現代世界を理解する為の5つの心理学実験(要点)
私自身も今まで何度も指摘して来たことだが(「テーマ別スレッド一覧」の「行動変容と洗脳」の項を参照)、COVID-10パンデミックやCOVID-19「対策」の推進には行動心理学の知見が様々な形で活用されている。権力者達は自分では気付き難い人間の心理的な仕組みを利用して、人々を自分達の思うが儘に誘導しようと試み、実際に非常に大きな成功を収めており、それによって傍から見れば狂気としか思えない様な集団洗脳が可能になっている。
これは他の分野でも同じことで、例えばウクライナ紛争は何よりも先ず認知戦だ。ここで最も盛んに使われている兵器はミサイルでも銃弾でもなく情報であって、主戦場はウクライナの領土ではなく、世界中の人間の心だ。この紛争は物理的な武力の衝突以前に、人々の認知構造を巡る争いなのだ。私達の思考や行動が大規模に操作されていると云う現実に気が付かなければ、現代世界を真の姿を理解することは決して出来ない。これは陰謀論だの何だのの話ではなく、単純に、世の中を読み解くリテラシーの問題だ。
巨大な嘘を使って自分達が支配する人民を誘導し、例えば戦争に動員したり戦争を支持したする様に仕向けることは、古来為政者達の常套手段ではあったが、20世紀プロパガンダの父エドワード・バーネイズ(ジークムント・フロイトの甥)は、深層心理学の知見を応用し、無自覚な心の働きを利用して大衆の心理と行動を操作する技術を開発する道を拓いた。今ではそれは一大産業と化しており、戦争やパンデミック、気候変動から大統領まで、何であろうと売り込むことが出来る。それは私達の日常に深く浸透していて、注意しなければ気が付くことさえ難しいものが多い。
この巨大な洗脳システムに個人で立ち向かうことは難しいが、基本的なココロのカラクリを幾つか知っておけば、或る種の「プレバンキング(心理的予防接種)」を行うことが出来るのではないかと思う。騙されない為には、先ず自分達の心がどう動くかを理解した上で、それがどの様に付け込まれる可能性が有るのかを押さえておくのが有効だ。
オフ・ガーディアンのキット・ナイトリー氏がこれに関連して、過去の有名な社会心理学実験を5つ挙げて紹介していた記事を見付けたので、多少捕捉しつつ訳してみた。以下本文。
5 Psychological Experiments That Explain the Modern World
1)ミルグラムの服従実験
Milgram Experiment - Big History NL, threshold 6
イェール大学の心理学者スタンリー・ミルグラムが1963年に行なった実験で、ここに挙げた例の中では最も有名なもの。
設定:被験者Aは被験者Bに対して記憶力テストを行い、間違えた場合は電気ショックを与える。被験者Bは偽物で、電気ショックも本物ではない。俳優は泣いたり、助けを求めたり、意識を失った振りをしたりするが、その間ずっと、被験者Aは電気ショックを与え続けるように促される。
結果:「被験者B」が苦痛を訴えているにも関わらず、大多数の被験者Aはテストを続行し、ショックを与え続けた。
結論:実験の解釈は様々に有り得るが(以下の実験も同様だが)、ミルグラムはこの実験に基付いて、「責任の拡散」と云う用語を作り出した。命令されてやったことなのだから本当は自分の過ちではない、自分が責任を問われることは無い、選択の余地は無かったと思い込むと、人は他者に危害を加えることに口実を見付けたり正当化したり出来る様になる。
応用:どんなものにでも応用出来る。軍、警察、病院等、あらゆる組織はこの心理的現象を利用して、人々に自分の道徳規範に反する行動を迫ることが出来る。ヒエラルキーや「権威」が存在する所なら何処ででも、人は「責任の拡散」に犠牲者に成り得る。
注:この実験は2015年に映画化されているが、同年エスタブリッシュメント誌のアトランティックは、「有害な命令に従わない能力は学習出来るスキルである」とする反論記事を掲載している。
Rethinking One of Psychology's Most Infamous Experiments
アイヒマンの後継者 ミルグラム博士の恐るべき告発
ミルグラムの服従実験は書籍化されている。
2)スタンフォードの監獄実験
Stanford Prison Experiment: This Is Where It All Happened
1971年にスタンフォード大学で実施された刑務所を使った実験。
設定:被験者の一方のグループを「看守」、他方のグループを「囚人」と指定し、1週間模擬刑務所の中で過ごして貰う。双方に制服が提供され、看守は囚人を名前ではなく番号だけで呼ぶよう命じられた。他にも色々ルールと手順が有るが、詳細はこちら。
結果:看守は次第にサディスティックになり、従順ではない囚人には罰を与え、「良い囚人」には報酬を与えて、彼等を分断しようとした。囚人の多くは単に虐待を受け、「トラブルメーカー」と「良い囚人」との間で争いが始まった。
結論:対照群が存在しないので、テクニカルな意味ではこれは厳密な「実験」ではなく、また「需要特性(demand characteristics。被験者が自発手に実験の目的を解釈して、自覚せずにその解釈に沿って行動を変えること)」の影響を受けている可能性も有るが、被験者の行動パターンは興味深い。現実の法的権限も、実験を続けなければならない要件も無かったにも関わらず、看守は残酷に、囚人は従順になった。人に権力を与えて、人間以下の存在を当てがってやると、人は残酷になる。人は刑務所に入れられると、現実に刑務所に入れられたかの様に振る舞う。
応用:これも無限に応用可能。COVID-19パンデミックに於ては、人々を特定の方法で扱い始めると、多数派はそれに従順に従い、協力を拒否する少数派を非難する様になった。各国の警官は突然新しい権限を与えられ、彼等の目には人間以下の存在と映る人(マスクを着用していない人々やワクチンを接種していない人)を虐待し始めた。これらの反応は偶然ではなく、仕組まれたものだ。
この実験もまた2015年に映画化されている。
プリズン・エクスペリメント
3)アッシュの同調実験
The Asch Experiment
1955年に実験心理学の開拓者の一人、ソロモン・アッシュによって始められた実験。上記2つ程残酷ではないが、より不安を掻き立てる性質のもの。
設定:グループの中で本物の被験者は一人だけで、他の被験者達は偽物。被験者は1人ずつ、答えが常に明らかな一連の選択式の質問をされ、偽の被験者達は全問誤答する。問題となるのは、1人だけ孤立した本物の被験者が自分の正答を保持し続けるか、それともグループに同調し始めるかどうか。
結果:対照グループでは誤答率は1%未満だったが、実験グループでは37%にも上った。つまり被験者の36%が、自分が間違っていることを知っていたにも関わらず、周囲に同調して最終的に回答を変更し始めた。
結論:約1/3の人は、自分が少数派であることに気付いた場合、周囲に合わせて考えを変える振りをするか、或いは実際に自分の信念を変えることすら有る。
応用:やらせや捏造による世論調査、選挙での投票数改竄、ソーシャル・メディアのbotアカウント、人工芝キャンペーン、「誰もがXを知っている」とか「Yだと考える人は1%しか居ない」と主張するメディアの見出し。偽の「合意」や捏造された「多数派」の印象を与える為のトリックは数限り無い。
注:実験は数十のヴァリエーションを持たせて百万回行われたが、最も興味深い発見は、被験者に同意する他の1人をグループに入れてやると、同調圧力に屈する率が87%も低下したことだ。基本的に人は自分の意見が孤立していることを嫌うものだが、多少の支援が有れば、自分が少数派であることに耐えられる様になる。これは知っておいた方が良い。
4)フェスティンガーの認知的不協和実験
1954 Festinger & Carlsmith's Cognitive Dissonance Study
余り知られていないが、認知的不協和理論を提唱したレオン・フェスティンガーが1954年に行なった実験で、幾つかの点で興味深い。
設定:被験者は反復的で単調な身体的作業を行うよう指示される。作業が完了すると、被験者は退室して、次の被験者(実際には研究室の助手)に、その作業が如何に面白いものだったか、嘘を吐くように指示される。ここで被験者は2つのグループに分けられる。一方のグループには嘘を吐くことに対して20ドルが支払われ、もう片方のグループには1ドルしか支払われない。ここからが本番で、偽の被験者に嘘を吐いて金を受け取った後、本物の被験者達は実験後のインタビューに参加し、作業について本当はどう考えていたかを記録する。
結果:20ドルのグループは概ね、その作業が退屈で反復的だと思ったと真実を語った。他方1ドルのグループは大抵、その作業を純粋に楽しんだと主張した。
結論:これが現実の認知的不協和と云うものだ。20ドルのグループにとって、金は嘘を吐くのに十分な理由であって、彼等は頭の中で自分の行いを正当化出来た。だが1ドルの場合は報酬が少なかった為、不誠実であることを内心で正当化するのが難しかった。その為、自分は全く嘘など吐いていないのだと思い込むことによって、無意識の内に自らの行いを正当化したのだ。何かをすることに対して少額の報酬を提供すると、彼等はそれを楽しんでいる振りをしたり、別の方法で心的投資を行なったりして、僅かな利益しか得られないことを正当化する。
応用:カジノやコンピューター・ゲーム、その他のインタラクティヴ・メディアは常にこの原則を利用している。プレイヤーに対する報酬は少ないが、それはそうすることによって、プレイヤーが自分はプレイを楽しんでいると思い込めるようになることを知っているからだ。大企業や雇用主も同様にこの現象に頼って賃金を低く抑えている。低賃金労働者には、自分は仕事を楽しんでいると納得させる心理的メカニズムが働くからだ。
注:このヴァリエーションとして、嘘を吐いても支払いが行われない第3のグループも設定された。このグループは認知的不協和の影響を受けず、20ドル貰ったグループと同じ様に、作業を正直に評価する。
フェスティンガーのこの本は認知的不協和理論の基本文献。
5)猿の脚立(五匹の猿)実験
Five monkeys - how to create a mentality of 85% of the people that we call MASS ?
1960年代にハーヴァード大で行われたとされている非常に有名な実験。この実験を取り上げることには議論の余地が有るが、その理由は後述する。
設定:先ず、中央に脚立を置いたケージに5匹の猿を入れる。脚立の上にはバナナの束が置かれているが、猿が脚立を登ろうとする度に、登らなかった猿に対して冷たい水が吹き掛けられる。最終的に、猿は脚立を避けることを学習する。
次に1匹が取り除かれて、代わりに1匹が入れられる。新しい猿は当然脚立に向かうが、他の4匹の猿に止められる。
次に2匹目が取り除かれて、別の新しい猿が入れられる。新しい猿は脚立に向かい、他の4匹に止められる(水を吹き掛けらた経験の無い1匹を含む)。
これを繰り返す。
結果:最初に水を吹き掛けられた猿が1匹も居なくなっても、5匹の猿は脚立を避け続ける。
結論:問題は、こんな実験は行われなかったと云うことだ。この実験の話は1996年から出回っており、インターネットではこの実験に関する記事やアニメーション動画が沢山見付かるが、ソースを挙げているものはひとつも無い。なのでこの話は現実の群集心理について教えてくれている訳ではないが、繰り返しているだけで神話が如何に現実に入り込んで来るかを説明してくれる事例としては好適だ。
That “Five Monkeys Experiment” Never Happened
そこでお次の話、
おまけ:猿の脚立(五匹の猿)実験の人間版
Brain Games Conformity Waiting Room
猿を使った実験は行われたことは無いが、ナショナル・ジオグラフィックは2018年に、実際に猿の脚立実験の人間版を行なった。
設定:偽の患者だらけの待合室に、一人の本物の被験者が入って来る。ベルが鳴ると、偽の患者は全員一瞬立ち上がってからまた腰を下とす。これを数回繰り返した後、偽の患者は1人ずつゆっくりと待合室から退室し、最後に本物の被験者だけが残る。その後、次の本物の被験者が入室する。問題は、
a)元の本物の被験者は、理由も知らないのにベルが鳴った時に立ち上がるだろうか?
b)待合室に独りになった時、被験者は立ち上がり続けるだろうか?
c)被験者はこの行動を新しい被験者に教えるだろうか?
結果:a)〜c)まで、全て「イエス」。
結論:この実験動画は単に同調圧力を記録したものではなく、「社会化を学ぶ方法」を描いたものだ。群れの行動を学ぶことは、自然界に於ては命を救う有益なことだと言っているのだ。
猿実験の話は群集心理の危険性を伝える為に利用されているが、それが実が捏造だと云う事実は、一次ソース以外の情報源に頼ることの危険性と、集団意識の作話能力について教えてくれてもいる。
他方、実際に行われた猿実験の人間版の方は、群集心理は存在するが、それは恐らく良いものなのだと云うメッセージを広める為に利用されている。だが同調圧力を高める為に、全てが仕組まれているとしたらどうだろう? そこに悪意が潜んでいるとしたら?
要するに
この世界を支配している連中(責任者、エリート、1%、「党」———何と呼んでも良いが)は、これらの知見を知っている。連中は人間の心の仕組みを理解している。
・連中は、責任を問われることは無いと安心させれば、人々に何でもさせることが出来ることを知っている。
・連中は、人々が権力を与えられれば濫用し、或いは、無力な存在として扱われれは実際に無力だと信じる様になると当てにして良いことを知っている。
・連中は、否定し様の無い現実が目の前に在ったとしても、周囲からの圧力によって(特に孤独だと感じさせることが出来れば)、多くの人々の心を変えることが出来ることを知っている。
・連中は、作業の遂行に僅かな報酬しか与えなければ、人々がそれを取る為に独自の心理的正当化を行うことを知っている。
・連中は、人々が他の人々がしていることを意識せずに、理由を尋ねることも無く行うことを知っている。
・そして連中は、十分に繰り返しさえすれば、現実では無い何かを人々が喜んで信じることを知っている。
連中はこれらを全て知っている。そしてその知識を常に利用している。文字通り、ずーっとだ。CM、記事、映画、ニュース、投稿、トレンド・ハッシュタグ。全てが心理的トリックだ。あらゆる戦争、あらゆるパンデミック、あらゆる見出しが、心理的操作によって成り立っている。それらは全て、上に挙げた様な諸原則を念頭に置いて構築されており、あなたの行動や信念を誘導する特定の感情的な反応を引き出すのが目的だ。メディアと云うものはその様にして機能する。情報を伝える為でも、娯楽を提供する為でもない、あなたをコントロールするのが目的なのだ。
そしてそれらには科学的根拠が有る。そのことを忘れないようにしよう。
これは他の分野でも同じことで、例えばウクライナ紛争は何よりも先ず認知戦だ。ここで最も盛んに使われている兵器はミサイルでも銃弾でもなく情報であって、主戦場はウクライナの領土ではなく、世界中の人間の心だ。この紛争は物理的な武力の衝突以前に、人々の認知構造を巡る争いなのだ。私達の思考や行動が大規模に操作されていると云う現実に気が付かなければ、現代世界を真の姿を理解することは決して出来ない。これは陰謀論だの何だのの話ではなく、単純に、世の中を読み解くリテラシーの問題だ。
巨大な嘘を使って自分達が支配する人民を誘導し、例えば戦争に動員したり戦争を支持したする様に仕向けることは、古来為政者達の常套手段ではあったが、20世紀プロパガンダの父エドワード・バーネイズ(ジークムント・フロイトの甥)は、深層心理学の知見を応用し、無自覚な心の働きを利用して大衆の心理と行動を操作する技術を開発する道を拓いた。今ではそれは一大産業と化しており、戦争やパンデミック、気候変動から大統領まで、何であろうと売り込むことが出来る。それは私達の日常に深く浸透していて、注意しなければ気が付くことさえ難しいものが多い。
この巨大な洗脳システムに個人で立ち向かうことは難しいが、基本的なココロのカラクリを幾つか知っておけば、或る種の「プレバンキング(心理的予防接種)」を行うことが出来るのではないかと思う。騙されない為には、先ず自分達の心がどう動くかを理解した上で、それがどの様に付け込まれる可能性が有るのかを押さえておくのが有効だ。
オフ・ガーディアンのキット・ナイトリー氏がこれに関連して、過去の有名な社会心理学実験を5つ挙げて紹介していた記事を見付けたので、多少捕捉しつつ訳してみた。以下本文。
5 Psychological Experiments That Explain the Modern World
1)ミルグラムの服従実験
Milgram Experiment - Big History NL, threshold 6
イェール大学の心理学者スタンリー・ミルグラムが1963年に行なった実験で、ここに挙げた例の中では最も有名なもの。
設定:被験者Aは被験者Bに対して記憶力テストを行い、間違えた場合は電気ショックを与える。被験者Bは偽物で、電気ショックも本物ではない。俳優は泣いたり、助けを求めたり、意識を失った振りをしたりするが、その間ずっと、被験者Aは電気ショックを与え続けるように促される。
結果:「被験者B」が苦痛を訴えているにも関わらず、大多数の被験者Aはテストを続行し、ショックを与え続けた。
結論:実験の解釈は様々に有り得るが(以下の実験も同様だが)、ミルグラムはこの実験に基付いて、「責任の拡散」と云う用語を作り出した。命令されてやったことなのだから本当は自分の過ちではない、自分が責任を問われることは無い、選択の余地は無かったと思い込むと、人は他者に危害を加えることに口実を見付けたり正当化したり出来る様になる。
応用:どんなものにでも応用出来る。軍、警察、病院等、あらゆる組織はこの心理的現象を利用して、人々に自分の道徳規範に反する行動を迫ることが出来る。ヒエラルキーや「権威」が存在する所なら何処ででも、人は「責任の拡散」に犠牲者に成り得る。
注:この実験は2015年に映画化されているが、同年エスタブリッシュメント誌のアトランティックは、「有害な命令に従わない能力は学習出来るスキルである」とする反論記事を掲載している。
Rethinking One of Psychology's Most Infamous Experiments
アイヒマンの後継者 ミルグラム博士の恐るべき告発
ミルグラムの服従実験は書籍化されている。
2)スタンフォードの監獄実験
Stanford Prison Experiment: This Is Where It All Happened
1971年にスタンフォード大学で実施された刑務所を使った実験。
設定:被験者の一方のグループを「看守」、他方のグループを「囚人」と指定し、1週間模擬刑務所の中で過ごして貰う。双方に制服が提供され、看守は囚人を名前ではなく番号だけで呼ぶよう命じられた。他にも色々ルールと手順が有るが、詳細はこちら。
結果:看守は次第にサディスティックになり、従順ではない囚人には罰を与え、「良い囚人」には報酬を与えて、彼等を分断しようとした。囚人の多くは単に虐待を受け、「トラブルメーカー」と「良い囚人」との間で争いが始まった。
結論:対照群が存在しないので、テクニカルな意味ではこれは厳密な「実験」ではなく、また「需要特性(demand characteristics。被験者が自発手に実験の目的を解釈して、自覚せずにその解釈に沿って行動を変えること)」の影響を受けている可能性も有るが、被験者の行動パターンは興味深い。現実の法的権限も、実験を続けなければならない要件も無かったにも関わらず、看守は残酷に、囚人は従順になった。人に権力を与えて、人間以下の存在を当てがってやると、人は残酷になる。人は刑務所に入れられると、現実に刑務所に入れられたかの様に振る舞う。
応用:これも無限に応用可能。COVID-19パンデミックに於ては、人々を特定の方法で扱い始めると、多数派はそれに従順に従い、協力を拒否する少数派を非難する様になった。各国の警官は突然新しい権限を与えられ、彼等の目には人間以下の存在と映る人(マスクを着用していない人々やワクチンを接種していない人)を虐待し始めた。これらの反応は偶然ではなく、仕組まれたものだ。
この実験もまた2015年に映画化されている。
プリズン・エクスペリメント
3)アッシュの同調実験
The Asch Experiment
1955年に実験心理学の開拓者の一人、ソロモン・アッシュによって始められた実験。上記2つ程残酷ではないが、より不安を掻き立てる性質のもの。
設定:グループの中で本物の被験者は一人だけで、他の被験者達は偽物。被験者は1人ずつ、答えが常に明らかな一連の選択式の質問をされ、偽の被験者達は全問誤答する。問題となるのは、1人だけ孤立した本物の被験者が自分の正答を保持し続けるか、それともグループに同調し始めるかどうか。
結果:対照グループでは誤答率は1%未満だったが、実験グループでは37%にも上った。つまり被験者の36%が、自分が間違っていることを知っていたにも関わらず、周囲に同調して最終的に回答を変更し始めた。
結論:約1/3の人は、自分が少数派であることに気付いた場合、周囲に合わせて考えを変える振りをするか、或いは実際に自分の信念を変えることすら有る。
応用:やらせや捏造による世論調査、選挙での投票数改竄、ソーシャル・メディアのbotアカウント、人工芝キャンペーン、「誰もがXを知っている」とか「Yだと考える人は1%しか居ない」と主張するメディアの見出し。偽の「合意」や捏造された「多数派」の印象を与える為のトリックは数限り無い。
注:実験は数十のヴァリエーションを持たせて百万回行われたが、最も興味深い発見は、被験者に同意する他の1人をグループに入れてやると、同調圧力に屈する率が87%も低下したことだ。基本的に人は自分の意見が孤立していることを嫌うものだが、多少の支援が有れば、自分が少数派であることに耐えられる様になる。これは知っておいた方が良い。
4)フェスティンガーの認知的不協和実験
1954 Festinger & Carlsmith's Cognitive Dissonance Study
余り知られていないが、認知的不協和理論を提唱したレオン・フェスティンガーが1954年に行なった実験で、幾つかの点で興味深い。
設定:被験者は反復的で単調な身体的作業を行うよう指示される。作業が完了すると、被験者は退室して、次の被験者(実際には研究室の助手)に、その作業が如何に面白いものだったか、嘘を吐くように指示される。ここで被験者は2つのグループに分けられる。一方のグループには嘘を吐くことに対して20ドルが支払われ、もう片方のグループには1ドルしか支払われない。ここからが本番で、偽の被験者に嘘を吐いて金を受け取った後、本物の被験者達は実験後のインタビューに参加し、作業について本当はどう考えていたかを記録する。
結果:20ドルのグループは概ね、その作業が退屈で反復的だと思ったと真実を語った。他方1ドルのグループは大抵、その作業を純粋に楽しんだと主張した。
結論:これが現実の認知的不協和と云うものだ。20ドルのグループにとって、金は嘘を吐くのに十分な理由であって、彼等は頭の中で自分の行いを正当化出来た。だが1ドルの場合は報酬が少なかった為、不誠実であることを内心で正当化するのが難しかった。その為、自分は全く嘘など吐いていないのだと思い込むことによって、無意識の内に自らの行いを正当化したのだ。何かをすることに対して少額の報酬を提供すると、彼等はそれを楽しんでいる振りをしたり、別の方法で心的投資を行なったりして、僅かな利益しか得られないことを正当化する。
応用:カジノやコンピューター・ゲーム、その他のインタラクティヴ・メディアは常にこの原則を利用している。プレイヤーに対する報酬は少ないが、それはそうすることによって、プレイヤーが自分はプレイを楽しんでいると思い込めるようになることを知っているからだ。大企業や雇用主も同様にこの現象に頼って賃金を低く抑えている。低賃金労働者には、自分は仕事を楽しんでいると納得させる心理的メカニズムが働くからだ。
注:このヴァリエーションとして、嘘を吐いても支払いが行われない第3のグループも設定された。このグループは認知的不協和の影響を受けず、20ドル貰ったグループと同じ様に、作業を正直に評価する。
フェスティンガーのこの本は認知的不協和理論の基本文献。
5)猿の脚立(五匹の猿)実験
Five monkeys - how to create a mentality of 85% of the people that we call MASS ?
1960年代にハーヴァード大で行われたとされている非常に有名な実験。この実験を取り上げることには議論の余地が有るが、その理由は後述する。
設定:先ず、中央に脚立を置いたケージに5匹の猿を入れる。脚立の上にはバナナの束が置かれているが、猿が脚立を登ろうとする度に、登らなかった猿に対して冷たい水が吹き掛けられる。最終的に、猿は脚立を避けることを学習する。
次に1匹が取り除かれて、代わりに1匹が入れられる。新しい猿は当然脚立に向かうが、他の4匹の猿に止められる。
次に2匹目が取り除かれて、別の新しい猿が入れられる。新しい猿は脚立に向かい、他の4匹に止められる(水を吹き掛けらた経験の無い1匹を含む)。
これを繰り返す。
結果:最初に水を吹き掛けられた猿が1匹も居なくなっても、5匹の猿は脚立を避け続ける。
結論:問題は、こんな実験は行われなかったと云うことだ。この実験の話は1996年から出回っており、インターネットではこの実験に関する記事やアニメーション動画が沢山見付かるが、ソースを挙げているものはひとつも無い。なのでこの話は現実の群集心理について教えてくれている訳ではないが、繰り返しているだけで神話が如何に現実に入り込んで来るかを説明してくれる事例としては好適だ。
That “Five Monkeys Experiment” Never Happened
そこでお次の話、
おまけ:猿の脚立(五匹の猿)実験の人間版
Brain Games Conformity Waiting Room
猿を使った実験は行われたことは無いが、ナショナル・ジオグラフィックは2018年に、実際に猿の脚立実験の人間版を行なった。
設定:偽の患者だらけの待合室に、一人の本物の被験者が入って来る。ベルが鳴ると、偽の患者は全員一瞬立ち上がってからまた腰を下とす。これを数回繰り返した後、偽の患者は1人ずつゆっくりと待合室から退室し、最後に本物の被験者だけが残る。その後、次の本物の被験者が入室する。問題は、
a)元の本物の被験者は、理由も知らないのにベルが鳴った時に立ち上がるだろうか?
b)待合室に独りになった時、被験者は立ち上がり続けるだろうか?
c)被験者はこの行動を新しい被験者に教えるだろうか?
結果:a)〜c)まで、全て「イエス」。
結論:この実験動画は単に同調圧力を記録したものではなく、「社会化を学ぶ方法」を描いたものだ。群れの行動を学ぶことは、自然界に於ては命を救う有益なことだと言っているのだ。
猿実験の話は群集心理の危険性を伝える為に利用されているが、それが実が捏造だと云う事実は、一次ソース以外の情報源に頼ることの危険性と、集団意識の作話能力について教えてくれてもいる。
他方、実際に行われた猿実験の人間版の方は、群集心理は存在するが、それは恐らく良いものなのだと云うメッセージを広める為に利用されている。だが同調圧力を高める為に、全てが仕組まれているとしたらどうだろう? そこに悪意が潜んでいるとしたら?
要するに
この世界を支配している連中(責任者、エリート、1%、「党」———何と呼んでも良いが)は、これらの知見を知っている。連中は人間の心の仕組みを理解している。
・連中は、責任を問われることは無いと安心させれば、人々に何でもさせることが出来ることを知っている。
・連中は、人々が権力を与えられれば濫用し、或いは、無力な存在として扱われれは実際に無力だと信じる様になると当てにして良いことを知っている。
・連中は、否定し様の無い現実が目の前に在ったとしても、周囲からの圧力によって(特に孤独だと感じさせることが出来れば)、多くの人々の心を変えることが出来ることを知っている。
・連中は、作業の遂行に僅かな報酬しか与えなければ、人々がそれを取る為に独自の心理的正当化を行うことを知っている。
・連中は、人々が他の人々がしていることを意識せずに、理由を尋ねることも無く行うことを知っている。
・そして連中は、十分に繰り返しさえすれば、現実では無い何かを人々が喜んで信じることを知っている。
連中はこれらを全て知っている。そしてその知識を常に利用している。文字通り、ずーっとだ。CM、記事、映画、ニュース、投稿、トレンド・ハッシュタグ。全てが心理的トリックだ。あらゆる戦争、あらゆるパンデミック、あらゆる見出しが、心理的操作によって成り立っている。それらは全て、上に挙げた様な諸原則を念頭に置いて構築されており、あなたの行動や信念を誘導する特定の感情的な反応を引き出すのが目的だ。メディアと云うものはその様にして機能する。情報を伝える為でも、娯楽を提供する為でもない、あなたをコントロールするのが目的なのだ。
そしてそれらには科学的根拠が有る。そのことを忘れないようにしよう。
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