アフガニスタン戦争の戦利品:数十億ドル規模のヘロイン取引(要点と補足)
2005/06/14初出のチョスドフスキー教授の記事。Twitterでも紹介したが、重要な話題なので改めて要点をメモしておく。
The Spoils of War: Afghanistan’s Multibillion Dollar Heroin Trade
一部についてはチョスドフスキー教授の別の記事から補足した。
21 Years Ago, US-NATO Invaded Afghanistan: Heroin Is “Good for Your Health”: Occupation Forces Support Afghan Narcotics Trade
War is Good for Business and Organized Crime: Afghanistan’s Multibillion Dollar Opium Trade. Rising Heroin Addiction in the US
アフガニスタン戦争を理解する上で重要なことは、その戦略目的のひとつがアヘン取引を復活させることだったと云うことだ。アフガニスタンのタリバン政権は国連の支援を受けて2000年から麻薬撲滅プログラムを実施していたが、2001年の時点ではその94%を撲滅することに成功していた。ところが2001/10/07に開始された米=NATO軍の侵攻以来、アフガニスタンのアヘン生産は劇的に増加し、同時期に米国のヘロイン中毒者の数もまた劇的に増加している。
アフガン侵攻前の米国のヘロイン・ユーザーは189,000人だった。2016年までにその数は450万人(250万人の中毒者と200万人の一般ユーザー)にまで激増している。ヘロインの過剰摂取により死亡した人の数は2001年には1,779人だったが、2016年には15,446人と、10倍近くに増えている。

更に2020年のCOVID-19「対策」の最中に、オピオイドと薬物中毒による死亡者数は3倍に急増した。オピオイド被害に関しては2020年11月に260億ドルもの和解金が、オピオイドの主要メーカーであるJ&Jとその販売業者に対して命じられたが、この集団訴訟は「アメリカ史上最大の連邦裁判所訴訟」だった。オピオイド依存症は米国で毎年70,000人以上の命を奪うと指摘されている。

アフガニスタンは2021年時点で世界のアヘンの84%を生産しているが、アフガン侵攻が開始された2001年10月の時点では、タリバン政権の尽力によって略根絶されていた。だが侵攻開始直後から大規模なケシの植え替えが始まっている。国連薬物犯罪事務所の見積もりでは、タリバン政権下の2001年には185トンだったものが、2006年には6,100 トン、つまり5年の間に33倍に劇的に増加している。2014年の国連薬物犯罪事務所(UNODC)の報告書に拠れば、アフガニスタンのアヘン栽培は2014年に過去最高を記録した(役者注:この年にはアフガニスタン脅威金融セル(Afghanistan Threat Finance Cell/ATFC)が「タリバンの麻薬取引の撲滅」任務を行なっている)。

国連薬物犯罪事務所(UNODC)の2016年の報告書に拠れば、アフガニスタンのアヘンの耕作面積は2001年から2016年の間に約20倍に拡大し、アヘンの生産量は約25倍(2001年には185tだったものが2016年には4,800tに達している)。

タリバンの麻薬撲滅プログラムは国連の支援によって実施されたが、米=NATO軍の侵攻が始まると、国連薬物犯罪事務所は手の平を返し、2004年にはまるで2000年のアヘン禁止令が存在しなかったかの様な声明を発表している。ワシントンと国連は、タリバンの目的は実際には「麻薬撲滅」ではなく、ヘロインの世界価格を押し上げる「人為的な供給不足」を引き起こす為の悪意有る計画であったと主張している。だが実際にはアヘン市場は2001年10月の侵攻開始直後から復活し、2002年初めまでにアヘン価格は2000年の約10倍に達した。アヘン生産量は2001年の185tから2002年には3,400tにまで激増している。
アフガニスタン国軍とNATO主導の国際治安支援部隊(ISAF)は、農家のケシ栽培を妨害しないことを保証している。アフガニスタン人の多くはケシを栽培するしか生活する手段が無いので、「人々が生計を立てるのを止めたくない」と云うのが表向きの理由だが、アヘン経済が政治レヴェルで促進されている兆候が存在する。
国際シンクタンク、センリス評議会は2006/09/23に、「(アヘン輸出は)適切に規制されれば、貧しいアフガニスタンの農民に合法的な収入源を提供すると同時に、麻薬密売組織とタリバンから収入の多くを奪う可能性が有る」として合法的なアヘン輸出開発を推奨している。だが2006年2月の国際麻薬統制委員会(INCB)の発表に拠れば、世界のアヘン供給量は合法的な医療目的の需要を遙かに超えるレヴェルに達している。合法的な市場が既に飽和しているのなら、追加された分は当然、違法な市場に流れることになる。因みに合法的なアヘンの生産国はインドがトップで、他にトルコ、オーストラリア、英国、スペイン等が続く。
ワシントンの傀儡であったハミド・カルザイ大統領は米石油大手UNOCALの顧問兼ロビイストであり、1990年代にはUNOCALとタリバンとの交渉にも携わっていた。1980年代にCIAがタリバンを支援していた時、カルザイはCIAの秘密工作員だった。
アフガニスタンのアヘン生産は1980年代にCIAによって始められた。ジハード主義者達を支援してソ連を罠に嵌める為のCIAの秘密作戦は、パキスタン諜報部の協力を得た麻薬資金の洗浄を通じて資金提供れていた。ソ連と戦う反乱軍達に与えられたスティンガーミサイルその他の装備は、こうして金で提供された。作戦開始から僅か2年以内に、パキスタンとアフガニスタンの国境地帯は、世界最大のヘロイン生産地に変貌した。パキスタンのヘロイン中毒者は1979年の略ゼロから、1985年には120万人にまで激増した。ムジャヒディーン達は領土を掌握すると、農民達に革命税としてアヘンを植えるよう命じた。米当局者はソ連に損害を与える為に、こうした麻薬取引の拡大を黙認した。中央アジアでのアル=カイダ支援は、やがてバルカン半島に舞台を移して冷戦終了後も続けられることになる(90年代のユーゴ紛争)。
2000年の時点で、アフガニスタンの麻薬取引から生み出される収入は国連の推計で4,000億〜5,000億ドルに上った。2003年のIMFの推計では、世界のマネー・ロンダリングは年間5,900億〜1.5兆ドルで、世界のGDPの2~5%に相当するが、この大部分が麻薬取引に因るもの。2004年のインディペンデント紙の言葉を借りれば、麻薬取引は「石油と武器の取引に次いで、現金ベースで3番目に大きな世界的商品」だ。
アヘン取引にって得られる収益の95%は国外のビジネス・シンジケート、組織犯罪、銀行や金融機関に流れ、生産国の農家や貿易業者が受け取るのは極く僅か。2004年の報道の米国務省の発表では、アフガンのヘロインは国際麻薬市場で、農家が受け取る額の100倍の価格で売られていた。国連薬物犯罪事務所に拠ると、アフガニスタンのアヘンは2003年に「農家に10億米ドル、密売人に13億米ドルの収入を齎した。国民所得の半分以上に相当する。」
1kgのアヘンからは約100gの(純粋な)ヘロインを作ることが出来、6,100tのアヘンからは、純度50%のヘロインを1,220t作ることが出来る。小売ヘロインの平均純度はまちまちで、平均は36%。英国では50%を超えることは滅多に無いが、米国では50~60%程度になることが有る。米国の小売価格は1g当たり172ドル。2003年の3,600tのアヘン取引の小売価格の合計についての控え目な見積もりは514億ドル、別の計算では792億ドルになる。国連薬物犯罪事務所は2017年に7,900メートルtと云う控え目な推計を出したが、その数字を使えば、世界的な金銭的価値は7,125億8000万ドルに上り、これは米国の防衛予算に匹敵する。但しこれは不当に低い可能性が高く、9,000メートルtと云うもう少し大きな数字を使うと、8,000億ドルを超えることになる。
生産者に行くのが僅か10億ドル。残りは麻薬取引に直接・間接に関与する企業シンジケート、諜報機関、組織犯罪、金融機関、卸売業者、小売業者等に渡ることになる。これらのドラッグ・マネーはスイス、ルクセンブルグ、英仏海峡諸島、ケイマン諸島、世界中の約50箇所に存在する多数のオフショア・バンキング・ヘイヴンで洗浄され、西側の主要な商業銀行によって管理されることになる。犯罪シンジケートと世界最大の商業銀行の代表者達がここで交流する。洗浄された金は不動産やホテル等の他、サーヴィス業や製造業等の他の健全な分野への投資に再利用することも出来る。汚れた秘密の金は、デリバティヴ、一次産品、株式、国債の取引等、様々な金融商品に流れ込むことになる。
アフガニスタンのヘロイン・ビジネスは、西側が主張している様に「タリバンの財源を満たしている」訳ではなく、全く逆。この恩恵を受けるのは西側諸国内の強力な企業/犯罪者集団であり、ワシントンの外交政策がこれらの利益を維持する為に機能している。
The Spoils of War: Afghanistan’s Multibillion Dollar Heroin Trade
一部についてはチョスドフスキー教授の別の記事から補足した。
21 Years Ago, US-NATO Invaded Afghanistan: Heroin Is “Good for Your Health”: Occupation Forces Support Afghan Narcotics Trade
War is Good for Business and Organized Crime: Afghanistan’s Multibillion Dollar Opium Trade. Rising Heroin Addiction in the US
アフガニスタン戦争を理解する上で重要なことは、その戦略目的のひとつがアヘン取引を復活させることだったと云うことだ。アフガニスタンのタリバン政権は国連の支援を受けて2000年から麻薬撲滅プログラムを実施していたが、2001年の時点ではその94%を撲滅することに成功していた。ところが2001/10/07に開始された米=NATO軍の侵攻以来、アフガニスタンのアヘン生産は劇的に増加し、同時期に米国のヘロイン中毒者の数もまた劇的に増加している。
アフガン侵攻前の米国のヘロイン・ユーザーは189,000人だった。2016年までにその数は450万人(250万人の中毒者と200万人の一般ユーザー)にまで激増している。ヘロインの過剰摂取により死亡した人の数は2001年には1,779人だったが、2016年には15,446人と、10倍近くに増えている。

更に2020年のCOVID-19「対策」の最中に、オピオイドと薬物中毒による死亡者数は3倍に急増した。オピオイド被害に関しては2020年11月に260億ドルもの和解金が、オピオイドの主要メーカーであるJ&Jとその販売業者に対して命じられたが、この集団訴訟は「アメリカ史上最大の連邦裁判所訴訟」だった。オピオイド依存症は米国で毎年70,000人以上の命を奪うと指摘されている。

アフガニスタンは2021年時点で世界のアヘンの84%を生産しているが、アフガン侵攻が開始された2001年10月の時点では、タリバン政権の尽力によって略根絶されていた。だが侵攻開始直後から大規模なケシの植え替えが始まっている。国連薬物犯罪事務所の見積もりでは、タリバン政権下の2001年には185トンだったものが、2006年には6,100 トン、つまり5年の間に33倍に劇的に増加している。2014年の国連薬物犯罪事務所(UNODC)の報告書に拠れば、アフガニスタンのアヘン栽培は2014年に過去最高を記録した(役者注:この年にはアフガニスタン脅威金融セル(Afghanistan Threat Finance Cell/ATFC)が「タリバンの麻薬取引の撲滅」任務を行なっている)。

国連薬物犯罪事務所(UNODC)の2016年の報告書に拠れば、アフガニスタンのアヘンの耕作面積は2001年から2016年の間に約20倍に拡大し、アヘンの生産量は約25倍(2001年には185tだったものが2016年には4,800tに達している)。

タリバンの麻薬撲滅プログラムは国連の支援によって実施されたが、米=NATO軍の侵攻が始まると、国連薬物犯罪事務所は手の平を返し、2004年にはまるで2000年のアヘン禁止令が存在しなかったかの様な声明を発表している。ワシントンと国連は、タリバンの目的は実際には「麻薬撲滅」ではなく、ヘロインの世界価格を押し上げる「人為的な供給不足」を引き起こす為の悪意有る計画であったと主張している。だが実際にはアヘン市場は2001年10月の侵攻開始直後から復活し、2002年初めまでにアヘン価格は2000年の約10倍に達した。アヘン生産量は2001年の185tから2002年には3,400tにまで激増している。
アフガニスタン国軍とNATO主導の国際治安支援部隊(ISAF)は、農家のケシ栽培を妨害しないことを保証している。アフガニスタン人の多くはケシを栽培するしか生活する手段が無いので、「人々が生計を立てるのを止めたくない」と云うのが表向きの理由だが、アヘン経済が政治レヴェルで促進されている兆候が存在する。
国際シンクタンク、センリス評議会は2006/09/23に、「(アヘン輸出は)適切に規制されれば、貧しいアフガニスタンの農民に合法的な収入源を提供すると同時に、麻薬密売組織とタリバンから収入の多くを奪う可能性が有る」として合法的なアヘン輸出開発を推奨している。だが2006年2月の国際麻薬統制委員会(INCB)の発表に拠れば、世界のアヘン供給量は合法的な医療目的の需要を遙かに超えるレヴェルに達している。合法的な市場が既に飽和しているのなら、追加された分は当然、違法な市場に流れることになる。因みに合法的なアヘンの生産国はインドがトップで、他にトルコ、オーストラリア、英国、スペイン等が続く。
ワシントンの傀儡であったハミド・カルザイ大統領は米石油大手UNOCALの顧問兼ロビイストであり、1990年代にはUNOCALとタリバンとの交渉にも携わっていた。1980年代にCIAがタリバンを支援していた時、カルザイはCIAの秘密工作員だった。
アフガニスタンのアヘン生産は1980年代にCIAによって始められた。ジハード主義者達を支援してソ連を罠に嵌める為のCIAの秘密作戦は、パキスタン諜報部の協力を得た麻薬資金の洗浄を通じて資金提供れていた。ソ連と戦う反乱軍達に与えられたスティンガーミサイルその他の装備は、こうして金で提供された。作戦開始から僅か2年以内に、パキスタンとアフガニスタンの国境地帯は、世界最大のヘロイン生産地に変貌した。パキスタンのヘロイン中毒者は1979年の略ゼロから、1985年には120万人にまで激増した。ムジャヒディーン達は領土を掌握すると、農民達に革命税としてアヘンを植えるよう命じた。米当局者はソ連に損害を与える為に、こうした麻薬取引の拡大を黙認した。中央アジアでのアル=カイダ支援は、やがてバルカン半島に舞台を移して冷戦終了後も続けられることになる(90年代のユーゴ紛争)。
2000年の時点で、アフガニスタンの麻薬取引から生み出される収入は国連の推計で4,000億〜5,000億ドルに上った。2003年のIMFの推計では、世界のマネー・ロンダリングは年間5,900億〜1.5兆ドルで、世界のGDPの2~5%に相当するが、この大部分が麻薬取引に因るもの。2004年のインディペンデント紙の言葉を借りれば、麻薬取引は「石油と武器の取引に次いで、現金ベースで3番目に大きな世界的商品」だ。
アヘン取引にって得られる収益の95%は国外のビジネス・シンジケート、組織犯罪、銀行や金融機関に流れ、生産国の農家や貿易業者が受け取るのは極く僅か。2004年の報道の米国務省の発表では、アフガンのヘロインは国際麻薬市場で、農家が受け取る額の100倍の価格で売られていた。国連薬物犯罪事務所に拠ると、アフガニスタンのアヘンは2003年に「農家に10億米ドル、密売人に13億米ドルの収入を齎した。国民所得の半分以上に相当する。」
1kgのアヘンからは約100gの(純粋な)ヘロインを作ることが出来、6,100tのアヘンからは、純度50%のヘロインを1,220t作ることが出来る。小売ヘロインの平均純度はまちまちで、平均は36%。英国では50%を超えることは滅多に無いが、米国では50~60%程度になることが有る。米国の小売価格は1g当たり172ドル。2003年の3,600tのアヘン取引の小売価格の合計についての控え目な見積もりは514億ドル、別の計算では792億ドルになる。国連薬物犯罪事務所は2017年に7,900メートルtと云う控え目な推計を出したが、その数字を使えば、世界的な金銭的価値は7,125億8000万ドルに上り、これは米国の防衛予算に匹敵する。但しこれは不当に低い可能性が高く、9,000メートルtと云うもう少し大きな数字を使うと、8,000億ドルを超えることになる。
生産者に行くのが僅か10億ドル。残りは麻薬取引に直接・間接に関与する企業シンジケート、諜報機関、組織犯罪、金融機関、卸売業者、小売業者等に渡ることになる。これらのドラッグ・マネーはスイス、ルクセンブルグ、英仏海峡諸島、ケイマン諸島、世界中の約50箇所に存在する多数のオフショア・バンキング・ヘイヴンで洗浄され、西側の主要な商業銀行によって管理されることになる。犯罪シンジケートと世界最大の商業銀行の代表者達がここで交流する。洗浄された金は不動産やホテル等の他、サーヴィス業や製造業等の他の健全な分野への投資に再利用することも出来る。汚れた秘密の金は、デリバティヴ、一次産品、株式、国債の取引等、様々な金融商品に流れ込むことになる。
アフガニスタンのヘロイン・ビジネスは、西側が主張している様に「タリバンの財源を満たしている」訳ではなく、全く逆。この恩恵を受けるのは西側諸国内の強力な企業/犯罪者集団であり、ワシントンの外交政策がこれらの利益を維持する為に機能している。
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