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ダルフール戦争と殺戮(要点と補足)

2003年から続く所謂ダルフール戦争については、その真相について書かれた文献は限られているのだが、エドワード・ハーマン氏の『ジェノサイドの政治学』がこの件の複雑さについて解説しているので、多少補足しつつ要点を纏めてみた。




誤ったジェノサイド報道

 推定30万人が死亡したとされるダルフール紛争は、西洋のメディアでは悪党と犠牲者の物語として、善と悪との二分法に基付く単純な構図で語られるのが常だ。だがこれは複雑な政治状況を道徳劇に単純化してしまっている。

 公式の物語では、悪党は「アラブ人(スーダン政府の主体となっている)」、犠牲者は「アフリカ人」と云うことになっている。「スーダンのアラブの支配者」と「非アラブで黒人のアフリカ・スーダン人」との対立と云う訳だ。

 だが2005年の国連報告書では、「アラブ対アフリカ人」と云う構図は、紛争の結果と原因を取り違えていると結論付けている。

 報告書は殺戮の対象となった様々な部族と殺戮を実行した部族との間に民族的な違いは無く、「彼等は同じ言語(アラビア語)を話し、同じ宗教(イスラム教)を信仰している」と述べている。

 またこの報告書は、重大な人権侵害(村への攻撃、民間人の殺害、強姦、略奪、強制移動)は数多く行われたが、スーダン政府はジェノサイド政策を遂行しようとしていた訳ではないと結論を出している。

 ダルフールが悪役に選ばれたのは、恐らく以下の幾つかの条件を満たしていたからだと思われる。
 ・政府はイスラム教徒のアラブ人が主体となっている(悪役にはうってつけだ)。
 ・スーダンには石油が有るが、政府と強い関係を構築しているのは中国であって、米国や西洋諸国ではない(つまり間接的に中国が情報攻撃の対象となった)。
 ・当時イラクやパレスチナで行われていた残虐行為から国際世論の目を逸らさせる必要が有った。近くのコンゴ民主共和国に於ける西洋諸国の資源収奪についても同じことが言える。



紛争の真因

 2006年の国連報告書に拠ると、地域の緊張の原因は環境の悪化だ。報告書は「気候の不安定性、旱魃、砂漠化、人口増加、食糧不安、希少資源の過剰開発」等の様な様々な要因が紛争の下地を作っており、「ダルフールはその地方の人口を維持出来なくなる程に劣化している」と結論付けている。
 
 民族紛争の根源には環境危機が横たわっており、気候変動の影響も指摘されている。「暴力が勃発したのが旱魃の最中だったことは偶然ではない。」

  2007年の米海軍分析センターの報告書は、「その性質に於て部族や派閥、ナショナリズム間の闘争と見えるものは、往々にして水の供給の減少や農業生産性の低下によって引き起こされる」と指摘した上で、ダルフールの状況も、土地資源問題が根底に在ると述べている。ダルフールは、「気候関連の要因が既存の些細な問題を悪化させて臨界点を突破させる」事例研究を提供するものだそうだ。



「忘れられた」ジェノサイド?

 ダルフール紛争は屢々「見過ごされたジェノサイド」と報じられる。だが実際にはダルフールは2008年末までに5年連続で世界最大の人道支援作戦の恩恵を受けており、80を超える組織と1,500人の支援要員がこれに関与している。「忘れられた」「気付かれない」などと報じられた割に、ダルフールは当時の世界中の危機の中で最も頻繁に宣伝されていた。ダルフール問題を巡って多くのNGO、セレブ、学生達が熱心に関心を寄せ、オンライン活動や感傷的な旅行キャンペーン等も展開された。

 その一方で、本当に殆ど報道されなかった危機も存在する。スーダンの近く、コンゴ民主共和国では、「第二次大戦以降最悪の危機」と呼ばれた戦争が続いていたが、1998〜2007年の時点で540万人(つまりダルフールの約20倍)の死者が出ていたと見積もられている。こちらはその存在自体を知っている人が少なかったが、その理由は恐らくこの戦争の主犯が米英加等の西洋諸国と、その代理勢力(主にルワンダとウガンダ)だった所為だろう。それにコンゴの政府はイスラム教徒ではなかった。

 同時期の別の大量殺戮、2003〜09年のイラク侵略戦争とダルフール紛争のデータを比べてみると、死亡者数はイラクの方が3倍以上だが(制裁による死者数まで含めると6倍になる)、ダルフール報道ではイラクの90倍の頻度で「ジェノサイド」と云う表現が使われていた。自然発生した紛争ではなく悪い奴が事前に計画した組織的な殺戮なら、適切に介入すれば予防することも出来る筈だ、と云う心理的誘導が行われた訳だ(「予防可能」と云う文句がCOVID-19パンデミック詐欺に於てどれだけ重要な役割を果たしたかを思い出そう。人々は複雑で入り組んだ現実を理解するよりも、分かり易く単純でコントロール可能な世界観を嗜好する傾向が有る。英語の論文を読んだり健康や生命活動とは何かについて時間を掛けて学ぶよりも、幼稚園児でも理解出来る「マスクで感染予防」と云う疑似科学の方がずっと簡単で親しみ易い)。



「もっと人道的介入を」?

 この誤ったフレーミングに基付く報道により、「米国や国連は人道的危機を解決する為に人道的介入を積極的に行うべきだ」と世論が誘導された。例えば米国ホロコースト記念博物館が提携するジェノサイド防止タスクフォースの2008年の報告書、「ジェノサイドを防ぐ:米国の政策決定者向けの青写真」を基に、著者のマデレーン・オルブライト等はオバマ政権が「ジェノサイドを防ぐ」と云う名目で諸外国への介入を強化することを求めた。つまり放っておいたらジェサイドなんかをやらかす愚かで道徳的に劣った肌が白くない人々には、世界の保安官たるアメリカ帝国が慈悲深く介入して適切な管理を行い、自由と民主主義と人権を齎してやらなければならないのだ、と云う訳だ。
Darfur Genocide


 著作家のスティーヴン・フェイクとケヴィン・ファンクは、イラクやパレスチナでの殺戮に反対する活動と違ってダルフールに関する活動が活発だった要因として、以下の点を挙げている。
 ・その活動は親エスタブリッシュメント層的な理想(イスラエル国防軍の Purity of arms の様なもの。必要な範囲でのみ武器と武力を行使すると云う、実際には全く守られていない建前)に基盤を置いている。
 ・面倒臭い交渉による解決の見通しに気を遣わなくて良い。
 ・アラブ人でイスラム教徒の悪役から、自称情け深い西洋人が武力を行使して肌の黒い犠牲者達を救ってやると云う物語は気持ちが良い。



 そして「国際世論」の関心がダルフールに集まっている間に、コンゴやイラクやアフガニスタンやパキスタンやパレスチナでの途方も無い殺戮は、全く邪魔されること無く続けられた。



終わらせて貰えない「ジェノサイド」

 2009年、国連とアフリカ連合の合同平和維持軍の司令官マーティン・ルーサー・アグワイは、最早ダルフールで戦争は起こっておらず、人々は水や土地の問題を地域レヴェルで解決しようとしており、残るは治安の問題だけだと宣言した。

 だがこの発言は多くの組織や活動家達によって直ちに却下され、それどころか新たなキャンペーンが展開された。それらは例えば以下のものだ。
 ・Save Darfur Coalition
 ・国際危機グループ
 ・Enough Project
 ・Keep the promise:Sudan Now
 ・Stop Genocide Now
 ・Genocide Intervention Network
 ・Investors Against Genocide

 スーダン研究の第一人者、アレックス・デ・ワールはこれらの「活動家達」を、「起こっていないジェノサイド」に焦点を当て、「既に終わった殺戮を止める」為に米国の介入を求めていると痛罵している。「『ダルフールを救え』は、スーダンや、実際のところダルフールに関するものでは全くない。頭の中で拵えた共感と、アメリカ国内の政治アジェンダを生み出すことに関するものだ。(略)恥を知れ、恥を知れ、恥を知れ。」


 これらの展開にも関わらず、西洋諸国政府、国連、NGO、人権セレブ、それに大手メディアは、今に至るまでダルフールの危機を「ジェノサイド」とフレーミングすることに成功し続けている。ダルフールに向けて動員される感情は、西洋諸国が世界各地で引き起こしている暴力に対するそれらとは実に対照的だ。
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マヨット島:「部門化は完全な社会的事実です。」(要点と補足)

10年に亘ってフランスの「海外県」、マヨット島を調査した社会学者で、Une situation postcoloniale:Mayotte ou le gouvernement des marges の著者であるニコラス・ロインサール氏のインタビューから、前半のポイントを抜き出してみた。
Mayotte. « La départementalisation est un fait social total »



 ロインサール氏の著書の中では、マヨットは「最も若く、最も貧しく、最も不平等で、移民の影響を最も受けている 」フランスの領土であり、今日では「火薬樽」だと認識されていると描かれている。

 マヨットは曾てのフランスの植民地であり、法的には非植民地化されていることになっている。マヨットは国連の観点からすればコモロ連合(マヨットも含まれるコモロ諸島の他の3島から成る)の一部の筈なのだが、植民地統治に特有の法的例外状況を連想させる、国家レヴェルでの差別的な扱いを受けている。現地のマホライ族の人々は、自分達が二級市民であるかの様に感じている。

 「脱植民地化せずに植民地を去る」ことは、フランス第5共和制の特徴で、フランスは植民地を去った後も政治的影響力を保持している為、完全に植民地化を解除する訳ではない。これは大統領に権力が集中しているフランスの政治体制にも関連しており、エマニュエル・マクロンが地元で選出された役人に演説する時や、マヨットの様な海外県で選出された役人に演説する時に、この実態の一旦を観察することが出来る。
 
 「部門化法(Loi de départementalisation)」とは1946年に採択された法律で、フランスの海外植民地を「部門」に設定するものだ。植民地をフランスの国家体制の中に正式に組み込むと云う意味を持つものだろう。

 今日のマヨットに於て、部門の地位を獲得することは平等を手に入れることと同義だと言う者も入れば、部門化は同化と同義だと言う者も居る。ロインサール氏の調査結果に拠れば、マヨットには2つの社会が併存している。
 ・部門化とコモン・ローの社会:共和国学派、公式の市場経済、公用語としてのフランス語等。
 ・マヨット社会:宗教的結婚、非公式の仕事、現地語の優位性等。
 これは、乗り越えられない矛盾に繋がる。

 1980年代に民族学者ソフィー・ブランシーが研究したマヨット社会は、深刻な対立や社会的緊張がなく、誰もが社会に於ける自分の役割と場所を知っているという意味で統合された社会だった。

 逆に、近年観察された非行の増加は、社会の統合が弱まっていることを示している。不平等と社会的変化が深刻化する中で、社会は最早共生にルールを課すことは出来ない。若い世代は特定の慣習や宗教的規則から離れており、女性の解放も起こっている。現在のマヨットは、フランス、バントゥー、イスラムが同時に存在する社会だ。

ジンバブエ

西洋諸国から非人道的な経済制裁を課されているジンバブエでは、現地通貨がドルに対してその価値の2/3以上を失って、アフリカで最も弱い通貨になってしまった為、深刻なインフレへの対策として金貨の使用を決定した。「民主主義の回復」とやらの為にジンバブエの人々を経済的に殺したい米国の思惑は頓挫した。
Zimbabwe fast-tracks de-dollarization of its mineral sector

レンバ人(Lemba People)は主にジンバブエと南アフリカに多い「肌の黒いユダヤ人」(遺伝子調査によって、少なくとも一部はユダヤ人の特徴を備えていることが確認されている)。ユダヤ教的な伝統や風習を今も堅固に保持している。
These Black Jews of Africa the Lemba are The Real Lost Tribe of Israel


★ジンバブエに対する違法で非人道的な制裁の解説。
ジンバブエに対する米国の制裁が「人道に対する罪」だと非難される(要点)

17年もの長きに亘る独立戦争(1963〜1980年)が終わった後でも、英米は白人入植者の特権を守る為に15,000人の傭兵を傭い、制裁を課した上で、債務の罠を仕掛けて独立を無効化しようとした。制裁の目的は、人民の生活向上の為に土地改革(白人に奪われたジンバブエ人民の土地を取り戻そうとした)を行おうとしたムガベ大統領が再選されないようにすることで、最終的には産業の発展を阻んで国が豊かにならない様にするのが目的だ。この措置は如何なる法的根拠も無い違法行為であり、ジュネーヴ条約違反の人道犯罪だ。最近では「植民地支配?そんなのずっと昔の話でしょ?白人を貶めるのは止めろ!」みたいな声が平気で聞かれる様になってしまったが、独立の為の闘争は今も形を変えて厳然として続いている。植民地支配からの脱却はアフリカ大陸全体にとって現在進行形の課題だ。
Zimbabwe: 21 Years of Sanctions for Repossessing Land and Defying Western Powers


2022年の第77回国連総会に於て、ジンバブエに対する違法で非人道的な制裁(一方的な強制措置)の解除を求めるアフリカ諸国代表のスピーチ。西洋はジンバブエの経済的苦境を長年「非道な独裁者」ロバート・ムガベの愚策の所為だと主張して来たが、彼が死去(2019年)した今、最早その様な言い分は通用しない。そもそもケシカラン独裁者が居るからと言ってそれを勝手に罰する権利を一体誰が何の権限に於て白人達に与えたのか、誰も説明してくれないが、その独裁者とやらが死んだ後までその国を罰することに、一体何の正当性が有ると云うのだろう?
African Leaders are Calling for the End Sanctions on Zimbabwe During UN General Assembly


藤永茂氏の2009年のシリーズ記事。ジンバブエのムガベ大統領が如何にして西側から悪魔化されているか、その現状と背景を探っている。植民地主義は20世紀半ばで終わった訳ではなく、より判り難い形で現在も生き残っている。問題を解決するには先ず宗主諸国のプロパガンダの嘘を暴き、問題の構図を正しく認識することが求められる。
ジンバブエの脱構築(1)
ジンバブエの脱構築(2)
ジンバブエの脱構築(3)
ジンバブエの脱構築(4)

藤永茂氏の2008年のシリーズ記事。「ジンバブエは独裁者ムガベの愚行と専横により経済破綻に陥った」と云う西側のマスコミ報道に疑問を抱いた著者が、事実関係を調べて行く内に全く異なった結論に至った経緯が記されている。真実に辿り着くには多少の予備知識や報道の行間を読む姿勢、自力で情報を確認する意思と能力が必要なのは言うまでもないが、本多勝一氏の「殺す側/殺される側」と云う感性の違いも重要。侵略され支配される被害者の立場に立って物事を眺める感性が有るか無いかで、同じ対象を見たとしても全く異なった光景を見ることになる。西側市民は基本的に殺す側(加害者/征服者/支配者サイド)で物事を見るよう調教されているので、無自覚な帝国主義者がデフォルトなのだ。
ジンバブエをどう考えるか(1)
ジンバブエをどう考えるか(2)
ジンバブエをどう考えるか(3)
ジンバブエをどう考えるか(4)
ジンバブエをどう考えるか(5)

今週のミャンマーでの死者を出した空爆についての認識は、メディアによって操作されている(要点)

ミャンマーでの空爆事件を巡る地政学的な状況について、アンドリュー・コリブコ氏の分析の要点。
Perceptions Of This Week’s Deadly Airstrike In Myanmar Are Being Manipulated By The Media



 2023/04/11、ミャンマー空軍が爆撃を行い、武装勢力と民間人、合わせて165人以上が殺害された。CNNはこれを非武装の標的に対する違法な侵略行為であると主張たが、実際には殺害されたのは、影の政府と呼ばれる「国民統一政府(National Unity Government/NUG)の新しい行政事務所開設を祝う為に集まっていた戦闘員達だった。

 全ての国はその領土主権を国連憲章によって保証されているので、所謂「並行政府」を作ろうとするこの種の試みに対して攻撃を行ったことは、国際法の観点からは何も悪いことをした訳ではない。一部の民間人が巻き添え被害を受けて死亡したことは残念ではあるが、現在の状況を考えると、その「開会式」に出席するリスクを認識していた筈だ。



 英国はこの件に関して安保理で空爆を非難し説明責任を求める声明を出そうとしたが、中露によって阻止された。両国はミャンマーに対して戦略的関心を持っている。

 ・中国:ベンガル湾での緊張に関して、中国は対インドでミャンマーとスリランカと諜報提携している。また、北京は中国-ミャンマー経済回廊(China-Myanmar Economic Corridor/CMEC)の成功の為にミャンマーの軍事政権との協力を望んでいる。

 ・ロシア:ロシアはミャンマーに軍事協力している。特にミャンマーと隣国バングラデシュとの間でどちらにも受け入れられずに無国籍化しているロヒンギャの人々の問題を解決する為に、ロシアが今後仲介役を買って出る可能性が有る。

 英国とそのお仲間の西洋ギャング共は、当然ハイブリッド戦争によってこの状況を悪化させたいと思っている。



 ミャンマーはインドと中国の両方に隣接している為、西洋のエージェントが勝利してミャンマーがウクライナの様なNATOの前衛基地と化した場合、両国の国家安全保障はより複雑になる。そして今は印中のライヴァル関係が特に悪化している最中なので、今回の様な事件は悪影響を及ぼす可能性が高い。

 西洋大手メディアはこぞってこの空爆を非難しているが、それはミャンマーに対して圧力を強める口実が欲しいからだ。

 だが、それでも出来るのは世論の関心を集めること位だ。ミャンマー国軍と反政府武装勢力との戦争は既に2年続いているが、西洋諸国が通常の「人道的介入(つまり空爆)」か、後者への支援を倍増でもしない限り、現在の膠着状態はこれ以上具体的に動かし様が無い。

 この展開は、中国と親しい隣国タイが、5月に総選挙を控えている時期と被っている点にも注意する必要が有る。米国はその代理人候補に対する支援を強化しているが、ミャンマーのNUGに対する支援が同時に倍増された場合、若しタイで米国の代理候補が権力の座に返り咲いたりしたら、ミャンマーでの紛争がより声高に騒がれて、「より直接的な種類の介入」へとエスカレートする可能性が有る。

 現状ではこれ以上の展開を予測することは困難だが、ミャンマーの紛争に関する今後の報道と、タイでの選挙結果は注意して観察しておく必要が有る。

「陰謀論」と云う言葉で傲慢な偽善を正当化したカール・ポパー

歴史家でマルクス主義者のヴィジャイ・プラシャド氏の主張では、「陰謀論」と云う概念をの開拓者はカール・ポパーだそうだ。彼の著書から該当部分を訳出してみた。文中に出て来るジョー・マッカーシーやジョン・バーチ協会は、「世界支配を目論む共産主義者達は陰謀のネットワークを張り巡らせている」と云う事実無根の反共陰謀論を広めた連中。



 
 「「陰謀論」と云う概念を開拓したのは、反共主義哲学者のカール・ポパーの1945年の著書、『開かれた社会とその敵』だ。ポパーは戦争や失業や貧困が「何等かの強力な諸個人やグループの直接的な計画の結果」であると云う見解に反対した。戦争や失業の社会的メカニズムを理解しようとする社会理論———例えばマルクス主義———は、単なる陰謀論だとしてやんわりと却下された。ポパーは、陰謀論(conspiratorial)組織は偏執狂であり———ナチズムの様に———全体主義やジェノサイド的政策に行き着くものだと指摘した。ポパーのリベラル派は、米国や社会についての左派的批判を陰謀論的だと見做した。実際の陰謀論———例えばジョー・マッカーシーやジョン・バーチ協会———は鼻であしらわれ、軽んじられはしたが、真剣に取り上げられることは無かった(何せダニエル・ベルが書いた様に、共産主義者達は———ジョン・バーチ協会とは違って———『あらゆる民主主義社会にとって脅威となる」陰謀を企んでいたのだから!)。これは陰謀に対する筋の通った反論ではなく、資本主義や帝国主義に対するあらゆる批判に対する、階級的な攻撃だ。」
 



 因みにポパーは傲慢で独善的な態度で有名で、『開かれた社会とその敵』は、彼の批判者によって『その敵の一人によって書かれた開かれた社会』だと揶揄されたことも有る。

 また、世界最悪の「慈善家」の一人であるジョージ・ソロスが「世界に民主主義を広める」と云う名目で設立したオープン・ソサイエティ財団は、ポパーの著作からその名前を取っている。この財団がやっているのは、西洋の一極覇権秩序に対して十分に従順ではない国で、草の根運動に見せ掛けてその国の政府や体制に反対する抗議行動を起こし、帝国主義勢力がより従順な者達へと指導者層の首を挿げ替える手助けをすることだ(一言で言うとカラー革命)。この財団によって「開かれた」社会は、強者による弱者の搾取や弾圧に対して大いに「開かれた」社会になる。

 新植民地主義や帝国主義、新自由主義の現実を前にして何も語らない西洋の———言い換えれば資本主義システムの中核諸国の中流以上の白人成人男性の知的エリートの———社会理論は、奴隷制や女性の権利を放置した儘自分達だけの「民主主義」について語っていた古代ギリシャの男性達の言説と大差無い。この場合、「彼等が何について語っているか」ではなく、「彼等が何について沈黙しているか」の方が遙かに重要になる。チャールズ・ミルズの言うこの「無知の認識論」の問題と取り組もうとしない社会理論は、今日の後期資本主義社会に於ては基本的に全て偽善の臭いがする。

大韓民国はウクライナに不吉な軍事支援を送るだろうか?(要点と補足)

キエフに対するROKの軍事支援の可能性について、アンドリュー・コリブコ氏の分析。この展開は日本にとっても非常に重要だと思うので、多少補足しつつ纏めてみた。
Will The Republic Of Korea Dispatch Lethal Aid To Ukraine?



 2023/04/18、大韓民国(ROK)の尹淑烈大統領はロイターのインタビューで、所謂ロシアの戦争犯罪によって人道状況がより深刻な危機に陥った場合に備え、同国はウクライナへの殺傷兵器の輸送を検討していると語った。「民間人に対する大規模な攻撃、虐殺、重大な戦争法違反等、国際社会が容認出来ない状況が発生した場合、人道的または財政的支援のみを主張することは難しいかも知れません。」

 これに対して、ロシアのペシュコフ報道官は、「武器を供給することは、この紛争にはっきりと関与することを意味します」と警告した。

 また、元ロシア大統領で国家安全保障会議のドミトリー・メドベージェフ副議長は、「この国の住民は、彼等の最も近い隣国であり我々のパートナーであるDPRK(朝鮮民主主義人民共和国)がロシアの武器を所有している新事例を見せられた時、何と言うだろうか?」と警告した。つまり立場を置き換えることでロシアから見たこの展開を説明すると共に、ROKがキエフを武装させれば、ロシアがDPRKを武装させる可能性を仄めかした訳だ。

 04/20になるとROK大統領府の匿名の高官の言葉が報じられた:「ウクライナへの軍事支援に関する決定は、ロシアの行動に掛かっています。」「我々が自発的にこの様な行動を取らないのは、ROKとロシアの関係を安定的に維持・管理すると同時に、ウクライナ人の自由を守る為に国際社会の仲間入りを積極的に果たすと云う任務をバランス良く遂行したいからです。」

 これは尹大統領が04/24〜29に米国を訪問する予定だと云う文脈の中で理解する必要が有る。バイデン米大統領は恐らくそこでキエフへの軍事支援への参加を要求する筈だ。

 これに先立ち02/13に、NATOのストルテンベルグ事務総長は、NATOはクライナでロシアと所謂「兵站競争(消耗戦)」を行っていることを宣言し、助けが無ければなければ勝利するのは難しいだろうと白状している。



 ここで少し状況をお浚いしておくと、軍事的にはNATOがキエフを幾ら武装させようと、ロシア軍に勝てる見込みは先ず無い。キエフ軍の勝利の可能性を信じているのは、大本営報道を疑うことを知らない人達だけだろう。ロシアは最新鋭の兵器と訓練された人員を十分に持っているが、キエフ軍は2014年以降NATOによって大幅にテコ入れされたとは云え、兵器も人員も、そして予算も、ロシア軍には遠く及ばない。西洋のマスコミはロシア軍が今にも負けそうなことを度々言っているが、これは戦場では愈々行き詰まって来ているので、情報戦争でその分をカヴァーしようとしているだけだ。他方、ロシア軍は被害を最小限にする為に最初から長期戦の構えで、別に焦ってはいない(民間人の被害は心配だろうが)。ウクライナ全土を焦土にしたいなら最初からそうしている。ロシア軍にはその能力は有る(クリミアのケルチ橋爆破事件の後のミサイル攻撃に際し、キエフ軍が手も足も出なかったことを思い出そう。あの程度のことは最初からやろうと思えば何時でも出来ただろうが、やっていない。NATOの侵略戦争と比べてみれば、ロシア軍が如何に抑制的に振舞っているかは一目瞭然だ)。ロシア軍が力押しでキエフを一気に壊滅させないのは、ロシア軍が弱いからではなく、ロシア軍が強いからだ。

 戦争の終結をロシアに要求する人は完全にピントがずれている。ロシアは一貫して対立や緊張を望んで来なかった。NATOの東方拡大問題に関してはプーチンは2000年以降、ドンバス戦争に関しては2014年以降、一貫して外交交渉による平和的な解決を望んで来た。核軍縮に向けた努力もしたし警告もした。それら全てを、米国とNATO諸国は黙殺するか裏切するかした。ロシアのNATO加盟の申し出をクリントンは相手にしなかったし、ミンスク合意に至ってはポロシェンコ、メルケル、オランド、ゼレンスキーが揃いも揃って、キエフを武装させる時間稼ぎでしかなかったことを公然と認めている。そしてロシアに対して狂った様に軍事的挑発を続けて来たが、ロシアは辛抱強く対話の努力を続けた。ロシアがようやっと重い腰を上げてドンバスへの軍事介入を開始(2022/02/24)したのだって、キエフ軍がドンバスへの砲撃を再び激化させ(02/16)、ゼレンスキーが核保有の可能性をちらつかせ(02/19)た後になってからに過ぎない。ロシアは特別軍事作戦の開始直前まで外交的解決に向けた努力をしたが、NATOは全く相手にしなかった。ドンバスのジェノサイドを止めさせ、キューバ危機以上の核衝突危機の到来を防ぐには、軍事介入以外の方法は残されていなかった。第三次世界大戦を防ぎロシアの独立と主権を守る為には、実力行使によってドンバス戦争を終わらせ、キエフのナチを排除するしか無かったのだ。

 ロシア軍はNATOの様に民間人を狙った無差別爆撃等で時間を無駄にすること無く、精確に軍事目標のみを狙って攻撃したので、勝負は僅か1ヶ月で決まった。3月の時点でキエフ軍は略壊滅した(ロシア国防省ウクライナ大統領府の双方がこの事実を認めている)ので、キエフにはロシアとの交渉に応じる以外に選択肢は残されていなかった。だが、イスラエルの仲介で進められていたロシアとキエフとの停戦交渉を、NATOはまたしても妨害した。ロシアは停戦に応じるつもりで、その為の譲歩もする気だった。だがNATOは軍事支援を拡大させて、停戦を許さなかった。つまり2022年4月以降の戦闘は、実質的には既にキエフ軍対ロシア軍ではなく、NATO軍対ロシア軍なのだ。ロシア側にしてみればこれは完全に自衛の為の戦争なので、被害が出たからもう止めろと言われてハイそうですかと止められる訳が無い(それについてTVの前でNATOのプロパガンダを鵜呑みにしている西洋諸国の人々がどう思うかはこの際どうでも良い。現実の戦場で命懸けで同胞を守ろうと血を流しているのはロシア人であって、彼等がどう思っているかこそがこの状況では意味を持つ)。戦争を続けさせているのはロシアではない、NATOだ。ウクライナ人はNATOがロシアを侵略する為の捨て駒にされている。



 元の話題に戻って、NATOは早急に軍事支援を必要としている訳だが、米軍が朝鮮半島征服の為に作った傀儡国家、ROKには、何時でもDPRKに対する侵略を再開出来るよう、膨大な軍事備蓄が用意されているので、ワシントンがソウルを当てにするのは理に適っている。DPRKは他国を侵略したことなど一度も無いが、ROKは朝鮮半島を征服しようとして朝鮮戦争を開始した件を除いたとしても、ヴェトナム、アフガニスタン、イラクと、既に米軍による3つの大規模な侵略戦争に加担して多数の死傷者も出している(ROKと同じく米帝の属国である日本はこれらの戦争に直接軍事支援を送った訳ではないが、世界最悪の侵略軍である米軍に侵略の拠点と資金援助を提供し続けている)。ソウルは今回もワシントンの意向に唯々諾々と従うのだろうか?

 最近リークされたペンタゴンの文書は、ROKの当局者がこの件について意見が分かれていることを示している。だが、何かしない訳には行かない。ROKには次の2つの選択肢が提示されている。
 1)ロシアがDPRKを武装させるリスクを冒して、米国の意向に従ってウクライナを直接武装させる。
 2)ワシントンからの支持を失うリスクを冒して、キエフへの軍事援助を拒否する。

 ROKの国益に沿った選択肢は2)の方だ。「国際社会の仲間入り」とやらを果たす為に、軍事的緊張を自国にまで飛び火させるリスクを負う必要が有るだろうか? だが尹大統領は米国の強い圧力の下で「妥協」に到達しようとする可能性が有る。

 ポーランドのモラヴィエツキ首相は2023/04/12、バイデンがソウルを説得して、ROKがポーランド経由で砲弾をキエフに輸送すると云う案を提案している。

 実は2022/08/27のロイターの報道では、この時既にROKの2社はポーランドとROK史上最大の武器取引を成立させ、戦車と榴弾砲の輸出について57億6,000万ドルの契約を交わしている。ワンクッション置くことでキエフを武装させる動きに、ソウルは既に加担しているのだ。

 この件は2023/03/08のロイターの報道でも確認されている。ソウルは昨年、ポーランドがROKの部品で作られたクラブ榴弾砲をキエフに提供する輸出許可を承認した。つまり間接的にキエフに兵器部品を提供することを公式に黙認したのだ。

 現状では戦略的に重要なのは榴弾砲よりもROKに備蓄された膨大な砲弾の輸出だが、前例が既に有るとしても、これをポーランド経由でキエフに輸出するには、関連するライセンスを事前に承認する必要が有る。これについてはバイデンとの会談で議論される可能性が高い。その場合、ロシアの反発は必至だ。

 繰り返すが幾らキエフにドーピングを続けたところで、軍事的にはロシア軍には勝利出来ない。消耗戦が長引いて犠牲が増えるだけで、無論一般のウクライナ人には全く何の益も無い。ワシントンはソウルにこちらの選択肢を取るよう要求するだろう。
 
 だがソウルがこの計画を拒否すれば、無益な争いはそれだけ長続きしなくなる。そしてそれは時間の経過と共に、停戦に向けた条件を作り出す可能性が有る。この意味で、尹大統領の決断はウクライナでのゲームチェンジャーに成り得る。そしてこの決定が為された場合、それはROK自身の戦略的自立性を印象付けることになるだろう。

東アフリカ共同体の急速な拡大には長所と短所が伴う(要点と補足)

東アフリカ共同体の急速な拡大について、アンドリュー・コリブコ氏の分析の要点と補足。
The East African Community’s Rapid Expansion Carries With It Pros & Cons



 ・東アフリカ共同体(East African Community/EAC)は1967年に設立され、10年後に一度崩壊した。
 ・2000年、EACはケニア、タンザニア、ウガンダを創設メンバーとして再開した。
 ・2023年時点で、EACメンバーはブルンジ、ケニア、ルワンダ、南スーダン、タンザニア、ウガンダの6ヵ国だったが、2023/03/29にコンゴ民主共和国(DRC)が新たにこれに加わって7ヵ国になった。今後これにソマリアとエチオピアが追加される見通しで、事務総長は「世界で最も統合された地域経済ブロック」になるだろうとの楽観的な見通しを語っている。

 EACは急速に拡大を続け、一地域の連帯から汎アフリカ主義へ近付いている為、最早ブランド変更を必要としている。またこれは2019年のアフリカ大陸自由貿易地域(African Continental Free Trade Area/AfCFTA)の創設と相俟って、より多くの外国投資を引き付ける可能性が有る。

 これらは一見結構な展開の様に見えるが、加盟諸国の利害は一致している訳ではない。特に1996年以降「アフリカの世界大戦」に苦しめられて来たDRCの状況は剣呑で、ルワンダは再び、資源が豊富なDRC東部に(フランスから密かに支援を受けて)侵入したとして非難を浴びており、事態のエスカレーションが懸念される。また南スーダンの安定は当てに出来ないので、少なくとも南スーダンとDRCの加盟は時期尚早だったと言える。ソマリアについては言うまでも無い。

 加盟諸国同士での経済的、政治的、安全保障上の意味での包括的な統合が実現されていなければ、善意の努力が実を結ぶのは難しい。拡大が悪いと云う訳ではないが、確たる基盤が形成されない内に規模を拡大してしまうと、麻痺や崩壊、逆転の危険性が有る。

 DRCがルワンダを、テロ組織M23を密かに支援して侵略を行っていると非難している現状を考えると、DRCでの東アフリカ共同体地域軍(East Africa Community Regional Force/EACRF)でのミッションが継続されたことは、EACの多国間安全保障協力の見通しの試験になるだろう。成功するかどうかは不確実だが、若し成功すれば、より緊密な安全保障統合が促進され、南スーダンやソマリアでも同じ手法が採用される可能性が有る。

 逆に、DRCでのミッションが失敗し、DRCとルワンダとの関係が悪化すれば、EACメンバーは両国のどちらかの側に立つことを余儀無くされるかも知れない。そうなるとEAC自体が分裂するか、ルワンダ以外のメンバーが団結してルワンダが孤立する、と云う展開になるかも知れない。どちらの展開も、EACの目的にとっては望ましくない。

 またエチオピアの加盟はメンバー同士の関係を完全に変えてしまう可能性が有る。情勢不安が続く人口1億のDRCが加盟することと、内戦を終結させて安定した人口1億2,000万のエチオピアが加盟することは全く別の話だ。他方、南スーダンはその1/10の人口しか持たない。

 地域協力の理想は素晴らしいが、基盤が出来ていないのに急拡大してしまうと、崩壊するリスクも大きくなる。

サダム・フセイン

ドナルド・トランプ、2015年の発言。イラクのフセインやリビアのカダフィは「ナイス・ガイ」ではなかったが、彼等を倒してどうなった? 人権状況は遙かに悪化し、両国は国として消滅し、今やテロリストの温床だ。ヒラリーやオバマはシリアでISISと言われている何処の馬の骨とも分からない連中を支援して今まだアサドを倒そうとしているが、そんなことをするより自国を立て直すことに集中すべきだ。———こう云う点は非常にまともで、この点が支持されるのは不思議なことではない。そしてだからこそトランプは主流のメディアからは罵倒されることになる。
Donald Trump: World better with Hussein, Gadhafi in power (2015)


米軍がイラクイラクに侵攻した際、TVカメラの前でフセインの彫像を引き摺り倒すと云うやらせの茶番劇に参加した男性の証言。彼は自分の家族を14〜15人もフセインに殺されたので、彼の圧政が無くなった時には歓迎した。だがその後状況は悪化する一方で、今やイラクには1,000人ものフセインが居る。彼は自分の国がブッシュやブレアの様な嘘吐きによって盗まれたと感じている。米軍はイラクを解放したのではない、イラクを破壊したのだ。
“I toppled Saddam’s statue – now I want him back" BBC News


★1998年にフセイン政権打倒計画を立てていた元CIA職員、デューイ・クラリッジの有難い御言葉。
「アメリカの意思を海外に於て実行するのはアメリカの義務だ」

サダム・フセインは曾てのスポンサーであるアメリカ帝国による見世物裁判に最後まで抵抗した。彼の遺体や墓が最終的にどうなったのかについては不明な点が多い。
The ROUGH Execution Of Saddam Hussein - The 5th President Of Iraq


2003年当時「イラクの大量破壊兵器」の嘘を流した御用記者のジュディス・ミラーは2016年の時点になっても「あれは意図的な嘘ではなく誤った情報に基付く間違いだった。ブッシュは悪くない」と云う厚顔無恥な主張を繰り返している。この種の悍ましい悪党連中を刑務所に送る法律や司法制度は「ルールに基付く秩序」に於ては存在しないので、そんなものは一刻も早く無くなってくれる方が世界平和の為になるだろう。
Did Bush Lie About Iraq?

The War On Democracy

イラク戦争が嘘に基付いて始められた戦争であることは(今だに騙されている極く少数を除いて)誰でも知っているが、米帝が湾岸地域の軍事的支配を得る為に言うことを聞かなくなったサダム・フセインを排除する予定は、G.W.ブッシュが大統領になる2001年1月以前、2000年9月の時点で、ネオコンのシンクタンク「新たなるアメリカの世紀計画(PNAC)」が書いた「アメリカ防衛の再構築:新たなる世紀に向けた戦略、武力、資源」と云う文書で既に述べられていた。これは『サンデーヘラルド』誌が2002/09/15に明らかにしたもので、作成したのはディック・チェイニー(当時の副大統領)、ドナルド・ラムズフェルド(国防長官)、ポール・ウォルフォウィッツ(国防副長官)、ジェブ・ブッシュ(ジョージ・Wの弟)、ルイス・リビー(チェイニー副大統領首席補佐官)。フセインを排除することは9.11どころかブッシュが大統領になる以前からの既定路線だった。
Bush planned Iraq 'regime change' before becoming President

サダム・フセインを排除すると云う方針は、9.11の後になって決まった訳ではない。1998年の時点で、ネオコンのシンクタンク、「新たなるアメリカの世紀の為のプロジェクト(Project for the New American Century/PNAC)」はフセインを排除することを要求していたが、このPNACのメンバーは後のブッシュJr.政権の面子と丸被りだ。ブッシュJr.が大統領に就任する3年も前から、フセイン排除の方針は決まっていた。後はその為の口実と手段と機会を見付けるだけだ。2001年の9.11の真相がどうであれ、PNACの面々は自らの戦略的野心を満たす為にその機会を最大限使用した。米軍は「間違えて」イラクを侵攻した訳ではない。第二次イラク戦争の口実は「フセインは9.11の黒幕」→「フセインは大量破壊兵器を持っている」→「フセインは独裁者」とコロコロ変わって行ったが、これらは全て後付けに過ぎない。
Were 1998 Memos a Blueprint for War?


CIAはフセインを戦争に引き摺り込む為の陰謀を練っていた。作戦名は「アナバシス」。2001年末に始まって2002年2月にブッシュ大統領によって承認され、4月にはCIAのエージェント達が現地入りした。CIAは2002年夏にリクルートした80人の元イラク兵を米国に飛ばし、ラスベガスの北西の核実験場で訓練を施した。予定では、彼等はサウジ国境近くのイラク空軍基地を占拠し、サダムに対する反乱に参加するようイラク軍部隊に呼び掛けることになっていた。その目的は、フセインが反撃して飛行禁止区域に違反することによって、米英が軍事介入する口実を作ることだ。2003年1月、戦闘員達はヨルダンに飛ばされてゴーサインを待っていたが、この計画は最終的に、2003年3月に侵攻を主導したトミー・フランクス将軍によって却下された。詳細は以下の本にて。
Book says CIA tried to provoke Saddam to war


米国が支援したイラン-イラク戦争(1980〜88年)末期に行われたイラク軍による化学兵器使用には、CIAの関与が疑われているが、この件は何故かフセイン裁判では全く審理されず、フセインはさっさと処刑されてしまって証言すら得ることが出来なくなった。毎度の話ではあるが、アメリカ帝国が直接間接に責任を負っている戦争犯罪は単に黙殺されるか、問題無いことにされるのだ。
CIA files prove America helped Saddam as he gassed Iran

★イラクの元大統領サダム・フセイン他7人の被告が裁かれた2005〜06年の「デュジャイル裁判」についての評価。
デュジャイル裁判は公平だったか?(要点)

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、フセインが裁かれたドゥジャイル裁判について、「根本的に欠陥が」有り、死刑判決を覆されるべきだとする報告書を出しており、主な欠陥として以下を挙げている:
 ・無罪の証拠を含む重要な証拠を弁護側に事前に開示することを定期的に怠る。
 ・証人と対決する被告の基本的な公正な裁判の権利の侵害。
 ・裁判長の明らかな公平性を損なう司法上の態度の過ち。
 ・訴追事件の説得力を弱め、起訴された犯罪の全ての要素が立証されたかどうかに疑問を投げ掛ける証拠上の重要なギャップ。
Iraq: Dujail Trial Fundamentally Flawed

★問題視されたアブドゥラ・アル=アミリ判事とフセインとの遣り取り。
判事はフセインに言った、「あなたは独裁者ではありません。」(抜粋)

イラク報道官に拠ると彼が、フセイン裁判を担当していたアブドゥラ・アル=アミリ判事の解任は、彼が「中立性を失った」為であり、彼の解任は「首相の内閣による決定でした」と、司法への政府の介入を公然と認めている。主任検察官は、被告(フセイン)が証人を脅したり、政治的演説をしたりする余地が与えられ過ぎたと述べ、判事の辞任を求めたが、アミリ判事は、自分のアプローチは公正さと25年の経験に基付いていると述べ、要求を拒否した。
Judge replaced in Saddam's trial

フセイン裁判を担当していたアブドゥラ・アル=アミリ判事は、フセインを「独裁者ではない」と発言したが、それについてシーア派とクルド人の当局者から、彼がフセインに対して「甘過ぎる」との批判が寄せられた。その翌週、アミリ判事はイラクのマリキ首相の要請を受けて解任されたが、その理由のひとつはこの発言だった。マリキの補佐官は「判事が自分の意見を表明することは許されません」とコメントした。
Chief Saddam trial judge pulled from case

★アブドゥラ・アル=アミリ判事が解任される原因となった法廷での遣り取りの抜粋。
判事はフセインに言った、「あなたは独裁者ではありません。」(抜粋)

サダム・フセインの裁判は、審理すべき事柄がまだまだ山積みしていたにも関わらず、何故か途中で打ち切られて、早々に死刑判決が出された(2006/11/05)。ところがこれは偶然にも、米国の中間戦選挙(2006/11/07)の直前だった。当時支持率が落ち込んでいたブッシュ大統領と共和党は当然この判決を歓迎し、民主党の指導者達も、ブッシュが選挙に合わせて判決のタイミングを調整したと公に非難することはせず、個人的に何人かが疑問を呈すに留まった。一部ではこの判決が共和党の最後の72時間の追い上げに繋がるのではと見る向きも有ったが、最終的には共和党の人気失墜は止められなかった。
Bush Applauds Hussein Verdict On the Campaign Trail, Both Parties Hail Court's Decision
Saddam and the midterm countdown

サダム・フセインの裁判では異常と言える程頻繁な人事交代が起こった。辞職した3人目の判事、ムントゥール・ハディ(Munthur Hadi)氏の辞職の理由は、当時の他の職員達は体調不良の為だと考えていた。だが当時イラク高等法廷を設立し、資金を提供し、助言を行っていた政権犯罪連絡事務所に勤務していたウィリアム・H・ワイリー弁護士の証言に拠ると、「法廷の他のメンバー(恐らく他の判事)」は当時のマリキ首相の事務所に、ハディ判事は「比較的穏健(soft)」であり、恐らく8名の被告の死刑判決には反対するだろうと報告していた。別の証言に拠ると、マリキの事務所の職員はハディ判事に対して、法廷での仕事と年金を失うことになる、家族と一緒に強制退去させると脅迫した。当時米軍が保護する要塞化した「グリーン・ゾーン」の外へ、フセイン裁判に関与した者が放り出されることは、死刑宣告に等しかった。ハディ判事の辞任後は、死刑判決を支持する強硬派の判事が穴を埋めた。早急に死刑判決を出すと云う政権の意向によって審理プロセスが歪められたのだ。因みに別の判事、アリ・アル=カハジ(Ali al-Kahaji)は9ヶ月の審理中、証言を全く聞いていなかった。
Saddam Sentenced to Death by Judge Who Didn’t Hear the Evidence

コンゴに平和を齎すのは軍事力ではなく、不処罰を終わらせることだ(要点)

コンゴの現状について、コンゴ研究センターのカンバレ・ムサブリ氏のインタビューから、後半部分の要点を纏めてみた。
It’s not military force but an end to impunity that can bring peace to the Congo




 植民地勢力によって恣意的に分断されたアフリカ大陸に於ては、他国への軍事介入は侵略ではなく解放の為であることが有る。だが1996年以降コンゴ民主共和国を侵略しているルワンダのポール・カガメ大統領はそうではない。コンゴや自由で解放されたアフリカの為に戦っているなら、その人は汎アフリカ主義へ向かう筈だ。だがカガメはアフリカ分割を唱えている。それはこれは国を弱体化させるだけで、アフリカの人々の為ではない、ルワンダのエリート層と西洋のエージェント、特にロンドン、パリ、ワシントン DCの利益の為なのだ。

 西洋諸国はカガメに圧力を掛けると同時に支援している。その時々の状況に応じて調整する必要が有るのだ。2023年初頭時点での各国の動向は以下の通り:
 
 ・ブリンケン米国務長官は、ルワンダ政府に政治囚を解放し、コンゴの反政府勢力(テロ組織M23)への支援を停止するよう圧力を掛けた。だが米国はそう言いつつも引き続きルワンダ軍を支援し、軍事援助を提供している。

 ・国連は、M23は暗視ゴーグルやより射程の長いミサイル等の高度な武器を持っていると報告しているが、グテレス事務総長は、M23は洗練された兵器を持っている為、国連軍には彼等と戦う能力は無いと発言した。国連は声明を出すことしか出来ない。

 ・英国は、ルワンダがコンゴの反乱グループを支援するのを止めるべきだと云う声明を出した。これも言葉だけ。それ以上の行動は伴っていない。

 ・フランスもまたルワンダに対し、M23への支援を終了するよう要請した。だがEUは2023年初め、モザンビークでの作戦の為の軍事支援として2,000万ユーロをルワンダに提供した。そしてモザンビークでは、ルワンダはフランスの石油会社 Total の利益を守っており、実際にはこの国の人々を助けている訳ではない。



 2012年に国際的な圧力がルワンダに掛けられ、軍事支援が中止された時、M23は姿を消した。10年後にM23が大きな支援を受けて戻って来た時、同様の圧力は掛けられなかった。

 東アフリカ共同体(EAC)はM23を阻止する戦略を打ち出しているが、テロ組織を支援しているルワンダとウガンダもまたEACのメンバーである為、この解決策は上手く行くことは無い。

 コンゴに於けるM23のテロリズムを止めたいなら、必要なのは更なる軍事力ではなく法の裁きだ。テロ組織の背後に誰が居るのかは誰もが知っている。長年続いて来た不処罰の慣行を改め、犯罪者には責任を負わせると云う正義を実現しなければ、争いは続く。

スーダンの「ディープステート」戦争は、長引けば広範囲に地政学的な影響を与える可能性が有る(要点)

スーダンの紛争を巡る地政学的状況についてのアンドリュー・コリブコ氏の分析の要点。
Sudan’s “Deep State” War Could Have Far-Reaching Geostrategic Consequences If It Continues



 
 2023年4月中旬、スーダン国軍(Sudanese Armed Forces/SAF)と迅速支援部隊(Rapid Support Forces/RSF)との間で武力衝突が勃発した。この紛争は現時点では軍事派閥同士の間のものなので、南スーダンの独立を齎した内戦の様なものではなく、スーダン内部での「ディープステート」戦争だと見做すことが出来る。
 
 2019年のスーダン軍のクーデターによってオマール・アル=バシール大統領が追放されて以来、民主主義への移行は遅れており、この「ディープステート」戦争は避けられなかった。SAFはアブドゥル・ファッタハ・アル=ブルハーン最高司令官が、RSFはモハメド・ハムダン・ダガロ将軍(通称ヘメディ Hemedti)がそれぞれ率いており、両者はそれぞれ暫定主権評議会の大統領と副議長を務めている。

 そもそもの予定では、2023/04/11に民政への移行が発表されることになっていたが、そうはならなかった。恐らく両当事者が「民主主義を守る」と云う名目で他陣営を「民主主義の敵」として排除しようとしたのだ。

 現状では不確実な情報が多いので、「戦争の霧」が晴れるまでは、何が起こっているのかを見極めるのかは困難だが、取り敢えず押さえておくべきなのは、軍内にふたつの競合する権力の中心地が出現出来たことは、軍が何年にも亘って深く分裂して来たことを示している点だ。

 戦争がどれだけ続くかにもよるが、長引けば周辺地域に分離勢力が出現して、スーダンの領土一体性を脅かす可能性が有る。そうなればスーダンはユーゴスラヴィアの様に分割されることになるかも知れない。アル=バシール前大統領は2017年にロシアに対して、「米国はスーダンを5つの国に分割したがっている」と警告し、支援を要請した。



 このシナリオはまだ現実のものとはなってはいないが、派閥戦争が長引けば、外国が介入する可能性も高くなる。具体的には、エジプトがブルハーンを支援し、UAE(アラブ首長国連邦)がヘメディを支援する可能性が有る。両国の大統領はカイロで会談したばかりだが、紛争が長引けば両者はそれぞれのパートナーを支援し、互いに対して優位に立とうとするだろう。

 既にRSFは04/15に、スーダンでエジプト兵を捕えたと発表している。エジプトの方ではこれは合同訓練の為だったと主張したが、そもそもRSFが発表するまで、エジプト兵がスーダン居たことは誰も知らなかった。そしてSNSでは、エジプトのAFミグ29戦闘機がマラウィ空軍基地でRSFによって押収された画像が出回っている。

 スーダン、エジプト、そしてエチオピアは、グランド・エチオピア・ルネッサンス・ダム(GERD)を巡って何年も論争を繰り広げて来ている。エジプトは、ダムを満たせば下流の水が干上がると主張しているが、それを防ぐ為にエチオピアに対して「先制攻撃」を計画しているのではないかと云う懸念が何年も前から有る。現在の展開は、その話の信憑性を高めている。
 
 またスーダンとエチオピアはアル=ファシャガ地域を巡って論争を繰り広げて来ているが、2022年6月には軍事衝突に発展している。ハルツーム(スーダンの首都)が余りにも分断されていて脆弱であると感じた場合、エチオピアがその空白を埋める為に軍事介入を行う可能性も考えられる。

 米国、エジプト、UAE、エチオピアに続く第5の外国当事者として、ロシアが挙げられる。2017年にアル=バシール前大統領がモスクワを訪問して以来、モスクワは両方の軍事派閥と非常に親密な関係を築いている。ロシアは近々スーダン港に海軍基地を開設する予定であり、両国は鉱業と安全保障で協力していると報道されている。ロシアは戦略的結び付きが維持出来れば、どちらの派閥が勝とうと気にしないが、ロシアはスーダンを通れば、隣の中央アフリカ共和国(CAR)へのアクセスがより容易になる点が重要だ。CARの治安回復に関して、モスクワは軍事会社ワグナーの助けを借りて支援している。

 ロシアはアフリカ諸国では非常に人気が高いが、その理由は単純で、ロシアはアフリカ諸国に民主的安全保障を提供し、彼等が新植民地主義と構造的人種差別の鎖から自国を解放する為の戦いを支援しているからだ。ロシアはアフリカ諸国が主権を強化するのを助け、多極的世界観を広めることで支持を得ている。だがスーダンの戦争がCARまで波及すれば、それはアフリカ大陸に於けるロシアの民主的安全保障政策の最初の失敗事例になるかも知れない。

 これらの状況尾を踏まえると、現在の軍事衝突が長引いて内戦にまで発展した場合、非常に広範囲な影響を齎す可能性が有る。アフリカ大陸は新冷戦の新たな重要な戦場となり、制御不能なプロセスによって大陸全体が不安定化するかも知れない。
プロフィール

川流桃桜

Author:川流桃桜
一介の反帝国主義者。
2022年3月に検閲を受けてTwitterとFBのアカウントを停止された為、それ以降は情報発信の拠点をブログに変更。基本はテーマ毎のオープンスレッド形式。検閲によって検索ではヒットし難くなっているので、気に入った記事や発言が有れば拡散して頂けると助かります。
全体像が知りたい場合は「カテゴリ」の「テーマ別スレッド一覧」を参照。

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