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エチオピアのグランド・ルネッサンス・ダムが遂に満水。長年に亘るエジプトの偽情報が暴かれる(抄訳)

アンドリュー・コリブコ氏の分析の抄訳。2023/09/10、エチオピアのグランド・ルネッサンス・ダムが到頭満水になったが何の問題も起こらなかったことによって、このダムに関するエジプトの長年の非難が全く根拠の無いものであることが証明された。
Ethiopia’s Final Filling Of Its Grand Renaissance Dam Debunks Years Of Egyptian Disinformation
Grand Renaissance Dam



GERDに関する長年の嘘が暴露される

 2023/09/10、エチオピアのアビィ・アハメド首相はグランド・ルネッサンス・ダム(GERD)の4回目にして最後の充水を完了したと発表した。

 この展開は長年に亘る偽情報を暴いた為、下流域のエジプトは騒然となった。上流のダムが一杯になっても、ナイル川は干上がらず、エジプトの農業は何の影響も受けず、このプロジェクトを巡って戦争も勃発しなかった。恐らく悲惨な結果を招くことになると警告した全ての人々は、プロパガンディストだったとして信用を落とすことになった。

 エジプトはこれまで、エチオピアが何等かの不可解な理由でナイル川を人質に取ろうと画策しているのではないかと国際社会を怖がらせることに多額の投資を行って来たが、現実には、これはエチオピアの発展を阻害する為の情報戦の物語に過ぎなかった。

 この偽情報キャンペーンに貢献したアル=ジャジーラやその他の世界的メディアは、カイロの機嫌を取る為にそうした訳だが、今やその嘘は暴露されてしまい、彼等の努力は無に帰した。実のところ、GERDはエチオピアが常に主張して来た様に、政治的または戦略的動機によってではなく、経済的動機のみによって推進されて来た。このプロジェクトには裏の動機が有ると根拠も無く主張した人々は、不誠実にもその視聴者達を欺いて来た。

 中にはカイロの御機嫌を取りたいと云う動機とは別に、エチオピアの台頭を阻止したいと云う偏屈な意図を持った者も居たかも知れない。

 動機の詮索はさて置き、重要なのは、GERDが最終的に満水を迎えたことは、グローバル・メディアにとっての説明責任と清算の瞬間であるべきだと云うことだ。主流メディアだろうと代替メディアだろうと、自らの過ちを認めることの出来る人は殆ど居ないだろうが、それが出来た人々は称賛に値する。

 何れにせよ、GERDによって齎されるエチオピアの加速的な発展は、この地域に新たな時代の到来を告げることになるだろう。



GERDが齎す地域の発展

 アハメド首相は、最終的には近隣諸国に余剰電力を輸出し、それによって近隣諸国の発展も加速させることを計画しており、それがアフリカの角全体の台頭を加速させることになるだろう。これらの国々は地理戦略的に世界有数の航路に跨って位置しており、それを最大限に活用する時が来ているのだ。彼等はこれまでインフラの不足による慢性的な低開発状態の為、の可能性を最大限に引き出すことが出来なかったのだが、GERD がそれを変えようとしている。

 エオピアが主導するアフリカの角の開発はまた、エチオピアが最近BRICSに加盟したことから分かる様に、多極化へ向けたグローバルなシステム以降を速めさせることだろう。BRICSの加盟諸国は世界秩序を段階的に改革すると云う目標で団結している。

 これには、エチオピアと同じく新たにBRICSに加盟したエジプトも含まれる。従ってカイロはこのことを念頭に置き、それに応じて今後はBRICS加盟諸国の間でその動機に対する疑惑を招かないよう、エチオピアに対する批判を抑制するのが賢明だろう。

 そして同じことは、GERDについて根拠の無い恐怖を煽るエジプトの情報戦の物語をこれまで支持して来た人々にも当て嵌まる。彼等が今後もまたこの嘘だと暴かれたしがみ付いてBRICSを事実上の分断統治に導き、それによって意図するかしないかに関わらず西洋の命令に従うことになるのであれば、自分自身の信用を落とすことになる。

 従って、誰がこのシナリオに固執し、誰がそうでないのかは見物だろう。

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米独はエチオピア人の大量殺戮の責任を負うサウジ軍を訓練していた(抄訳)

クレイドルの記事の抄訳。サウジ国境警備隊はイエメンとエチオピアの国境地帯でエチオピア移民に対するジェノサイドを行っているが、彼等を訓練したのは米軍とドイツ警察。米軍は彼らを監視する義務を負っていた筈だが、見て見ぬフリを決め込んでいる。西洋によって意図的に見過ごされている人道犯罪がここにもまた。
US, Germany Trained Saudi Troops Responsible for Mass Slaughter of Ethiopians


 
 2023/08/30のガーディアンの記事「ドイツと米国はイエメン移民殺害容疑で告発されたサウジ軍を訓練していた」に拠れば、イエメンとの国境で数千人のエチオピア人移民を残忍に拷問、強姦、殺害した疑いで告発されたサウジ国境警備隊は、ドイツ連邦警察と米軍から訓練を受けていた。

 更に米軍はサウジ訓練協定に基付いて訓練がどの様に活用されているかを監視する義務を負っていた一方、国境警備隊は攻撃から自分達とその拠点を守るための防御的な活動のみ許可されていた。

 「米軍治安支援司令部は国境警備隊員に訓練を提供しており、彼等は2015〜2023年の間資金提供を受けていたが、資金提供期間は今年7月に終了した」と米当局者は語った。



 複数の人権機関からの報告は、米国とドイツで訓練を受けた警備隊員達による虐待の規模を詳述している。

 07/05に混成移民センター(MMC)が発表した報告書では、エチオピア人移民が拷問され、壁に並べられ、娯楽目的で銃で撃たれ、処刑され、爆発物の標的にされていると詳述されており、最も若くて13歳の少女達がサウジ治安当局によって強姦され、「服も無しに国境を越えてイエメンに押し戻された」と付け加えた。

 サウジ国境近くのイエメン北部の「秘密墓地」には、最大1万人の移民の遺骨が納められていると伝えられている。MMCの報告書には、数名のエチオピア人移民からの裏付けが含まれている。

 またヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)は08/21に発表した報告書で、「サウジ国境警備隊がイエメンから渡ろうとしたエチオピア人移民達に発砲した」様子を記録しており、虐殺は再び国際的な注目を集めた

 HRWの報告書で触れられている或る事件では、移民達はサウジの警備隊員達に、どの手足を撃たれたいのかと尋ねられたと述べた。別の事件では17歳の少年が、警備隊員達が彼ともう一人の移民に強制して、彼等の見ている前で少女2人を強姦させたと述べた。

 ガーディアンは匿名の情報筋の話として、サウジ当局が国境内での不法侵入を「テロ対策問題」として扱い、致死的な武力行使を容認する傾向が強まっていると伝えた。

 またサウジが「国境地域に対して大規模で集中監視された電子監視を導入している。つまりサウジは人身売買された民間人のグループと、イエメンからの武力侵攻や麻薬密輸に関与したグループを区別出来る筈だ」とも報じられた。

 HRWは報告書の中で、ジェノサイドがサウジの公式政策であったことが立証されれば、それは「人道に対する罪」に相当すると述べた。

 またNYタイムズは"State department officials claim that US diplomats privately raised the issue with Saudi counterparts and asked them to investigate"と云う記事で(訳注:その後削除された様子だが、別の記事が掲載され、続報も出ている)、米国の外交官達が昨秋からイエメン国境でのサウジによるエチオピア移民に対するジェノサイドの恐るべき報告を受け始めたが、依然として沈黙を保っていることを明らかにした。

 米国務省当局者達は、米国外交官達がサウジの外交官達にこの問題を非公式に提起し、調査するよう求めたと主張している。NYTは「こうした議論がサウジの行動に影響を与えたかどうかは依然として不明だ」と述べている。

 国連から説明を受けた外交官の中には、駐イエメン米国大使スティーヴン・フェイギンも居た。 国連はまた、国務省の他の職員達や、フランス、ドイツ、オランダ、スウェーデン、欧州連合の外交官達とも情報を共有した。

 NYTは更に、イエメン国内では国境付近での殺人は広く知られていると指摘した。一部の攻撃はイエメンのTVで報道され、多くの負傷者達がイエメンの病院で治療を受けている。

水戦争

★アンドリュー・コリブコ氏の分析の抄訳。2023/09/10、エチオピアのグランド・ルネッサンス・ダムが到頭満水になったが何の問題も起こらなかったことによって、このダムに関するエジプトの長年の非難が全く根拠の無いものであることが証明された。
エチオピアのグランド・ルネッサンス・ダムが遂に満水。長年に亘るエジプトの偽情報が暴かれる(抄訳)

★オスカー・ロトンド氏の記事の抄訳。公共財たる水へのアクセスが新自由主義的政策によって企業に侵食された結果、ウルグアイの人々が水を飲もうと思ったら、ペットボトルで売っている水を買うしか無い。「持続可能なグリーン経済」なるものは、全体を見てみればグリーンでも持続可能でも全くない。
ルグアイ:あなたが飲んではいけない水(抄訳)

★アル=ジャジーラの記事の抄訳。10年振りに和解に向けて動きつつあるエジプト-トルコ関係を時系列で振り返る。
エジプトとトルコが不和解消に向けて動く中、両国の20年間の関係を振り返る(抄訳)

2022/10/05の世界銀行の記事に拠ると、現在農業は平均して、全世界の全淡水取水量の70%を占めている。灌漑農業は全耕作地の20%を占め、これは世界中で生産される総食糧の40%に相当する。
Water in Agriculture

UNICEFの発表では、
 ・約40億人(世界人口の約2/3)が、毎年少なくとも1ヶ月間、深刻な水不足を経験している。
 ・20億人以上の人々が、水の供給が不十分な国に住んでいる。
 ・早ければ2025年までに、世界人口の半分が水不足に直面する地域に住む可能性が有る。 
 ・深刻な水不足により、2030年までに約7億人が住む場所を失う可能性が有る。
 ・2040年までに、世界の子供の約4人に1人が、水ストレスが非常に高い地域に住むことになる。

Water scarcity

★世界の水問題について、マシュー・エレット氏の解説の要点。現在中国が一帯一路構想でやろうとしている治水対策と似た様なことを、JFKもやろうとしていた。
米国の水危機を解決する:JFK、NAWAPA、そして中国の新シルクロード(要点)

水戦争についての本は色々有るが、人類文明にとって水とは何か、と云う巨視的な視点で物事を考えてみたいなら、スティーブン・ソロモン著『水が世界を支配する』が特にお薦め。
 

水道民営化の最初の波は19世紀にまで遡るが、1980年台後半からの民営化の波に対しては「再公営化」を求める反動が各国で起こり、一定の成功を収めて来た。先例をしっかり学んで、同じ轍を踏まないようにしなくては。
Reversing the Tide of Water Privatization

最新の科学的知見に基付き、水(淡水)は帯水層に蓄えられている分だけではなく、深層水が地球内部で生成されており、従って水は再生不可能な資源であると云う主張に基付く、水男爵達による水戦争は回避可能である、とする主張。

“Big Money” and the “Water Barons”: A New Water Source That Could Make Drought a Thing of the Past

世界銀行の水への取り組みはヴァーチャルツアーで知ることが出来る。
WORKING TOGETHER FOR A WATER-SECURE WORLD FOR ALL.
 グローバル水安全衛生パートナーシップ(Global Water Security & Sanitation Partnership/GWSP。2017〜)の参加者一覧。英、豪、スイス、ベルギー、スウェーデン、ノルウェーの他、ゲイツ財団、ロックフェラー財団の名が見える。


自然災害の9割は水関連。また経済成長は水の供給と不可分に結び付いている。世界銀行は「2030年までに万人に適切で公平な衛生(Hygiene、Sanitation)へのアクセスを実現する」ことを目的に動いている。
Overview

2008年にダボスで発足した「2030水資源グループ(2030 Water Resources Group/2030 WRG)」は世界の水需要ギャップを埋める為に官民連携の試みを行なっている(宣伝係のセレブはマット・デイモン)。鍵はグローバル資本市場へのアクセス。社会的インパクト投資が水へのアクセス問題を解決するそうだ。
Ensuring sustainable water management for all by 2030

カリフォルニアでは旱魃被害が深刻だが、その一因は鮭の保護を名目とした過剰なダム放水。ニューサム知事が出した「救済法案」の中身は野生生物の生息地回復、レクリエーション、ソーラーパネル、ダム取り壊し、井戸堀り禁止等、SDGs路線に沿った農業部門の弱体化。
A Sinister Agenda Behind California Water Crisis? Looming Food Supply Catastrophe

ウォール街のメガバンク(ウォーターバロン)が世界中の水を買い占めている。人間のみならず地球の生態系全体にとって必須のこの物質は、今や公共財ではなく投資の対象と化している。
The New “Water Barons”: Wall Street Mega-Banks are Buying up the World’s Water

国連西アジア経済社会委員会に拠ると、コロナウィルス危機に際して、アラブ諸国22ヵ国の内10ヵ国で水道水の供給が不十分であり、7,400万人が手洗い設備へのアクセスを欠いている。綺麗な真水へのアクセスの不足は以前から世界的な問題ではあったが、西側諸国では関心は比較的低かった。だが全人類がひとつの運命共同体として振る舞わねばならない時代には、その意味合いは大きく違って来る。
74 Million in Arab Region at Risk of COVID-19, Access to Clean Water: UN Report

水へのアクセスが保障されていない件はコロナウィルス危機によって一層顕在化はしたが、元々構造的な問題として国際社会で取り上げられるべき問題。万人の普遍的な権利として、多国籍企業の魔手から守られるべき。
 
【図解】手洗いがほぼ不可能な国も…せっけんと水の普及状況

水が潤沢な日本ではつい忘れがちになるが、水は人間の生存にとって最も不可欠な物質のひとつ。だが強欲な新自由主義は或る意味ではこの500年の収奪の歴史の当然の帰結として、それをも手にしようとあの手この手の工作を行っている。水へのアクセス不足は他人事ではない。
米先住民ナバホ居留地でコロナ流行、「手洗い」できず…歴史的な格差浮き彫りに

記録的な旱魃とコロナウィルス危機に際して、水が民間企業の手に渡っていたらどうなるか、チリの事例。感染対策として手を洗いたくとも水が無い。水へのアクセスは人間の尊厳の根幹に関わる基本的権利として確立されるべきだ。
Chile Faces Historic Drought

最新のカラバフ紛争は、全主要関係者達の互いに対する認識を作り直すだろう(抄訳)

アンドリュー・コリブコ氏の分析の抄訳。2023/09/19のカラバフ紛争の展開は、主要関係者達の認識を作り直した。これらの複合的な影響は南コーカサスに革命を齎すだろう。ロシア、アゼルバイジャン、トルコ、そして恐らくイランは地域回廊の推進に協力するかも知れないが、アルメニアは孤立を深めるだろう。アルメニアは地域貿易の妨害を止めればその恩恵を受けることが出来るだろうが、そうなる為には真の多極政府が樹立されなければならない。
The Last Karabakh Conflict Will Reshape All Key Players’ Perceptions Of One Another
The Last Karabakh Conflict



僅か1日の紛争再燃
 
 2023/09/19に開始されたアゼルバイジャンによる「対テロ作戦」は、ナゴルノ・カラバフの自称「当局」がロシア平和維持軍の仲介による停戦を受け入れたことで、開始翌日に終結した。

 アルメニア政府、米国に本拠を置くアルメニアのディアスポラ・ロビー、そして彼等のオンライン支持者達(多くは反帝国主義で知られる代替メディア・コミュニティのメンバー)は、リビアの時の様な口実でアゼルに対して戦争を仕掛けるよう、米国に圧力を掛けたが、幸いにもこれらの努力は無駄になった。

 斯くして南コーサカスに安定が戻った。



各方面の受け止め方

 戦闘は1日しか続かなかったが、これは主要な関係者達全員の互いに対する認識を作り直すことだろう。

 1)アルメニア市民→パシニャン

 平均的なアルメニア人は、それが正しいか間違っているかは別として、アゼルの土地としてずっと広く認識されて来たカラバフ問題に関して、パシニャン首相が自国の大義を「裏切った」と感じている。これは更なる反政府運動に繋がり、既に不確かなパシニャンの権力維持を更に不安定にすることだろう。アルメニアでカラー革命や軍事クーデターが起こる可能性は排除出来ない。

 2)アルメニア市民→ロシア

 また平均的なアルメニア人は、パシニャンが権力を掌握して以来、大量の反ロシア・プロパガンダに曝されて来た為、2020年に続いて再び停戦合意を仲介することによってアゼル占領軍を救ったロシアに対して感謝する可能性は低い。フランスと米国に本拠を置くディアスポラのウルトラ・ナショナリストのアルメニア人達は、「NGO」諜報戦線を通じて彼等を洗脳し、自分達のアゼルに於ける帝国主義的領土回復計画が失敗したことについて、ロシアを非難するように仕向けた。

 アルメニア首相、CSTO、国連のウェブサイトの公式ソースで確認出来ることだが、ロシアが保護する責任を負っているのはアルメニアの領土内だけの話であって、国際的にアゼルの領土だと認められているカラバフについては何も規定されていない。だが長年に亘るフェイクニュースのお陰で、ロシアは最早信頼出来る軍事同盟相手ではないとの認識が広まっている。アルメニアがロシアから距離を置いて西洋に靡く傾向は今後も続くだろう。

 3)ロシア→アルメニア

 ロシアの政策立案者達は戦闘に先立ち、パシニャンが事実上西洋に軸足を移し、地政学的な目的の為に公然と自国を生贄に捧げるのを目撃して来た。彼は結局西洋を軍事的に紛争に介入させることには失敗した訳だが(それはずっと政治的幻想に過ぎない)、ロシアはアルメニアが最早名目上の同盟国でしかなくなったことを忘れないだろう。

 同じことはロシアのグローバルな影響力ネットワークに対する認識にも当て嵌まる。ロシアのあらゆるエージェントは、今や西洋の代理勢力でしかないことが明らかになったからだ。

 4)アゼル→西洋

 アゼルは何十年にも亘って西洋の新冷戦ブロックと互恵関係を築こうとして来たが、今回の紛争ではこれら全てが僅か数時間以内に団結してアゼルに対抗した。彼等はアゼルの対テロ作戦を非難し、即時停止を要求し、一部は制裁すると脅迫した。

 アゼルはウクライナ戦争に於て西洋がロシア・エネルギーへの依存から多角化によって脱却するのを助けて来た為、新たに戦闘が勃発した際には少なくとも中立でいられるだろうと想定していた。これは客観的な国益についての話だったので当然と言える予想だったのだが、この予想はアルメニアの影響力のエージェント達が「価値観を守れ」や「ジェノサイドを防げ」と云う言説を広げて、西洋の政策立案サークルに深く浸透していた事実を見落としていた。西洋は利益計算よりもイデオロギーの方を優先したのだ。

 2022年2月以前、ロシアは西洋にとって最大のエネルギー供給国だった。にも関わらず無謀にもロシアに対する制裁を発動したのは、西洋の殆どの政策立案者達が客観的な国益よりもリベラル・グローバリズムのイデオロギーを優先したからだ。アルメニアの偽情報の言説に彼等が容易く引っ掛かった理由もこれと同じだ。今回はアゼルに対する制裁が発動される前に紛争が終わったが、彼等は自分達の重要なエネルギー源を自ら断つかも知れなかったのだ。

 新冷戦ブロックのこの手の平返しをアゼルの政策立案者達は目撃した。それはアゼルの同盟国であるトルコに関しても同じことだ。両国は、西洋が決して本当の意味では信頼出来ない相手であることを目の当たりにしたのだ。

 5)アゼルとロシア(とトルコ)

 この最新の紛争によって、アゼルとロシアは、お互いが以前考えられていたよりもずっと信頼出来る相手であることを確認した。

 アゼルバイジャン政府も、西洋に本拠を置くアゼルのディアスポラ・ロビーも、そのオンライン支持者達も(トルコに関しても同様だが)、3つのカラバフ紛争に於ても、ウクライナでのNATOとロシアの代理戦争に於ても、米国がロシアに対して宣戦布告するように扇動したことは一度も無い。

 対照的に、アルメニア政府、米国に本拠を置くアルメニアのディアスポラ・ロビー、そのオンライン支持者達(代替メディア・コミュニティの多くを含む)は、組織的な反ロシアの偽情報キャンペーンを展開したが、これは誤算によってロシアとの戦争を正当化することになるかも知れなかった。

 この対照的な展開は、ロシアの政策立案者達に忘れ難い強烈な印象を残した———丁度ロシアがアゼルの領土一体性を再確認したことが、アゼルとトルコの政策立案者達に強烈な印象を残した様に。

 従ってこれら3ヵ国と、恐らくは根っからの反西洋であり、以前アルメニアの米国との共同訓練を非難していたイランとは、包括的に協力を拡大し、それにより地域の多極化プロセスを加速するものと予想される。



アルメニアに残された課題

 しかし課題は残っている。何故なら2020年の停戦合意以来、平均的なアルメニア人は、民族的、宗教的、政治的な違いを兵器化して隣人と敵対させる、西洋が流した分断統治の為の言説の影響を受け易くなっているからだ。外国諜報機関のフロント組織である「NGO」はアルメニア国内でそうした言説を広め続けているし、2つの戦争で続けて負けたと云う衝撃は、怨嗟の火を燃やし続けるだろう。従ってアルメニアで真の多極政府が直ぐに樹立することは非常に困難であると思われる。

 恐らく、アルメニアを自縄自縛と西洋の助長によって陥った国際的孤立から救い出すことの出来るプラグマティックな政治家が投票によって権力を掌握するまでには、暫く時間が掛かることだろう。それまでの暫定期間(どの位続くのかは現時点では不明)は、更なる貧困と不安定によって特徴付けられることだろう。

 それ故、同胞と祖国に本気で関心を寄せるアルメニア人は、自国を地域に再統合させる為に必要な認識の再構築支援を率先して行うべきなのだ。

中国の気球はスパイ行為をしていなかった。米国政府が危機を捏造した数ヵ月後に認める(抄訳)

ベン・ノートン氏の記事の抄訳。2023/02/04に中国の「スパイ気球」とやらが撃墜された事件は、まぁ常識を持ち合わせた人間であれば、こんなものを信じる人が大勢居るのが信じられない様な幼稚な与太話だったが、これが捏造された危機であったことをワシントンが自ら認めた。
Chinese balloon was not spying, US gov’t admits months after manufactured crisis




 2023/09/17のCBSニュースのインタビューで、統合参謀本部議長マーク・ミリー将軍は「諜報機関の評価は、その気球による情報収集は無かったと云うものです。信頼性の高い評価です」と発言した。

 では何故その気球はそこに居たのだろうか? 気球はハワイに向かっていたが、当時上空6万フィートの風が吹いていた様だ。「これらの風はとても強いものです。その航空機の特定のモーターは、その高度では風に逆らうことは出来ません」と将軍は語った。つまり単に風で流されてコースを外れただけである可能性を認めたのだ。

 事件から7ヵ月も経ってから公になったこの証言は、当時中国政府が述べていたことを正確に裏付けている。つまり、中国の気球は米国をスパイしていたのではなく、誤って領空に入っただけであると。

 米国政府は依然として、中国の気球には情報収集に使用された可能性の有る技術が搭載されていたと主張しているが、その技術が中国政府の主張する様に、気象パターンに関するデータ収集を行うものであるのかどうかについては明らかにしなかった。

 そして更にCBSは、「海軍が大西洋の底から(気球の)残骸を引き上げた後、技術専門家等は気球のセンサーが米国本土上空で一度も作動していないことを発見した」と認めた。つまり仮にワシントンの主張通りに中国の気球が米国をスパイする技術的能力を持っていたとしても、センサーはオンになっていなかったのだ。

 因みに米国高官が中国の気球がスパイ活動をしていないと認めたのはこれが初めてではない。06/30のABCニュースで、国防総省報道官のパット・ライダー准将も同様のコメントを行っている。

 「(気球が)情報収集能力を持っていたことは我々も承知していますが、米国を通過中に情報収集は行われなかったと云うのが我々の判断であり、現在もそうです。」この発言もまた、以前の記事での分析が正確であったことを裏付けている。

 これらの爆弾発言はスキャンダル全体が捏造されたものであることを証明しているにも関わらず、ワシントンと米国メディアはこの気象事故を外交危機に変え、この事件を利用して中国を悪魔化し、重大な「脅威」として描き出した。

 これはつまりCNNが「中国の気球危機は新冷戦の決定的な瞬間となる可能性が有る」と述べた様に、この事件そのものが、新冷戦(第二次冷戦)に備えて米国民に「外敵の脅威」を信じさせる為の卑劣な情報戦プロパガンダに他ならなかったことを物語っている。当時米国の主流メディアは挙ってこの新冷戦の為にフェイクニュースに加担し、NATOまでもがこれに同調して捏造された中国の脅威を煽り立てた。

中国の「スパイ気球」の撃墜

★ベン・ノートン氏の記事の抄訳。2023/02/04に中国の「スパイ気球」とやらが撃墜された事件は、まぁ常識を持ち合わせた人間であれば、こんなものを信じる人が大勢居るのが信じられない様な幼稚な与太話だったが、これが捏造された危機であったことをワシントンが自ら認めた。
中国の気球はスパイ行為をしていなかった。米国政府が危機を捏造した数ヵ月後に認める(抄訳)

コリブコ氏の分析。新たに中国の国防相に任命された李尚福将軍は、ロシアから兵器を輸入したと云う理由でトランプ政権から制裁対象にされていた人物だった。李将軍は中国の軍事近代化プログラムを成功裏に導いた人物と見做されているので、彼が評価されることは不思議ではないが、彼と同等の実力を持つ人物は他にも多い為、この時期にわざわざ制裁対象人物を任命する必要は無かった筈だ。これは気球事件が米中新デタントに致命的な打撃を与えたと云うメッセージであろうと、コリブコ氏は見ている。
Interpreting The Appointment Of A US-Sanctioned General As China’s New Defense Minister

★「中国のスパイ気球撃墜」事件を時系列で追うと、これが如何に馬鹿馬鹿しい空騒ぎなのかが解る。
米国は、中国の気球がコースを外れたのは天候の所為だと認め、200万ドルのミサイル攻撃で趣味用の12ドルの気球を撃墜した(要点)

コリブコ氏は気球撃墜事件については中国と米国、双方の強硬派に責任が有るとの見方をしている。
 ・中国側はコースを外れた物体について米国側に事前に通知しなかった。
 ・米国側は強硬な対応を取ってこれを政治化した。
 その結果ブリンケンの北京訪問は中止され、米中新デタント交渉は大打撃を受けた。
Chinese & American Hardliners Are Likely Responsible For Blinken Postponing His Trip To Beijing

コリブコ氏の指摘。中国の習近平主席が気象観測気球の事故について事前に知っていたことは絶対に有り得ない。何故なら中国は米国と新デタントの交渉の真っ最中であり、この事件の結果(或いはこの事件を口実として)、ブリンケンの北京訪問は無期限延期された。習氏が知っていれば、絶対に米国側に知らせた筈だ。何故わざわざ自国の不利益になる様なことをせねばならないのか?
There’s Absolutely No Way That President Xi Was Aware Of The Chinese Balloon Ahead Of Time

コリブコ氏の疑問。WSJの報道では、中国の「スパイ気球」を最初に発見したのは民間の旅客機だと云うことになっており、当局の発表と食い違っている。こう報じられたのは何故か? そして米軍が自国の領空内に入る前に撃墜しなかったのは、発見する能力が無かったからなのか、それとも意図的に見逃したのか?
Ten Legitimate Questions About Biden's Handling Of The Chinese Weather Balloon Incident

2023/02/04に起きた、米軍が南部サウスカロライナ州の沖合の上空で気球を撃墜してそれを中国の「スパイ気球」だと主張した件については、何故全世界に先駆けて月開発までやろうとしているハイテク先進国の中国が、他国の偵察をするのにナポレオン時代の様な非効率的なローテクに頼らなければいけないのか、私にはさっぱり理解出来ないのだが、少なくとも西洋のメディアではそれは絶対に「スパイ気球」なのだ、と主張されていた異論は許されないらしい。これは一見馬鹿馬鹿しい事件ではあるが、非常に危険な側面を持っている。今まで米帝の対中国の新冷戦プロパガンダは、台湾や香港や新疆等、米国民にとっては自分達の生活に直接関わりの無い、太平洋の向こうの出来事をしか扱って来なかった。だがこの撃墜事件を期に、市民達に直接警戒を呼び掛ける動きが広まっている。つまり冷戦期の「ソ連の核ミサイルが飛んで来る脅威」の様に、「アカの脅威」は米国本土を直接狙っているものと位置付けられた訳だ。ワシントンの新冷戦プロパガンダはフェーズがひとつ引き上げられたことになる。この「気球ゲート事件」の様に、今後何等かの「チャイナゲート事件」がでっち上げられて行く展開が予想される。
The Chinese “Spy” balloon is more DANGEROUS than you think

トルコ

★アンドリュー・コリブコ氏の分析の抄訳。捕虜交換協定に違反したトルコのエルドアン大統領は何を考えていたのか?
アゾフスタリ協定違反を踏まえ、プーチンのエルドアン称賛を再考する(抄訳)

★アンドリュー・コリブコ氏の分析の抄訳。2023/07/08、トルコが捕虜交換協定に違反したことを受けて、ロシアはトルコをキエフ/NATOとの仲介役から外すことを検討するかも知れない。
トルコがアゾフスタリ協定に違反したのは驚く様なことではなかった(抄訳)

★ウィリアム・エングダール氏の記事の抄訳。エルドアンの低金利時代の終わりは、トルコ経済がウォール街とシティに支配される様になることを意味する。
エルドアンは致命的な罠に陥ったのか? トルコ経済を支配するのは誰か?(抄訳)

★アル=ジャジーラの記事の抄訳。10年振りに和解に向けて動きつつあるエジプト-トルコ関係を時系列で振り返る。
エジプトとトルコが不和解消に向けて動く中、両国の20年間の関係を振り返る(抄訳)

★2023年5月のトルコの大統領選挙についてのアンドリュー・コリブコ氏の分析。複雑な状況では白黒で物事を判断しないようにしよう。
来たるトルコの選挙に本当に干渉しているのは誰か?(抄訳)

★トルコが川の水を兵器化したことによってシリアとイラクで引き起こされている水危機を巡る2023年4月時点での状況について、クレイドルの記事の抄訳と補足。
水の安全保障がシリアとトルコの会談の主役に(抄訳と補足)

2023/05/02、選挙を間近に控えたトルコのエルドアン大統領は、彼の公正発展党(Justice and Development Party)に反対している6つの野党が、「テロ」組織と「国を分断しようとする帝国主義者達」から支援を受けていると主張した。通貨危機、急激なインフレ、生活費の高騰、マグニチュード7.8 の地震の影響等、エルドアンはここ20年で最大の危機に直面しており、2022年6月の世論調査では、少なくとも55%が主要野党の共和人民党(Republican People’s Party)を支持すると回答しており、次の選挙は国を二分することになりそうだ。共和人民党党首ケマル・キリクダログルはシリア難民の本国送還を公約として掲げているし、その影響は他国にも及ぶだろう。
Erdogan claims ‘terror groups’ support opposition

NATO加盟国ながらロシアと西洋との仲介者としてトルコの立ち位置は微妙だ。2023/03/23にトルコがフィンランドのNATO加盟を承認したのは、前月の02/20にブリンケン米国務長官とトルコのメヴルート・チャブショグル外相が会談した際、米国からトルコに対する軍事物資、特にF-16 戦闘機とそのスペアパーツの販売の再開が発表されたことの見返りではないか、とこの記事は推測している(因みに両者は04/04にまた会って承認書類を直接手渡している)。
The Turkish Move: Finland in Exchange for F-16s?

2023/02/06の大地震が人工的に引き起こされたとする説には、裏付けとなる証拠は全く無い。但しトルコが米国やNATO諸国の怒りを買う理由は色々と考えられる。ピーター・ケーニッヒ氏のこの記事は、その具体例を色々と列挙してくれている。2023/05/24にはトルコの総選挙が控えているので、この地震が人工だろうと自然災害だろうと、米国がこれを利用してレジームチェンジを考えている可能性は十分考えられる。
Turkey-Syria Earthquake: Is This An Act of Terror? No Evidence Sofar

トルコと云うのは国際社会に於て位置付けが非常に難しい国で、特にロシアとの関係は、シリア紛争、ナゴルノ・カラバフ紛争、ウクライナ紛争等を巡って屢々対立的であり、どれを取ってももっと敵対的な関係にエスカレートしてもおかしくない。だがトルコは以前としてロシアと建設的な対話と友好関係を維持している。RTのこの記事では、その主因を経済的相互依存関係だと指摘している。両国の貿易額は2022年には前年から倍増している。トルコの原発開発にロシアが協力している点なんかは、トルコで大地震が起こった後だと深刻な懸念材料に思えるのだが、それはさて置き、やはり平和と安定を築くには、経済協力が何より強力ではないかと思える。両者の具体的な自己利益が一致すれば、どちらも自分の為に良好な関係を維持しようとする。
‘Putin considers Erdogan a real man’: Why Russia maintains friendly relations with one of NATO’s key members

★MK・バドラクマール氏の記事の要点。米帝が支援するクルドの戦闘員をトルコ軍が攻撃したことで、ワシントンとアンカラの関係は更に微妙に。
米国-トルコの瀬戸際外交は取り返しが付かない訳ではない(要点)

トルコは依然としてNATO加盟国だし、エルドアン大統領の日和見的言動も続いているが、トルコとロシアとの戦略的な繋がりは着実に拡大している。例を挙げると:
 ・S-400 ABM取引
 ・シリアでの協力
 ・アックユ原子力発電所(ロシアの協力で建設中のトルコ初の原発)
 ・トルコストリーム・ガス・パイプライン
Russia’s Homage to Nord Stream Pipelines

★地域内に於けるトルコの立ち位置の現状について、ハサン・ウナル氏の分析。
シリアとの和平:トルコの外交政策パズルの最後のピース(要点)

トルコは一応まだNATO加盟国だが他の加盟諸国の様に米帝のいいなりになってはおらず、、エルドアン大統領は2022/08/05にソチで行なったプーチン大統領との会談に於いて、トルコとロシアとの新たな経済協力ロードマップを明らかにした。両国の二国間貿易はドルではなくルーブルとリラで行われることになり、中央銀行が調整する予定。ロシア側はトルコに自由貿易地帯を更に設立することに関心を示しており、特に黒海沿岸でこれらの自由貿易地帯が増えれば、ロシアの事業投資は増えるだろう。まぁ蝙蝠の様にバランス外交を続けているエルドアンが今後何処まで本気で「新オスマン帝国」構想とやらを追求する気か知らないけれども、少なとも今のトルコは国際社会に於いて独自の国益を追求する主権国家として振る舞っている。

Russia, Turkey launch new economic ‘roadmap’

トルコのエルドアン大統領を「(スペインの)フランコをひとまわりスケールダウンしたような独裁政治家」と評する藤永茂氏の記事。「ISを使って、シリア北部のクルド革命勢力を撲滅したいトルコと、そのクルド革命勢力を傭兵地上軍として使って、シリアの政権チェンジを行いたい米国」とは「アサド政権打倒」と云う共通の目的によって妥協し、シリア民主軍(SDF)をいいように使い回して自分達の戦略目標達成をまんまと達成した。枢軸国・連合国どちらにも良い顔をしたフランコの様に、米露どちらにも良い顔をするエルドアンが、ウクライナ紛争の影でルド人のロジャヴァ革命潰しを強行しようとしている一方、米軍はシリアからの農産物や石油等の強奪を続けている。

 「米国は、自分の利権さえ擁護できれれば、シリアやウクライナの一般市民が何人死んでも構わないのです。私は、同じ運命が日本人のすぐそばに迫って来ていていると思えて仕方がありません。」
フランコとエルドアン

コリブコ氏の記事。トルコの防衛産業庁はキエフにドローンを販売することに対して「非常に慎重に」なっていると発表。中立を保ちたいフリをしている様だが、「ウクライナ軍はロシア軍を押している!」と云う勝利ポルノが結局3ヶ月も持たず、EUビッグスリー(独仏伊)もトーンを変えてキエフに停戦を持ち掛けるところまで来ていると、自分達が沈み掛けている船に乗っていることに気付いたのだろう。御自慢のドローンを使いながら結局モスクワに領土割譲、なんてハメになったら恥ずかしいことになる。

Why’s Turkiye Suddenly “Much More Careful” About Selling Drones To Kiev?

日本の公安調査庁はクルド労働者党(PKK)を公式にテロ組織として認定している(2022年6月現在)。最近ウクライナのアゾフ大隊が何故かリストから外されてしまった例も有るので、証拠として一応スクショしておく。

クルド労働者党(PKK)

★労働者連盟の記事の要点。西洋離れを進めるトルコは、微妙なバランスを保っている。
トルコ、シリア北東部から米代理軍を排除する動き(要点)

トルコ国防相は、黒海のトルコ沿岸で発見された機雷が、NATOが掃海艇を黒海に送るための口実として意図的に配備された可能性を提起。ロシア軍のウクライナ軍事作戦開始以来、トルコ軍は少なくとも3つの機雷を発見しており、ロシア製だがどの国がそれを残したかという問題は調査中で、約400の機雷が有ると云う報告も有る。ブルガリアとルーマニアの当局も監視を行っている。またこの種の機雷は通常は所定の位置に固定しているケーブルから外れた時に自らをロックするように設計されているものだが、発見されたものはそうなってはいなかった。
 因みにウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシア軍が黒海に「制御されていない漂流兵器」として機雷を敷設していると云う主張を行なっている。ロシア連邦保安局はこの主張を否定し、ウクライナこそ、幾つかの港の外に420の「旧式の」シーアンカー機雷を敷設しており、それらの内幾つかはケーブルから切り離されている為、地中海まで漂流する可能性が有ると非難している。
Turkey suspects conspiracy behind Black Sea mines

コリブコ氏の分析。トルコはロシア非難決議に賛成票を投じたが、制裁には加担せず、ロシアに対し空域を開放し、ルーブルと人民元による二国間貿易を継続している。トルコを評価する時には党派的思考に陥らないことが大切。
http://zububrothers.com/2022/03/13/russian-turkish-relations-in-the-new-cold-war-are-much-better-than-many-might-think/

関連スレッド。
 2023/02/06のトルコ・シリア・レバノンの大地震
 ナゴルノ・カラバフ紛争

トルコについての私のTwitterでのスレッド。
川流桃桜@UnmasktheEmpire @kawamomotwitt

新たに結成されたサヘル同盟は西アフリカ地域の軍事戦略力学を再構築する(抄訳)

アンドリュー・コリブコ氏の分析の抄訳。米国はニジェールでフランスに取って代わる為に、ECOWAS軍による侵攻中止を餌としてちらつかせて米軍の駐留を確保した。そしてアフリカ諸国で増大するロシアの影響力に対抗しようとしている。残念ながらニジェールは新たに結成された「サヘル同盟」の「最も弱い輪」であり続けるだろう。21世紀に於ける植民地解放闘争は今だ困難な課題を抱えている。
The Newly Formed Sahelian Alliance Will Reshape Regional Military-Strategic Dynamics
Sahelian Alliance



サヘル同盟結成

 2023/09/16、ブルキナファソ、マリ、ニジェールの軍が主導する暫定政府は相互安全保障と緊密な経済協力を規定したリプタコ・グルマ憲章に署名した。この展開は、近年ECOWASへの参加停止処分を受けた4ヵ国の内3ヵ国の間で、ECOWAS内にサブ・ブロックが形成されることを意味するので、これは西アフリカ地域の軍事戦略力学を再構築することになる。

 残りの参加停止処分国であるギニアはこの「サヘル同盟」には加盟していないが、将来的には加盟する可能性も有る。

 これによる最も直接的な影響は、ECOWASがフランスの支援を受けたナイジェリア主導のニジェール侵攻を開始する前に、再考するかも知れないと云うことだ。ECOWAS軍がニジェールに侵攻すれば、それは即座にサヘル同盟とのより広範な戦争に繋がることになる。

 この最悪のシナリオが阻止されれば、新たに同盟を結んだこれら3ヵ国は、非正規型の安全保障上の脅威に対処する為の相互支援に集中出来る様になるだろう。これらの国々はそれぞれジハード主義者のテロと戦っているが、マリの場合はこれに加えて新たなトゥアレグ人の反乱への対応にも苦戦している。09/12、マリの反政府勢力は北部の町を占領し、2015年の和平合意に違反して(これについては当事者双方が相手方を違反したと非難している)、更に利益を得る構えだ。



ロシアとの軍事協力拡大

 現在、ロシアはマリにとって優先的な安全保障パートナーである為、ロシア政府はマリ政府によるこの危機管理を支援することが期待されている。

 また、ブルキナファソ暫定大統領のイブラヒム・トラオレは08/31、ロシアとの戦略的同盟が軍事協力にまで拡大するよう、訪問中のロシア代表団と協議したことを認めている。

 ロシアとの軍事協力が進んだ場合、ロシアは最終的に西アフリカの複数国で対テロ作戦に従事することになり、結果的にこの地域に於てフランスがこれまで果たして来た役割に取って代わることになる。但しフランスの様に覇権と代理勢力と云う関係に於てではなく、真に平等なパートナー同士としてではあるが。



米国はロシアに対抗している

 マリとブルキナファソの2ヵ国はロシアの軍事同盟国となるが、ニジェールでは米軍の駐留が続くので、このサブ・ブロック全体としては、正式にロシアと提携することは無いかも知れない。米軍はクーデター以来、ニジェールでの諜報・監視任務を殆ど停止していたが、09/13(つまりサヘル同盟創設の3日前)、欧州・アフリカ担当の米空軍司令官はこれを再開したことを明らかにした。これは略確実に、08/07にヴィクトリア・ヌーランド国務副長官代理がニジェールを訪問し軍政権と交渉を行った結果だ。

 米国の目的は マリとブルキナファソに対するロシアの地域的影響力が、両国がクーデターを起こして以降増大しているのを阻止することだ。両国のレジーム・チェンジは、国民の政治的意識が高まり、旧宗主国フランスに対する植民地解放プロセスが完全に終わることを求める扇動に応じて行われた。そしてフランスの影響力が低下するにつれてロシアの影響力が増大し、これが米国の利益に対する脅威となった。

 米国がニジェール軍当局と合意した内容は簡単に言うとこうだ。
 ・ECOWAS軍によるニジェール侵攻は中止する。その見返りとして、
 ・米軍はニジェール国内の2つのドローン基地は維持する。
 ・ニジェールはマリやブルキナファソに倣ってロシアに軍事援助を要請したりしない。

 この非公式な取り決めが、米軍の活動再開の発表に繋がった訳だ。同時にこれによって米国は、マリとブルキナファソが真剣に検討しているサヘル連邦構想にニジェールが加わることを阻止することも出来る様になる。

 それだけではない。ニジェールで米軍がジハード主義者との戦いに於て成功するところを見せ付けることが出来れば、今後有り得るであろう、同様の脅威に対するマリとブルキナファソ(マリの場合はトゥアレグ人の反乱も)の取り組みに対するロシアの支援と対比させることも出来るだろう。

 若し米国と同盟を結んだニジェールの状況が改善する一方で、ロシアと同盟を結んでいるマリやブルキナファソの状況が悪化すれば、両国の混乱に乗じて米国やフランスが介入する機会が生まれ、米国はサヘル同盟を分割統治することが出来る様になる。

 そればかりかこうした状況は、「米国と同盟を結ぶメリットと、ロシアと同盟を結ぶことに内在する落とし穴」を証明するものだと云う情報戦の物語を広める為に利用される可能性も有る。これはマリやブルキナファソでは目立った効果は齎さないかも知れないが、フランスの影響力に代わって誰と同盟するのが得策なのかについて米国同盟陣営とロシア同盟陣営に分裂させることで、他の国々の知覚を操作する可能性が有る。

 従って今後同様に植民地解放プロセスの完了を求める気運が高まって旧宗主国フランスを追い出そうとする軍事クーデターが行われる可能性の有る国々は、これら2つの新冷戦対立陣営のどちらかを選ぶことを迫られることになるだろう。情報戦に踊らされてロシアと同盟を結ぶことはリスクを伴うと信じる様になれば、当然、彼等の目にはロシアは好ましい安全保障パートナーとは映らなくなる。

 実のところ、米国がアフリカの多極化傾向を押さえ込もうとするのは新しいことではない。半世紀以上前に脱植民地化の第一波が起こった時、米国は同じ理由から、心、精神、影響力を巡ってソ連と競争していたからだ。当時米国は旧植民地諸国の独立運動を奨励することで、NATO同盟諸国の幾つかに敵対しさえした。今回はアフリカの一部で依然として覇権を行使している唯一の国であるフランスに敵対している訳だ。

 その為米国は、フランスの「勢力圏」内で友好的な派閥を取り込む前に、初期の反帝国主義運動を分断したいと考えている。その後、自らの代理勢力を選挙なりカラー革命なりで国の指導者の地位に据えるか、或いはクーデター後に権力を掌握した軍事指導者達と同盟を結ぶかするだろう。

 これらの手段を通じて、米国は西アフリカに於けるロシアの影響力を減速させ、阻止し、場合によっては逆転させたいと考えているのだ。



ニジェールはサヘル同盟の「最も弱い輪」

 この洞察が重要なのは、サヘル同盟が包括的な軍事経済統合を達成しようとする上で、米軍のドローン基地を抱えたニジェールが「最も弱い輪(weakest link)」であり続けることを示唆しているからだ。

 但しニジェールの暫定当局は、一部の人が乱暴に推測している様な「トロイの木馬」などではない。彼等はECOWAS軍の侵攻と云う脅威に直面して非常に困難な状況に置かれていることを理解しており、その上で自国の国益を確保しようとしているだけだ。

 従って多極化を支持する観察者達は、米国と妥協したニジェール軍政権を余り厳しく判断すべきではない。彼等は文字通り、より広範な戦争の脅威の下で困難な選択を強いられているのだ。

 彼等は当初は、フランスの傀儡である大統領を打倒すると云う反帝国主義的な壮大な目標に突き動かされていたかも知れないが、現在では米国のアフリカ政策の実験室と化しつつある。

 残念な展開ではあるが、少なくとも広範な戦争の勃発は避けられることを願う。

カナダ下院、元ナチSS隊員に満場で拍手を送る

 2023/09/22、8月末からNATOとロシアとの正面対決、つまり第三次世界大戦を引き起こす為にロシアとNATOの国境近辺でテロを繰り返し、国連でも戦争継続を訴えたウクライナのウォロディミル・ぜレンスキー大統領は、ロシアの特別軍事作戦開始以来初めて、ウクライナの新自由主義化に決定的な役割を果たし、2014年のマイダン・クーデターにも加担していたカナダを訪問し、トルドー首相から2014年以来続けて来た軍事支援の継続の約束を取り付けた。

 その際カナダ下院のアンソニー・ロタ議議長は、傍聴席に座っていた98歳のヤロスラフ・フンカ氏に対し、第二次世界大戦の際、「ロシアに対してウクライナの独立の為に戦った」「ウクライナとカナダの退役軍人」であると紹介した。この賞賛に対し、出席していた全議員がスタンディング・オベーションを送った(しかも二度も)。
Trudeau and Zelensky give Ukrainian Nazi war veteran standing ovation in Canadian parliament


 が、この後、カナダにとって些か不都合が事実が発覚した。歴史を知っている人であれば直ぐ気が付く様に、第二次大戦時、「ロシアに対してウクライナの独立の為に戦った」のは、ナチスドイツと肩を並べてホロコーストを実行したウクライナのナショナリスト達だ。ウクライナにはソ連赤軍側に立って戦った者達も居たが、ナチスドイツ側に立って戦った者達も居た。

 このフンカ氏もまたナチ側の兵士であって、ポーランドに生まれた彼は1943年に自ら志願してナチ部隊に入り、SS第14武装擲弾兵師団(第1ガリツィア師団)に配属されていた、暦としたナチの兵士だった。カナダ議会は満場一致で元ナチスに対して拍手喝采を送ったのだ。

 で、この日は金曜だったので、週明けになってから下院議長はナチスの為に戦ったウクライナ人を賞賛したことを公式に謝罪し、カナダのユダヤ人団体CIJAは、ユダヤ人虐殺に加担したナチス師団の元隊員が祝われたことは「非常に遺憾だ」と述べ、駐カナダ・ポーランド大使も怒りを表明した。トルドーはこれに対し「この様なことが起こったことは極めて腹立たしい。………これはカナダ議会にとって、ひいてはカナダ人全員にとって。非常に恥ずかしいことです」と発言した。

 これは西洋の大手メディアでも繰り返し報じられた為、野党側は当然黙ってはおらず、ピエール・ポワリエーヴル議員は、この種の国賓訪問の手配や精査、プログラムの責任は首相の個人儀典官室が負っている為、カナダが「外交的に大恥を掻いた」責任はトルドー首相の「恐るべき判断ミス」によるものではないか、彼は責任を取るつもりが有るのかと議会で糾弾した。これに対してトルドーはオタワには居る筈なのだが姿を眩まし、直接の答弁を避けた。因みにこの時トルドーの代理で弁明に追われた女性は、自分自身、ホロコースト生存者の子孫だと発言した。いやはや。何もかもが出来るの悪い冗談の様だ。
Trudeau embarrasses Canada


 因みにゼレンスキーが演説をぶった際に国会に出席していたリッチモンドヒルのユダヤ人弁護士、ジェイソン・チェルニアク氏もは、X(旧Twitter)への投稿で、フンカ氏を「第二次世界大戦後に共産主義の占領と戦ったパルチザン」だと思い込み、立ち上がって拍手を送ったと語った。
 
 「彼がSS部隊の志願兵だったことを知り、胃が痛くまる思いです。………知らずにナチ兵に拍手を送っていた一人のユダヤ人として、これ以上恥ずかしい瞬間は想像も付きません。誰かが真剣に責任を取った方がいい。あの部屋に居た者は全員、禊をする必要が有ります。」



 まぁこれは今更と言えば今更過ぎる話だ。このブログでも何度も取り上げて来たが、そもそもウクライナが2014年以降、ナチス———それもナチス「みたいな」連中ではなく、正真正銘第二次世界大戦の時からCIAの庇護の下で連綿と生き続けて来たオリジナルのナチス———の天下になったことは秘密でも何でもない。ロシアの特別軍事作戦が開始される前は、西洋大手メディアでも多少は取り上げていたことだ。ウクライナのナショナリストの「英雄」ステパン・バンデラの誕生日である01/01にキエフで何が行われるかを見てみると良い。まるで1930年代にタイムスリップした様な禍々しい光景が広がっている。
TORCH-LIT MARCH IN KIEV BY UKRAINE'S RIGHT-WING SVOBODA PARTY - BBC NEWS


 ネオナチは世界のあちこちに居るし、ロシアにすら居る。だがナチのイデオロギーを正式に国政に採用してそれに基付いたジェノサイド(ホロコースト2.0とでも言うべきか)を実行しているのは、世界広しと雖もウクライナだけだ。そしてまた2022年に日本の様な属国諸国が大挙して現実否認のコーラスに加わるまで、ウクライナはスポンサーである米国を除けば、国連の反ナチ決議に断固として反対し続けて来た世界で唯一の国でもある。彼等に言わせれば、ナチを否定することは「ロシアのプロパガンダ」に従うことに他ならない。絶対的な悪であるロシア/ソ連の前では、ナチの脅威など不問に付して構わないのだ。だがこれはナチスの言い分と同じだ。

 これもまた何度も指摘して来たことだが、ナチスドイツを打倒するに際し最大の功労者はソ連赤軍であって、米軍でも英軍でもない。アウシュヴィッツを解放しベルリンを陥落させ世界最強レヴェルのドイツ軍に最大の打撃を与えたのは、紛れも無くソ連の功績だ。だからナチスの残党がソ連を邪悪な存在と見做すのはまぁ、当然と言えば当然と言えないことも無いのだが、今から振り返れば第一次冷戦に於ける西側陣営は、ずーっとナチスと同じ様なプロパガンダを人々の頭に叩き込んで来た様に思う。ナポレオンやヒトラーが果たせなかった夢を今一度、とばかりに、FDRとスターリンが構想した国連中心の(恐らく冷戦構造よりは遙かに平和だったであろう)世界秩序を否定し(所謂「逆コース」)、全世界を巻き込んで、ロシア侵略事業と、それによるハートランド制圧、そしてそれによる全世界への覇権確立作戦を、西側/西洋は継続して来たのだ。そしてその為に彼等はナチスやファシストの残党やその協力者や支持者を支援し続け、ナチスに資金提供したり彼等のお陰で儲けた連中が、引き続き西洋社会の実質的支配権を握り続けることになった。日本なんかも解り易い例だ。ナチズムは滅びてなどいない。「自由民主主義」とブランド変更しただけだ。
 
 2022年以降、西洋の首脳や高官達は最早公の場で「スラヴァ・ウクライニ!」と叫んで全く恥じることが無い。これはドイツで言ったら「ジーク・ハイル!」に相当する言葉なのだが、まぁ殆どの西洋人は「頑張れウクライナ」程度の意味としか思っていないであろうから問題無いのだろう。有権者にバレさえしなければナチを支持したり支援したりしたって平気の平左なのだ(まぁ西洋のTVはウクライナ関連の大本営報道を流す際、画面に映り込んでしまう数々のナチのシンボルの対応に苦労している様ではあるが)。

 殆どの西洋市民は「ヒトラーの様な絶対的独裁者が主導するナチズム」と云うイメージに引き摺られて、ゼレンスキーが雇われ独裁者であると云う現実は見えていないだろう。彼は元々ナチとは距離を置いていたし、「ウクライナにナチなど居ない!」と主張する人々が指摘する様に、ナチスが標的のひとつとするユダヤ人でもある。だがそもそもウクライナのナチズムは彼が主導して来た訳ではないし、彼のパトロンのコロモイスキー(彼もまたユダヤ人)はアゾフ大隊のパトロンでもあった。だが彼がロシア人に対するジェノサイドと戦うどころか、あっさり公約を反故にして寧ろそれを推進して来たのは紛れも無い事実だし、しかも最近ではゼレンスキー自身も堂々とナチの紋章を着けて公務をこなしている時だって有る。日本ではキエフ政権を「ネオナチ政権」と言っただけで議員が謝罪せねばならないが、キエフ政権が正真正銘マジモンのナチ政権でなかったとしたら一体何なのだろう。

 だから「元」ナチスが一人見付かってしまった位でガタガタ騒いでいるのは、本当に何を今更、あんたら現役のナチスを散々賞賛しているし支援しているじゃないのよと私なぞは思うのだが、流石に恥知らずな帝国主義連中でも、自分達がナチ陣営であると開き直って認めることには流石に躊躇いを覚えるものらしい。無知な大衆にも判る様にナチを賛美するのはNGなのだろう。やるなら世論から非難を浴びない様にやらないと、「一線」を超えてしまうことになる。

 カナダのナチ問題は根深い。フンカ氏の例でも判る様に、ナチの残党や支持者達は冷戦期を通じてカナダ社会に溶け込んで来た。ウクライナを除けば、カナダはバンデラ主義者の大臣(クリスティア・フリーランド副首相)が居る世界で唯一の国でもある。また2014年以来、ナチ部隊の居るウクライナ軍に軍事支援を提供して来たことは勿論、元々カナダには現在進行形で活動しているバンデラ主義者(ナチスドイツに協力してウクライナ、ベラルーシ、ポーランドで何万人もの虐殺を実行したウクライナのナショナリスト)のネットワークが存在しており、ナチの英雄を記念した像まで立っている。ナチスは「ソ連共産主義の犠牲者」と云う扱いなのだ(ナチスドイツを倒したのはソ連赤軍なのだから、ナチスの側から見ればそうなるだろう)。

 裏を返せば、ナチスが英雄であり続ける為には、ソ連/ロシア/共産主義には悪役でい続けて貰わないと困る訳だ。「これはロシアによるウクライナ侵略である」と有権者達が信じ続けてくれなければ、ウクライナを捨て駒にしたNATOによるロシア侵略事業は継続出来ない。物語の前提は疑われてはならない。元SS隊員に拍手を送ったユダヤ人議員の事例は、反共プロパガンダに洗脳されていると、当たり前の事実にすら気が付かなくなると云う好例だろうが、「絶対的な悪役」の存在はそれ程までに重要なのだ。配役を間違えるなど以ての外。その意味では、今回のカナダの失態は西洋のプロパガンダ・システムにとっては確かに許し難いスキャンダルだったと言えるのだろう。

 私は数年前からこの反共洗脳の問題は思っていたよりずっと深刻なものかも知れないと思い、各種デバンキング記事や書籍を読んで意識的に軌道修正を図っているが、「うちらは基本的に昔も今もナチ陣営であって、全世界的に見ればジェダイの騎士ではなくストーム・トルーパーである」と云うこの救い難い現実に気が付く西洋市民は、今後も恐らく圧倒的少数派に留まり続けるのではないかと云う気がしている。自らの無垢無実を確信して生き続けるには、無知であることが絶対条件なのだ。

マリ

★アンドリュー・コリブコ氏の分析の抄訳。米国はニジェールでフランスに取って代わる為に、ECOWAS軍による侵攻中止を餌としてちらつかせて米軍の駐留を確保した。そしてアフリカ諸国で増大するロシアの影響力に対抗しようとしている。残念ながらニジェールは新たに結成された「サヘル同盟」の「最も弱い輪」であり続けるだろう。21世紀に於ける植民地解放闘争は今だ困難な課題を抱えている。
新たに結成されたサヘル同盟は西アフリカ地域の軍事戦略力学を再構築する(抄訳)

★アンドリュー・コリブコ氏の分析の抄訳。ニジェールのクーデターを拒否するAUとECOWASはアフリカの支配層の利益を代表しているが、これに立ち向かうニジェール新当局、サヘル同盟、ロシアは、アフリカの人民の主権的意志を代表している。
ニジェールのクーデターにより、長年待ち望まれた西アフリカの主権に関する議論が活発に(抄訳)

ジェラルド・A・ペレイラ氏によるアフリカの新植民地主義解放闘争讃歌。日本は人気の有る記事らしく、藤永茂の「私の闇の奥」、「ラテンアメリカの革命的大衆闘争」、「寺島メソッド翻訳NEWS」と3つも邦訳されている。私も最初要点だけ纏めてみようかとも思ったのだが、全文訳が次々出て来るし、文体に迫力が有ってノーカットの方が良いかも知れないと思ったので、このブログでは紹介だけしておく。日本では「植民地支配なんてずっと昔の話でしょ?」などと平気で言う人が増えてしまった様だが、そう云う人達の知らないところで歴史は希望に満ちて大きく動いている。
Mali, Burkina Faso and Niger at the Forefront of the African Revolution
マリ、ブルキナ・ファッソ、ニジェールがアフリカ革命の最前線に
アフリカ革命の最前線に立つマリ、ブルキナファソ、ニジェール
アフリカ革命の最前線にいるマリ、ブルキナ・ファソそしてニジェール

★パヴァン・クルカルニ氏の記事の要点。ニジェールのクーデターを巡る各方面の展開について、多少前後するが補足しつつ時系列で纏め直してみた。
ナイジェリア上院は西洋が支援のECOWAS計画への支持を拒否(要点)

★アンドリュー・コリブコ氏の分析の抄訳。ニジェールのクーデターを巡る最近の展開は、より広範な戦争を予感させる。その場合、NATOが支援し、ナイジェリアが主導するECOWASと、新たに結成されたブルキナファソ、マリ、ニジェールのサヘル連合(ギニアも加わる可能性が有る)が対立するだろうが、後者が早期に敗北させられなければ、ロシアは恐らく後者を支援する。そうなれば地域紛争は新冷戦の代理紛争に変わり、その場合チャドがキングメーカーになるかも知れない。
西アフリカ地域戦争一歩手前(抄訳)

★2023/07/29、ブルキナファソとマリの暫定軍事政権は、ニジェールのクーデターに対する新植民地主義勢力の介入に対して警告を発した。全文報じた記事が仲々無いので、肝の部分だけだが紹介してみる。
ブルキナファソとマリは米国が支援するAUとECOWASが侵攻すればニジェールを防衛する

★マーティン・ジェイ氏の論説の要点と補足。マリはドイツ軍を必要としていない。ワグナーと違って、彼等は居ても役に立たない。
マリでの国連作戦は詐欺だ。見てみろ、ドイツ人はワグナー部隊から逃げ出している(要点と補足)

★ブルキナファソとロシアとの戦略的同盟関係について、アンドリュー・コリブコ氏の記事の抄訳。新植民地主義勢力は「マリ・モデル」が周辺諸国に広がる事態を恐れている。
ブルキナファソとロシアの戦略的同盟は、西アフリカを更に安定させるだろう(抄訳)

★ゼナート・ハンスロッド氏の記事の要点。国連の「マリでの人権侵害」告発を巡る展開。
国連人権代表団長、マリから追放される(要点)

2022/11/02、エチオピア政府とティグレ人民解放戦線(TPLF)は南アフリカで10日間の激しい交渉を繰り広げた末、和平合意に署名。同日、米政府もTPLFを「ティグライ政府」と呼ぶことを諦め、「ティグレ人民解放戦線」と呼んだ。帝国主義勢力の陰謀がここでまたひとつ潰えた。
Ethiopia Peace Talks Conclude: TPLF Agrees to Disarm

マリ政府は国連安保理でも旧宗主国フランスとの対決姿勢を強めている。2022/10/19にはマリ外相は、パリは領空を侵犯して武装勢力に武器を提供していると非難。マリ軍とロシアの傭兵が人権侵害を行なっていると云う国連の主張は「根拠が無い」と一蹴。フランスがイスラム過激派と共謀して情報を提供し、マリを不安定化させていると主張している。まぁ「テロとの戦い」と称するテロを利用した際限の無い軍事介入なんてヤクザな事業を、まともな国だったら受け入れ難いと感じるのは当然で、マリがロシアと協力して主権を回復するのに成功すれば、「テロの脅威」は本当に無くなる。
Mali has Hard Evidence France is Arming Terrorists Plans to Report to UN's Security Council


フランス軍を追い出したマリでは、案の定と言おうか、まるで懲罰の様に、イスラム過激派によるテロが増加している。トゥアレグの分離主義勢力と、 「拡大サハラのイスラム国(Islamic State in the Greater Sahara/ISGS)」は、2022年10月中旬になってマリ東部に更に進出し、ニジェールとの国境に近いアンソンゴ地区の領土を奪い、数百人の民間人を殺害し、数千人を逃走させている(正確な数字は不明)。逃げた人々はメナカとガオの町に向かったが、ここではマリ軍とロシアの民間軍事会社が協力して暴動と戦っている。
Islamist Militants in Mali Kill Hundreds, Displace Thousands in Eastern Advance

★オレグ・ブルノフ氏の記事の要点。フランス軍はマリを追い出された後、ニジェールに拠点を移したが、これが反発を呼んでいる。
首都での抗議集会禁止を受け、ニジェールへのフランス軍駐留に反対する請願が開始(要点)

★アンドリュー・コリブコ氏の分析の要点。マリに於けるロシアの「民主的安全保障」の成功は、アフリカ全土の多極化プロセスに於てゲームチェンジャーになる可能性が有る。
マリ暫定大統領とプーチン大統領の電話会談は実はかなり大きな出来事だった(要点)

★アンドリュー・コリブコ氏の記事の要点。西洋はアル=カイダを使って、マリでも対ロシア代理戦争を推し進めようとしている。
アル=カイダのマリ支部がロシアに宣戦布告(要点)

マリでは武装過激派退治の為に2013年から仏軍主導で平和維持ミッション(MINUSMA)が行われており、現在約12,000人の兵士と、約2,000人の警察官やその他士官が駐留しているが、死亡者は270人に上っている。仏軍のプレゼンスに対する不満と抗議が高まった結果、仏軍は撤退し、代わりにロシアの民間軍事会社ワグナー・グループが空白を埋めることになったが、西側政府やアナリストや人権団体は、例によってこれはプーチンの手先だ、深刻な人権侵害や国際人道法違反を犯していると主張している。モスクワは関係を否定し、国連大使は西側の「新植民地主義的アプローチと二重基準」を非難している。取り敢えずロシア軍はシリアやウクライナでそのテロ退治の腕前を証明して来ているので、民間企業の方の実力を見せて欲しいところだ。
Russia-West Tensions Inflame UN Debate on Mali Peacekeepers

2022/05/15、マリはG5サヘル(構成国はブルキナファソ、チャド、マリ、モーリタニア、ニジェール。全て元フランスの植民地)からの公式な撤退を発表。貿易促進との名目で2014年に創設されたG5サヘルは2017年に仏政府の圧力の下で合同軍(FC-G5S)を創設。マリはIMFが押し付けた緊縮財政と長引く紛争により世界の最貧国のひとつと化し、2020年と2021年の二度のクーデターの後は西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)による制裁も状況を悪化させていた。フランスが軍事費増額を要求した結果、G5サヘル諸国は予算の17%から30%を軍事費に費やしており、武器貿易は経済を窒息させている。 ブルキナファソとチャドでも軍事クーデターが起きており、旧宗主国フランスへの不信感は高まっている。
Is This the End of the French Project in Africa’s Sahel?

★ヴィジャイ・プラシャド氏の記事の要点。
マリ軍はフランスを排除するも深刻な課題に直面している(要点)

★エカテリーナ・ブリノワ氏の記事の要点と補足。殆ど報道されていない、フランス軍がマリに残した集団墓地について。
パリがアフリカで影響力と統制を失いつつある中、フランスはマリでロシアに責任を転嫁(要点と補足)

★ケスター・ケン・クロメガ氏の記事の要点。マリがフランスから離れ、ロシアと接近したことで起こった展開について。
マリ軍と外国戦闘員が扇動したマリのモウラ虐殺(要点)
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川流桃桜

Author:川流桃桜
一介の反帝国主義者。
2022年3月に検閲を受けてTwitterとFBのアカウントを停止された為、それ以降は情報発信の拠点をブログに変更。基本はテーマ毎のオープンスレッド形式。検閲によって検索ではヒットし難くなっているので、気に入った記事や発言が有れば拡散して頂けると助かります。
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