部でも差別は存在する。

　ユダヤ人が白人社会に同化する最善の方法は、自分自身が白人になることだ。だが黒人であり且つユダヤ人であると云う二重意識に囚われた人々はどうすべきなのだろうか？　米国には推定120万人の肌の黒いユダヤ人が住んでいる。