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新冷戦を阻止しよう。さもなければ人類に未来は無い。

Vijay Prashad(序文)、John Ross、Deborah Veneziale、John Bellamy Foster 著、Washington's New Cold War: A Socialist Perspective のレビュー。




 日頃よく記事を読んでいるヴィジャイ・プラシャド氏が序文を書いている本を見付けたのだが、安いし薄いので、他の積み本消化の合間にポチってサクッと読んでみた。中国向けに書かれた3つの論説を纏めたものだが、新冷戦の現状について仲々よく纏めていると思ったので、触りだけ紹介してみる。

 1)新冷戦と旧冷戦の違いについて。旧冷戦は米国対ソ連。ソ連は軍事的には米国に何とか匹敵する軍事力を持っていたものの、経済的には米国に遠く及ばず、最盛期の1975年でもGDPは米国の44.4%に過ぎなかった。だから米国はソ連経済の弱体化に力を入れ、レーガン政権の無謀な軍拡も、ソ連を軍拡競争に引き摺り込んで経済的に圧迫するのが主目的だった為、最終的に熱い戦争には発展しなかった。
 
 だが新冷戦に於ける米国の仮想敵である中国は違う。GDPは既に米国の74%に達しているし、この調子で行けば後数年で確実に追い越す。世界経済に占める割合や産業力、購買力平価の点では既に追い抜いているし、新自由主義政策によって自国の産業を衰退させて来た米国よりも、中国の経済成長速度はずっと速い。米国の経済的覇権がこれ以上維持出来ないのは明白だ。だが中国の軍事力は米国には及ばない。GDPの成長に比例して軍事予算も拡大してはいるが、米国に追い付くところまでは行っていないし、公式に発表されているだけでも8,000億ドル、関連予算や非公式の予算まで含めれば恐らく1兆ドルは超えるであろう米国のイカれた軍事予算は、全世界でダントツだ。但し軍事予算の多さと軍事的な強さとは正比例する訳ではなく、ロシアは米国よりもずっと少ない予算で、米国に匹敵する核軍事力を保有している。

 だから最も理想的な米国の覇権戦略は、ロシアの軍事と中国の経済力が結び付かないよう、両者を分断することだ。2014年のクーデター以降、米国とNATOは急速にウクライナの軍事力を強化しているが、これは最終的にはロシアにレジームチェンジを起こさせるのが目的だ。自国の主権を第一に考えるプーチンを排除して、ゴルバチョフやエリツィンの様な能無しにロシアを仕切らせて中国と対立させれば、中国はロシアとの長い国境線からの軍事的脅威をも心配しなければならなくなり、一石二鳥だ。だがウクライナ・ロビー派閥は些か強引にことを進め過ぎた。核による威嚇とロシア人絶滅作戦による挑発は裏目に出てロシア軍から手痛く反撃され、中国とロシアを分断するどころか、両国の関係は寧ろ強化されることになった。キッシンジャーの様な旧冷戦派がウクライナ紛争に反対しているのは恐らくその為だ。

 中国の経済的復活を阻止出来ない米国は、中国に勝てるかも知れない分野である軍事的手段に訴えることによって、中国の経済を破壊しようと試みるかも知れない。米軍の数限り無い残虐行為の前科を考えると、行き詰まって焦ってワシントンが強硬手段に訴える可能性は否定出来ない。そしてそれは全人類を巻き込む第三次世界大戦に発展するだろう。そのシナリオを避ける為には何が必要なのか。

 著者は米国の外交政策の一般的傾向をヒントにせよと主張する。米国は優位に立っていると感じた時には攻撃的になるが、弱い立場に立たされたと感じた時には融和的になる。例えばヴェトナム戦争の負けが込んで来た70年代、ワシントンは中国やソ連に対するそれまでの強硬姿勢を改めて外交の窓口を開いて緊張緩和を進めた。2007/8年の金融危機の後には、G20の会合は毎年開催される様になった。米国の帝国主義的な野心が消える訳ではないが、少なくとも軍事的手段だけに訴えるのではなく、外交的手段による調整を図るだけの分別が出て来る。平たく言えば、夜郎自大なガキ大将は痛い目を見ると多少は大人しくなるのだ。今米国を率いている連中は、冷戦後の米国一極覇権体制に慣れ切っていて、自分達が何をしても許されると信じている。だから新冷戦の軍事的エスカレーションを避ける為には、軍事でも経済でも外交でも良いからワシントンに失敗の経験を味わわせ、事態が彼等の思い通りには行かないことも有るのだと云う教訓を学ばせる必要が有る。ウクライナを捨て駒に使ったNATOの対ロシア代理戦争は、だからドンバスのロシア人を虐殺から守ったりロシアを核の脅迫から守ったりする以上に、米国と中国との軍事的衝突を避けると云う意味でも大事なのだ。ロシア軍には(まぁキエフ軍が軍事的に勝利する可能性は極めて低いが)全人類の為にも、是非ともナチに勝利して貰わねばならない。

 2)は、米国の外交政策は一体誰が決定しているのか?と云う疑問を扱っている。ネオコンもリベラル・ホークも、目的を実現する為の手段については食い違うことも有るが、目的自体は一緒。共和党だろうが民主党だろうが、大統領が誰になろうが、米国の覇権戦略は変わらないので、この点については幻想を抱くべきではない。トランプの様に路線修正を試みる政治家も居ないではないが、結局無力だったではないか。米国は民主主義ではなくプルートクラシーの国なのだ。米国の経済エリート層(特にテック関係)は、中国「封じ込め」の後に訪れるであろう中国市場の完全解放(略奪と独占)と云う野望を諦めるつもりは無い。しかも中国もロシアも、核については抑止力としてしか使わないと宣言しているが、米国は核の先制使用も辞さない構えで、しかもウクライナや台湾情勢に見られる様に、旧冷戦の時には行わなかった、他国の境界線の変更にまで手を出す様になって来ている。極めて危険だ。ウクライナ紛争によって、米国民を戦争支持に回らせるイデオロギー動員は成功している。これは米国民の99%にとっても不利益になる展開だし、世界の圧倒的大多数(主にグローバルサウス)にとっても破壊的な影響力を持っている。戦争へ向かうこの流れに抵抗し、帝国の一極覇権を終わらせねばならない。

 3)は人類絶滅の脅威を扱っている。熱核戦争を扱っている部分は、20世紀の復習として役に立つ。ウクライナ紛争で初めて核戦争のリスクに気が付いた人も多かった様だが、私は核戦争のリスクなんてずっと以前から、冷戦時よりも高まっていると思って来た。20世紀の歴史から何も教訓を学んでいないか、学んでいてもそれを目の前の現実に応用出来ない人が多かったと云うことだろう(だから核で脅されているロシアの方が核で脅しているなどと云うトンチンカンな思い込みをすることになる)。MAD(相互確証破壊)の脅威は21世紀の今になってもまだ去ってなどいないと云う現実を知らなかった人は、早急に現代史を学び直して認識を改めた方が良い。内部告発者のダニエル・エルズバーグに拠れば、米国は1945年から1996年の間に記録に残されているだけでも、25回も核による威嚇を行なっている。広島の方々が「あやまちはくりかえしませぬ」などと云うポエムを100回繰り返したところで、現実に原爆を落とした国の戦争屋共は屁とも思っていないのだ。

 3つ目の論考の欠点は、地球温暖化を核戦争と並ぶ人類絶滅の脅威と位置付けていること。詳しく論じる余裕は無いが、地球温暖化の警鐘は新自由主義陣営による詐欺だ。本物の社会主義者でありたいなら、本物の環境主義と、環境主義を装った新自由主義の区別は出来る様になっていなければならないと思うのだが、どうも「科学」を僭称する権威に弱い人が多いらしい。COVID-19パンデミック詐欺もそうだが、「プロパガンダに基付く科学」と「現実に基付く科学」とは全くの別物だ。

 以上、本書には新冷戦の現状を振り返る上で必要最低限の情報が詰め込まれている。西洋のTVや新聞なんかに幾らへばり付いてみたところで、こうした情報は得られないだろう。戦争に反対するとは、権力者達から敵だと教えられた相手に罵声を浴びせることではない。戦争に反対したいなら真っ先にすべきなのは、戦争プロパガンダの嘘を見抜くことだ。
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川流桃桜

Author:川流桃桜
一介の反帝国主義者。
2022年3月に検閲を受けてTwitterとFBのアカウントを停止された為、それ以降は情報発信の拠点をブログに変更。基本はテーマ毎のオープンスレッド形式。検閲によって検索ではヒットし難くなっているので、気に入った記事や発言が有れば拡散して頂けると助かります。
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