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ドイツは米国の「アジアへの軸足変更(回帰)」を補佐する為、「ヨーロッパ要塞」を再建造中(抄訳)

アンドリュー・コリブコ氏の分析の抄訳。ドイツはNATOを再編してNATO圏全体を単一の軍事空間へと変え、「ヨーロッパ要塞」を再建しつつある。これは欧州に於ける米国の負担を軽減し、米国が中国との代理紛争に備えて「アジアへの軸足回帰」が出来るようにするのが目的だ。
Germany Is Rebuilding “Fortress Europe” To Assist The US’ “Pivot (Back) To Asia”
Fortress Europe



ドイツが再び「ヨーロッパ要塞」を再建しつつある

 ドイツは一発の銃弾も撃たずに、この100年の悲願だったヨーロッパ大陸の制圧を成功させようとしている。相互に関連した幾つかの展開がそれを強く示唆している。このことは2022年の7月12月にも警告しておいたが、この計画はいよいよ実現に近付いている。

 きっかけはドイツに支援されたドナルド・トゥスク元首相が2023/10/15の総選挙の結果としてポーランドの首相に返り咲いたことだった。これにより、ドイツの陰謀に立ち向かい、自らの「勢力圏」で中東欧に覇権を確立しようとしていたポーランドの保守ナショナリスト勢力が排除されることになった。

 トゥスクが政権に復帰することが明らかになると、ドイツ人でNATO兵站責任者アレクサンダー・ソルフランク中将は、11/23に「軍事シェンゲン」を提案した。これは官僚制度や兵站上の障害を無くし、NATOブロックを単一の軍事空間に変える為の構想だ。

 12/18になるとドイツはリトアニアと協定を結んだ。リトアニアはベラルーシとカリーニングラードに隣接する地政学的に重要なポイントに位置しているが、そこにドイツの戦車旅団が派遣されることになったのだ。

 年をまたいで2024/01/14のインタビューで、ポーランドの新外務次官アンジェイ・セインは、「我々の同盟国(つまりドイツ)からの援助と協力は大歓迎」だと発言した。

 同日、ドイツのビルト紙はドイツ国防省のリークされた機密文書に書かれていた、対ロシア戦争の詳細なシナリオ予測の内容を明らかにした。それに拠れば、ロシアはバルト三国のロシア系住民達を唆して今夏までに暴動を起こさせ、NATOにとって重大な安全保障上の危機を引き起こすと予測されていた。

 これと並行してラトビアは一部のロシア系住民の強制追放を計画していることが報じられていたが、エストニアとフィンランド(NATOの新たな加盟国)とが親族関係で繋がっていることを考えると、フィンランドが巻き込まれた場合、この緊張は北極圏にまで拡大するかも知れない。

 そしてこのでっち上げられた「ロシアの脅威」を口実に、軍事シェンゲン計画が加速されるかも知れない。そうなると、第2次世界大戦後初めて、ロシアの西部国境沿い全域にドイツ軍が配備されることになる(無論、前回これと同じことをやったのはヒトラーだ)。

 これと並行して、ルーマニアが「緊急」モードで建設中の「モルドバ高速道路」は、地中海からウクライナまでの軍の移動を容易にするだろう。

 予期せぬ障害に直面でもしない限り、これらのパーツが全て揃った暁には、ドイツは米国の支援を受けて現代版の「ヨーロッパ要塞(Fortress Europe)」ナチスドイツに占領されたヨーロッパ地域全体)を再建することになるだろう。

 西洋の事実上の指導者である米国は、ドイツを「背後から主導」して、ヨーロッパでロシアを封じ込める為のトップの代理勢力として機能させることで、この戦略地政学的プロジェクトを支援させたいと思っている。そうすれば、米国は「アジアへの軸足変更(回帰)」を果たして、より強力に中国を封じ込めることに集中することが出来る様になるだろう。



狙いは対中国戦争

 米国は中国との戦争の可能性を前に同盟諸国を纏めており、NATOの様なAUKUS+同盟システムを構築して、北東部戦線を日本、南東部戦線をフィリピンで固めようとしている。

 2023/11/15の習-バイデン会談で示されている様に、米中は雪解けを開始してはいるが、永続的な平和は期待されていない。寧ろ両国は台湾を巡る不可避の対立に先立って時間稼ぎをする為に、互いに譲歩しようとしているのだ。

 米国がインドから政治的に距離を置いている一方、中国はロシアから経済的に距離を置いている。これは印米関係や中露関係が断絶するかも知れないと言っている訳では全くない。米中は単に一時的にライヴァルを宥める為にそうしているだけだ。

 これらの戦略的計算は、ドイツが「ヨーロッパ要塞」を再建していると云う文脈に当て嵌めてみると重要な意味を持つ。何故ならそれは欧州に於ける米軍の負担を軽減し、その軍事資源をアジアに再配備することを可能にするからだ。

 またそれはウクライナ紛争凍結の為に妥協をせねばならない欧州諸国をより有利な立場に置くことも出来る。プーチンはウクライナの非軍事化・非ナチ化・中立化の条件の条件は譲れないと主張しているが、「ヨーロッパ要塞」は彼に再考を強いることになるかも知れない。上で説明した展開が鎖反応を起こして北極-バルト海戦線に沿ってNATOとロシアとの間に大規模な危機が発生した場合、欧州は緊張緩和の交換条件として、ウクライナでの要求を引っ込めろと要求することも出来る様になる。実はそうした物語は既に紡がれている。これは西洋の読者達に紛争凍結を受け入れさせる為に、和平交渉再開はロシアの弱さの表れだと信じせる試みの一環だ。

 プーチンが3つの安全保障要求を原則的に曲げない場合には、例えばポーランドはベラルーシに対してテロ侵攻を仕掛けるかも知れない。その目的は緊張を一時的にエスカレートさせることでプーチンに対して圧力を強め、朝鮮戦争の様な休戦協定の条件を呑ませることだ。

 プーチンは屈しないかも知れないし、01/12に署名された「安全保障協力に関する英-ウクライナ協定」で示されている様に、西洋は休戦が結ばれようとも紛争継続・再開に向けて準備を整えているので尚更そうだ。ビルトのシナリオ予測では2025年半ばまでに「ロシアの侵略」が起こることになっているが、エストニアのカジャ・カラス首相は、NATOとロシアの直接対決にはまだ3〜5年の準備期間が有ると発言しており、これは米軍の、2030年までに中国が台湾を「侵略」すると云う予測とも一致している。

 他の計画(表向きは「予測」と云うことになっている)は早ければ2025年であり、これはドイツ国防相の計画/予測とも一致している。だがそれが起こるのは2027年までにだとする予測も有るし、2035年までと云うものも有る。

 米国はロシアと中国を挑発することでそれぞれと代理紛争を引き起こすだろうが、両方を同時に起こすのではなく、再武装の為の時間を稼ぐ為に、時間をずらすことが最も合理的だ。

 ロシアは特別軍事作戦で既に一度西洋の機先を制しているので、例えばドイツ国防省の予測の様にロシア軍が春に接触線を突破する等の事態が起こった場合に有利な立場に立てるよう、ドイツは米国の支援を受けて「ヨーロッパ要塞」を直ちに再建しなければならない。

 この地政学的プロジェクトで最も大事なのは、ロシアに不愉快な妥協を強制しつつ、米国の「アジアへの軸足回帰」を促進することだ。ロシアは妥協を受け入れないかも知れないが、後者は成功するかも知れない。
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米国諜報部の結論:イランはフーシに紅海封鎖を命令していない(抄訳)

クレイドルの記事の抄訳。フーシはイエメンの代理勢力や傀儡なのか? 2024/01/14のNYタイムズの報道に拠ると、米諜報機関はそうではないと言っている。
US intelligence concludes: Iran does not dictate Yemeni actions



 2024/01/14のNYタイムズの報道に拠ると、米諜報機関はイエメンのアンサララ(フーシ)はイランから命令を受けていない「独立運動」であると結論付けた。
U.S. and Iran Battle Through Proxies, Warily Avoiding Each Other

 「米国のスパイ機関は、フーシは独立した組織であり、イランは彼等の日々の活動に関して命令を下していないと考えている。」

 「イランの上級指導者――精鋭クッズ部隊の司令官か最高指導者ハメネイ師の何れか――が最近の紅海の船舶に対するフーシの攻撃を命令したと云う直接的な証拠は無い。」

 だがホワイトハウスは、イラン政府が、軍事的にイエメンのサヌア政府軍と連携しているアンサララ抵抗運動に武器を提供している証拠を持っていると主張している。但し、イエメンは2015年以来、米国が支援するアラブ連合による厳しい封鎖を受けており、主要な港と空港は依然として包囲されているのだが、イランがどうやってこの包囲網を掻い潜っているのかは説明されていない。

 「フーシは、中国やその他の供給業者から入手した部品から組み立てたドローン等、多くの独自の兵器を製造出来る様だ。」

 サヌア政府はまた、大量のソ連時代の兵器を所有している。

 西洋メディアは長年、アンサララはイランから命令を受けているイランの代理勢力だと決め付けて来た。ヒズボラとイラクの抵抗勢力についても同じ様な話を広めているが、01/03の演説で、ヒズボラ指導者ナスルッラーフはこう述べている:

 「抵抗の枢軸に於ては、どの党派も他党派に命令することは有りません。各党派は自国の戦略的ヴィジョンと利益に沿った形で決定を下します。」

 「(抵抗の枢軸には)奴隷は存在しません。居るのは人民に勝利を齎す誇り高く自由な人間だけです。」

 ワシントンは最近、アンサララによる紅海でのイスラエル船舶に対する海上封鎖に対抗して、イエメンの幾つかの州に対して一連の暴力な攻撃を実行した。

 だがアンサララとサヌアの軍隊は、米国の攻撃には怯まないと述べ、作戦を継続することを誓った。

イエメン

★クレイドルの記事の抄訳。フーシはイエメンの代理勢力や傀儡なのか? 2024/01/14のNYタイムズの報道に拠ると、米諜報機関はそうではないと言っている。
米国諜報部の結論:イランはフーシに紅海封鎖を命令していない(抄訳)

★2024/01/08のベン・ノートン氏の解説動画の要点を纏めてみた。フーシ派についてだけでなく、2015年以来続くイエメン戦争や湾岸地域全体の状況を理解する上でも参考になる。日本語圏ではシリア同様、これを「内戦」などと呼んで、侵略者の加害者責任を曖昧にする無責任で恥知らずな解説しか出回っていないので、少しでも参考になればと思う。
イエメンのフーシとは何者か? 彼等は何故紅海でイスラエル関連の船舶を攻撃するのか?(抄訳)

★アンドリュー・コリブコ氏の分析の抄訳。2024/01/10の安保理決議で、ロシアは西洋がそれをフーシ攻撃を正当化する為に悪用するだろうと予見していたにも関わらず、拒否権を発動してそれを阻止しようとはせずに棄権した。誤解の無いよう、ロシアのこの決断の意図について解き明かしておかねばならない。
何故ロシアは西洋がフーシへの攻撃に悪用した安保理決議に拒否権を発動しなかったのか?(抄訳)

★アンドリュー・コリブコ氏の分析の抄訳。主流メディアも非主流メディアも、ロシアは紅海でのフーシによる海上攻撃を支持していると主張しているが、2024/01/03のネベンジア国連常任代表の発言からも判る通り、ロシアは親フーシではない。ロシアは米国にこれ以上紅海の軍事化を進める口実を与えたくない。
人気の有る話とは異なり、ロシアはフーシの海上攻撃を非難している(抄訳)

★アンドリュー・コリブコ氏の分析の抄訳。2023/11/20、フーシがイスラエルと関係が有るとされる船を拿捕したが、紅海の安全を確保すると云う使命を、紅海評議会は怠ったことになる。これによりNATOが紅海を軍事化する口実が生まれてしまったが、これはエリトリアやスーダン等の加盟国にとって、予期せぬ安全保障上の課題を引き起こすかも知れない。
フーシがイスラエル関連と言われる船を拿捕した事件で、紅海評議会の信用が失墜(抄訳)

★アンドリュー・コリブコ氏の分析の抄訳。2023/11/02のイエメンのフーシによるイスラエル爆撃未遂は、イランによって承認された可能性が有る。その場合イランとサウジとの関係は再び悪化し、地域全体に広範な影響を齎す可能性が有る。
フーシによるイスラエル爆撃未遂は何が目的だったのか?(抄訳)

2023/10/31、イエメン北部を実効支配する親イラン組織のフーシ派(アンサール・アッラー)はパレスチナ情勢を巡ってイスラエルとの戦争状態に入ったと正式に認めた。西洋がジェノサイドを煽った所為で紛争がどんどん拡大する。
イエメン・フーシ派 イスラエルとの戦争状態を宣言

★キット・クラレンバーグ氏の記事の要点。クレードルのスクープを扱っている。大英帝国は曾ての栄光を取り戻す為にイエメンで何をやらかしているか。
リークされたファイル:イエメンでの英国の秘密プロパガンダ作戦(要点)

2023/04/17、国連事務総長のイエメン担当特使ハンス・グルンドベリは、イエメンが行われた大規模な捕虜交換について、ここ8年間で平和を齎す最大のチャンスだと発言し、一定の慎重さを示しつつも、和平努力に向けた「建設的な対話」を歓迎すると述べた。
Best Chance for Peace in Yemen in Eight Years: UN Envoy

2023/04/17、世界最悪の人道危機が続くイエメンでは、サウジが主導する軍事連合が104人のフーシ派の捕虜を釈放。この前日には700人以上のフーシ派と、180人以上のサウジやスーダンの兵士達の捕虜交換が成功している。また同日、イエメンのフダイダ港に人道支援物資を積んだ3隻の貨物船が入港し、非人道的な海上封鎖が緩和されたことが明らかになった。2015年に米国の完全な支援を受けて始まったイエメンの戦争では、2021年末の時点で少なくとも377,000人が死亡しており、和平交渉は今だに実現していないが、これは非常に前向きな展開だ。
Saudis Release More Houthi Prisoners, Relief Ships Dock in Hodeidah

2020/06/21、イエメン沖に位置するソコトラ諸島は、イエメンの南部暫定評議会(STC)を支援するUAEによって軍事支配を受け、住民が追い出されて軍地基地に変えられた。その後イスラエルの軍事専門家がそこを訪れたことが確認された。この展開はUAEとイランと云う共通の敵を共有するイスラエルが、イランが支援するイエメン北部のアンサララ運動(フーシ)に対する攻撃の拠点を確保する可能性を意味すると同時に、フーシから屈辱的な敗北を嘗めさせられているサウジが、フーシと和平交渉を進める可能性を危険に曝すことになる。イエメンに於けるUAEとサウジの関心は既に分裂している。
 
Tyranny on the waters: The UAE-Israeli occupation of Yemen’s Socotra Island

2023/03/24、UNICEFの発表に拠れば、イエメンでは8年間の壊滅的な紛争により、1,100 万人以上の子供達が人道支援を必要としている。5歳未満の220 万人の子供が急性栄養失調で苦しんでいるが、その中でも54万人以上の子供達が、生命を脅かす重度の急性栄養失調に苦しんでいる。10分毎に1人の子供が、予防可能な原因で死亡し続けている。徴兵された子供はこれまでに4,000人を超え、教育施設や医療施設への攻撃や軍事利用は900件を超える。230万人以上の子供達が避難キャンプで暮らしており、基本的な健康、栄養、教育、保護、洗浄等へのアクセスを妨げられている。2023年度には4億8,400万米ドルの支援が早急に必要だ。何度も指摘して来ているが、現在世界最悪の人道危機が起こっていると国連が発表しているのはウクライナではなくイエメンだ。ミサイルなんかを送るカネが有るなら、人道的にもっと他に優先すべき使い方が幾らでも有る。マスコミでの扱いが小さいからと云って、問題が小さいと云うことにはならない。
8 years of crushing conflict in Yemen leave more than 11 million children in need of humanitarian assistance
UNICEF Yemen @UNICEF_Yemen

★コリブコ氏の分析。現時点で最も流血の少ない方法で「世界最悪の人道危機」を終わらせる方法を模索している。
イエメンの三分割は略既成事実だ(要点)

コリブコ氏の記事。イエメン紛争についてロシアは2015年以来中立を堅持しているが、イエメンを事実上支配している3つの勢力それぞれに対して関係を維持している。どれかひとつを優遇することは、残り2つの勢力との関係を損ないかねないので、これは合理的な戦略だと言える。
 1)国連が承認するサウジの傀儡政府はエネルギー調整に不可欠。
 2)イランが支援するフーシ派は貴重な軍事ライフライン。
 3)UAEが支援する南部暫定評議会は外国金融取引を促進する為の鍵。
What Explains Russia’s Conspicuous Neutrality Towards The Yemeni Conflict?

2022/11/20の「女性と子供の権利保護の為の Entesaf 組織」の発表では、イエメンでは2015年にサウジ主導連合運の攻撃が開始されて以来、3,860人の子供が殺され、4,256人が負傷した。1,060万人の子供達の内、240万人が依然として学校に通えていない。国際的に禁止されている地雷クラスター爆弾により、毎日80人以上の新生児が死亡している。そしてイエメンの天然資源の強奪は続いている為、国連が仲介した人道的停戦協定の延長は実現困難。「国際社会」の無関心に支えられて、「価値無き犠牲者」達は今日も死に続けている。
Over 8,000 Yemeni children killed, injured since 2015

★「世界最悪の人道危機」に中国が加担している件についての纏め。
中国はイエメン人を殺害するドローンをサウジとUAE政権に提供し、イエメンの石油を略奪しているのだろうか?(要点)

世界最悪の人道危機が起こっているイエメンの戦争の経緯を、19世紀まで遡って解説した動画。色々な要因が複雑に絡み合っているので、一口に戦争に反対すると言っても、全体的な状況を理解した上で戦争に反対するにはその歴史的背景を知らなければならない。
Why Yemen is Dying (and Nobody Cares)


ウクライナより遙かに酷い状況にも関わらず、西側大手メディアからは殆ど関心を払われていない人道危機のひとつが起こっているイエメンでは、年末までに2,340万人が人道支援を必要とし、1,900万人が深刻な食糧不安に苦しむと予想されている。ここ4年で最悪の食糧不安の原因はサウジ主導の侵略と国の封鎖、そして外国からの援助の不足。商品と燃料価格は上昇している。サウジが支援するイエメン政府の支配地域に住んでいる家族の58%と、フーシ派の支配地域に住んでいる家族の51%が、最低限の食糧にありつけていない。国連食糧計画は「我々は現在、これらの人々の内500万人への支援を1日の必要量の50%未満に縮小し、残りの800万人への支援を1日の必要量の約25%に縮小することを余儀無くされている」とツイートした。
Yemen facing worst food crisis in four years

★RTの記事の要点。
西洋は対ロシア経済戦争を煽る為にイエメンを再び犠牲にするつもりだ(要点)

イエメンのフーシと、サウジが支援するイエメン傀儡政府との間で、2022/04/02に停戦が宣言されていたのだが、国連特使の発表では、この停戦は同じ条件の下で08/02〜10/02まで延長される。2015年以来続いて来た戦争に於いて、この停戦は最も長い。

UN brokers extension of Yemen ceasefire

赤十字に拠ると、イエメン人は「想像を絶する恐怖」に直面している。3,050万人の人口の約66%が基本的な医療を受けられず、まだ稼働している51%の医療施設に行くことすら屢々命懸け。医療専門家が立ち会う出産は50%未満に過ぎず、1人の母親と6人の新生児が2時間毎に死亡している。2014年の内戦の勃発以来、避難した推定420万人の73%が女性と子供。国連はイエメンの紛争を「世界最悪の人道的危機」と評しており、2021年末の国連の数字に拠ると、37万7,000人、5歳未満の子供の3分の2以上が死亡している。イランが支持している(但し武器の供与は否定している)フーシと、西側諸国が支援するサウジ連合軍とイエメンの傀儡政府との対立は既に8年も続いているが、「国際社会」の関心は低い。何故か? 最大の原因はマスコミが報じないからだろう(同じく2014年以来続いているウクライナのクーデター政府によるドンバスの人々に対するジェノサイドの様に)。

Yemeni mothers and babies facing ‘unimaginable horror,’ Red Cross tells RT

世界食糧計画(WFP)は2022/06/27、世界的インフレ、資金のギャップ、ロシア=ウクライナ戦争の影響を理由に、これを更に削減すると発表。500万人分の支援を1日の要件の50%未満に、残りの800万人分を約25%に縮小するらしい。WEPは今年3月、イエメンでの人道的活動の遂行を可能にする為必要な42億3,000万ドルの内、約13億ドルしか資金提供の約束を得られなかったと発表している。米帝の代理侵略戦争によってもう7年も、ウクライナよりも遙かに酷い人道的危機が起こっているのに、「国際社会」の関心は一体何処に?
 Jennifer Bose:CARE
WFP announces further reduction of food rations in Yemen

サウジ連合軍によるイエメン侵略を支援し、経済制裁によってイエメンに甚大な人道的危機を引き起こしてい米帝のグリーンフィールド国連大使は、ロシアのウクライナ侵略による小麦価格の上昇とウクライナからの輸入不足がイエメンに食糧危機を引き起こしていると主張し、イエメンへの攻撃を続けているサウジとUAEがイエメンへの人道支援を行ったと称賛。ここまで図々しいといっそ見事。人間のクズと言う他無い。
US Claims Russia to Blame for Yemen Food Shortages, Praises Saudi Role

★ジャーナリストのヴァネッサ・ビーリィ氏によるダマスカス駐在のイエメン大使のインタビューの要点。
独占:ヴァネッサ・ビーリィがダマスカスのイエメン大使にインタビュー(要点)

ウクライナ紛争の陰で殆ど忘れ去られている、米帝が支援するサウジアラビアによるイエメンの侵略は、今や7周年を迎えた。3,000万人の人口の内約80%が人道支援を必要とし、5歳未満の36万人の子供が重度の栄養失調。壊滅的な飢餓人口は2022年末までに31,000人から161,000人の約5倍になると予想されている。だがイエメン軍は反撃能力を高め(これによる原油価格の高騰は西側のマスコミでは「ウクライナ危機の影響」などと言われている)、2022/03/26には全国で大規模な抗議行動が起こり、人々は欺瞞的な国連の停戦を拒否し、封鎖からの完全な解放を誓っている。
On Its Seventh Anniversary, Yemen Seeks to End a War the World Has Forgotten

★少しデータが古いが、2015年に始まったイエメン戦争の勢力図。アル=ジャジーラから拾って来た。イエメンの軍事行動の勢力図

イエメンに関する私のTwitterスレッド。
 川流桃桜@UnmasktheEmpire @kawamomotwitt

イスラエル人はどうやって洗脳されているのか(要点と補足)

uncivilized チャンネルの動画の要点。多少補足した。

 ここで挙げた3つのポイントは、米国を中心とする西洋の帝国主義システムの永久戦争体制を支えている国であれば何処ででも行われていることであって、日本もイスラエル程ではないが例外ではない。他者(他国の人間とは限らない)を非人間化し、不都合な事実を隠蔽・改竄・抹殺し、被害者意識を煽ることは何も珍しいことではなく、当たり前にその辺で幾らでも見られる光景だ。今の日本ではこうした集団洗脳は政府やマスコミや学界だけではなく、右も左も関係無く草の根レヴェルで起こっている。「戦争に反対している」と口先では言いながら、実際には戦争を支持していながらそれに気が付かない人が今や圧倒的多数派だ。

 現実のハイブリッド戦争に於ては、銃や戦車や戦闘機やミサイルの出番は全体のほんの一部だ。戦争は最初に一発が放たれるずっと前から起こっている。戦争を可能にするには軍備を揃えるだけでは駄目なのであって、それに先立って人々の心理状態を誘導してやらなければならない。特に侵略戦争をする時には軍事予算をどう捻出するかよりも、それを可能にすべく、人々をどう洗脳するかが最重要ポイントとなる。その意味では、この問題はイスラエルだけの局所的な問題だとは絶対に考えるべきではない。これは私達が共有している問題だ。
How Israelis are Brainwashed



 
 SNSを少し探せば、パレスチナ人に対する無差別の大量殺戮を歓声を上げて祝ったり、パレスチナ人差別を笑って支持するイスラエル人の映像がわんさか見付かる。ウクライナのバンデラ主義者達と同じで、民族浄化に対して躊躇いが無いどころか、寧ろそれを喜んで実行する人がイスラエルには溢れている。

 どうやったらこんな非人間的な反応をする人間が出来上がるのか?

 その答えは条件付けだ。イスラエルの教育制度は、ジェノサイドやアパルトヘイトをイスラエル人に進んで支持させる為に、次の様なことを行っている。



 1)相手を非人間化する
 
 イスラエルの教科書では、パレスチナ人は「アラブ人」と呼ばれ、原始的な農民や難民の群れ、或いは覆面をしたテロリストとして描かれている。

 パレスチナ人を生身の人間ではなく常に「問題」や「脅威」として描くことで、嬉々として「アラブ人を殺せ!」「アラブ人に死を!」などと叫ぶイスラエル人が出来上がる。

 しかもイスラエル人は(直ぐ近くに住んでいるにも関わらず)直接パレスチナ人と向き合って話すことが略無いので、自らの偏見を経験によって正す機会が無い。偏見は偏見の儘、思い込みだけで強化されることになる。


 
 2)加害の歴史を教えない

 ヘブライ語でイスラエルの地図を検索すると、ヨルダン川西岸地区、東エルサレム、ガザ地区がはっきり示されていないことが判る。これらは全て、イスラエルが国際法に違反して不法に占領している地域なのだが、それが分からないようにされているのだ。イスラエルの教科書に載っている地図も同じだ。

 イスラエルの教科書では、イスラエルがパレスチナ人が伝統的に住んで来た土地を不法に奪って植民地事業を進めて来た事実を教えない。その結果、イスラエル全土は正統な権利としてイスラエル人のものだと信じて疑わないイスラエル人が出来上がる。



 3)被害者意識を煽る

 イスラエルの子供達は保育園の段階からホロコーストについて教えられる。そして大量の恐ろしい写真を見せられ、被害者達の体験を想像してみるよう奨励される。
 
 子供達に自分達のことを被害者達と同一視させるのは、イスラエル教育省の正式な決定による方針だ。この結果、「イスラエル人は全員ホロコースト・サバイバーか、将来起きるかも知れないホロコーストの様な出来事の犠牲者候補である」と云う考えを吹き込まれることになる。

 この目的は子供達にトラウマを植え付けることによって報復感情を育てることだ。但しこの報復の対象はドイツ人やヨーロッパ全土に居たナチの協力者達ではなく、ホロコーストとは全く何の関係も無い現在のパレスチナ人だ。植民地化の被害者達が何故かナチスと同一視されているのだ。だからパレスチナ人に対するジェノサイドを正当化する為に「鉤十字を身に着けた奴等を皆殺しにしろ!」などと云う珍妙な主張が平気で叫ばれることになる。

 ホロコーストの歴史をこうして兵器化することによって、シオニズムは入植植民地主義的・人種差別的イデオロギーではなく、ユダヤ民族を救う為のものであると云う信念が植え付けられ、そしてこのイデオロギーと恐怖に基付く「次のホロコーストを起こさない為」と云う大義名分によって、パレスチナ人に対する暴力が正当化される。

 その結果、パレスチナ人に対するジェノサイドを実行しているイスラエル人は、テロ組織から自らを守る為に自衛しているだけ、と大真面目で主張するイスラエル人が大勢出て来る。



倒錯した世界観
 
 パレスチナ人を非人間化することで、彼等は土地を奪われ自由を求める抑圧された人々ではなく、ユダヤ人を殲滅したがっているテロリストであると云うことにされる。そして学校を卒業したイスラエル人は2〜3年の兵役義務を果たす過程で、パレスチナ人弾圧の最前線に立ち、被差別民族に対して暴力を揮うことは普通のことなのだと云う経験を積むことになる。

 イスラエルがユダヤ人国家として存続するには、人口動態的にユダヤ人が多数派を占める状態を維持しなければならない。そしてそれを実現する為には、定期的にパレスチナ人を追放し、投獄し、殺害することが必要になる。

 ユダヤ人が安全に暮らすにはそれしか無いのだと人々が信じ込んでいなければ、この体制は維持出来ない。そしてパレスチナ人を平和や自由を求める人間として見ることは、この体制にとっては不適当なのだ。

パキスタンの支配層はイランとの緊張を煽ることでどう利益を受けているのか?(抄訳)

アンドリュー・コリブコ氏の分析の抄訳。パキスタンは対テロ作戦を巡ってイランとの関係を急速に悪化させている。これは一見するとパキスタンの利益に反する様に見えるが、パキスタン支配層の観点からすると、この展開からは様々な恩恵を得ることが出来る。
Here’s How The Pakistani Establishment Benefits From The Latest Tensions With Iran



 2024/01/16、イランは自国がテロ指定している分離主義勢力のパキスタン国内の拠点に対して越境攻撃を行った

 これに対して01/18、パキスタンは自国がテロ指定している分離主義勢力のイラン国内の拠点に対して越境攻撃を行った

 この結果生じる危機はユーラシア統合プロセスを脅かし、米国はこれに付け込んでユーラシアの分断統治に利用しようとするかも知れない。

 イランの対テロ攻撃に対して、インドドはイランを支持し、米国はパキスタンに対する主権侵害だと非難したことも指摘しておく価値が有るだろう。これは印米の戦略的食い違いが更に増大したことを示すもうひとつの事例だ。

 だが、インドが近年イランとの戦略的パートナーシップを強化し、米国が支援した2022年4月のクーデター以降、パキスタンが米国の属国に逆戻りしたことを考えると、これは予想出来た展開だった。

 表面的には、イランとパキスタンとの間で緊張が悪化することは、パキスタンの利益には反するだろうと思われるかも知れないが、実際には、パキスタンの支配層(舞台裏で采配を振るう軍-諜報構造)は以下の5つの恩恵を受けることが出来る。



 1)パキスタン軍は国内の支持を固めることが出来る。

 恐らく米国が承認したクーデターから約2年、国はイムラン・カーン首相の追放に賛成する者と反対する者との間で二分されて来た。2023年5月の戒厳令によってこの亀裂は危険なまでに悪化したが、イランの越境攻撃を受けて以降、あらゆる政治的立場のパキスタン人が軍を中心に団結した。来月選挙が予定されていることを考えると、これは体制側への圧力を和らげるのに役立つだろう。



 2)パキスタンは自分達が信頼出来る反イラン同盟国になり得ることを西洋に証明した。

 2023/10/07に勃発したイスラエル・ハマス戦争は、イラン・イスラエル地域代理戦争へと発展した。2009年に「アジアへの軸足変更」を行った米国主導の西洋は、過去2年間はウクライナを使ってロシアに代理戦争を仕掛けることに集中していたのだが、これによって彼等は再び西アジアに焦点を戻した。

 西洋にとってイランは現在、ロシアや中国と同様に封じ込めと不安定化の優先対象と見做されているが、イランに対する報復攻撃を行って以降、パキスタンはこの点で最も信頼出来る同盟相手であると見做されている。



 3)従って、パキスタンの今後の不正選挙について西洋が批判する可能性は低い。

 客観的な観察者であれば、パキスタンの今後の選挙が真に自由で公正なものになると期待したりはしないだろうが、恐らく西洋がこれを批判する可能性は低いか、少なくとも非常に穏健な批判しかしないだろう。パキスタンはイランの封じ込め・不安定化を行う上で役に立つからだ。パキスタンを自陣営に引き留めておく為に、彼等はこの見せ掛けの民主主義に目を瞑るだろう。



 4)西洋には今やパキスタンに武器と援助を送り続ける理由が有る。

 パキスタンは曾ての米国の南アジア戦略に於てはインドに次ぐ第2位の地位を占めていたが、印米関係が急速に悪化し、イランを封じ込める上でのパキスタンの戦略的重要性が増した今では、パキスタンはインドよりも遙かに重要な存在となった。最早米国の政策立案者達は、パキスタンに武器や援助を送ることに躊躇いを覚えたりはしないだろう。



 5)米国と再び同盟を結ぶことで、パキスタンは中米を互いに対立させることが出来る。

 カーン前首相は米国よりも自国の国益を優先する多極化政策を推進したが、その結果米国との関係は悪化した。だがこれはクーデター以降、支配層に選ばれた指導者が自国を再び米国に従属させると決断したことで逆転した。上で説明した様に、パキスタンは米国と再び同盟を結ぶことで、中国と米国を互いに戦わせ、それによって支配層の利益を最大限に高めることが出来る。



 イランは恐らく上で述べた様な展開を予想していたことだろう。にも関わらず越境攻撃を実行したと云うことは、イランの政策立案者達は、何もしないよりはしたほうがマシだと云う結論に達したことを示唆している。

 イランとパキスタンは、国境のバロチスタン州に於てお互いがテロ指定しているグループを自国に対して兵器化していると互いを非難しているが、両国はこの問題を巡って危険な安全保障上のジレンマに陥っている。

 イランからすれば、パキスタンは恐らく米国の命令によって、イランに対する大規模なテロ挑発を組織した疑いが有る。従って現状を放置するよりも自分達の安全を守る為に先ずは行動した方が良いと政策立案者達は判断したのかも知れない。

 これはロシアがキエフからの挑発を前にして、現状を放置するより先ず行動した方が得策であると判断したことに似ている。米国は双方の事例に於て、安全保障上のジレンマを兵器化してそれぞれウクライナとパキスタンを使って、ロシアとイランを挑発して先に行動するように仕向けた。

 この比較は不完全なものだが、米国の危険な代理戦争政策のポイントを突いている。この政策は近い内に、中国の様な他の米国のライヴァルに対しても適用されるかも知れない。

一部のロシア人を追放するラトビアの計画は、ビルトのシナリオ予測を始動させるかも知れない(抄訳)

アンドリュー・コリブコ氏の分析の抄訳。2024/01/14のビルト紙のリーク記事はバルト三国に対するロシアの脅威を煽っているが、ラトビアではロシア系マイノリティが強制追放される動きが進んでおり、このシナリオ予測は西洋自身の手によって実現されるかも知れない。 バルト三国からロシア人を追い出し、北極を軍事化し、「軍事シェンゲン」を推進する為に、西洋はこのシナリオが起こることを期待している。
Latvia’s Planned Deportation Of Some Russians Could Set Bild’s Scenario Forecast Into Motion




ラトビアがロシア系住民を強制追放?

 2024/01/14、ドイツのビルト紙国防省からリークされた機密文書について報じ、ドイツがシナリオ予測に基付いてロシアとの戦争準備を整えていると主張したが、これはNATO全体を単一の軍事空間に変える「軍事シェンゲン」案を推進するものであろうと以前に分析したが、その目的は、ロシア国境近くまで軍事行動を促進することだ。

 報じられたドイツ国防省のシナリオ予測では、ロシアが今年の夏までにバルト三国に居るロシア系住民を唆して暴動を起こさせ、それがNATOに大きな危機を齎す、と云うことになっている。バルト三国のロシア人には正当な不満は無いので、暴動を起こすとしたらモスクワから要請を受けているに違い無い、とこの予測は仄めかしているのだが、実際には彼等はエストニアとラトビアでは二級市民と見做されているので、自らの権利を獲得する為に平和的に抗議する動機なら十分に持っている。

 これに関連して、01/17の報道では、ラトビア当局は、居住許可を取得する為の要件(言語能力基準)を満たしていないロシア人985人を国外追放すると脅迫している。

 また2023/09/03にはエストニア公共放送が、ラトビアには25,000人のロシア市民が居り、これほど多くの人々が国外追放される可能性は決して小さな問題ではないと報じている。

 だからこそプーチン大統領は01/17に、「ラトビアや他のバルト諸国で起きている出来事は非常に深刻で、我が国の安全に直接影響を与えます」と発言した。

 そしてこの措置は、これまで市民権を獲得出来なかったロシア系マイノリティのより大規模な国外追放の前触れである可能性も排除出来ない。ラトビア人口の1/4を構成するロシア系市民の内、35%が「非国民(non-citizens)」であり、これはラトビア国内の約19万人の「非国民」の約65%(約13万人)に相当する。

 従って当局が厳格な言語能力基準を拡大した場合、ラトビアの現在の人口の8%以上が強制送還の対象となる可能性が有る。

 この件についてEU仲間から人権侵害だと非難されたとしても、彼等がラトビア国内に留まれば安全保障上の脅威になると恐怖を煽ることで相殺出来るだろう。そしてガザに於けるイスラエルによるパレスチナ人の民族浄化に比べたらこれはまだ「人道的」だし、ロシアがその気になれば(エジプトがパレスチナ人避難民を受け入れる様に)容易にロシア系住民を受け入れることが出来るだろうと説得されるかも知れない(だがパレスチナ人同様、バルト三国のロシア人は元からそこに住んでいた人々であり、強制追放は民族浄化であることに変わりは無い)。



「ロシアの脅威」は好都合

 ラトビア国内に居住する約13万の「非国民」ロシア人が政治的に動員されることは有り得ないが、但し強制追放の動きを見て「次は自分だ」と不安になった場合は別だ。彼等は自発的に歴史的な故郷ロシアに戻ることを選択しない限り、自分達が生まれた場所に留まることを好むだろう。

 これはモスクワからの指令とは関係無しに自発的に起こる可能性が有るが、そうした動きが起こった場合は「クレムリンが操っているのだ」と云う物語が事前に流されている。従ってこの恐怖を煽る為に、冒頭のドイツ国防省のシナリオ予測が利用される可能性が有る。「ロシアの脅威」を煽れば、強制追放も正当化出来るし、「軍事シェンゲン」を推進する上でも好都合だ。

 エストニアもまたロシア系マイノリティを抱えているので、ラトビアに調子を合わせるかも知れない(但しロシア人はエストニアではラトビアよりは良い扱いを受けていて、殆どはエストニア国民として認められている)。

 そうなればエストニアと親族関係で繋がっているフィンランドもまたこの危機に巻き込まれるかも知れない。フィンランドのNATO加盟によって、NATOとロシアとの境界線が一気に2倍以上に伸びたので、フィンランドもまた「ロシアの脅威」を吹聴し易いのだ。


 そして上、フィンランドは、自分達がロシアに対するNATOの最前線だと躍起になってアピールしている上、NATOは北極に新たな戦線を開こうとしている(そしてそれをロシアと中国の所為にしている)ので、フィンランドは前例の無い軍事増強をNATOに要求するかも知れない。軍事シェンゲンが実現すればそれはより容易になる。

 これらのことは、バルト三国(+北極?)を舞台としたNATOとロシアの戦争が避けられないことを意味している訳ではないが、ドイツのシナリオ予測に似た連鎖反応が間も無く起こる可能性は否定出来ない。

 だがそうなったとしても責任はロシアではなく西洋自身が負うべきだ。 バルト三国からロシア人を追い出し、北極を軍事化し、「軍事シェンゲン」を推進する為に、彼等はこのシナリオが起こることを期待している。

エストニア

★アンドリュー・コリブコ氏の分析の抄訳。2024/01/14のビルト紙のリーク記事はバルト三国に対するロシアの脅威を煽っているが、ラトビアではロシア系マイノリティが強制追放される動きが進んでおり、このシナリオ予測は西洋自身の手によって実現されるかも知れない。 バルト三国からロシア人を追い出し、北極を軍事化し、「軍事シェンゲン」を推進する為に、西洋はこのシナリオが起こることを期待している。
一部のロシア人を追放するラトビアの計画は、ビルトのシナリオ予測を始動させるかも知れない(抄訳)

★アンドリュー・コリブコ氏の分析の抄訳。2023/12/05、リトアニア、ラトビア、エストニアの大使達は、ポーランドがウクライナに対して課している事実上の国境封鎖を解除するよう要求した。これはバルト三国の国益に反し、ドイツの覇権にとっては有利な展開だ。
事実上のウクライナ封鎖を巡ってバルト三国がポーランドに出した解除要求は、ドイツの利益になる(抄訳)

2022/10/11に開催されたエストニアの予備役兵の為の軍事演習には、約1/3の兵士が姿を現さなかった(2,861人中約1,800人のみが参加した)。マルティン・ヘレム司令官はにも関わらず演習を「非常に満足の行くもの」と評し、意図的に呼び出しに応じなかった者は10~15%に過ぎないと判断し、軽い罪で起訴されるだろうと付け加えた。エストニアの政治指導部はロシアに対して強硬な姿勢を強めているが、これではいざ本物の召集が掛かった時にどうなることやら。
One in three of NATO member’s military reservists go AWOL

2022/10/05のインタビューでエストニアの国防相はノルドストリームの破壊を受けて、NATOに対し、海上だけでなく海中でもパトロールを強化するよう求めた。その際「このサボタージュに関心を持っている唯一の国はロシアです」と発言したが、これを裏付ける証拠は無いことも認めた。まぁこう云う「何だろうと言った者勝ち」みたいな連中がNATO諸国には多い。
Estonia wants NATO to expand missions

リバタリアニズムについて(+解説)

2024/01/19のリエル共和党員氏の記事。筆者がカナダの方なので一部で御当地の人にしか解らない話題が出て来るものの、リバタリアンの欠点と云うか限界点を明らかにしていると云う点で読み応えが有る記事だと思う。

 所謂グローバリスト勢力の陰謀であったCOVID-19パンデミックを口実としたロックダウンや遺伝子ワクチン義務化等の似非科学的「対策」に対しては、様々な立場の人々が様々な理由から反対の声を上げて来たが、中でも声が大きかったのが「個人の自由の侵害」を叫ぶ人々だ。個人の自由を至上視してその不当な制限を批判することは、そこだけ切り取って見れば全く正しいし、それは他の立場の人々との共闘や連帯を妨げる様な性質のものではないのだが、この記事の筆者も指摘している様に、それは根底に於ては彼等が批判している勢力と同じイデオロギーに基付いた批判であって、金融資本主義の暴虐に対するラディカルな反逆の声にはなり得ないと私は思う。何もかも全て間違っている!と云う話ではなくて、本気で闘いたいなら、このイデオロギーは根本的な限界を抱えているので戦略的に余り有効な武器とはなり得ないし、この先余り生産的にはなれないだろうと言いたいだけだ。

 リバタリアンはよく理想化された状態の限定された状況に於ける諸条件についてあれこれ云々するのが好きだが、その多くは現実に既に様々な負荷や関係性の網の目の中に捉えられた生身の人間の生活と云うコンテクストを忘却している。従って必然的に、現実の目の前の諸問題については屢々机上の空論か、或いは妄想めいたことしか言えなくなる。新自由主義政策開拓の母マーガレット・サッチャーはその昔「社会などと云うものは存在しない」と宣言して、個々人だけから成る社会(或いは没社会)と云う世界観を広めた訳だけれども(但し彼女の云う「個人」には欺瞞的にも「法人」を含んでいた)、社会全体を忘却して非現実的な抽象化された個々人だけに焦点を当てる、と云う意味では、新自由主義とリバタリアニズムは同じ反-社会-主義に分類出来るだろう(従って新自由主義を「企業社会主義」とか「金持ちの為の社会主義」などと呼ぶのは、何と云うか語義矛盾である様に私には思われる)。これらは共に所与としての社会を軽視する傾向が強く、イデオロギー的に親和性が高いと言える。

 だが反社会志向的資本主義に抵抗するには、彼等の目に見えているより、見えていないものの方について考えることが重要になる。これまで「見えないもの」とされて来たグローバル・サウス諸国が台頭し、世界が一極から多極へ向かいつつある状況なら尚更だ。「だってそんなのTVで言ってないもん」の一言で世界の圧倒的大多数の問題を片付けて見ないフリを続けることは、今後益々難しくなるだろうし、またそうすべきではない。

 この記事の筆者も指摘している様に、リバタリアンは「〜からの自由」と云う消極的自由のみを重視し、「〜への自由」と云う積極的自由を軽視する。何を希求すべきか他人に指図されるなど真っ平ゴメンだ、と云う気持ちは解らないでもないが、消費主義による大衆洗脳がここまで浸透している後期資本主義のディストピア的社会に於て逃走の先のヴィジョンを欠き、目的地を空っぽの儘で放置しておくことは、結局は現状維持や現状肯定に繋がる。改革を希求するなら、状況をラディカルに問い直す勇気と想像力が必要だ。「ここから出せ!」と騒いで鳥籠から出して貰えたは良いが、実はまだ自分が部屋に中に閉じ込められていることには気が付かない小鳥は、一生飼い馴らされて終わりだ。自分を閉じ込めている敵が本当は何であるかを理解し、自分はどんな巣を作るべきかを思い描けなければ、帝国の触手に対して有効なパンチを喰らわせることは出来ないだろう。
On Libertarianism
On Libertarianism

(*画像はカナダのリバタリアンのシンボル。米国だと「オレを踏むんじゃねぇ!」と威嚇するガラガラ蛇が有名だが、カナダの場合は「あたいのダムに口出しするんじゃないよ!」と言うビーバーがシンボルなのだそうだ。)



 2020年代はCOVID-19パンデミックへの「対策」に応じて西洋諸国の首都で起こった一連の抗議行動によって始まった。オタワからアムステルダムまで、左派でも右派でも、これらの抗議活動はリバタリアニズムの形を取った。

 大衆がシステム全体の抱えている問題について目覚めている現在、こうした傾向の態度が人民にとって、永続的な抵抗と長期的な成功を構築する上で、今後の課題に適しているかどうかを評価することが我々にとっては重要だ。

 リバタリアニズムは(そのイデオロギーの信奉者の多くは善意の人々だが)、新たなる共和国の土台を築く上で効果的なイデオロギーではない。このことははっきり言っておかなければならない。

 個人の権利や自由に焦点を当てることは、それだけ聞けば素晴らしいことの様に思える。だがこのイデオロギーは、グローバル金融の一極覇権と戦う多極化世界が台頭しつつある時代と云う文脈で考えた場合、地政学の複雑さに取り組み、矛盾を解消する上で、更なる深みに至ることを可能にしてくれるものではない。

 リバタリアニズムの「反権威主義的」レトリックは、これもまた高尚に聞こえるかも知れないが、実際には、「ルールに基付く国際秩序」に立ち向かう抵抗国家を説明する際の帝国主義メディアの論調と、多くを共有している。これらの御用専門家達が抵抗国家を「権威主義的」と呼ぶ時、彼等は全ての政府は実際「権威主義的」であると云う事実を誤魔化している。

 問題は、それは誰の権威なのか、と云うことだ。

 帝国主義システムの中核に位置していると、木々だけを見て森を見なくなりがちだ。政府がグローバル金融によって直接管理されている所では、リバタリアニズムの様なイデオロギーが結晶化するのは当然だ。その結果、リバタリアンは「政府」と云う概念を取り上げて、国家が誰に奉仕するのかと云う社会的な文脈を考えること無く、この抽象的な「国家」と云う概念こそが社会が直面している大きな問題なのだと決め付けることになる。

 我々はこの記事を通じて、何故人民の力にとって人民国家が必要なのかを詳しく説明することにするが、若しあなたがリバタリアニズムに賛同する労働者階級の人や中小企業の経営者であれば、自分達が現在の「縁故資本主義」のシステムによって抑圧されていると云うあなたの直感は実際正しい。

 リバタリアニズムで引き合いに出される私有財産権は、啓蒙主義の古典的自由主義の自由の理想に発するものなのだが、実際にはこれらの高尚な「人権」は、資本家階級にのみ適用され、一般人には適用されない。現在のシステムはとっくの昔に統合され、独占資本主義の段階に達しているので、今日のこのイデオロギーの労働者階級の信奉者達にとって、これは達成不可能だ。

 左翼アナキストと同様、多くの右翼リバタリアンは心底からグローバリズムに反対したいと思っている。だがこのイデオロギーは、物理的または精神的なレヴェルでグローバル金融に反対する人々に力を与えてくれるものではない。

 リバタリアニズムは「萎びるものは萎びさせろ」と云う悪魔的な思想に従っている。自由は望ましいものではあるが、リバタリアニズムが表現する自由は基本的に消極的な自由でしかない。それは社会に於けるあらゆる合理的な制約からの自由であって、ユダヤ系アメリカ人小説家アイン・ランドの作品に最もよく表れている。

 これらは、グローバル金融のエリート達が推進しているのと全く同じ価値観(或いは価値観の欠如)だ。グローバリズムとリバタリアニズムは同じ価値観を共有している。どちらも自由主義に起源を持つものであって、違っているのは規模の大きさだけだ。

 古典的自由主義は、今日の進歩的リベラリズムに直接繋がっている。自由主義は資本主義のイデオロギーなので、自由主義イデオロギーの発展は資本主義の発展の後を追い掛けて来た。資本(主義)の原始的な蓄積により、時間の経過と共に、独占資本主義の付属物である巨大企業が生まれることになった。この独占資本主義がグローバリズムの経済的基盤だ。

ANARCHO-CAPITALISM: The Movie


 人気のYouTubeアニメ映画「無政府資本主義 The Movie」(2018 年)では、巨大企業のコングロマリットがひとつの例外を除いて市場の略完全な世界的支配権を握っているディストピア的世界が描かれている。

 この架空のシナリオでは、北朝鮮または朝鮮民主主義人民共和国(DPRK)が、資本主義的生産様式の容赦無い商品化に立ち向かって国家主権を守ろうとする、地球上に残された最後の自由の砦だ。

 マクドナルドはROK(韓国)にフランチャイズを展開し、不可侵原則(Non-aggression principle)、つまり私有財産が侵害される可能性が有る場合には殺傷的武力の使用が正当化されると云うリバタリアンの概念を発動して、DPRK侵略の根拠とする。

 この様に不可侵原則は、リバタリアニズムの論理をスケールアップすれば、リベラリズムや資本家階級にとっての私有財産の神聖不可侵性の上に成り立つグローバリズムや独占資本主義の帝国主義的行動を正当化出来るのだと云うことをまたしても示している。

 この映画は現実からそれ程懸け離れている訳ではない。それは帝国主義が、世界の全ての国を専属市場に変えたいと願いながら現実世界で機能していることを示している。

 ここで取り上げられているマクドナルド、バーガーキング、ディズニー等のファストフード企業やエンターテイメント企業を、ブラックロック、ステート・ストリート、ヴァンガード・グループ等の金融コングロマリットで置き換えてみよう。ここに今日存在している抵抗国家を更に幾つか追加すると、我々の世界の地政学が大体飲み込める様になる。

 この映画で皮肉なのは、西洋メディアでは通常「権威主義的」として描かれているDPRKを反逆者として描いていることだ。だがこれは、「ならず者国家」と呼ばれる彼等の他の特徴付けと必ずしも矛盾する訳ではない。

 リバタリアニズムの最大の欠点は、アナーキスト的な「反権威主義」を極端にした「反国家主義」と云う包括的概念を通して、あらゆる権力を誤解していることだ。政府はそれ自体だけで有機体を構成する訳ではないし、国家は特定の階級が自らの利益を達成する為に使用する道具に過ぎない。

 カナダ自治領の様な西洋の資本主義国家は、グローバル金融の産物であるブラックロックの様な超巨大コングロマリットに率いられた巨大企業の行動を緩和する為に存在している。対照的に、人民国家は西洋メディアでは中傷されているが、それはこの支配に対抗して主権を主張するからだ。

 カナダの学校で生徒達が「反国家主義」の本を教えられるのには理由が有る———例えば、英国の作家ジョージ・オーウェルの『動物農場』や『1984』、或いは全ての権威は全体主義や野蛮主義に堕するものだと云う、人間の本性についての酷い見方を描いた『蝿の王』等———これらは、若い人々が「個人の自由」の名の下での賃金奴隷としての未来を超えて、集団的プロジェクトに参加すべく、人民の権力を夢見ることを阻止するのを目的としている。

 弱い個々人の自由を締め上げるグローバル金融の触手に抵抗するには、人民国家が不可欠だ。

 恐らく、暫くの間なら、あなたは森の中の小屋で人里離れた隠遁生活を送ることも出来るかも知れない。だが最終的には、帝国のフロンティアがあなたの所まで到達することだろう。どれだけ個人用の銃を積み上げたところで、大西洋の枢軸がその牙を内側に向けた時、個人であるあなたに対する猛攻撃を止めることは出来ない。

 人民主権を維持するのに必要なもの、それは強力な集団だ。

 我々は、誰かに私生活の生き方を指図したり、個人財産を没収しようとしたい訳ではない。人民国家の役割は、人民が健康で権利の保障された生活を送り、問題に対処出来るように、社会の中核機能を提供することでなければならない。我々に必要なのは、全人類が直面する課題に対処する為のインフラを備えた、堅固な公共財産だ。

 今日の戦いの枠組みは、単に「政府対市民」ではない。それはグローバル金融対世界中の主権人民と云う、世界規模の戦いだ。

 我々には誉れ高きルイ・リエル(19世紀のカナダの反乱指導者でマニトバ共和国を創設した)の精神に基付く新共和国と、独自のマニトバ抵抗国家が必要なのだ!

 北方大陸主義に向かって前進!

リークされたドイツの対ロシア戦争計画の目的は「軍事シェンゲン」案の推進だ(抄訳)

アンドリュー・コリブコ氏の分析の抄訳。2024/01/14、ドイツのビルト紙はロシアとの戦争準備についてのリークされた機密文書を公開した。これはドイツがポーランドに対して覇権を強めていることの表れだが、ロシアにとっては米国が支援する保守ナショナリスト的ポーランドよりも、ドイツの属国としてのポーランドの方がまだマシだ。
Leaked German War Plans Against Russia Are Aimed At Advancing The “Military Schengen” Proposal




リークされた機密文書

 2024/01/14、ドイツのビルト紙は漏洩した機密文書について報じた。これはドイツ国防省が作成したもので、2024年2〜5月の月毎の詳細なシナリオ予測に沿って、ロシアとの戦争準備を検討している。

 それに拠れば、ロシアはウクライナに対して攻撃を開始した後、バルト三国を不安定化し、スヴァウキ回廊を脅かして重大な安全保障危機を引き起こす可能性が有る。

 01/05にロシアはこの文書を「でっち上げ」だと却下したが、ドイツ側はこれは単なる訓練シナリオだとコメントした。



リークのタイミング

 このリークのタイミングを見てみると、この2ヵ月前の2023/11/23には、ドイツ人のNATO兵站責任者アレクサンダー・ソルフランク中将が、EU全域に於ける兵員や装備の移動の障害を取り除く為の「軍事シェンゲン」の創設を提案している。

 その後12/18には、ドイツはリトアニアに戦車旅団を派遣する協定に署名した。これはドイツがポーランドを支配下に置く為の企みだと当時は分析した。

 ドイツから支援を受けたポーランドのトゥスク新首相が、保守ナショナリストの野党(前与党「法と正義(PiS)」)に対して事実上のクーデターを仕掛けた結果、ポーランドは1980年代以来最悪の政治危機に藻搔いているが、トゥスクは国内の危機から国民の目を逸らす為に、愛国者達にウクライナを支援するよう呼び掛けている。これは「軍事シェンゲン」案を前進させる役割も果たしている。

 ビルトのリーク記事と同じ01/14、ポーランドのアンジェイ・セイン外務副大臣はインタビューで、「戦争が我が国の東部国境の向こうで起こっている時、同盟国(つまりドイツ)からの援助と協力は大歓迎です」と発言している。つまりリトアニアの様にポーランドにもドイツ軍を招き入れると宣言しているのだ。この件についてロシアのRTは、第2次世界大戦後、ポーランドにドイツ軍が配備されるのはこれが初めてだと指摘した。



ポーランドがドイツの属国になることの意味

 先の分析では、野党PiSが新たな「連帯」運動を起こし、地元の警察、諜報機関、軍等がそれに参加した場合、トゥスクは彼等「政治的に信頼出来ない」メンバーを粛清する為にドイツに頼るかも知れないと述べておいた。

 ドイツの介入を求める口実は、ロシアが反政府勢力を操っている、と云うものかも知ないが、それは正にドイツ国防省の機密文書がバルト三国で起こるであろうと想定しているシナリオだ。

 実際のところ、トゥスクがドイツの言いなりになるなら、それはロシアにとっては朗報かも知れない。ドイツはトゥスクに命じてポーランドに停戦を支持させ、対ロシア制裁の一部を解除させるかも知れないからだ。「軍事シェンゲン」の施行に伴ってドイツ軍がロシアとの国境沿いに駐留した場合、トゥスクは前政権の軍事増強計画を撤回して、欧州情勢を独露に共同管理させるかも知れない。ロシアにとっては大戦略的な意味ではその方が、PiS主導のポーランドがドイツとロシアとの間の楔となるシナリオよりもずっとマシだろう。

 但しその場合はポーランドに対するドイツの覇権が強化される、と云うリスクも有る。「軍事シェンゲン」に従ってドイツ軍がポーランドに駐留すれば、ドイツはポーランドを代理として利用してベラルーシカリーニングラードでロシアを脅迫させるかも知れない。

 ドイツとロシアの関係が今後どうなるかは依然として不透明だが、ビルトのリーク記事と同じ日に、ポーランドがドイツ軍を歓迎すると発表したことは、上記のシナリオで間違い無さそうであることを示している。但しドイツがポーランドを、ロシアとの関係を悪化させる為に利用するか改善させる為に利用するかは、ベルリンの判断次第だ。



ロシアにとってはPiSよりもトゥスクの方がマシ

 何れににせよロシア側は間違い無く、米国の支援を受けた保守ナショナリスト的ポーランドよりも、ドイツに操られたトゥスクのポーランドの方を好むだろう。何故ならロシアは、ワシントンよりもベルリンと協力して良い関係を築いて来た歴史を持っているからだ。
 
 ロシアはベラルーシ、カリーニングラード、ロシア「本土」に対するNATOの侵略を容易にすることになる「軍事シェンゲン」に反対しており、ビルトがリークした「ロシア侵略」のシナリオは馬鹿げていると考えているが、ドイツがこれらの手段を通じてポーランドに対して覇権を行使することについては懸念していない。

 今やドイツがポーランドに命じてロシアとの和解を支持させる可能性が出て来た。若しロシア恐怖症に取り憑かれた保守ナショナリストのPiSが政権に復帰したら、それは全く不可能だろう。

ウクライナ待望の「安全保障」は誇大広告されているが、それが全てではない(抄訳)

アンドリュー・コリブコ氏の分析の抄訳。2024/01/12に署名された英国とウクライナとの安全保障協力協定は、一般に想像されているものとは全く異なり、現状を公式化したものに過ぎないが、これは西洋が紛争の継続・再開に向けて準備を整えていることを示している。
Ukraine’s Hoped-For “Security Guarantees” Aren’t All That They Were Hyped Up To Be



 2024/01/12に署名された「安全保障協力に関する英-ウクライナ協定」は、ウクライナに対する所謂「安全保障(security guarantees)」に関する初の公式協定であり、ゼレンスキーの10の「和平公式」のひとつに従っている、と云うことになっている(「紛争のエスカレーションの防止と、ウクライナに対する保証を含む欧州大西洋地域に於ける安全保障構造の構築」)。

 だが蓋を開けてみると全然違う。但しそれはメディア報道ではなく公式サイトの説明を直接読んだ場合にのみ判ることだ。自分で読んでみれば、ウクライナが待ち望んだ「安全保障」が誇大広告に過ぎなかったことが判る。

 この協定が安全保障関連の幅広い領域をカヴァーしているのは事実だが、一般大衆が想像していることとは違って、ウクライナが攻撃を受けたとしても、英国がウクライナに軍隊を派遣する義務は無い(VIII-3)。正確な文言は以下の通りだ。

 「英国はその様な況に於て、法的及び憲法上の要件に従って行動する場合、以下のことを行うことを約束する。
 ・ウクライナに迅速且つ続的な安全保障支援、必要に応じてあらゆる領域に及ぶ最新の軍事装備、そして経済支援を提供する。
 ・ロシアに経済的その他のコストを課す。
 ・そして国連憲章第51条に規定された自衛権を行使する際の必要性についてウクライナと協議する。」


 つまりこれは現時点で既にやっていることを一歩も出るものではない。この協定は単に現状を公式化したものに過ぎないのだ。

 フランスが計画している協定も同じ内容になるだろうし、他の国々についても同様だ。精々、既にウクライナに或る程度の支援を提供している50以上の国々が、新たな紛争が発生した場合の武器輸送、経済援助、制裁、外交調整を正式に定めた協定を結ぶ位が関の山だろう。

 この様な協力は規模と範囲の点では確かにユニークではあるが、ロシアの特別軍事作戦開始直後から米英ポーランドが如何に迅速にウクライナ支援を開始したかを考えると、これは一般市民が考えている程場当たり的な行動ではなかった。この代理戦争計画は事前に用意されていたのだ。

 ドイツの様な一部のNATO加盟国やROKの様な米国の同盟相手は当初は実行には消極的だったが、時間が経つにつれて、こうした協力体制は米国が主導する西洋のゴールデン・ビリオン(黄金の十億)の中ではスタンダードになった。そしてこれによって、グローバル・サウス諸国に対する将来の代理戦争に向けて、より緊密な調整が出来る様になるだろう。

 ウクライナが待望の「安全保障」を得たこと自体は、上述の様に全く中身が無いので重要ではない。但しこれは他国にウクライナへの派兵を義務付けるものではないことは念を押しておく必要が有る。

 これに関連する以前の分析はこちらだ。

 Korybko To Timofei Bordachev: You’re Right About NATO Enlargement Being A Threat To The US
 報じられたウクライナに対するEUの安全保障には、何故相互防衛義務が含まれていなかったのか?
 ウクライナ国会議員ゴンチャレンコは正しい:ウクライナがNATOに加盟する未来は無い(抄訳)

 一般的には不正確に想像されているであろうNATO憲章第5条の相互防衛義務は、実は状況に関係無く攻撃を受けていると判断した同盟国に軍隊を送ることを他国に義務付けるものではない。これは実際にはウクライナに約束されたことと略同じ内容だ。

 結局のところ、2023年末にウクライナ紛争が沈静化し始めた理由のひとつは、西洋諸国が「兵站競争/消耗戦」に於てロシアに全く太刀打ち出来ずに、供給が減少したことだった。これを考えると、2024年に紛争が継続した場合にウクライナに与えられる「安全保障」は精々、「ラムシュタイン・グループ(NATOその他の54ヵ国から成るウクライナ支援グループ」)の支援で安心させるだけとなるだろう。2022年2月の様にキエフ側から挑発を行った場合でも同じだろう。西洋には最早以前の様な軍事援助のペース・規模・範囲を維持するだけの余力が全く無いからだ。

 再軍備を整えるには或る程度の時間が必要だ。今後10年以内には、キエフが再び西洋から命令を受けて挑発を引き起こすかも知れない。

 01/14、エストニアのカラス首相は、西洋諸国にはロシアとの戦争の準備期間は後5年しか無いと主張した。だが恐らく彼女は実際には2030年までに紛争を再燃させる為に、再軍備を急がせようとしているのだろう。

 西洋は、これ以上軍事援助を続けることは出来ないので、紛争凍結に向けた合意が得られる可能性は有る。だがロシア側は最初から言っている通り、特別軍事作戦の3目標(ウクライナの非軍事化、非ナチ化、中立化)が達成される場合にのみ合意に応じるだろう。ここで西洋はジレンマに陥ることになる。彼等は紛争を続けることは出来ないが、ロシアの要求にも応えたくないからだ。

 ロシアの「安全保障」要求を満たす外交的打開策が取られなければ、紛争は継続し、それはロシアにとっては更なる利益になる。これはウクライナの降伏か、NATOによる直接介入、または妥協に繋がるだろう。

 最終的に何が起こるにせよ、現在の力学では、和平交渉の見通しは無いし、西洋の援助は減少しているにも関わらず、西洋は既に2030年までの紛争継続に備えている。

 英国と、そしてこれから結ばれるであろう他の西洋諸国とウクライナとの「安全保障」協定は、各国の軍隊をウクライナに送ることは義務付けない。これはつまり、ウクライナを守るのではなく、進行中の戦争が何時終わろうとも、何時でも新しい代理戦争を順調に始められるようにする為の準備だと言える。現状を公式化しただけの協定は、一般市民が想像している様な内容では全くない。
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川流桃桜

Author:川流桃桜
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