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ブラジルで起きたばかりの出来事について判断を急ぐ前に、誰もが用心深くなるべきだ(要点と補足)

2023/01/08にブラジルで発生したボルソナロ前大統領支持者達による襲撃事件はマスコミ報道が描く様な「民主主義対ファシズム」と云う単純なものではないと思うが、地政学アナリスト、アンドリュー・コリブコ氏が慎重な解釈を行なっていた。私にはこちらの方が有りそうなシナリオに思えるので、多少補足しつつ要点を纏めてみた。
Everyone Should Exercise Caution Before Rushing To Judgement On What Just Happened In Brazil



 2023/01/08、ブラジル元大統領のルラ氏が3期目の当選を果たした選挙結果を覆そうと、前大統領ボルソナロ氏の支持者数千人が大統領官邸、議会、最高裁判所を襲撃した。彼等は電子投票機が操作された為、ルラ氏の勝利は違法だと主張した。これは2021/01/06に、トランプ支持者達が国会議事堂を襲撃した時件に酷似していると、多くのオブザーヴァーが指摘している。が、事態は表面に見えている程単純ではないので注意が必要だ。

 01/08のケースも01/06と同様、数ヶ月前に一部の野党議員が所謂「最後の抵抗」を計画していると云う兆候が有ったにも関わらず、首都の警備体制は不自然なまでに緩かった。

 トランプ支持者達の襲撃時件には所謂ディープ・ステート(以下DS)の陰謀が働いていた、と云うのがコリブコ氏の見立ててで、実際事態の展開を見守っていた人々の多くが、「アメリカ帝国は到頭自国でもカラー革命をやる様になった」と呆れ果てた。基本的に平和的だった抗議行動をレイ・エップスの様な覆面捜査官等が扇動して法を破らせ、野党の信用失墜を図ると共に、暴力行為を口実として取り締まりが強化された訳だ。この時の扇動者達(プラウド・ボーイズとか)と似た様な扇動者達がブラジルでも同様に、暴力や破壊行為を煽った可能性が有る(但し煽られて違法行為を行なった抗議者達が無罪だと言っている訳ではない)。

 ブラジルの暴動は米国での暴動を再現しようとする試みだったと言えなくもない。両者に於てカラー革命技術が使われたのは明らかだが、例えば2014年のウクライナのマイダン・クーデターとは異なり、長期間の都市テロまでには発展していない。これはマイダンの目的が、NATOがウクライナを反ロシアの代理勢力として利用しようとする路線に従わなかったヤヌコヴィッチ大統領を排除することが目的だったのに対し、米国とブラジルのケースは野党の信用失墜と弾圧強化が目的だったからだ。草の根運動を装ったクーデターによって政権を転覆させる必要は無く、最初から失敗することが予定されていた訳だ。

 ブラジルの暴動は、「多極派」のルラ氏を排除するCIAの陰謀だったのではないか、と云う推測も出回っているが、この可能性は疑わしい。実のところバイデン政権は、ルラがボルソナロに勝利したことを熱烈に支持している。コリブコ氏はこれは単なるリップサーヴィスではなく本心からだと見ているが、その理由としてイデオロギーを挙げている。ルラは一応「左派」に分類されることが多いが、米国で今や主流派のリベラル・グローバリズムを支持している。他方ボルソナロは保守派で、従って米国に従いつつも、自国の主権を大事にする。国内政治の面ではルラは実はバイデンに近いのだ。

 この推測は国家安全保障担当補佐官ジェイク・サリヴァンがブラジルに派遣された事実によっても裏付けることが出来る。バイデン政権はルラ政権と戦略的なパートナシップを強化することを発表したのだ。

 バイデン、サリヴァン、そしてブリンケン国務長官が一様にブラジルの暴動を非難している事実もこの推測を裏付けている。同時期に起こっているイランの暴動もまたカラー革命工作だが、こちらはブラジルよりも遙かに暴力的な展開を見せているにも関わらず、彼等は全面的な支持を表明している。これはイランのケースが正真正銘のレジームチェンジ工作に他ならないのに対して、ブラジルのケースは失敗を予定されたカラー革命だからだ、と云うことで説明が付く。問題になるのは暴力的かどうか、民主主義的かどうかではなく、アメリカ帝国の戦略的利害に沿っているかどうかだ。

 屢々DSの代弁者として機能するワシントン・ポストのエリザベス・ドウォスキンは、ブラジルの襲撃時件の開始が午後12:30頃であると報じられていたにも関わらず、その日の22:30には"Come to the ‘war cry party’: How social media helped drive mayhem in Brazil"と云うタイトルの詳細な記事を発表している。この記事を僅か10時間の早技で書いたと考えるより、彼女が事前に何かが起きるとの情報を得ていて、予め記事を書くか、或いは既に或る程度書いておいてから、事件後に仕上げたと考える方が自然だ。

 この記事では「偽情報」の氾濫について警告を発している。ブラジルの大統領選を取り仕切っていた最高裁判所判事アレクサンドル・デ=モラエスは、選挙戦の最中に権限を濫用して「オンラインの偽情報をより厳しく取り締まる」措置を発表したが、今回の暴動でも、彼は「ソーシャルメディア・プラットフォームの Facebook、Twitter、TikTok に対し、反民主的なプロパガンダを広めるユーザーのアカウントをブロックするよう要求」した。恐らく彼もまたDS側の人間だが、WPの記事の内容は、ワシントンがこの検閲を支持していることを示唆している。体制側メディアであるNYタイムズは9月10月に、この強力な言論統制に対して疑問を呈しているが、これをワシントンが支持しているとなると、今後その様な批判はタブーとなる可能性が有る。

 今回の陰謀劇でユニークなのは、ボルソナロは現在フロリダに住んでいて、ルラが彼を暴動の首謀者として公に非難したことだ(ボルソナロの方では否定している)。またロイターは同じ路線に従って、ボルソナロをフロリダから追い出せと云う圧力が強まっていることを報じている。仮にボルソナロがブラジルに送還された場合、ブラジルの最高裁の腐敗っぷり(投獄されたルラ自身が誰よりもよく知っている)を考えると、ボルソナロは投獄される可能性が高い。

 BBCはブラジルの暴動とワシントンの暴動で共通の政治的ネットワークが働いていたことを指摘する記事を発表している。ルラが公式に「テロ行為」「クーデター未遂」と呼んだこの暴動にアメリカ市民が関与していることが判明すれば、1794年の中立法に従って、米国の司法も動く可能性が有る。つまりブラジルでのボルソナロ派への取り締まりが、米国でのトランプ派の取り締まりへと発展する可能性が有る。バイデン政権にとって、ブラジルの暴動はトランプ派を弾圧するまたとないチャンスかも与えてくれるかも知れないのだ(或いはこれが真の目的だったのかも知れない)。

 両国のリベラル・グローバリスト層は保守派を潰したがっていると云う点で一致している。米国はこのブラジルの「貢献」に対して、或る程度の外交上の柔軟性を許可するシナリオも考えられる。サリヴァンが結んだパートナーシップはこの表れだ。彼等が「ファシスト」「民主主義への脅威」と呼ぶものに対する取り締まりを強化・再確認することで、ブラジルは「ルールに基付く秩序」には逆らわないと云う手応えを、ワシントンは得たのではないか、とコリブコ氏は推測している。ルラは多極派だと言われているが、今後のブラジルの多極化の動きが表面的なものだろうと実質的なものだろうと、この根本的なポイントが押さえられている限り、米国はこれに抵抗しないことが予想される。但し米国の意向から余りに外れ過ぎると、軍事クーデターを含む様々なハイブリッド戦争によって、米国が最終的にルラを裏切るシナリオも考えられる。ルラは以前の経験から、多極化へ進みすぎると潰されると云う教訓を得ているかも知れないので、3期目の彼は外交政策に於ては従来よりももっと慎重になるかも知れない。実際のところこの点で第3次ルラ政権に期待出来るものは余り無いのではないか、とコリブコ氏は見ている。

 ロシアとトルコは今回の事件を非難しているが、これは西洋の大手メディアが書いた「公式シナリオ」に引っ掛かったからではなく、両国はカラー革命には常に反対し、BRICS加盟国のブラジルと連帯すると云う原則を堅持しているからだと、コリブコ氏は見ている。
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