国際組織のグローバルな嘘は帝国秩序に奉仕する
Wilfried Huismann著、PandaLeaks: The Dark Side of the WWF のレビュー。
私が読んだのは英語版だが、日本語訳も存在する様だ。
国際組織に対する日本人の信頼は無根拠に高い。「国際なんたら」と云う「権威」有る名前を聞かされただけで、多くの日本人はそれが個々の国家の利害関係からは超越した中立公平な理想追求機関であって、建前がその儘無条件で生きており、無垢な状態が保たれていると、何となく思い込んでいる。
だが2020年代の国連組織の主な事例だけを見ても、例えばビル・ゲイツから最大の資金提供を受けている世界保健機関(WHO)が2020年以降ワクチン・マフィアの走狗と化して、誇大宣伝された仮想ウィルスの脅威を大義名分にしてロックダウンや遺伝子「ワクチン」等の似非科学を推奨して来たことは、自分の頭で考えて自力で情報を集めることの出来る人間ならば誰でも知っている。国際通貨基金(IMF)や世界銀行は、COVID-19パンデミック詐欺や対ロシア制裁の機に乗じて債務の罠を拡大している。世界気象機関(WMO)の気候変動政府間パネル(IPCC)は相変わらず胡散臭い「予測モデル」で気候変動の恐怖を煽っているし、化学兵器禁止機関(OPCW)は「シリア政府による化学兵器攻撃」が捏造であることを告発した内部告発者を弾圧し、隠蔽と偽情報工作を続けている。世界食糧計画(WFP)や国連安保理は、その殆どがテロリストの手に渡ることを(つまり実質的にはテロ支援になることを)知りながら、シリアに対する支援を合法的なシリア政府を通さずに続けているし、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)はシリアの「難民支援」に、難民がレバノン国内に留まると云う条件を付けることで難民危機を悪化させている。国際原子力機関(IAEA)はウクライナのザポリージャ原発に対して攻撃を行っているのが本当は誰なのか、現地調査を行った後に特定することを拒否したし、国際刑事裁判所(ICC)は人道的な意味合いの強いウクライナの子供達に対するロシアの教育や保護プログラムを、寧ろ人道犯罪だと主張してプーチン大統領に対して逮捕状を発行した。国連人口基金(UNFPA)の支援の下で30万人以上の先住民に対して強制不妊措置を施したペルーのアルベルト・フジモリ大統領は健康上の理由から恩赦を受け、被害者達の闘いは継続している。
こうした事例の報道は関心を持っていて自分で能動的に情報収集している人なら、今はインターネットと云う便利なツールが有るので昔よりも比較的容易にアクセスすることが出来るのだが、最早大政翼賛化して巨大なプロパガンダ・マシンとして機能している西洋の大手メディアに情報を依存していて、TVや新聞が殆ど、或いは全く報じようとしない世界情勢には関心の無い人や、そうした情報にアクセスする能力の無い人にとっては、そうした事例は起きていないのも同然なのだ。「国際」を名乗る組織が多くの場合私物化されていてその権威を悪用している事実は、殆どが知られない儘になっている。西洋大手メディアの言う「国際社会」とは、自由民主主義陣営を自称する西洋の所謂「ゴールデン・ビリオン」のことであって、人口比で言えば地球の全人口の僅か13%に過ぎず、ウクライナでNATOとロシアの代理戦争が新たな段階に入ったことによって、多極化へ向かう本物の「国際社会」からは寧ろ孤立を深めつつあるのだが、西洋大手メディアを通じてしか国際情勢を知らない人々にとっては、「国際社会」から孤立しているのはロシアの方と映っている(些か意外なことに、元イタリア首相のベルルスコーニがこれについて実に適切な発言を行っている。「ロシアは西洋から孤立したが、西洋は全世界から孤立した。」)。それと同じで、被害者達からしてみれば余りにも明らかなことについて、西洋人の多くが殆ど、或いは全く知らないと云う状況は、メディアの寡占と軍や諜報部との一体化によって、更に悪化している。諸々の国際組織の改革を求める声は、一般大衆の耳には殆ど届いていないのが現状だ。
世界自然保護基金(WWF)は、国際組織の中でも特に一般受けが良い組織だ。野生動物を守ったり、持続可能な環境作りを行ったりする等の実に立派な理念について反対しようとする人が居るだろうか? まさかそうした理念のイメージが悪用され、実際にはそれとは全く真逆のことが組織的に行われている、などと云う話を聞いて、直ぐに信じられる人が居るだろうか? まさかジブリの映画に協賛する様な組織が意図的に地球にとって悪いことに手を染めるなど、殆どの人には想像も出来ないのではないだろうか。だが巨大な利権が絡んでいる時に、「専門家」や「科学者」や「活動家」の言うことを鵜呑みにしてはいけない。
本書ではWWFに対する世間一般の思い込みが豊富な事例紹介を通じて徹底的に覆されている。野生動物保護を謳った自然保護区やエコ・ツーリズムが実際には野生動物の生態を脅かし自然を破壊していたり、「持続可能」なるお墨付きを与えられた事業の中身が、モノカルチャー的で産業化された大規模農業・漁業・伐採業・採掘業であったりと、環境を破壊し生物多様性を失わせると誰にでも理解出来る様なことが、WWFの人畜無害なパンダのイメージによって「グリーンウォッシュ」されている実態が、こと細かに暴かれている。WWFの人権侵害や環境破壊や不正行為は先ずまともに報道されることが無い為、殆どの話題は多くの人にとって全くの初耳だろうが、自然保護を謳う高名な国際組織が腐敗した大企業や金融業界と癒着していることの危険性は、実際にはちっとも「持続可能」などではない偽装した新自由主義である「SDGs」プロパガンダが既に日常生活にまで広く浸透して来ている現在、強調し過ぎることは無い(特に旧来の左派は科学や普遍的価値を装った詐欺に引っ掛かり易いので、自戒と勉強が必要だ)。
多くの人はWWFの不正や人権侵害の事実を知っても、「大きな組織だからそりゃあ中には腐って悪いことをする人も居るかも知れないが、組織そのものは崇高な理念を追求している」と思うかも知れない。WWFは公式サイトで本書とそれに関連するドキュメンタリーに対し反論を加え、非難された内容を全否定しているが、そちらの方を信じる人も多いかも知れない。無論、WWFで働く大多数の人は掲げられた建前を心から信じているのかも知れないし、WWFの職員が全員嘘吐きだなどとは私も主張しない。だがトップに於けるカネやヒトの流れを見る限り、「WWFは純粋無垢の理想追求組織である」と云う信念には疑問を挟むべき根拠が数多く存在するし、WWFを批判する草の根の声を探して聞いてみれば、その活動の実態が如何に悪辣で差別的なものであるかが見えて来る。
本書では少ししか触れられていないが、WWFの創設者や指導者が、似非科学である優生学を信奉していたり、元ナチスだったり、秘密結社的性格を持つグローバル・パワーエリート向けの組織「1001クラブ(そのメンバーはJFKの暗殺に関与していたことが指摘されている)」や「ビルダーバーグ会議」に関与していると云う事実は、どう解釈すれば良いのだろう? 自然保護主義を心から信奉する人々が、偶々似非科学や差別的な帝国主義の信奉者でもあった、と云うことなのだろうか? そんな偶然は私には信じられない。
解り易い或る人物を挙げて説明しよう。米国の歴史上、自然保護区、つまり国立公園や国定記念物や国有林等の推進に最も熱心だったのは、セオドア・ルーズヴェルト大統領だ。彼はまた同時に自他共に認める帝国主義者であり、恥知らずな人種差別主義者であり、そして大の狩猟好きで知られていた。これらは互いに関連している。ルーズヴェルトは自然保護に熱心だったが、他方で偶々帝国主義者で人種差別主義者でハンターでもあった、と云う訳ではない。帝国主義者で人種差別主義者でハンターだったからこそ、彼は自然保護に熱心だったのだ。自然保護区の多くは、アメリカ先住民にとっての生活や信仰の場だった。アメリカ帝国はその版図拡張の過程に於て、アメリカ先住民を殆ど絶滅にまで追い遣り、生き残った人々からも土地を騙して奪い取ったり強制的に居留地へ移住させたりしたのだが、土地強奪の為の更なる口実として「自然保護」が持ち出されたのだ。21世紀の今でも彼の名を冠した「セオドア・ルーズヴェルト自然保護パートナーシップ」なる組織が活動しているが、公式サイトを見れば分かる様に、その組織の目的はハンターや釣り人が十分に楽しめる様な自然環境整備を行い、「アウトドア・レクリエーション経済」への投資を促進することだ。そのターゲットは明らかに富裕な白人層だ。
歴史を振り返れば、植民地時代のインドやアフリカ、ラテンアメリカ諸国等でも同様の事例を見ることが出来る。「自然保護」とは元々、先住民から土地を奪って白人が独占し排他的に利用する為の口実として持ち出された理念なのだ。そして本書や他の関連報道を見る限り、この偽善は21世紀の今でも厳然と続けられている。
WWFが代弁している「自然保護」主義者達の主張に拠れば、人間は自然界にとって邪魔者なのだそうだ。人間が居ない方が自然は上手く機能する。だから自然を「保護」したければ、そこから人間を追い出すか、人口を減らさなければならない、と云う訳だ。だが本書でも明らかにされている様に、それは科学的にも道義的にも誤った主張だ。大機な産業開発等を進めれば勿論自然は破壊されるが、何百年、何千年とその環境と共存して来た先住民達のコミュニティにまで同じ様に考えるのは不適切だ。寧ろ人間が適度に手を入れた方が、生物多様性は確保されることが知られている(日本人であれば人の手が入らない山林は直ぐに荒れると云う話を聞いたことが有るかも知れない)。人間は自然とは切り離された、自然を「管理」すべき特権的存在であると云う発想は、それ自体が傲慢な人間中心主義のイデオロギーだ。人間もまた自然の一部と考える観点が無ければ、真に持続可能な地球の未来を考える環境主義とは言えない。西洋の政治家や企業や銀行やNGOが盛んに喧伝している「自然保護」や「持続可能性」は、従って表面に見えているものとは全くの偽物なのだ。
2021年のCOP26(第26回気候変動枠組条約締約国会議)では、地球上の30%を保護区に変える(つまり全世界の3割近くから先住民達を強制退去させる)と云うアジェンダが提出された。だが同時に同会議ではグローバル・サウスの24ヵ国が団結して、北と南の格差を更に広げるものだとして所謂「実質ゼロ」の要求に大反対した。ここ500年間、一方的に搾取され続けて来たグローバル・サウスの発言力は近年益々増大しているし、2022年のロシアの特別軍事作戦開始以降は、世界の多極化が一気に花開いた観が有る。曾ての/現在進行形の被害者達のことを考えるなら、偽物の環境主義や自然保護を本物から区別することは、現代世界を理解する上でこれまで以上に重要になって来ている。今までの様に「被害者はどうせ世界の反対側の全く知らない人達だ。私達の生活には関係無い」と傲慢な無知と無関心の内にひきこもっている訳には行かない。これまで白人や名誉白人の欺瞞の繁栄と覇権を支えて来た巨大な嘘に、少しずつでも良いから広く一般市民が気付いて行かなければならないのだと思う。
私が読んだのは英語版だが、日本語訳も存在する様だ。
国際組織に対する日本人の信頼は無根拠に高い。「国際なんたら」と云う「権威」有る名前を聞かされただけで、多くの日本人はそれが個々の国家の利害関係からは超越した中立公平な理想追求機関であって、建前がその儘無条件で生きており、無垢な状態が保たれていると、何となく思い込んでいる。
だが2020年代の国連組織の主な事例だけを見ても、例えばビル・ゲイツから最大の資金提供を受けている世界保健機関(WHO)が2020年以降ワクチン・マフィアの走狗と化して、誇大宣伝された仮想ウィルスの脅威を大義名分にしてロックダウンや遺伝子「ワクチン」等の似非科学を推奨して来たことは、自分の頭で考えて自力で情報を集めることの出来る人間ならば誰でも知っている。国際通貨基金(IMF)や世界銀行は、COVID-19パンデミック詐欺や対ロシア制裁の機に乗じて債務の罠を拡大している。世界気象機関(WMO)の気候変動政府間パネル(IPCC)は相変わらず胡散臭い「予測モデル」で気候変動の恐怖を煽っているし、化学兵器禁止機関(OPCW)は「シリア政府による化学兵器攻撃」が捏造であることを告発した内部告発者を弾圧し、隠蔽と偽情報工作を続けている。世界食糧計画(WFP)や国連安保理は、その殆どがテロリストの手に渡ることを(つまり実質的にはテロ支援になることを)知りながら、シリアに対する支援を合法的なシリア政府を通さずに続けているし、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)はシリアの「難民支援」に、難民がレバノン国内に留まると云う条件を付けることで難民危機を悪化させている。国際原子力機関(IAEA)はウクライナのザポリージャ原発に対して攻撃を行っているのが本当は誰なのか、現地調査を行った後に特定することを拒否したし、国際刑事裁判所(ICC)は人道的な意味合いの強いウクライナの子供達に対するロシアの教育や保護プログラムを、寧ろ人道犯罪だと主張してプーチン大統領に対して逮捕状を発行した。国連人口基金(UNFPA)の支援の下で30万人以上の先住民に対して強制不妊措置を施したペルーのアルベルト・フジモリ大統領は健康上の理由から恩赦を受け、被害者達の闘いは継続している。
こうした事例の報道は関心を持っていて自分で能動的に情報収集している人なら、今はインターネットと云う便利なツールが有るので昔よりも比較的容易にアクセスすることが出来るのだが、最早大政翼賛化して巨大なプロパガンダ・マシンとして機能している西洋の大手メディアに情報を依存していて、TVや新聞が殆ど、或いは全く報じようとしない世界情勢には関心の無い人や、そうした情報にアクセスする能力の無い人にとっては、そうした事例は起きていないのも同然なのだ。「国際」を名乗る組織が多くの場合私物化されていてその権威を悪用している事実は、殆どが知られない儘になっている。西洋大手メディアの言う「国際社会」とは、自由民主主義陣営を自称する西洋の所謂「ゴールデン・ビリオン」のことであって、人口比で言えば地球の全人口の僅か13%に過ぎず、ウクライナでNATOとロシアの代理戦争が新たな段階に入ったことによって、多極化へ向かう本物の「国際社会」からは寧ろ孤立を深めつつあるのだが、西洋大手メディアを通じてしか国際情勢を知らない人々にとっては、「国際社会」から孤立しているのはロシアの方と映っている(些か意外なことに、元イタリア首相のベルルスコーニがこれについて実に適切な発言を行っている。「ロシアは西洋から孤立したが、西洋は全世界から孤立した。」)。それと同じで、被害者達からしてみれば余りにも明らかなことについて、西洋人の多くが殆ど、或いは全く知らないと云う状況は、メディアの寡占と軍や諜報部との一体化によって、更に悪化している。諸々の国際組織の改革を求める声は、一般大衆の耳には殆ど届いていないのが現状だ。
世界自然保護基金(WWF)は、国際組織の中でも特に一般受けが良い組織だ。野生動物を守ったり、持続可能な環境作りを行ったりする等の実に立派な理念について反対しようとする人が居るだろうか? まさかそうした理念のイメージが悪用され、実際にはそれとは全く真逆のことが組織的に行われている、などと云う話を聞いて、直ぐに信じられる人が居るだろうか? まさかジブリの映画に協賛する様な組織が意図的に地球にとって悪いことに手を染めるなど、殆どの人には想像も出来ないのではないだろうか。だが巨大な利権が絡んでいる時に、「専門家」や「科学者」や「活動家」の言うことを鵜呑みにしてはいけない。
本書ではWWFに対する世間一般の思い込みが豊富な事例紹介を通じて徹底的に覆されている。野生動物保護を謳った自然保護区やエコ・ツーリズムが実際には野生動物の生態を脅かし自然を破壊していたり、「持続可能」なるお墨付きを与えられた事業の中身が、モノカルチャー的で産業化された大規模農業・漁業・伐採業・採掘業であったりと、環境を破壊し生物多様性を失わせると誰にでも理解出来る様なことが、WWFの人畜無害なパンダのイメージによって「グリーンウォッシュ」されている実態が、こと細かに暴かれている。WWFの人権侵害や環境破壊や不正行為は先ずまともに報道されることが無い為、殆どの話題は多くの人にとって全くの初耳だろうが、自然保護を謳う高名な国際組織が腐敗した大企業や金融業界と癒着していることの危険性は、実際にはちっとも「持続可能」などではない偽装した新自由主義である「SDGs」プロパガンダが既に日常生活にまで広く浸透して来ている現在、強調し過ぎることは無い(特に旧来の左派は科学や普遍的価値を装った詐欺に引っ掛かり易いので、自戒と勉強が必要だ)。
多くの人はWWFの不正や人権侵害の事実を知っても、「大きな組織だからそりゃあ中には腐って悪いことをする人も居るかも知れないが、組織そのものは崇高な理念を追求している」と思うかも知れない。WWFは公式サイトで本書とそれに関連するドキュメンタリーに対し反論を加え、非難された内容を全否定しているが、そちらの方を信じる人も多いかも知れない。無論、WWFで働く大多数の人は掲げられた建前を心から信じているのかも知れないし、WWFの職員が全員嘘吐きだなどとは私も主張しない。だがトップに於けるカネやヒトの流れを見る限り、「WWFは純粋無垢の理想追求組織である」と云う信念には疑問を挟むべき根拠が数多く存在するし、WWFを批判する草の根の声を探して聞いてみれば、その活動の実態が如何に悪辣で差別的なものであるかが見えて来る。
本書では少ししか触れられていないが、WWFの創設者や指導者が、似非科学である優生学を信奉していたり、元ナチスだったり、秘密結社的性格を持つグローバル・パワーエリート向けの組織「1001クラブ(そのメンバーはJFKの暗殺に関与していたことが指摘されている)」や「ビルダーバーグ会議」に関与していると云う事実は、どう解釈すれば良いのだろう? 自然保護主義を心から信奉する人々が、偶々似非科学や差別的な帝国主義の信奉者でもあった、と云うことなのだろうか? そんな偶然は私には信じられない。
解り易い或る人物を挙げて説明しよう。米国の歴史上、自然保護区、つまり国立公園や国定記念物や国有林等の推進に最も熱心だったのは、セオドア・ルーズヴェルト大統領だ。彼はまた同時に自他共に認める帝国主義者であり、恥知らずな人種差別主義者であり、そして大の狩猟好きで知られていた。これらは互いに関連している。ルーズヴェルトは自然保護に熱心だったが、他方で偶々帝国主義者で人種差別主義者でハンターでもあった、と云う訳ではない。帝国主義者で人種差別主義者でハンターだったからこそ、彼は自然保護に熱心だったのだ。自然保護区の多くは、アメリカ先住民にとっての生活や信仰の場だった。アメリカ帝国はその版図拡張の過程に於て、アメリカ先住民を殆ど絶滅にまで追い遣り、生き残った人々からも土地を騙して奪い取ったり強制的に居留地へ移住させたりしたのだが、土地強奪の為の更なる口実として「自然保護」が持ち出されたのだ。21世紀の今でも彼の名を冠した「セオドア・ルーズヴェルト自然保護パートナーシップ」なる組織が活動しているが、公式サイトを見れば分かる様に、その組織の目的はハンターや釣り人が十分に楽しめる様な自然環境整備を行い、「アウトドア・レクリエーション経済」への投資を促進することだ。そのターゲットは明らかに富裕な白人層だ。
歴史を振り返れば、植民地時代のインドやアフリカ、ラテンアメリカ諸国等でも同様の事例を見ることが出来る。「自然保護」とは元々、先住民から土地を奪って白人が独占し排他的に利用する為の口実として持ち出された理念なのだ。そして本書や他の関連報道を見る限り、この偽善は21世紀の今でも厳然と続けられている。
WWFが代弁している「自然保護」主義者達の主張に拠れば、人間は自然界にとって邪魔者なのだそうだ。人間が居ない方が自然は上手く機能する。だから自然を「保護」したければ、そこから人間を追い出すか、人口を減らさなければならない、と云う訳だ。だが本書でも明らかにされている様に、それは科学的にも道義的にも誤った主張だ。大機な産業開発等を進めれば勿論自然は破壊されるが、何百年、何千年とその環境と共存して来た先住民達のコミュニティにまで同じ様に考えるのは不適切だ。寧ろ人間が適度に手を入れた方が、生物多様性は確保されることが知られている(日本人であれば人の手が入らない山林は直ぐに荒れると云う話を聞いたことが有るかも知れない)。人間は自然とは切り離された、自然を「管理」すべき特権的存在であると云う発想は、それ自体が傲慢な人間中心主義のイデオロギーだ。人間もまた自然の一部と考える観点が無ければ、真に持続可能な地球の未来を考える環境主義とは言えない。西洋の政治家や企業や銀行やNGOが盛んに喧伝している「自然保護」や「持続可能性」は、従って表面に見えているものとは全くの偽物なのだ。
2021年のCOP26(第26回気候変動枠組条約締約国会議)では、地球上の30%を保護区に変える(つまり全世界の3割近くから先住民達を強制退去させる)と云うアジェンダが提出された。だが同時に同会議ではグローバル・サウスの24ヵ国が団結して、北と南の格差を更に広げるものだとして所謂「実質ゼロ」の要求に大反対した。ここ500年間、一方的に搾取され続けて来たグローバル・サウスの発言力は近年益々増大しているし、2022年のロシアの特別軍事作戦開始以降は、世界の多極化が一気に花開いた観が有る。曾ての/現在進行形の被害者達のことを考えるなら、偽物の環境主義や自然保護を本物から区別することは、現代世界を理解する上でこれまで以上に重要になって来ている。今までの様に「被害者はどうせ世界の反対側の全く知らない人達だ。私達の生活には関係無い」と傲慢な無知と無関心の内にひきこもっている訳には行かない。これまで白人や名誉白人の欺瞞の繁栄と覇権を支えて来た巨大な嘘に、少しずつでも良いから広く一般市民が気付いて行かなければならないのだと思う。
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