分断された世界:ロシア、中国、西洋(抜粋)
西側大手メディアが言う「国際社会」なるものは、現実の国際社会の極く一部でしかなく寧ろ少数派であることは今まで何度も指摘して来たことだが、ケンブリッジ大学が発表した新たな国際世論調査研究の結果もこの点を裏付けているので紹介してみる。

これが2022/10/20に公開された報告書の概要。ケンブリッジの「ベネット公共政策研究所」が発行したもの。
A World Divided: Russia, China and the West
こちらは報告書のpdfファイル。
A World Divided Russia, China and the West

こちらのプレス・リリースが解り易いので、以下、ここから要点を幾つか紹介する。
War in Ukraine widens global divide in public attitudes to US, China and Russia – report
この研究は、国際社会を「米国を支持する自由民主主義国 vs 中国やロシアを支持する権威主義国」と云う、西洋に典型的な差別的カテゴリーに二分する発想に基付いているのだが、この分断はウクライナ戦争で加速されたと見ている。
この研究は世界の97%をカヴァーする「メガ・データ・セット」に基付いている。137ヵ国(内75ヵ国のデータは2022年2月にロシアがウクライナを攻撃して以来のもの)のデータを「調和」させたところ、10年前から拡大していた格差は戦争開始以来拡大している。西洋諸国の人々は米国とNATOの両方に対してこれまで以上に忠誠心を感じる様になり、中南米や東欧の豊かな民主主義国家は親米的なスタンスを取る様になった。他方、東アジア〜中東〜西アフリカに至る非自由主義・非民主主義社会の一帯は、中国やロシア、またはその両方への支持を近年着実に高めている。
同大学の「民主主義の未来センター」の発表した報告書に拠ると、世界の自由民主主義国に住む12億人の内、75%が中国に対して、87%がロシアに対して否定的な見方をしている。
しかし世界の残りの136ヵ国に住む63億人の見方は逆で、中国に対して70%、ロシアに対して66%が肯定的な見方をしている。
ロシアに対する西側市民の支持はこの10年間で着実に減少し、39% → 23%(特別軍事作戦開始前夜) → 現在12%となっている。以前はロシアに対して好意的だった欧州諸国でもロシアへの好感度は急落している。
・ギリシャ: 69% → 30%
・ハンガリー:45% → 25%
・イタリア: 38% → 14%
対照的に発展途上諸国ではロシアへの好感度は依然として高い。
・南アジア:75%
・アフリカのフランス語圏:68%
・東南アジア:62%
特別軍事作戦開始後もパキスタン、サウジアラビア、マレーシア、インド、ヴェトナムの人々の間ではロシアは好意的に受け止められている。
中国に対する態度も分断されており、中国を肯定的に捉える西洋市民は5年前には42%だったが、現在は23%と半減している。
中国の人気はCOVID-19時に発展途上諸国の間で回復し(健康外交のお陰か?)、特に一帯一路構想に参加している147ヵ国46億人の間では、中国を肯定的に捉えている人は2/3近い。これが非参加国だと僅か27%になる。
例外はラテンアメリカ諸国で、米国は中国に24%の差をつけて支持されている。
ロシアを好意的に見る人が多い国の69%で、民主主義への不満が多数意見となっていた。また、民主主義への不満が多数派の国の内、73%が中国に好意的だった。
この報告書では、民主主義的価値観と権威主義的価値観の対立と云う構図でこのデータを解釈したいらしいが、問題はそこではないだろう(「9.11の実行犯は自由と民主主義を憎んでいたのだ」と云うブッシュJr.の言い草と同じ位、帝国主義と新植民地主義の現実から目を背けている)。
各好感度を示したグラフ。左が全世界、中央が発展途上諸国、右が先進諸国。折線は青が米国、赤が中国、茶がロシアに対する好感度を示している。先進諸国(欧米/西洋/西洋の属国)が全世界から見れば少数派であることが見て取れる。

上からロシア、中国、米国に対する好感度の推移を各地域で分けたグラフ。特別軍事作戦開始以前は、ロシアに対する態度は西洋と非西洋とで二極化が進んでいたことが確認出来る。南アジア(特にインドだろう)の中国に対する好感度は下がっていたが、COVID-19期に持ち直している。中国は貧しい国々からの支持は高いが、米国やロシアと比べると全体的にはやや低調。多くの識者が、ロシアのソフトパワーの不足を指摘しているが、中国についてはその点はもっと当て嵌まるだろう。米国はトランプ時代に中国人からの好感度を下げ、中東からは逆に好感度を上げた。



親中派クリス・ジャンセン氏がこの件を解説し、世界には多様なガヴァナンス・システムが必要なのではないかと云うところまで踏み込んでいる。西洋式の代議制民主主義こそが人類の到達点であり歴史の最終形態なのかと云うと全くそうではなく、西洋市民は寧ろ自国のガヴァナンスに大いに不満を抱えている。民主主義制度とやらが理想的に機能しているならこんなことは起こらない筈だが、現実問題として或る体制が理想的に機能する為には様々な条件を満たしていなければならず、それらが全く満たされていない状態で形だけの制度だけ有ったって民主主義の理念は実現出来ない。理念(理想形)で考えるのではなく、個々の文脈の中で具体的な現実を見て考えないと、「どの統治形態が最も優れているのか」と云う問題を考える上でもステレオタイプな思考しか出来なくなる。そもそも統治形態の良し悪しは各国・各地域の置かれている文化的・地政学的状況によっても大きく異なる筈なので、どれかひとつだけ、普遍的な唯一解を求めると云う発想そのものを疑問視すべきだろう。何がその人にとって最善かは、その人によって異なる。国や地域に関しても、同じ平等主義的発想が必要だ。
Cambridge Poll Shocks USA....70% of World Now Supports China
この報告書で自由主義陣営に分類されている国々の人口は12億で、これが西側大手メディアが「国際社会」と通常呼び慣わしているもの。他方非自由主義陣営に分類されているのは63億。現実の世界全体で見れば、この「国際社会」ならぬ不可視化された国際社会こそが圧倒的多数派なのだ。一帯一路構想に参加している国々の間で中国の好感度が高いのはまぁ当然で、橋や道路を造ってくれたりフェアな条件で融資をしてくれたりする国が、資源の略奪や債務の罠で国を貧しくし、制裁やカラー革命やクーデターや暗殺等を仕掛けて来る国よりも好まれるのは不思議なことではない。西洋はプロパガンダ能力がズバ抜けてはいるが、限界も有るのだ。
70% Of The World SUPPORTS CHINA , CAMBRIDGE 2022 Polls | China Technology

これが2022/10/20に公開された報告書の概要。ケンブリッジの「ベネット公共政策研究所」が発行したもの。
A World Divided: Russia, China and the West
こちらは報告書のpdfファイル。
A World Divided Russia, China and the West

こちらのプレス・リリースが解り易いので、以下、ここから要点を幾つか紹介する。
War in Ukraine widens global divide in public attitudes to US, China and Russia – report
この研究は、国際社会を「米国を支持する自由民主主義国 vs 中国やロシアを支持する権威主義国」と云う、西洋に典型的な差別的カテゴリーに二分する発想に基付いているのだが、この分断はウクライナ戦争で加速されたと見ている。
この研究は世界の97%をカヴァーする「メガ・データ・セット」に基付いている。137ヵ国(内75ヵ国のデータは2022年2月にロシアがウクライナを攻撃して以来のもの)のデータを「調和」させたところ、10年前から拡大していた格差は戦争開始以来拡大している。西洋諸国の人々は米国とNATOの両方に対してこれまで以上に忠誠心を感じる様になり、中南米や東欧の豊かな民主主義国家は親米的なスタンスを取る様になった。他方、東アジア〜中東〜西アフリカに至る非自由主義・非民主主義社会の一帯は、中国やロシア、またはその両方への支持を近年着実に高めている。
同大学の「民主主義の未来センター」の発表した報告書に拠ると、世界の自由民主主義国に住む12億人の内、75%が中国に対して、87%がロシアに対して否定的な見方をしている。
しかし世界の残りの136ヵ国に住む63億人の見方は逆で、中国に対して70%、ロシアに対して66%が肯定的な見方をしている。
ロシアに対する西側市民の支持はこの10年間で着実に減少し、39% → 23%(特別軍事作戦開始前夜) → 現在12%となっている。以前はロシアに対して好意的だった欧州諸国でもロシアへの好感度は急落している。
・ギリシャ: 69% → 30%
・ハンガリー:45% → 25%
・イタリア: 38% → 14%
対照的に発展途上諸国ではロシアへの好感度は依然として高い。
・南アジア:75%
・アフリカのフランス語圏:68%
・東南アジア:62%
特別軍事作戦開始後もパキスタン、サウジアラビア、マレーシア、インド、ヴェトナムの人々の間ではロシアは好意的に受け止められている。
中国に対する態度も分断されており、中国を肯定的に捉える西洋市民は5年前には42%だったが、現在は23%と半減している。
中国の人気はCOVID-19時に発展途上諸国の間で回復し(健康外交のお陰か?)、特に一帯一路構想に参加している147ヵ国46億人の間では、中国を肯定的に捉えている人は2/3近い。これが非参加国だと僅か27%になる。
例外はラテンアメリカ諸国で、米国は中国に24%の差をつけて支持されている。
ロシアを好意的に見る人が多い国の69%で、民主主義への不満が多数意見となっていた。また、民主主義への不満が多数派の国の内、73%が中国に好意的だった。
この報告書では、民主主義的価値観と権威主義的価値観の対立と云う構図でこのデータを解釈したいらしいが、問題はそこではないだろう(「9.11の実行犯は自由と民主主義を憎んでいたのだ」と云うブッシュJr.の言い草と同じ位、帝国主義と新植民地主義の現実から目を背けている)。
各好感度を示したグラフ。左が全世界、中央が発展途上諸国、右が先進諸国。折線は青が米国、赤が中国、茶がロシアに対する好感度を示している。先進諸国(欧米/西洋/西洋の属国)が全世界から見れば少数派であることが見て取れる。

上からロシア、中国、米国に対する好感度の推移を各地域で分けたグラフ。特別軍事作戦開始以前は、ロシアに対する態度は西洋と非西洋とで二極化が進んでいたことが確認出来る。南アジア(特にインドだろう)の中国に対する好感度は下がっていたが、COVID-19期に持ち直している。中国は貧しい国々からの支持は高いが、米国やロシアと比べると全体的にはやや低調。多くの識者が、ロシアのソフトパワーの不足を指摘しているが、中国についてはその点はもっと当て嵌まるだろう。米国はトランプ時代に中国人からの好感度を下げ、中東からは逆に好感度を上げた。



親中派クリス・ジャンセン氏がこの件を解説し、世界には多様なガヴァナンス・システムが必要なのではないかと云うところまで踏み込んでいる。西洋式の代議制民主主義こそが人類の到達点であり歴史の最終形態なのかと云うと全くそうではなく、西洋市民は寧ろ自国のガヴァナンスに大いに不満を抱えている。民主主義制度とやらが理想的に機能しているならこんなことは起こらない筈だが、現実問題として或る体制が理想的に機能する為には様々な条件を満たしていなければならず、それらが全く満たされていない状態で形だけの制度だけ有ったって民主主義の理念は実現出来ない。理念(理想形)で考えるのではなく、個々の文脈の中で具体的な現実を見て考えないと、「どの統治形態が最も優れているのか」と云う問題を考える上でもステレオタイプな思考しか出来なくなる。そもそも統治形態の良し悪しは各国・各地域の置かれている文化的・地政学的状況によっても大きく異なる筈なので、どれかひとつだけ、普遍的な唯一解を求めると云う発想そのものを疑問視すべきだろう。何がその人にとって最善かは、その人によって異なる。国や地域に関しても、同じ平等主義的発想が必要だ。
Cambridge Poll Shocks USA....70% of World Now Supports China
この報告書で自由主義陣営に分類されている国々の人口は12億で、これが西側大手メディアが「国際社会」と通常呼び慣わしているもの。他方非自由主義陣営に分類されているのは63億。現実の世界全体で見れば、この「国際社会」ならぬ不可視化された国際社会こそが圧倒的多数派なのだ。一帯一路構想に参加している国々の間で中国の好感度が高いのはまぁ当然で、橋や道路を造ってくれたりフェアな条件で融資をしてくれたりする国が、資源の略奪や債務の罠で国を貧しくし、制裁やカラー革命やクーデターや暗殺等を仕掛けて来る国よりも好まれるのは不思議なことではない。西洋はプロパガンダ能力がズバ抜けてはいるが、限界も有るのだ。
70% Of The World SUPPORTS CHINA , CAMBRIDGE 2022 Polls | China Technology
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